お伽話の始まりと出会い
『君は!『今日は愚息の交際談のためにわざわざすまなかったな、感謝する』』
ヴォイドの言葉を遮るように父が話し出す
俺に話させる気はないのだろう、つくづく嫌味な奴だ と毒突くと今度は遮られまいと声を荒げてヴォイドが叫ぶ
『絶対に嫌だ!俺はお前が決めた相手なんかと馴れ合う気はない!俺は俺の意思で決める!』
それだけ言うと彼は扉を蹴り開けてそのまま走り出してしまった
ルシファーはやれやれと溜息をつき
老マゾクはどうしていいのかわからずあたふたとしていた
少女はただ呆然と立ち尽くしていたが気がつくと彼を追いかけて歩き出していた
少女はヴォイドを探そうと帝居内を歩き回ったが広すぎる内装に圧倒され、どこに行けば良いのかわからず彷徨っていた
キョロキョロと周りを見回しながら階段を登り二回を探そうとするとエンジ色の絨毯が伸びた先扉を開けて部屋に入ろうとしている彼の姿が目に止まる
『まってくださぁいっ』
少女は叫びながら彼に追いつこうと走り出す
長い廊下を走る少女をみてヴォイドも扉を半開きにしたまま固まっていた
そこで少女はきづく
ここが帝居だということを
走った先にいる彼は王の息子であるという事
少女は今、デモンの住む建物の中で一番立派な城で叫びながら疾走している事に赤面し脳内はパニックで溢れかえっていた
赤面した顔を隠すために両手で顔を隠すがその行動が仇となりその場でつまづき少女はステンという音が聞こえてきそうなほど見事に顔面から倒れた
目の前で起きた軽い悲劇にヴォイドは目を点にして固まっていた
盛大につまづいた少女は恥ずかしさのあまり起き上がれずにいた
しばらくの静寂が少女を嘲笑うかのように流れた
『ごめんなさいっ』
少女はヴォイドの部屋の床に正座しながらひたすらに謝り倒していた
最初は良かったのだがさすがに15分も謝られ続けるとさすがのヴォイドもうんざりしていた
『あの…もういいから…ね?それよりまだ名前聞いてないんだけど…』
『あっ!ごめんなさい!私焦りすぎて名前も…本当にすみません!』
これは長期戦になりそうだ、と溜息をひとつついてから1時間して聞き出せた情報は
少女の名前はアスタロトということ
シュメル出身ということ
今日はヴォイドと顔合わせのために来たということ
これだけ聞き出せれば上等だろうとヴォイドは一息ついた
アスタロトもやっと落ち着いたようで永遠に続くと思われていた”ごめんなさい地獄”からやっと抜け出せた
『ヴォイド様はルシファー陛下のことがお嫌いなのですか…?』
『敬語じゃなくていいぞ、というより特別扱いは嫌いなんだ』
ですが!とアスタロトが繋げようとするがヴォイドの苦笑を見ると口ごもってしまった
しばしの静寂の後、アスタロトは消え入りそうな声で
『ヴォイド……君……』
というと恥ずかしそうに顔を手で隠してしまった