47話 全てが大切な思い出
「ほ...ほとんど辛い思い出しかねぇ。」
消灯し暗くなった部屋。唯一の明かりであるスタンドライトが置かれた机。俺は頭を抱える。鈴本さんはもう寝ている。1人用のベッドしかないのに、彼女は誰かさんのための場所を空けている。
(い、今は、考えないでおこう...。)
俺はそう決めた。
高2時代を思い出してみて思ったことがいくつかある。
まず、俺の初デートが2人きりじゃなかったこと。あの時、俺の「デートは2人きりでするもの」と言う固定観念が崩された。カップルにとって、奇数は不吉な数字と同じだ。特に、3人というのは一番あり得ないと思う。
それに、せっかく良い雰囲気だったのに、邪魔されたことも何度かあった。その怒りに任せて、スマホを投げた結果、バキバキに割れたこともあった。
あと、立花さんがスマホを谷間に挟んでて、どきまぎしたこともあった。そこに、栞がやって来て、同じことをする。と、ストンと落ちる。それで、泣き始めて、生徒が集って俺が批判されまくったこともあった。
(あれは、冤罪...。そうだ、あれは冤罪...。クソッ!)
俺の痛い黒歴史を自分で思い出してしまい、俺は自滅。本当にバカだ。
急にモテ始めることもあった。あの、多角関係は何だったのだろう。初めは変態の伊能に告白され、次に、栞に告白され、桔梗さんには赤い顔をされ、転校してきた立花さんからは甘い誘惑を食らった。
あのバカ3人に付き合わされることもあった。浩平は「変態」の他に表す言葉がなかった。圭吾は、女たらしだったし、学は、変態ロリコン野郎だった。アイツらのせいで、持て余すことも何度かあった。アイツらのせいで修羅場になることも多かった。しかし、俺は真の意味で彼らから離れようなんて思ったことは一度もなかった。まぁ、他人のフリをしたくなったことは、結構、あったけど。
そして、何よりあのツイスターゲーム。クソッ!栞と立花さんと必要以上に仲良くなったのに対して、鈴本さんとはそこまでだった。伊能は、逆に何もなかった。そのことで、俺までが怒られたんだったな。
「本当に辛い思い出ばっか...。」
俺は嘆いた。しかし、俺の目からは涙が溢れるのだった。これは、嘆きの涙なんかじゃない。れっきとした、思い出しの涙だ。
俺はその涙を拭いながら、あの辛かった思い出も、全てが大切な思い出なんだなと確信した。
そして、俺はそんな大切な思い出をもうちょっと見てみたいのだった。物語はまたもや、高2時代に戻る。ちなみに、3月から始まる。




