38話 デッサン
ある日の美術の時間。先生が、
「宿題の人物デッサンを提出してください。」
と言ったので、僕もデッサンを提出した。ちなみに、僕は鈴本さんとお互いの顔を書き合って、我ながらかなり良いものが出来た。
そして、浩平が提出したデッサンを見たとき、先生は黙った。目の辺りをこすって、その絵を見直した。それから、
「坂本、これは、誰だ?」
と聞く。すると、彼は
「妹です。」
と答える。
「今、何...」
「妹です。」
「君の妹はこんなに巨乳なんだな?」
「いえ、年相応の普通の胸です。」
「じゃぁ、どうして大きくした?と言うか、どうやって描いた?」
「人体の理想化を目指しました。いわゆる、ルネサンス美術です。これは、ネットで『巨乳』と調べて出てきた胸を妹の体にフィットさせて描きました。」
「変な所で、美術史を入れてくるなよ。それと、ネットの画像と現実の人物を合わせるなんて、それはそれで凄いな。あまぁ、努力は認めよう。それなりの、点数もやる。だが、期待するなよ。」
俺たち3人はその会話を聞いて、思わず吹き出してしまう。もちろん、女子はドン引きしていた。
もちろん、話は続く。
「で、それは何だ。」
先生は、浩平の左手にある紙を指差した。すると、彼は
「自主的にデッサンを描いてみました。評価してください。」
と言って、その紙を見せた。
「えっと~...。なんで、裸体を描いた?」
「ただの裸体ではありません。妹の、です。」
女子は赤面しながら、さらにドン引きする。
「いや、誰のかは聞いていない。なんで、描いたかを聞いているんだ?」
「わかりませんか?俺は裸体美を重んじたんですよ?」
(あっ、何が言いたいのか分かったわ。)
「文芸復興。」
「ルネサンス。」
2人の声は盛大にハモって、俺たちは
(やっぱり...)
と呆れながらも、また吹き出し、女子は引く。そして、先生は
「そこは、ルナサンスで良い所だ。」
と指摘し、
「ハッハッハッハッ!」
と2人で笑った。俺たちは
(コントかよ。)
と思いながら爆笑し、女子はやはり、ドン引きしていた。
「じゃねぇよ。」
浩平は急にマジになった先生の声を聞いて、目を丸くして、キョロキョロし始めた。そんな彼に、先生が
「どうしてこんなのを描いた?いや、どうやって描いた?」
と聞くと、
「そんなの、決まってるじゃないですか?」
と言ってから、説明を始めた。
「お風呂に隠しカメラを仕掛けて、スマホで見たんですよ。」
「お前、それ、犯罪だぞ。」
(捕まれー...。)
その瞬間、誰もがそう思った。
「確かに、盗撮に当たりますが、きっと、補導で済みますよ。それだけなら、問題は無いです。」
「開き直るな。」
「そうだ。先生もどうですか?スマホに『The Video Cameraman』と言うアプリを入れて、カメラと連動させるだけで高画質なビデオが取れます。しかも、カメラは全機種対応なんです。普通は1000円の所を、今なら100円でお渡ししますよ?」
「いらん。お前はセールスマンか。」
「何なら、タダでも良いですよ?」
「代金の問題ではない。いらんもんはいらん。」
「まぁ、後でバレて、鳩尾に一発食らわされたんですけどね!」
「坂本、お前は、本当にバカだな。バカ過ぎて、清々しいわ。」
やっぱり、面白い。俺たちは吹き出し、女子の目はもう死んでしまっていた。
しかし、それだけでは済まなかった。何と学が立ち上がって、興奮しながら、鼻息を荒くして、
「浩平君の、妹って確か小5で、かなり可愛かったよね?」
と聞く。浩平が
「そうだ。」
と答えると、さらに興奮して、もっもっと鼻息を荒くして、
「そのビデオ僕にくれない?」
と聞いた。すると、彼は
「良いでしょう。」
と言って、
「テーンテーンテテーンテーン♪」
と、得賞歌を歌いながら、賞状のように渡し、学もそれを賞状のように受け取った。男子は大きな拍手を、学に送った。が、女子は完全に静まり返り、その目にはもう光が無かった。そんな目で浩平と学を見ていたのだ。
(怖っー!)
俺たち2人は寒気を覚えた。
「あっ、良い子はまねしないでね~。」
「お前は誰と話をしてるんだ?」
「えっ...。」




