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昔噺は裏切りの匂い

絶対的な力を持つと生物は変わってしまう


例を挙げるとするならば人間だ


金を手にすれば心は欲望で満ち


権力を手にすれば人の上に立ちたがる


何も恥じることではない、そういう風にできているのだから仕方がない


だが、それでも許されざる領域というものは存在する


自分が絶対だと肯定し、押し付け、罪を問われるような事を起こしても気に留めず、力にものを言わせやりたい放題をする


国の頂点に立つもの【君主】


力の使い方を間違えると【暴君】


有無を言わせず民達を力で統べる

それが父だった


家臣達も国の民達も王の息子である俺に優しくしてくれた、慕ってくれた


だがそれは上辺だけの良心


笑顔の仮面を剥いで見ると、嫉妬や怒りに歪ませた顔が見えてしまうような…


俺はいつしかこの国を忌み嫌うようになった


大臣が、民が、友が…そして父が嫌いになった



雲ひとつない快晴、暖かな草の香り

地平線まで見えるような広大な草原を歩く二人


『ヴォイド君、そろそろ休もうよ〜…』


ブラウンの澄んだ目、肩下まで伸ばした琥珀の髪

小柄な少女がため息をつきながら赤髪の少年に同意を求める


『街まだもう少しだからあとちょっと頑張ろうな』


少年は少女をなだめるように笑顔を交えつつ話しかけた

この二人、初見での印象は表情豊かな年相応の高校生といったところだが実際のことを言うと特異な点がある

それは彼等は人間ではないということだ

彼等は俗に言う”悪魔”というものだ


でも何も驚くことはない、この世界…【ルペス】では人間から見て特異な生物…この世界ではデモンと呼ばれているが、かつては人間とも共存をしていたのだ


一言でデモンといっても色々な種類がある


【アクマ】

人間の想像を優に超える力をもつ

身体能力が高く、殺傷能力が高いなどの優れた魔法を扱うデモンの頂点に立つ者達だ


【マゾク】

我ら人間で例えるならば庶民のような立場だ

人間よりは身体能力も優れており魔法も使えるがアクマには到底及ばない、過去に一部のマゾク達がアクマに下克上をするという運動も起きたのだが結果は一目瞭然というほどの一方的な戦いだったらしい


【マモノ】

デモンの中では一番低い身分だ

知能を持っていなかったり、人型を止めれない者が多い

マゾクやアクマに従う従魔が多い


簡単に分けるとこの三種類だ


はにかみながら話すヴォイドの胸元には王族である証

椿の刻印が見え隠れしていた


ヴォイド=ルシファー


彼の名前である

デモン達の暮らす大三国は一つの帝都によって治められている


自然の恵みを授かる緑の大地【シュメル】


高い魔法技術の発展都市【アルカナ】


そしてその両国を治める帝都【グリモワ】


この三国である


個々特有の色が濃い三国を帝都の王として治める者”ルシファー”

