44話 理不尽な説教
「おい、お前!」
恐ろしい顔と声で桔梗さんがそう言う。
「はっ...はいっ!」
俺は情けなく返事をする。
「沙耶香を泣かせるなって言っただろ?この野郎っ!」
桔梗さんが俺の胸ぐらを掴んで、そう怒ってきた。俺は全く心当たりがなく、
「俺がいつ、鈴本さんを泣かせたっていうすか。」
と聞いてみる。
「あぁっ!?しらばっくれてんじゃねぇっ!」
桔梗さんはさらに怒る。
「でも、本当に泣かせた覚えが...」
「だから、しらばっくれるなって、言ってんだろが!どっーてっー!」
「確かに、俺は童貞だよ!でも、それが鈴本さんを泣かせたことに関係あるんすか。」
「関係あるわけねぇーだろーがっ!」
「じゃあ、何で?」
「ていうか、私はどうして沙耶香を泣かしたか聞いてんだよっ!」
桔梗さんの怒りのボルテージが、かなり上がってきた。
(もう、何も言わんとこ。)
俺は、一度、口を噤いだ。
そして、俺は反省を表明しながら、
「で、鈴本さんが泣いた理由って何すか。」
と桔梗さんにそう聞く。すると、桔梗さんは冷静になって、やっと放してくれた。
「『来週に外せない用事が出来た』って言ってたんだ。」
彼女のその言葉を聞いた瞬間、俺の口からは
「え?」
という声が漏れた。
「じゃぁ、今、再来週にしようって電話します。」
俺はそう言う。と、桔梗さんはまた胸ぐらを掴んできた。
「『来週に行きたかったのに』って言ってたんだよ!涙流して!」
「いや、俺だって来週に行きたかったよ。ていうか、今週にでも、行きたい。けど、鈴本さんに外せない用事が出来ちゃったんでしょ?じゃぁ、誰も悪くないじゃないすか。」
俺はそう説得する。しかし、彼女は聞いてくれずに、
「いや、どう考えても来週でOKしたお前が悪い!」
と言われた。
(いや、どう考えてもそれはない!)
俺は心の中でそう断言した。
「あの...さっきから、理不尽過ぎやしません?」
俺はそう疑問を投げ掛ける。
「うっさい!あぁっー!もうっ!こんな奴に沙耶香は任せられない!おい、お前!沙耶香と別れて、私と付き合え!きっちり、調教してやる!」
(もしもし、桔梗さん。それって、普通の意味で捉えていいんですよね?俺みたいな変態には変な意味にしか聞こえないんですが。)
俺は、心の中で彼女の言った、「調教」を下ネタ変換する。
そして、俺はあることが気になった。そこで、
「ていうか、普通に彼氏欲しいだけじゃないんですか。だから、鈴本さんを通して、親しくできそうな俺が一番都合がいいんじゃないですか。ぶっちゃけ、俺が好きだったりするじゃないですか。」
俺は桔梗さんにそう聞いた。すると、彼女は赤面しながら、俺を放し、さらに、黙り込んでしまった。
(えっ!?マジで!?)
「うっ...自惚れるなっ!童貞のくせに、自惚れてんしゃねぇっ!」
彼女は恥を隠すように、そう罵ってきた。
(この方も、ツンデレ属性っすか。マジすか。)
俺は、思わず顔がゆるんだ。
「ヒュー!ヒュー!」
と、いつの間にか後ろにいた浩平たちが、俺を茶化してきた。俺は、
「うっせーな!お前らは黙ってろ!」
と彼らに怒鳴り付けた。
それから、桔梗さんは1回舌打ちをしてから、家から出ていった。
(ていうか、何でここにいることがわかったんだ!)
俺は、そう思いながら、さらに進んだ多角関係につい、ニヤニヤしてしまった。




