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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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ギルドマスターからの依頼

 最早彼女達は変な小細工をするぐらいなら真正面から攻めた方が確実かつ効率的にこの街を攻め落とせるであろう。


「な、ならこれは誰の仕業……?」


 その事をリラも思ったのかこの魔獣達の暴走の原因が彼女達魔族ではないと納得するのだが、彼女達ではないとすれば一体何が原因か分からず思考を巡らせ始める。


「しかし……これは酷いな。 あのフイルド渓谷にある都市なんじゃないかと錯覚してしまいそうだ」


 そして東の門についた瞬間、むせ返る程の血の匂いと兵士や魔獣の死体や死骸にドゴツが顔をしかめる。

 これほどの規模の魔獣の暴走は、本来ならばまず有り得ない現象な為、目の前に広がる光景を魔獣の氾濫で有名なフイルド渓谷の砦に来たのではないかとドゴツが錯覚してしまうのも理解出来てしまう。


「お、お待ちしておりました!!Sランクパーティーである竜の尻尾の皆様!!」


 その光景に一度唖然としている時、ギルドマスターの補佐役である副ギルドマスターのニールが出迎えてくれる。

 いつもならばその美しい顔に冷静さを感じさせ飄々と仕事をこなしている彼女なのだが、俺達パーティーを出迎える彼女の顔には余裕は無く額に汗を滲ませ悲壮感すら感じ取れる彼女の表情に今回の魔獣の暴走がかなりヤバイ事が伺える。


「状況はどうなっている?」

「ギルドマスターと複数の高ランクパーティーが何とか抑えているのですが、いつ崩れるか分からない状況です!」

「分かった。 注意しなければならない事などはあるか?」

「はい!今回の暴走は基本的にブラックウルフが主体ですが、一個体の強さ……討伐ランクはAランクに相当しますのでくれぐれも既存の知識に惑わされない様にお願いします!」

「了解。 情報感謝する!」


 状況が異常だけに魔獣自体の強さが本来の討伐ランクではない可能性は想定内だった為さほど驚く事も無く、情報を提示してくれたニールに感謝するとすぐさまギルドマスター達がいる場所へと駆け出す。

 ニールとのやり取りの間にも数頭の、ニールが教えてくれた討伐ランクよりも低いブラックウルフがあたりを駆けているのが見えていた為、あのギルドマスターが討伐ランクの低い個体まで手が回らない程の状況であると推測出来る。

 その討伐ランクの低い個体ですら討伐ランクBと本来の討伐ランクCよりも高い事に驚くも、無視して駆け抜ける。


「良いところに来た!!俺はあの一番でかい奴を相手にしているからお前らは雑魚を食い止めてくれ!」

「ふん、また増援か……無駄な事を。 蝿が幾ら増えようとこの俺を倒せると思っているのか?」

目の前で繰り広げられる戦いは正に異常と言えるものであった。

ギルドマスターと戦っている魔獣は恐らくブラックウルフの変異種であろうという事が分かる程にはブラックウルフの特徴を色濃く受け継いでいる、全身黒い体毛に覆われている二足歩行の魔獣である。


「フン、ここには雑魚しかいないのか?」

「俺の相手をして余所見とはいい度胸してんじゃねぇーか」


 そしてその魔獣は俺の事を一瞥すると敵では無いと判断し、その行為にギルドマスターが怒気を孕んだ声と鋭い斬撃で威嚇する姿が見える。


「魔獣が……喋っている……?」

「それもだが、ギルドマスターの腕が落とされている……あの魔獣は化け物か」


 リラがその異常さに気付き驚愕する声が聞こえて来るのだが、しかしその異常性に気を取られもう一つの異常に気付けないでいる。

 ギルドマスターの腕が一本、肩から先が無くなっているのである。

 そこにあるのは鋭い何かで斬り裂かれた切断面が焼けている肩の様な箇所だけである。

 恐らく止血の為にギルドマスターが自らの魔術で焼いたのであろう。

 その証拠にギルドマスターと魔獣が戦っているすぐ傍に切り口が焼けていないギルドマスターの左側の片腕が落ちているのが見える。

 あのギルドマスターが腕を落とされる事も、それ程の魔獣が現れ、更に喋るという事も目の前の光景その全てが異常だらけである。

 そして、腕を一本奪われた相手に対して腕一本無い状態で互角に戦うギルドマスターの強さを再認識する。


「俺はギルドマスターを補佐する!他のメンバーは協力してブラックウルフを倒して行け!今回の異常性を見れば分かるとおもうが副ギルドマスターであるニールが言った通り本来のブラックウルフの討伐ランクでない以上本来の戦法が有効でない可能性もある!……死ぬなよ!」


 未だ森の奥からブラックウルフが溢れ出して来ている状況に俺はパーティーメンバーに指示を飛ばし、それに各々バラバラの返答を返事をするとすぐさま言われた通り各個撃破しに行く。


「助太刀に来ましたよギルドマスターであるラビンソンさん。失った左腕ぐらいの仕事はしますよ」

「うるさいわ、全く……敵は強い。 死ぬかもしれんぞ?」

「そうですね、師匠の方が先にやられそうなんじゃないんですかね?」


 そして俺は未だ戦闘を繰り広げているギルドマスターの所まで行くとすぐさま助太刀に入り、長年連れ添ったパーティーであるかの様に息の合った動きで補佐して行く。

 元々このギルドマスターであるラビンソンは俺の師匠であり本来ソロの冒険者であった所に無理言って弟子入りし五年ほど一緒に生活した過去があるため失った片腕部分ぐらいの補佐は出来ると思ったからこその助太刀である。


