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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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水の身体

「俺が負ける訳がないからな!」


 私の言葉にジェネイルは自身の装備について見せびらかせるとと共にその効果の説明を頼んでもいないのに説明しだす。

 やれ剣が物凄く高い魔剣だの装備している甲冑は先祖代々伝わる由緒正しき一品だの指にはめている指輪がどうのと、長々と自慢してくる。

 そしてその自慢の一式を聴き終えた私の反応はウィンディーネとルシファーと同じ反応であった。


「そんなショボい装備を長々と自慢した挙句お互いの装備の足を引っ張る様な組み合わせ……あなたバカなんですか?」


 私の当然とも言える発言にウィンディーネもルシファーも大きく頷く。

 かたや打撃の威力を上げ魔術の威力を下げる装備をし、かたや魔術の威力を上げ打撃の威力を下げる装備などをしているのである。

 いくら装備品の効果や能力を鑑定出来る者がいなかったとしてもその装備品を装備すればどの様な効果をもたらす事が体感出来るはずである。

 だというのに目の前の貴族は素人でもまずやらない装備の仕方をしているあたり本当に何も知らないのか単なるバカなのであろう。

 いやその両方なのかもしれない。


「い、言わせておけば……っ!!」


 そしてその張本人は顔を真っ赤にし激昂し始める。

 自分の思い通りに事が進まなければ直ぐ怒るなど、逆に言えばこういう人種こそ以前クロ様が語ってくれた裸の王様になりうる人種であり煽てるだけで良いのだから操りやすいのであろう。


 その感も唾を飛ばしひたすら私達の事を罵倒して来るのだがもはや支離滅裂過ぎて作業用BGMぐらい聞き流しても問題ないレベルである。

 そしてジェネイルが審判としてこの場に居合わせている女性ギルド職員に早く試合を始める様に怒鳴りつける。

 その様は正に私の嫌いな人種そのものである。


「そそそ、それではっ! ……え、えっと………じ、人類史上最も尊く、また高貴であり最高の頭脳とルックスを持った貴族の中の貴族!ジェネイル・フライランと……セラ、ウィンディーネ、ルシファーのどちらか一名との決闘を始めます!」


 そしてギルド職員はジェネイルに迫られ急いで両者の名前を呼び始めるのだがジェネイルが大金叩いて書かせた謳い文句にギルド職員は絶句しながらもなんとか読み上げる事に成功する。

 その間の、私達三名のうちの一名という箇所でギルド職員のひたいに青筋が浮き上がっている事にも気付けずジェネイルは先程述べられた謳い文句を反芻しているのか目を閉じて満足げに先程から小さく頷いている。

「では、ここは私が参りましょう」


 ここにいるほぼ全員が不公平なルールと思える内容であるにもかかわらずウィンディーネが名乗りを上げ一歩前に出てくる。


「因みに俺の隣にいる二人は一応俺の奴隷である。故に俺の道具であり装備品扱いになるのだがよろしいかな?」


 よろしいも何もこれがジェネイルのいつもの戦法である事は周知の事実であり、例え装備品と認めない旨を伝えた所で鼻で笑いながら「だが奴隷とはそういう物であろう?ずるいと思うのならば何故貴様も奴隷を持って来なかった?」と一蹴してしまうのだからタチが悪い。

 しかもその奴隷というのも金にものを言わせて買った元冒険者ランクA以上の強者ばかりであるのだから手に負えない。


「ええ、かまいませんよ。今更一人や二人増えた所で何も変わりませんから」


 しかしそんな事をしってか知らずかウィンディーネは何処までも傲岸不遜、まるで自分が負けると微塵も思っていないかの様な振る舞いに野次馬達は心配し始める者や囃し立てる者など出始める始末である。

 しかし、野次馬全員が共通して望んでいる事は一致しており、ジェネイルの敗北である。

 もしかすれば最近このギルドで彗星の如く現れたこの美しいルーキーがやってくれるのではないかと期待していた。


「ふん、生意気な小娘だ……しかし、そういう小娘を陵辱するのもそれはそれで良いものだな」


 まさか野次馬全員が負けて欲しいと思っているほど嫌われているとは露ほども知らず、また自分が勝利すると微塵も疑わないジェネイルはこの決闘で勝利した後の事を考え全ての女性陣が引く顔をしていた。

 因みに男性陣の中には寝取られ属性が複数人いたらしく、ジェネイルの事が嫌いな上にあの醜い身体であるという事も相まって興奮している者もいるのだがその表情を隠しきれておらず周りに勘付かれ地味に引かれていた。


「それでは両者……ま、前へっ!…………始めっ!!」


 セラ側が、誰が決闘に出るか決まった事を見て心配役のギルド職員が両者前へ来る様に告げ、両者揃った所で決闘開始を告げる。

 そに瞬間ウィンディーネは一瞬だけ光に包まれ、その光が収まった時ウィンディーネの装備は薄い水色を基調とした見た事もないデザインの装備へと一新していた。

 その装備品は一目でとんでもない額の装備品であると分かるほど美しく、また装備品一つ一つに美しい装飾や模様が施されており国宝級と言われても納得してしまうだろう。


「ふん、見栄えだけは良い装備を持っているようではないか。しかし貴族でも富豪でもないたかが冒険者が我が装備を超える程の物を変える筈がない。所詮は虚仮威しであろう。行け! 奴隷ども!」


