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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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スキル・魔術無効化

 そしてエルルさんはまるで技が来るのが分かっていたかの様にボナさんの見たことも無い様な技を不意打ちを突かれた型であるにも関わらず初見でかわし距離を取る。

 しかしエルルさんの頬には赤い線が一筋で来ており、そこから流れ落ちた物を手で拭うと一瞬驚きはしつつもニヤリと笑みを浮かべる。


「この私に一太刀与えた者は何年ぶりだろうか? 滾って来るねっ! 土魔術段位三【土石流】」


 その顔はまさにバトルジャンキーだと言われてもおかしく無いほどの表情を浮かべ、自身の扱える殺傷能力の極めて高い魔術を発動する。

 その魔術に周りは色めき立ち小さな悲鳴やエルルを咎める声まで聞こえ出すも次の瞬間には土石流を真正面から斬り伏せ消失させながらエルルめがけて疾走するボナさんの姿が見えた。



◇◆◆◇



 魔術スキル共に段位威力関係無く無力化してしまうとは……どんだけ化け物なんだ彼女は。


 目の前で起こっている光景にエルルは驚きを隠せないでいた。

 今現在殆どの武力が彼女の前では今までの努力をあざ笑うかの様にいとも簡単に無効化されてしまうだろう。


 なす術無し……か。


 しかしエルルはこの状況を楽しんんでいた。

 絶体絶命、対策は無し、活路は見出せない。

 ここまで相手との力量が推し量れないほどの者と相対する事が出来るのはいつぶりだろうか?

 最後に戦った亜竜の親級と戦った時以来だろうか?

 それでも亜竜はダメージこそ少ないとしても魔術を被弾しスキルを喰らっていた。


 しかしとエルルは思う。

 力こそ権力という魔族的考えならば、この様な者をクロ・フリートは家臣として置いているという事はクロ・フリートは彼女よりも強いという事なのだろう。

 しかし、例外は何処にでもあるものである。


「一つ聞いてもいいか?」

「………なんでしょう?」

「クロ・フリートはお前よりも強いのか?」


 例え一騎打ちだとしても、それが命を保証されている模擬戦だったとしても勝敗を決定付ける大部分は如何に相手の情報を入手するかが大きく作用する場合が多い。

 そんな事を知らないはずがない目の前のボナは良い笑顔で「当然です」と言い切る。


「魔術もスキルも使えない私に戦う力を伝授してくれた師匠でもあります。勝てるはずがありません」

「ほう、それは魔術やスキルを使ってか?」

「当然です!」


 そう言う彼女はとても誇らしげで、クロ・フリートの人となりがなんと無くだが分かった様な気がした。

 だがしかし、クロ・フリートは彼女を魔術やスキルを使って倒せる事まで喋ってくれた。

 それだけ聞ければ十分だろう。

 クロ・フリートは彼女を魔術やスキルを使って倒せると言ったのだ。

 であれば何らかの方法ー特定の魔術及びスキル、特定の属性、制限時間、etcーとにかくこの状況を打ち破れる方法があるという事である。

 しかし、もし対策が分かったとしても五分の状況に持ち込めれば良い方だとエルルは考える。

 それ程までに彼女は魔術及びスキルが使えない者とは思えないほど強いと数度の攻防で分析していた。


「だって段位十以上の魔術はそもそも打ち消せれませんし、使われた瞬間負けますよ」

「段位十……だと?」

「そうですが? それを使わないとしても同段位の物と比べ威力は落ちますが打ち消せれ無い魔術やスキルを使われて終わりなのですが」


 そんな私に彼女は答えを言う。

 しかしその答えは余りにも絶望的な内容であった。


 段位十以上の魔術だと?普通なら嘘だと一蹴するのだが、彼女の反応からはとても嘘をついている様には思えない……それどころか当たり前であるかの反応をしていた……それに打ち消せれない魔術やスキルだと?


 今まで効率ばかりを考えて来た私の魔術とスキルに同段位で威力が落ちてしまう様な物は間違いなく覚えて居ないだろう。

 だからと言って諦める事は私の誇りとプライドが許さない。


「水柳御剣流【鬼首切り一閃】」

「くうっ!」

「水柳御剣流【鬼殺し】」

「こ、これでスキルじゃ無いって……どんだけなんだよっ!?」


 気がつくと彼女、ボナが真後ろに現れ私の首筋に捻りを加えた斬撃を横に一閃、それをギリギリのところでなんとか避けると捻りを加えた斬撃を放ち終えた反動を利用し、いつの間にか逆手持ちに変えた片刃剣を私の脇腹に突き刺そうとするのを寸前の所で杖で受け止め即座に後退する。


