契約 | 光と限無
欠陥魔力騎士8
契約 | 光と限無
「お昼までまだ時間があるし、少し走っておくかな?」
あの二人の戦いの後、僕は先生の作業を手伝わされた。
理由はもちろん、あの中で僕だけがダブリだからだ。
一応一年生の最後の方では、少し技術的な事にも触れていく。
これはこの学園を出た後、技術者の道に進むものが出てくるかもしれないからだ。
理由は単純、良くも悪くもトップレベルであるこの学園では、上と下の差がとても大きい。
自分の才能に見切りをつけた生徒用に、二年からは技術者向けの補助授業があるくらいだ。
けれどそれは、技術者をないがしろにしているわけではなく、むしろ逆だ。
技術者に転向した生徒には、授業費半額などの特典もある。
これは、選手の事を理解している技術者を育てるためであり、実はこの学園の卒業生には、学園内でパートナーとなり、選手と技術者両方が学園の同期という選手も多い。
実際この学園の卒業生でトップレベルの数人は、学園内で組んだパートナーとプロとして戦い、しっかりとした記録を残していたりする。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
ランニングは適度な速度で、常に速度を変えないことを意識して走る。
これは僕の日課の1つであり、走りながら自らの内側を完全にコントロールするための修行でもある。
これはそのまま、戦闘時のエネルギーコントロール力に繋がるもので、現状魔力が使えない僕であっても、衰えさせないために続けている。
もしかしたら、これを止めることで気力と魔力が衰え、再び普通に魔力を使って戦えるようになるかもしれない。
けれどそれは……僕には負けな気がした。
現状に満足しているわけではないが、だからといって楽な方に流れてしまえば、それこそ天通限無という名を名乗れなくなる。
「やっぱりすごいのね。それだけ走ってて、息一つ乱れてない」
「大和、さん」
僕がそろそろ終わりにしようかと思っていた所に、大和さんが声をかけてくる。
僕が今走っているのは、ランニング用に作られている専用路なので、大和さんがいてもおかしくない。
「えっと……何の用かな?」
けれど僕には、大和さんが声をかけてくる理由がわからなかった。
先程の戦いを見た後で、今の僕と大和さんとの差は歴然だ。
先日僕の事を話したことをかんがみても、再び声をかけてくるとは思わないんだけど……?
「この間は逃げられちゃったから、改めて言うわよ? 貴方、私の実験に付き合いなさいッ!!」
「…………えっ?」
僕は一瞬、彼女の言っている事がわからなかった。
こんな僕に再び声をかけてくれるなんて、夢にも思わなかったからだ。
たしかに僕としても、あの新しいシステム……カートリッジには興味がある。
あれを使えばもしかすると、僕も再び魔力で戦えるようになるかもしれないからだ。
「えっ、と……。どうしてまだ僕の事を? 昨日の戦いは見てた、よね? 今の僕は、大和さんが声をかけてくれるようなたいした人間じゃないんだよ?」
言ってて悲しくなるが、これは事実だ。
今の僕は欠陥魔力騎士であり、大和さんのような輝いている存在ではない。
「貴方の去年の入試成績を見たわ」
「ッ!?」
これには本当に驚いた。
たしかに今、僕の事を疑う生徒には、先生たちから説明がされていることは聞いていた。
けれどそれはうわべを取り繕うものであり、中身までは知らされないはずだ。
「学園長に直接聞いたのよ。私が貴方を、私の実験に付き合わせたいってね?」
「そう、なん……だ」
そこまで僕の事をかってくれていたのか。
正直少し泣きそうだった。
かつての……神童と呼ばれた頃の僕ならいざ知らず、|今の欠陥魔力騎士である僕を見てもそう言ってくれる。
僕は彼女の実験に付き合う事を決意した。
「決めたよ。僕は君の実験に付き合う。だから大和さん……僕を再び戦えるようにしてくれないか?」
「もちろんよッ!! 私が貴方を……天通限無と言う男を、再び輝かせてあげるッ!!」
こうしてここに契約は成立し、僕は彼女のものになった。
これからトーナメントまでの約一ヶ月。
去年よりも楽しくなりそうだ。