 ウィンディーネが装備した物は見た目だけの装備品だと推測したジェネイルは奴隷二人をウィンディーネを攻撃するように命令を下す。


「すまん、怨むならジェネイルを怨んでくれ」

「ここ、こんな上玉を痛みつけれるご褒美を下さるなんてぇ…」


 ジェネイルに命令され二人の奴隷は各々違った反応を示しながらもウィンディーネに向け一気に駆けて来る。

 しかしウィンディーネはその状況でも余裕の態度を崩さずストレージから一振りの剣を取り出す。

 その剣は自らの冷気により既に剣の表面は空気中の水分が凍り付きだし、冷気がほとばしっていた。


「いえ、気になされず。むしろ貴方達ごときでこの私をどうにか出来ると思える事がおこがましいと感じてしまうほどには私……強いんですよ?」


 ウィンディーネは剣を一振り、ただそれだけで奴隷二人の剣と防具を凍らせ砕き散ってしまう。

 しかしそれで止まれるほど奴隷に対する命令は簡単には拒否出来ず二人の奴隷は顔を恐怖に染めながら今度は素手でウィンディーネに襲いかかってくるのだが、その攻撃をウィンディーネの纏っている装備の数々から生み出される氷の壁にことごとくガードされてしまう。

 その事からウィンディーネの装備品その全てがとんでもない物ばかりであると伺える事が出来る。

 そしてそれらを扱える程の実力を持っているウィンディーネの強さも同時に野次馬達や奴隷達は理解する。


「ど、どうせマジックかなんかで本物に錯覚させているだけだろう! ほかの馬鹿どもは騙せてもこの俺は騙せないぞ! そもそもそんな装備品など見たことも聞いたこともないわ! それほどの一品なら耳にしない方がおかしい!」


 だがしかしジェネイルに関してだけは幸か不幸か理解出来なかったらしく怒りに任してウィンディーネに突貫してくる。

 その動作からは剣術に長けているとは到底思えず馬鹿正直に上段からご自慢の剣をウィンディーネめがけ振り下ろして来る。


「ほら見ろハッタリではないか! ……は?」

「わざと貴方の攻撃を受けて差し上げました。貴方如き装備などしなくても私に傷を負わす事は出来ないみたいね」

「み、水の身体? ……ま、まさか貴様、魔族…?」

「当たりです」


 その振り下ろしてたジェネイルの剣はウィンディーネを確かに捉えていた。

 しかし打ち据えた箇所は水のように変化しており、ダメージを受けたようには見えなかった。

 その姿からジェネイルはウィンディーネを魔族だと問い、ウィンディーネが肯定する事により周囲の反応は一変し逃げまどう者達も出始める程である。


「う、うわぁぁああっ!!」

「まったく、魔族てだけで……私が何をしたっていうんですの?」


 ウィンディーネの正体が魔族だと知りジェネイルは一心不乱に手に持つ自慢の剣を何度も何度もウィンディーネへと斬りかかって来る。

 その表情は攻撃を重ねる度に悲痛なものに、そしていくら自慢の剣で斬りつけようとも傷一つ付かないウィンディーネの装備、またはウィンディーネにその表情は恐怖と絶望に染まって行く。


「そもそも、そんな鈍な剣ではクロ様から頂いた最高の装備と、私の防御力を貫通するのは無理というものと知りなさい。そんな剣じゃ私の斬撃も防げないでしょうに」


 そんなジェネイルを鬱陶しく思い始めたのかウィンディーネは手にする美しい剣を一振りする。

 ただけでジェネイルの剣は一瞬にして凍り、粉々に砕かれて行く。


「あ……あっ…」


 ジェネイルは一度刀身が無くなった自身が握る自慢の剣の柄を見つめたあと、自分に突き付けられた冷気ほとばしる美しい剣先へと目線を向ける。


 その瞬間ウィンディーネの勝利が確定したのだが、試合前までウィンディーネの勝利を多くの者が望んでいた闘技場にウィンディーネの勝利を祝う声は聞こえて来なかった。



◇◆◆◇



 ウィンディーネがまさかの魔族だと知り辺境の地にしては栄えているこの街はもう夜だというのに半日前に起こった話題、ウィンディーネの噂話が未だにそこかしこから聞こえて来る。


「東の門前にて魔獣の暴走を確認!現在門前で食い止めているものの間もなく突破される恐れ濃厚! 逃げれる者は速やかに逃げろ!!」


 しかしその静かながらも信憑性があるのかも怪しい噂話がそこかしこで聞こえる夜の街にある種の戦闘音が聞こえ始めたと思った頃、東の門から大声で非常事態であると叫びながら走り出す衛兵が数名が走り出して来るのが見える。


「リーダー……」

「ああ、行くぞ!」


 衛兵の叫び声の内容を聴きドゴツが居ても立っても居られないというのが丸わかりな表情をしながらリーダーである俺に指示を仰ぎに来る。

 ドゴツに聞かれるまでも無く衛兵の言った内容を聞いた時からどの様に動くか既に決まっており、迷う事なく指示を出すと東側の門へと走り出す。

 その頃には警報も鳴り響き街はパニックに陥りかけていた。


「も、もしかそてあの魔族の仕業ですかね……っ?」

「それはまず無いだろう。 あれ程の実力を持っているならばこんな回りくどい事をする意味がない」


 そんな中リラが思った疑問を聞いて来るのだが俺は即座にその疑問を否定する。


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