30話 3人カラオケ
「井上くん、カラオケ行こうよ。」
次の日、鈴本さんはそんな話を持ちかけてきた。俺は、
「そうだね。」
と答えるが、正直、不安だった。だって、カラオケなんて1人か、あの3人としか行ったことがない。もちらん、女子がメンバーに入ったことなどない。そのせいで、
(俺、大丈夫かな?)
と、思いながら半日を過ごすこととなった。
そして、放課後。俺たちは一度、帰って支度をしてから、公園で待ち合わせようと決めていたので、取り合えず校門前で別れた。その途中、後ろから
「先輩!」
という声が聞こえた。
(ん?今、何か声が...。)
「先輩っ!!!」
(うーん?空耳か?だったら、耳鼻科行きかもな。)
「聞いてますっ!?」
(気にしない!気にしない!)
と、さすがに、やり過ぎたようだ。その声の主は俺の腕をつかみ、グイと引き寄せられた。見ると、そこには伊能さんの姿。目は涙で湿っている。
(本当にやり過ぎたか?)
などと思っていると、彼女は、
「鈴本先輩と何処に行くんですか?ラブホですか?それとも、遊園地ですか?」
と聞いてくる。
(全く、この子は何でそう易々と卑猥なことを言えるのかね。全く困ったもんだ。)
俺はそんな特大ブーメランが返ってくるような、気持ちで、
「違うよ。カラオケに行くんだ。」
と言ってみると、彼女は引きつった笑顔で
「せーんぱい?」
と言ってだんだん迫ってくる。そのうち、童貞お苦手の顔近地獄が来るであろう。そう思った俺は、
「伊能さんも...来る?」
と言った。すると、彼女は
「先輩がそこまで言うなら仕方ないですね。行ってあげましょう。」
と言われた。
(ダメだ。敬語なのに全く上品さが感じらない。てか、完全に小悪魔だ!この人!)
俺はそんな思いで家に帰った。
それから、数十分後、俺たちは公園で再会した。鈴本さんは俺と伊能さんを見るなり、1回舌打ちをしたが、それだけで済んだ。そのことに感謝しながら、俺たちは彼女に着いていった。
やがて、カラオケ店に着く。そこで、受け付けに3人で1時間と告げた鈴本さんは俺たちを手招きし、部屋に入った。
「えっーと...。」
俺は早速、パネルで曲を探し始めた。だが、知ってる曲がアニソン以外、見つからない。
(女子とそんなもので盛り上がれるわけがないだろ。)
俺は心の中でそう言いながら、とりあえず、2人が入れてと言い、歌うことを放棄した。
それから、鈴本さんと伊能さんは俺の知らない曲を歌い続けた。もう、その時間が暇すぎて俺の体は石と化した。と、突然、こんな曲が聞こえ始めた。
「世に溢れし変態どもよー、今、この教室に集まれっ!世に少なき常人どもよー、今、この教室に来るなよっ!」
と。見ると、鈴本さんが歌っている。これは、「とび変」とオープニングテーマ「変態よ集まれ」だが、なぜ彼女が?などと、思っていると、
「次は一緒に歌おうよ!」
と言われ、2人で「変態よ集まれ」を歌った。そして、その後、彼女が気を遣ってくれていることに気づいた。なので、俺は遠慮なくアニソンを歌わせてもらった。
それからは、早かった。あっという間に時間切れ。俺たちはお金を払い、カラオケ店から出た。その帰り道、伊能さんが
「テクノブレイクを入れればよかったな。」
と言った。そんな彼女に鈴本さんはドン引きし、言葉を失った。このまま、何も言ってあげないとかわいそうなので、
「それ、曲じゃない。」
と適当に突っ込んでおいた。
この日、夢の中ですごい顔をした鈴本さんっぽい女の子に延々と追いかけられる悪夢を見た。