「人間というのはゴブリンの様に沸きやがる。 流石ゴブリンよりも個体数が多いだけの事はあるな」

「それはどうもっ!」

「しかしお前達人間はゴブリンと違い増えたら増えた分我々の住む場所を奪って行くからなおのこと達が悪い」

「魔獣などっ、お前達の同胞を殺している事には怒りは無いのかっ?」

「それがどんな状況だろうと意味があろうと無かろうと他の種族の命を奪うのは生きていれば当然の事。それに怒りは無い。 現に今現在我々は住む場所を賭けて貴様達人間を殺そうとしているでは無いか」


 魔獣の攻撃は鋭く、ギルドマスターであるラビンソンさんの邪魔をしない様に防いで行くのだけで精一杯である。

 にも関わらずラビンソンさんは腕一本落とされていると言うのにあの化け物と会話できるだけの余裕があるあたりやはりラビンソンさんもまた化け物であると再認識する。

 この戦いぶりを見せられるとラビンソンさんがギルドマスターになってくれて正解だったと思わずにはいられない。

 そもそも今回のような優先度の高い情報や依頼から飼い猫探しやその目撃情報など優先度の低い情報依頼と言ったものまでギルドに関わっている以上当たり前であるが一度ギルドを通して表に出される。

 もしラビンソンさんがギルドマスターになっていなかった場合情報が表に出されてから対処しに行っていただろう。

 ギルドマスターだからこそ今回情報を真っ先に入手し食い止めに行けたのである。

 もしギルドマスターで無かったらこの化け物とその周りの魔獣達は街へと既に侵入していたのかもしれないと思うとラビンソンさんには悪いがギルドマスターになってくれて良かったとこの時ばかりは思ってしまう。


「しかし、しぶといな人間。 まさかこれ程まで粘られるとは思わなかったよ」

「これでもトリプルSランクの端くれだからなっ!おっと、」

「全く、先程のを防ぐか。 時間かかればかかる程状況は不利になって行くからそろそろ終わりにしようか。スキル【身体能力向上】さらにスキル【能力向上値上昇】」

「逃げろ!!逃げてギルドが経営してる宿屋にいるあの方達に助けを求めて来い!早く!」

「これが終わったらエール一杯奢って貰いますからね!」


 ここまで知能が高い魔獣の時点で嫌な予感はしていたのだが、その予感は当たり目の前の化け物がスキルを使用する。

 しかも身体能力向上系スキルとその能力を底上げするスキルの重ねがけである。

 まだ攻撃系スキルならば何とかなったのかもしらないが現時点で若干押されている状態で能力向上されればどうなるか、想像するのは容易い程に絶望的である。


「それで、私達を呼んでどうするつもりなのかしら?」

「………は?」


 今から駆け出し探し出そうとしていたパーティーグループメンバーの一員である、美しい青髪を揺らしながらこちらに歩いて来る姿が見える。

 その光景に俺どころかラビンソン、更に魔獣まで呆けた面をしており同じく間抜けな声を上げているのが見える。

 いくら戦闘中、いや戦闘中だからこそお互いに極限まで集中しており場の状況は把握していたはずである。

 それは自分も同じでありこの場には自分とラビンソンさん、そして魔獣しかこの場には居なかったはずである。

 町側からやって来た気配すら無かった何処からともなく為いきなり、しかも我々の会話を聞いていたかのようなタイミングで現れた彼女に戦闘中という事も忘れ素で呆けてしまうのも仕方ない事だろう。


 しかし呆けていたのもほんの一瞬で、魔獣はすぐさま戦闘態勢に入り警戒しだし、ラビンソンさんはその一瞬の隙を突いて回復魔術を自身に施しているのが見える。


「え、あ……いや、その前にどうやってここまで来たんだ?」

「どうやってって、あなた私達の事をこないだからずっとつけていたでしょう?だから私が操る極小の水玉をあなた達の周りに浮遊させ、それを通して監視していたんです。 そしたらば私達を探すとおっしゃったじゃない?だからこちらから出向いて差し上げたんですよ。 デモンズゲートでも良かったのですけどそれだとこの魔獣がデモンズゲートを使い一気に街中に侵入する事も考えられますから今回は転移魔法で来させてもらったんですの。 それで、私達を探しに行くおつもりだったみたいなのですが要件を今お聴きしても?」


 緊張感のカケラも感じ取れない声音で衝撃的な事実をの述べて行く彼女。

 まさか監視していた相手に逆に監視されているという何とも間抜けな結果なのだが、この時ばかりはその間抜けな結果に感謝してしまう。


「そ、そうか……なら、いきなりで申し訳無いが君達のパーティに個人依頼を出したい。 内容はあそこに佇んでいる化け物退治だ。 この依頼はギルドマスターである自分がその権限を使い正式に受理させて頂くつもりだ。 そして成功報酬は本来ならあり得ないのだがトリプルSランクパーティー相当の報酬額、もしくはそれ以上を約束しよう」


 そしてギルドマスターであるラビンソンさんがこのチャンスを逃すまいと即座に彼女達パーティーにギルドマスターの権限を使い個人依頼を頼み込む。

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