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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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水柳御剣流剣術

 そしてボナさんと私はある程度食材や消耗品などを商店街で購入した後、旧都市のギルドへと足を運ぶ。

 と言うのも私は使える魔術とスキルが極端に少なく、また戦闘で使える様な上等な物は一つもない。

 そしてボナさんは魔術とスキルが一つも使えない唯一のクロ様の使用人である。

 その為エマの教育係を決める大きな要因でもあったりする。


「では今日はこの依頼にしましょうか」

「はい……っ」


 ギルドへやって来たボナさんと私は慣れた足取りで依頼が貼られている掲示板がある場所、依頼ランクCとかかれた掲示板の前に行く。

 そして一通り眺めたボナさんは目ぼしい依頼を見つけたのかその依頼が書かれている用紙を掲示板から剥がすと受付まで持って行く。


「では依頼ランクC黄色王猿の討伐で宜しいですか?」

「はい間違いないです」

「畏まりました。 討伐依頼を受理致しましたので冒険者カードを提示して下さい………はい、確かに。 ではご武運を」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます……っ」


 そして慣れた手つきでボナさんが持って来た依頼用紙を確認、手続き、受理と流れる様に作業をこなして行く受付嬢は最後にボナさんと私のギルドカードを専用の機械で個人情報を読み込むとカードを返し依頼の成功を祈る言葉を紡ぐ。

 ギルドの受付嬢なのだから当たり前の事だが何百何千と繰り返して来た事が伺えるルーティーン化された流れを終えボナさんと私はその場から離れようとした時、受付嬢が私達を呼び止める。


「それはそうとボナさん、当ギルドマスターが一度手合わせをと申し出ておりますがお受け致しますか?もちろんこれはギルドマスター個人の指名依頼とさせて頂きますので負けても報酬はお約束致します」


 いつもと違い緊張感で少し震えているのが分かる受付嬢の顔は真剣そのもので決して嘘偽りを述べている様には思えない。

 もちろんギルドの受付嬢が嘘の依頼を言うなどあり得ないのだが、それでも嘘または聞き間違いなのではと思えるほどこの受付嬢が言った内容は突拍子も無い依頼であった。

 それを側から見ていた他の冒険者達も私達と同じ気持ちらしく聞き耳を立てているのかあたりは静まり返る。


 そもそもギルドマスター、それも辺境の地などでは無くつい最近まで都市であったギルドのギルドマスターであるならば他人に依頼をするよりも自分で解決した方が楽であり、またそれもギルドマスターにしか出来ない仕事の一つでもある。

 そのギルドマスターが自分よりも遥かに冒険者ランクの低い者達との決闘を依頼として指名依頼を出す事自体が最早異例中の異例でしか無いのである。


「急ぎの用事も御座いませんので私ごときでございましたら、ギルドには何時もお世話になっていますし恩を返す気持ちでお受け致します。 しかし本当に私で良いのですか?自慢では無いのですが私はスキルも魔法も一切使えませんが……」

「ええ、構いません。 むしろだからこそ……と言った所ですね。魔術もスキルも持たない貴女が戦闘経験の無さそうな娘を伴い高ランクモンスターを傷一つ付けずに討伐するのだから」


 そう言ってここのギルドマスターであるトリプルSランクが一人【万色】の二つ名を持つエルル・エスメラルダスが現れ周囲はこれから行われるであろう好カード同士の模擬戦闘という娯楽を前に一気に緊張感と熱気が高まる。


「そんな、たまたまですよ。 たまたま運が良かっただけです」

「それはこれから分かる事。 後は己が磨き上げた牙で会話を致しましょう」


 トリプルSほどの猛者にでもなるとただそこにいるだけで物凄い存在感を放つ者だとエマは思っていたのだが、目の前でボナさんと会話をしている女性は確かに美しさで言えば存在感を放っているのだがギルドマスターだと言われなければ分からない程度の存在感しか感じない事に気持ち悪い違和感を感じてしまう。




「自分の実力を隠せない者は三流ですよ。 わざわざ相手に自分の強さを教える事は時に死を意味するのですから、特に実力社会の冒険者なんかはね。 しかし力を誇示する事によって身の安全を確保する事もあるわ。 自分よりも下と思わせる事が出来れば襲われる事も少なくなるでしょう?まあ立場や身分でその対応は変わっって来るわね。 だからと言ってチンピラみたいにむやみやたらに力を誇示するのは愚の骨頂なのだけど」


