51話 その日、俺は暗部に踏み込んだ
「私がやってしまいましたの。申し訳ごさいません。」
立花さんは、自分が鈴本さんのファーストキスを奪ったことを告白し、頭を下げた。
「へ?」
驚きのあまり、俺は言葉を失った。
「た、立花さんが...?」
俺は首をかしげる。続いて、その様子が頭に浮かんでくる。俺は赤面して、体が熱くなっていた。
(ゆ...百合百合しい...。)
俺は気絶した。その直前、
「正一くぅぅぅぅん!!」
と言う、彼女の声が聞こえた。
そして、次に目を覚ましたのは昼休みだった。鈴本さんが心配そうに見ている。
「ずっと見ててくれたの?」
俺は聞く。彼女はコクンとうなずき、
「はい、これ。」
と、食堂で売っている唐揚げ弁当を渡してくれた。それは、俺の好物であった。
「ありがとう。」
僕は割り箸を右手に持ち、左手に持った弁当の中から唐揚げを取る。口の中に、醤油味の効いた温かい唐揚げが入ってくる。味と香りが一気に広がる。僕はその余韻を楽しみながら、白米を口に入れる。それは唐揚げの味と香りと混ざって、俺の大好きな味と化す。
それから、あっという間に俺は弁当を平らげた。
「ありがとう。」
俺は鈴本さんに再度、お礼を言う。
と、そこでチャイムがなった。
「ごめんね。私、行かなきゃ。」
そう言って鈴本さんは保健室から出ていった。
(鈴本さんと...立花さんが...。)
俺の鼻から血が垂れてきた。
その後、みんなが交互にやって来た。次の休み時間は栞が、放課後すぐには伊能が。彼女はキスをしようとして来たので、手でその顔を押し上げた。
「えへへ...。」
彼女は赤面しながら、保健室を出ていった。その手を見ると、そこには唾液がたくさんついていた。
(や...やらかした...。)
俺はため息をつく。
やがて、俺は完全回復し、部活に行った。
「大丈夫なのか?」
浩平が聞いてくる。俺は、
「うん。」
とうなずき、1人でウォーミングアップに入った。そして、練習試合に参加した。
「おらぁぁぁぁぁ!」
俺はボールに向かって一直線。蹴れば、それはゴールへ一直線。あっという間に、1点を先取した。
「やぁぁぁぁぁ!」
スライディングで自陣に入ってきた敵からボールを奪い、浩平に渡す。彼は、ゴールを決めた。
それからも俺は絶好調だった。結果から言えば10-0。内俺の5アシスト4ゴール。その絶好調はその日だけであったが、顧問に褒められてとても嬉しかった。
そして、気付けば、俺は本格的に百合に目覚めてしまっていた。恋人がいる人にとって、決して踏み込んではならない暗部にログインしてしまっていた。キモオタと言うオタクの最終進化形へと。




