激昂
「・・・お手洗いに」
深夜3時、丑三つ時の真っただ中
「怖いな・・・」
少女のの名前はクレア、今は亡き母がつけてくれた名だ。
「でもアリンちゃんと一緒なら大丈夫!」
枕の横の人形をそっと手に取る
髪は金色、目が赤色の綺麗な人形。
母の最期の誕生日プレゼントである。
「やっぱり遠いし怖いなぁ」
廊下へ出るクレア。
少女の家は俗にいう『豪邸』なのである。
「やっとついたぁ、じゃ、アリンちゃんは待っててね」
人形を置いてトイレに入る。
用を足したクレアは手を洗う。
「鏡っていつ見てもヤダな」
いつも母とよく似た容姿に嫌気がさす。
母は少女をかばって死んだ、夜たまに怒られる夢を見る。
「はぁ、ママ、怒ってるのかな・・・」
カタン・・・
「なんの・・・音?」
ドアを開け人形を取ろうとする
「・・・・・え?」
お腹が熱い、とても熱い。
でも・・・
「寒い・・・」
最後に見たのは紅に染まった人形。
少女の意識はそこで途絶えた。
「はぁ、今日はいつもより一つ多く仕事したし帰るか」
長身で作業着を着こなした男は夜に仕事をすると決めていた。
「にしてもいつ来ても広いとこだなぁ、全く慣れない。」
しばらく歩いてふと思う。
「あれ、こっちはさっきの道だ・・・」
やはり豪邸というのはだてじゃなかった。
何度来た人でも迷うくらいなのだ
「くっそー、手も結構汚れてるのにな」
突如、前の扉が開く。
(ヤバっ、誰か起こしちゃったか?)
屋敷のだれかならもうここで仕事ができなくなる。
「・・・え?」
ギィと音をたて出てきたのは人ではなかった。
「人形?なんで・・・こんなとこに・・・!?」
男が目に入れたのは綺麗な金髪でもなく、赤い瞳でもない。
それは人形が手に持っていたもの。
月光に照らされきらめくする凶器。
「あっ・・・え?」
人形の顔が歪む。
笑っているのか怒っているのか分からない、
ただ一つ分かっていることがある
その歪んだ顔は手に持つ凶器よりも狂気に満ちていることだった。
後ろへ下がる、人形は近づいてくる
(ヤバい、逃げよう!)
本能が体を動かし咄嗟に走る。
ワタシカラ逃ゲラレルトデモ?
ぞっとするような声が頭に入ってきた。
後ろから足音が聞こえる
タタ、タタタ、タタタタタタタタ!!!!!!
「なんなんだよぉ!本当によ!!!」
一番手前の扉に手をかける
が、扉は開かない
「はぁ!?なんで開かねぇんだよ!!くそっ!」
次も、その次も開かない。
クスクスクス、ドコマデ行クノカナ?
「くそっ、くそっ、くそっ!」
最後から一つ手前の扉が開いた
アッ・・・入レッチャッタ
「はぁ、はぁ、はぁ、とりあえず助かった・・・?」
助カル?アナタガ?
「っっっっっっ!!」
頭に直接聞こえるが
(真後ろに・・・いる!!)
ふと月光にきらめく凶器が脳裏を横切る
男は咄嗟に扉から真横にとんだ。
その瞬間、扉から何か突起物が出てくるのを見た
アーアー、遅カッタカァ
冷汗が男の体中から出る
(もし判断がもう少し遅かったら・・・)
心臓が破裂しそうだ
おそらく判断から行動までのコンマ数秒
刹那の迷いも命とりであったことに男は生きた心地がしなかった。
「これじゃどこにいても危険じゃねぇか!」
男は移動し続けようと決めた
が、その瞬間
サテ、鬼ゴッコ開始ダ!
扉が飛んだ、開いたのではなく飛んだ
目の前の真実にまたしても男の足は勝手に動いた
「畜生!畜生!畜生!」
とにかく走り続けた
一つ一つの部屋は大きく、ほかの部屋への扉はいくつかある
(頼む、開いてくれ!)