 この街で一番強いと言われる一人、エルルが魔術もスキルも使えない者に防戦一方の戦いを強いられると誰が想像しただろう。

 当初想像していた展開と全く違う展開にエルルはボナから逃げ、距離をとり広い闘技場を逃げ回る。

 そうして恥を捨て時間稼ぎをし、必死に対策を考えるも良い案は一向に考えつかずそれどころか気が付けば闘技場の壁際まで追い詰められていた。

 その手際の良さはまるでこの闘技場こそが彼女のホームであると思えてしまうほどである。


「土魔術段位二【泥人形】」


 地の利はこちらにあると思っていたのだが、最早全てが覆されてしまった。

 まさか土の地面で私が泥人形を攻撃ではなく防御、しかも攻撃を防ぐのでは無く逃げる為に使う時が来るとは思いもしなかった。

 エルルは自分にそっくりな泥人形を一気に六体作ると四体はボナの妨害、そして残り二体は自分の護衛に付け恥を承知で逃げに徹する。

 しかしボナを妨害しようとした泥人形はボナの斬撃で今まで同様簡単に元の土に戻されてしまう。

 それでもエルルは更に六体の泥人形を作り、それと同時に護衛している二体にバフと土魔術で作った武具を装備させて行く。

 この泥人形を巧みに操る戦法が出来るからこそエルルはソロでトリプルSランクまで登りつめる事が出来た。


 泥人形の強みはやはり土で出来ているという事であろう。

 元が土である為土魔術をさらに重ねがけ出来るのである。

 そして他の属性と違い土が無い場所を探す方が難しく、その場合操る属性を魔術で具現化する必要性が無い上に本物の土を使っている為土魔術を重ねがけした場合具現化した土よりもかなり素直に重ねがけ出来る。

 その理由に具現化したものは『使用する魔術の為に生み出されたもの』という概念が加わっているからである。

 だからこそ複数もの泥人形を操れるエルル相手に一定量以上の土がある場所で主導権を奪い場を支配している現状がどういう事であるか理解出来ない者はこの場にはいない。


 エマ以外は。


 だがエルルは消されると分かっていても、消された分泥人形を生成しボナに向けて放つ。


 それにしても、いくら魔術スキルを消せる能力があったとしても私まで攻め込める戦闘センスは驚きを隠せないな……しかし、やはり彼女のこの能力にも穴はあったか。


 そして無駄の様に見えた泥人形の生成だが、継続してボナに放つからこそ見えてくるものがある。


「土魔術段位一【土縄】」


 エルルはボナに向かわせた泥人形に魔術をかけ土で縄を作るとボナを縛ろうとする。

 しかしボナは技名を言いながらまるでスキルかのような美しい動きで回転し、全ての縄を切り消して行く。

 そしてボナが全ての縄を消す技を放った時、エルルはあらかじめ仕込んでおいた落とし穴を発動させる。


 しかしボナは気付いていたのか縄を切りながら跳躍していたらしく落とし穴には引っかからない。

 だがエルルはそれを見て確信する。

 ボナは縄は消したが落とし穴は消さなかった。

 それは魔術やスキルを消せる能力を持つのはボナでは無くボナの持つ武器の剣であり、剣が一本である限り複数同時に魔術を放てばどうしても無理があるというエルルの推理は当っていたみたいである。


「凄いでしょ?この刀」

「とんでもない能力だな、まったく」


 その事にエルルが気付いた事と同時にボナも気付いたらしく軽く武器を自慢してくる。





 それから数十分間、お互いに攻め切れず拮抗した攻防が続いていた。


 ボナの魔術とスキルの無効化という能力がボナの扱う武器の能力であると分かってからは前半の様に一方的に攻められるという事は無くなったのだがそれだけである。

 結局相手のボナの戦闘技術及び戦闘経験から来るであろう攻防に攻めあぐねているという事実は以前変わっていない。

 だがしかしいくら相手が経験豊富だろうが武術に長けようが何十何百と打ち合えば自ずと攻防のパターンや癖と言ったものが見え、ある程度相手の動きを予測出来る様になるものである。

 そしてボナのパターンや癖であるが、ボナは必ずと言って良いほど大きな隙が出来そうな技や斬撃を放った時距離こそバラツキはあるものの毎回バックステップを踏んでいる事に気が付いた。

 バックステップを踏むという事はその一瞬だけ前への動きが鈍くなるという事である。

 また、幾度となく繰り広げてきた攻防によりのボナがバックステップを踏むパターンも分かって来た。

 そこまでくれば後はまな板の上の鯉であろう。

 多少捌くのには依然気が抜けず簡単では無いのだが、捌き終えるまでの道筋はハッキリと見えている。


 そしてボナはエルルの手のひらの上で転がされてるとも知らず、エルルが描いた道筋通り動いて行き、耐えに耐え見つけた綻びをエルルに見せる。


 その瞬間勝利を確信したエルルは罠に嵌めるまで隠してきた表情、その広角をニヤリと歪めると既に仕掛けていた複数及び数種類もの様々な土魔術をボナが避けれず捌ききれない完璧なタイミングで放つ。




「そこまでっ!!」


 そして無情にも審判の試合終了を告げる掛け声が闘技場に響きわたる。




◇◆◆◇



 元帝都支部ギルドの一番奥にあるギルドマスターが使用する室にしては机と椅子、そして観葉植物だけという質素な部屋で最奥、上座にある革張りにある椅子に私は腰深く座っている。

 机は長方形型でそこに椅子が左右に六脚づつ、上座に一脚の合計十三脚あるのだがその椅子には上座に座っているエルルのほほかにエルルの秘書件右腕として働いてくれているシェリル・ウィリアムズがエルルの左後ろで姿勢良く立っており、残りの椅子及び空いてるスペースに先程観戦していた信頼のおけるトップランカーの冒険者達が各々自由に座っていたり壁にもたれていたりしている。


「結論から言おう。私の完敗であった」


 私の放った言葉に周囲はざわつき出す。


「しかし俺の目から見た姉さんは明らかに審判の宣言通りボナとかいう奴に勝っていた。 どう見たってボナって奴に負けていたとは思えない。 完敗どころか教科書通りのような完璧の勝利の様に見えたんだが……?」

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