50話 デートの最後にロマンチック
ついに、俺は週末を迎えた。
(さぁ!計画はバッチリだ!)
俺は早朝、ドアを開けて、家の外に出た。
そして、鈴本さんに合流して、会話をしながら駅に向かった。
「いやー。楽しみだなー。」
俺は笑みを浮かべる。すると、鈴本さんも笑顔で返してくれた。
(さぁて、今日こそ鈴本さんのファーストキスをいただいてやるぜ!)
俺は企みを心の中に押さえておこうしたが、少し表に出てしまったようだ。
「何、ニヤニヤしてるの?」
彼女に聞かれ、俺は慌てて
「い、いや、何でもない!」
と言って、顔をただす仕草をした。それを見て、彼女は笑顔になる。その瞬間、体中が熱くなるのを感じた。俺は頭を掻いた。
そして、駅についた。俺たちはそれぞれのICカードで、改札を通り、ちょうど来た横浜行きの電車に乗った。
あと、伝え忘れていたのだが、俺たちの高校のは台東区立東上野高等学校と言う。近くには、上野動物園もあり、かなり良いところだ。もちろん、最寄りであるこの駅は上野。
目的地は、終点・横浜。予定では、始めに赤レンガ倉庫で買い物をし、ランドマークタワーに上った後、遊園地にいくつもりだ。
(そして、最後には...!)
俺はまたニヤニヤして閉まっていた。
「気持ち悪いよ、井上くん。」
鈴本さんにそう言われ、俺は
「そうだよねっ!キモいよね!」
と言う。すると、彼女は引きつった笑顔を浮かべた。
(本当にごめん!鈴本さん!)
ここが電車の中でなければ、俺は躊躇なく土下座していた。
それから、俺たちは約30分、電車に揺られ、横浜駅についた。ここへは、久しぶりに来たので、色々ややこしかった。俺、どっちかというと方向オンチなのだ。鈴本さんのおかげでなんとか外へ出ることは出来たが、俺たちの出てたかった場所とは正反対の出口だった。改札を出る時、残金から電車賃の550円が引かれていた。
そんな色々な不祥事はあったが、俺たちは赤レンガ倉庫まで来た。横浜の観光案内マップを見ながら、汽車道に沿って歩き、その中に入った。そこで、鈴本さんと会話をしながら買い物をした。俺はお土産を買い、鈴本さんは帽子や服などを買った。お揃いのものは一切買っていない。果たして、これは正統派のデートと言って良いのだろうか?
続いて、ランドマークタワー。まず、展望台に上って、東京の町を眺めた。初めに、様々なビルが見える。俺たちの行く遊園地だって見える。奥には横浜の港町も見える。島をを挟んだ2つの斜張橋も見える。いつまでも見ていたかったが、もう1時になっていた。流石にお腹が空いたので、俺たちは一度、タワーから降りて、食事を済ませた。
そして、本命の遊園地。俺の計画では、アトラクションに乗りまくって、吊り橋効果などで距離を縮めた後、海に向かって、そこでロマンチックな展開へと持っていくつもりだ。上手く行くかはわからないが、その時はその時だ!俺はもう脳筋になってしまっていた。
そして、遊園地。まず、たくさんのジェットコースターに乗った。案の定、鈴本さんは楽しんでいるのに、俺はもう死んでいた。
(この様で吊り橋効果とはよく言えたものだな...。)
俺はため息をつく。
次は急流滑り。これは1回しか乗らないと鈴本さんが言ったので、
(良かった。)
と、一安心。した俺がバカだった。俺はびしょ濡れになった。彼女は河童を持ってきていたので、濡れなかった。
(今日の鈴本さん、酷くね?)
俺はあまり穏やかではなかった。
そんな中、時間は容赦なく過ぎていく。やがて、夕方になった。いよいよ、閉園時間も近づいてきた。まだ、5時だと言うのに、太陽の半分が西の空に沈んでいた。秋の日は釣瓶落としとは良く言ったものだ。冬だけど。それも、季節の変わり目だけど。
(あれ。俺、少し賢く見える?)
俺はかなり有頂天になった。
「観覧車に乗ろうよ!」
鈴本さんは提案してくる。俺は、
「おうっ!」
と答える。彼女は俺の手をグイグイと引っ張る。
「そんな引っ張らないでぇ。」
俺はかなり顔を赤くしてそう言う。正直、すごく嬉しいのだ。
それから、鈴本さんに連れられる約十数秒。俺たちは列の最高日に並び、やがて出番が来た。計画とは違うがこれも良いだろう。
(夕日に、その赤い光を反射する青い海。大きな観覧車。これは絶好のシチュエーションだ!)
俺は小さくガッツポーズをした。
「ねぇ、井上くん。私のことどれくらい好き?」
あまりにも唐突だったので、俺は少し反応が遅れた。
「えっ?あっ。その...好きを10としたら100ぐらい?」
「そんなバカみたいなこと、小学生しか言わないわよ!でも...。」
鈴本さんに笑われる。だが、それには続きがあった。
「でもね...。それだけ私のことが好きだってことはわかったわ。ありがとね。」
鈴本さんには笑顔でお礼を言い、続いて、キスをしてきた。
(こ、これが観覧車キスと言う奴か!まさか、俺にもこんなリア充イベントが来るとは!浩平たちに言ったら、殺されるだろうな。)
この事を彼らに話したらどうなるか、目に浮かぶようだった。
お互いの唇が離れ、俺たちは目が合い、同時に赤面しながら目をそらした。
(俺のファーストキスが彼女で良かった。鈴本さんのファーストキス、いただいたぜ!)
俺は目をそらしながらまた、小さなガッツポーズをした。
このキスが惜しくも彼女のセカンドキスだったと言うことは、後で知った。とても悔しかった。
(ったく、誰だよ!彼女のファーストキス奪った奴は!)
俺は地団駄踏んだ。