今度は一回で開いた
「よっし!このまま・・・うおっ!」
外シタカァ
目の前のタンスに凶器が刺さる
「あ・・・!?」
咄嗟に扉を閉めて家具でバリケードを作る
(凶器のない人形なんて・・・)
ふと考える
凶器で扉は飛ばない
「・・・来るか!?」
しかし一向に来る気配がない
「大丈夫・・・なのか?」
その場で横になる
この部屋には扉がもう二つある
(どっちかから来たらもう一方から逃げよう)
そう思いぼーっとする
目の前の鏡が妙に気になる
(今、何か動いたような・・・)
大丈夫?楽ニナル?
鏡の向こうから人形が近づいてくる
「なん・・・で?」
後ろを見る
人形の姿がなければ扉も破壊されていない
(まさか!!)
もう一度鏡を見る
やはり人形は近づいてきた
フゥ、ワタシノ玩具返シテモラウヨ
鏡からすっと出てきた人形は
タンスから凶器を抜き出す
「くっそ、何でもありかよ!!」
一番近いほうの扉に手をかける
「なんだよ!またかよ!!開けよ!!」
クスクスクス、コッチノ扉ハ開イテルヨ?
「うるせえ!くっそ!頼むから開いてくれ!」
いくらどう頼んでも開かない扉
無駄ダヨ?ソノ扉ノ鍵ハ絶対動カナイモン
(鍵?固定するのは扉じゃなくて鍵?なら・・・)
男はポケットに手を入れる
「なら鍵を壊しちまえば扉は開くんだろ!?」
男の手にはアイスピック
・・・甘カッタカ
鍵を外しドアを蹴り廊下へ出る
「はっ!残念だったな!!」
アナタ・・・調子ニ乗リスギ
ゾッとする声が頭になかで共鳴する
(よし!大広間までの廊下に出た!)
心の中で少しホッとする
とにかく走る、突っきれば男の勝ち
サ、皆ンナ動イテ、アイツ殺ソ!!
人形が『何か』に呼びかけた瞬間
「はぁ、はぁ、はぁ、えっ!?」
真横の鎧の置物が動く
ガシャ、ガシャガシャ、ガシャガシャガシャガシャ!
「あとちょっとぉぉぉ!!!」
玄関前の階段に出た
「よしっ!」
甘イ甘イ、トリアエズ落チテ。
階段の目の前に人形が現れた
人形が凶器で男の足を切る
階段の前で崩れ落ちる男
それを階段に落とす鎧
男は世界の物理に従って階段から落ちてく
「ぐはっ!ちく・・・しょ・・・う。」
今回ハコノ辺二シトイテアゲル、次ハナイカラネ?」
男はその言葉を最後に意識を失った
私ノ娘二手ヲ出サナキャドウデモヨカッタンダケドネ
「なんだ今の音は!!!」
この言葉の主は屋敷の主
クレアの父親でもある
「旦那様!玄関に見知らぬ男が!!」
「何!?そいつは今どこにいる!」
「いえ、階段でつまずいたのか頭から血を流しています」
「死んでるのか!?」
「いえ、気絶しているだけです。ただ・・・」
「ただ?」
「この屋敷の金品と手に血のついた包丁をもっていて」
「・・・クレア!!!!!!」
娘の元へ駆けつける
部屋にいない娘。
屋敷内を駆け回りようやく見つけた。
「あぁ、クレ、ア・・・」
絶望感に襲われその場で崩れ落ちる。
「パパ?」
「なっ!クレア!平気なのか!?」
「・・・うん、アリンちゃんがね、助けてくれたの」
「え?アリンちゃんが?」
娘のすぐ横の人形を見る。
腹が裂け、足もボロボロになっていた。
「そうか、この人形が」
その後、クレアは病院へ行き治療を受けた。
医師によるとほんの少し先っぽが刺さっただけと言う。
なぜクレアの意識がなかったのか謎だと。
一方男は今は刑務所にいる。
不法侵入、窃盗罪、殺人未遂による容疑で逮捕。
男も犯行を認めている、が。
男の証言に警察は頭を悩ませていた。
「人形が襲ってきたんだっては!!」
「んな訳あるか、もう十分。」
アリンちゃんは今もクレアのそばでじっとしている。
どぅも駿里です。
読んでくれてありがとうございました。
初めてなので何をどうしたらいいのか分からないことだらけですが、これからも少しずつ成長してこうと思うのでよろしくお願いします!!