34話 チョコレート
「井上...。」
「井上...。」
「井上...くん...。」
今日はバレンタイン。俺は鈴本さんから初めての本命チョコをもらって喜んでいた。と、そこへ窶れきった3人がやってきた。
「おい、井上。いや、永遠なるDT君よ。」
中でも、浩平が一番落ち込んでいるようなので、まず、彼に、
「どうしたんだ?」
と聞いてみた。すると、
「DT同盟なぞやめて、普通に名前で呼び合おうぜ。別に、スパイごっこなんて、子供っぽいことしたくねぇし?」
という答えが返ってくる。俺は
(何だ、そんなことぉ?)
と、半分、呆れながら、
「お前、なぜ、今まで気づかなかったんだ?」
と言った。しかし、この話には続きがあった。
「いやな、DT同盟をやめるってのは本当なんだけどな...。今日、伝えたかったのは、そこじゃないんだよ。」
「じゃぁ、何だって言うんだよ?」
「今日は何の日か知ってるか?」
「バレンタインだろ?」
「そうだ、バレンタイン!世界中の女という女が理由もなく男にチョコをあげまくる日だ!」
「それが?」
「わからぬのか!バレンタインとは貰える人からすれば天国のような日だ!しかぁし、だがしかし!貰えない人からしてみればただの生き地獄なのだよ!」
「何かわかる気がする。で?また貰えなかったのか?」
「お前、舐め過ぎだろ...。今年は貰ったさ。お前かが関わってくれたおかげでな!」
「話の流れ的に矛盾してる気が...。ていうか、良かったな。」
「それが良くないのだよ。」
こうして、浩平は自分に起こった出来事を語り始めた。
どうやら、義理チョコ3つゲットにこぎ着けたらしい。1つ目は鈴本さんから、2つ目は栞から、3つ目は伊能さんから。しかし、重要なところはそこではない。その内容だった。なんと、彼女たちから貰ったのは、安物のチロルチョコだったらしいのだ。
(お気の毒様...。)
その話を聞いたときそう思った。
そして、俺は何だか嫌な予感がして、
「貰えただけマシなんじゃね?」
と言って、立ち去ろうとした。すると、案の定、彼らに引き留められ、
「お前はいくつもらったんだ?」
と聞かれた。
(だから、立ち去りたかったんだよ。俺が貰ったのは4つだぜ?しかも、その内、1つは本命。そんな事、言ったら絶対、罵倒される。かと言って、3以下にしたら何だか負けた感が否めない。)
俺は悩むが、最終的にもうヤケだ!という結論にいたり、
「4つもらいました!その内、1つは本命ですっ!」
と言ってやった。すると、思っていた通りの事が起こった。
「4つぅ!?見せてみろ!」
早速、浩平が言ってきたので、4つのチョコを見せてやった。
「おい、誰かは貰った?」
今度は、圭吾が聞いてきたので、俺は
「左から、栞からの板チョコ、伊能さんからのトリュフチョコ、立花さんからのチョコベビー。この3つは市販の義理な。それで、そのハートのが鈴本さんからの手作り本命チョコだ。」
と説明した。すると、また思った通りの事が起こった。
「俺たちは、チロルチョコ3つずつだというのに、お前は板に、トリュフに、ベビーだとぉ?さらに、鈴本からは本命ぃ?しかも、手作りぃ?ふざけるなっー!」
浩平はそう叫んだ。周りから、物凄い視線を向けられているがそんな事などお構い無しの、俺にガミガミいってくる。
結局、この日はチョコを彼らよりたくさん貰ったせいで、散々だった。初めて本命を貰って喜べたはずの1日が、一瞬にして喜べない1日になってしまった。俺は帰途、
「何で、いつもこんなことばかり...。」
と、泣き崩れた。