ルシファーの名を掲げるだけでデモン達は恐れおののき、ひれ伏す


ヴォイドの父である

ハザードウォン=ルシファー

彼が統べる魔国土は【ルシファー】が存在する限り暴れることは許されない

力の表し、しかしヴォイドはこの名を嫌い

自らの名を【ロイ】で塗り替え

帝都を、父を潰すための旅をしていた


彼がここまで生みの親を忌み嫌うのには理由がある

それを語るには過去に起きた人間とデモンの大戦争について知らなければならない


時を溯ろう


約五千年前、当時のヴォイド=ルシファー、12歳

まだ人間とデモンが共存していた頃の話だ


人間の高い技術力と頭脳、デモンの優れた身体能力を駆使してこの世界、ルペスの発展向上に献身的に手を組んでいた

しかし身体能力、魔法の使用と人間より戦闘生物として優れていたデモンはいつからかある不満を持ち始めていた


なぜ強者であるはずの我らが人間ごときと仲良く手を組まねばならんのだ


一部の地域では人間を奴隷のように扱い、高い技術を持った人間は道具同然だという思想を持つデモンも少なくなかった

無論、人間は怒りを覚える

反デモン活動も日常茶飯事になり、デモンの人間の間には亀裂が入った


少年ヴォイドはまだ幼く戦争など教育の時間に耳にしたことがある程度にしか知識がなく

時折父が口にしていた言葉も特別気に止めなかった


そして父は暴挙に出る


父の出した人間に対する宣戦布告

いくら幼いヴォイドであってもその声明に入っていた殺害という言葉から父の使用としていたことは大方理解できていた

帝都、城どちらも警備が厳重になり外に出ることはできなくなってしまった


少年ヴォイドは部屋の窓から見える景色は平和なものの、家臣達の立ち話を聞く限り人間、デモン双方大量の生命が尊ばれることなく犠牲になっていることがわかった


結果はデモン軍の勝利で決したようだ

戦争が終わり警備が解かれるとヴォイドは外に飛び出した

城を走り抜け、祭り騒ぎの人混みをかきわけ門の外へと息も絶え絶え走り抜けた

整備された公道を離れ森の中に入っていくとそこはさながら地獄の様な光景だった


血で紅く染まった植物


死体に突き刺さったままの武器


誰の物かもわからない目玉


生前の姿が見当もつかない焼死体


ヴォイドは初めて見る死体に吐き気を催すが恐怖のあまり吐き出すこともままならなかった

顔は青ざめ視線も定まらず死体の道をフラフラしているとついにはその場に倒れこんだ


意識を手放す寸前、綺麗な金色が見えた気がしたが脳は考えるのを止め、無の快楽に飛び込んだ



意識が戻るとそこは白い花園だった


『やっと起きましたね…』


横向きの世界、耳元は柔らかく先ほどまでの頭の重みはスッと抜けている

どうやらヴォイドは膝枕されているようだった


『わっ…わるい…すぐどくから…っ』


『ゆっくりして大丈夫ですよ…あのようなところに居たのですから無理もありません』


膝枕している少女は金の前髪を指に乗せ耳にかける少年に微笑みかけた


これが二人の出会い


だが彼等は後に帝都潰しのための旅を共にすることなど微塵も予想していなかった


ヴォイドはしばらく少女の太腿(ふともも)に頭を預けていると不意に胸のポケットから懐中時計が落ちた

地面にぶつかった衝撃で蓋が開いたようだ


『…!もうこんな時間か!悪い、そろそろ城に戻るよ!』

ヴォイドは跳ね起きると少女に礼だけ言って走って城に戻った

急いで部屋に戻るとそこには教育担当の使用人の優しい顔ではなく憎き父の姿があった


『今日の教育の時間は中止だ、ついてこい』


それだけ言うと父は数人の家臣をつれて歩いて行ってしまった

父に従うのは(しゃく)だが父から声をかけてくることは滅多にないので、何か大事な用なのだと思い舌打ちを捨てて後をついた


父が足を止めたのは”客室”の前だった

何しろデモンの建てた建物の中で最も大きい建物である王宮なのでヴォイドも知らない部屋は少なくなかったが、この部屋もその一つだ

父が扉を開くとそこには二人の見知らぬデモンが緊張した面持ちで座っていたが、王の姿に気がつくと”びくっ”という音が聞こえてきそうなほど勢いよく立ち上がった


『遅れてすまない、愚息の帰りが遅くてな』


父がバカにしてきたので『ケッ』っと心の中で毒突く

気を取り直し客人を観察してみるとどうやら歳を召した老マゾクと少女のマゾクのようだった

軽く会釈(えしゃく)すると少女と目が合った


ヴォイドは驚いた、この少女は以前に会った事がある

それも数分前の出来事だ


少女は先ほど介抱してくれた少女のようだった


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