 ギルドマスターとの模擬戦闘をやるギルドの施設の一つである闘技場までの道中、先ほどの事をボナさんに聞いて見るとその答えが返って来た。

 よくよく考えれば当たり前の事なのだが力を誇示したがる冒険者が多いのも事実である。

 表情に出ていたのかその疑問にもボナさんは優しく答えてくれる。

 結局どっちが答えなのか分からないまま闘技場についた。


「それでは両者前へ!」


 闘技場に着くとボナさんはストレッチなる運動で身体をほぐし、それが一通り終わった頃審判役であろうギルド職員に闘技場中央に来るよう声がかかる。

 ちなみに闘技場の観客席にはこのギルドのトップの顔である者達、ランクSパーティー二組、ダブルSパーティー一組、トリプルSパーティー一組の冒険者達が顔を揃えていたが、その他の冒険者達の姿は見受けられない。

 どうやらギルド側が規制をかけたらしいのだがボナさんの実力の一端を他の冒険者達に見られると言う事には変わりない。


「これでは裏シリーズは封印して闘うしか無いですね。 まあいいハンデでしょう」


 ボナさんの言う裏シリーズとはボナさん曰く魔族の姿にトランスフォーム(トランスフォームという言葉は良く分らないのだけれども変身という意味らしい)した時の戦闘スタイルの事みたいである。

 ちなみにボナさんはちゃんとした魔族ではなく母熊型の獣人と父魔族とのハーフらしくどちかと言えば母の血を濃く受け継いでいるのだが両親の悪いところばかり引き継いでしまったらしい。

獣人にしては魔術が得意な母のからっきしなスキルの才能と、父の魔族にしてはスキルが多彩であるがこれまたからっきしである魔術の才能を受け継ぎ、唯一の両親からの贈り物と言えるものは獣姿と人間の姿に変わることぐらいだと以前話してくれた。

 それでも両親からは愛情深く育ててくれたとも。

 そしてこの何も無い自分だからこそクロ様の目に止まったのだからむしろこの、スキルも魔術も使えない身体は逆に才能の塊であると胸を張って言えるとも誇らしげに語っていた。


「ここにいる者たちは皆口は堅いと私が保証しよう。 裏シリーズとやらを使ったとしても誰も外に漏らしたりはしまい」

「今はそうかもしれませんが明確に契約していな以上先の話は分かりませんので」


 ボナさんとエルルさんが闘技場中央に来たとき、ボナさんの小言を聞いていたらしいエルルさんが手加減はしなくても良いと言うとボナさんには珍しく皮肉を込めた返答で返す。


「では両者所定の位置へ!」


 審判の指示に従い両者十メートルほど距離を開けたところで立ち止まり、ボナさんはクロ様から頂いたというアイテムボックスからこれまたクロ様から頂いたという日本刀という剣を取り出し鞘から刀を抜かず左腰に差す。

 エルルさんはストレージからとても高価そうな杖を出すと魔力を通したのか杖に付いている水晶が輝きだし抜き身の剣の様な雰囲気を醸し出す。

 はっきり言えば、お互いの武器だけを見ればエルルさんの方が圧倒的なほど高価な物であるとエマは素人ながらに思う。

 ボナさん曰く無骨な上に使い手を選ぶ扱いづらさがまた自分の分身のようで武器ながら愛おしいと語っていた。


「始め!」


 最初に動いたのはエルルさんである。

 魔術を即座に放ち牽制してくるかと思ったのだがスキル【身体強化】を使い自身の身体能力を向上させる。

 そして身体能力向上スキルをかけ終えたエルルさんは、たとえ身体能力向上をかけたとしても魔術師とは到底思えない速度をもってボナさんへと一気に駆ける。


「スキル【刺突】」

「水柳御剣流【水面月】」


 しかしエルルさんの放ったスキルをボナさんは何かの技名を言うとひらりとかわし、そしてエルルさんのスキルが強制解除される。

 その事にエルルさんは驚愕している事がその表情から伺えるのだがすぐさまバックステップで距離を取りながら追撃されない様に無詠唱で炎魔術段位一【火球】をボナさんに向け放つ。


「水柳御剣流【一閃】」


 その火球をボナさんはまたもや技名を言い技を繰り出すと、切られた火球がまるでカウンタースペルなどにより打ち消されたかの様に消失する。

 そしてその火球を斬り伏せ消失させながらボナさんは一気にエルルさんへと駆けて行く。


しかし当然それを良しとしないエルルさんはまたもや無詠唱で土魔術段位一【投石】を使用し、いくつもの石を作り出すと段位一とは思えない速度でボナさん目掛けて撃ち放つもボナさんはそれらを華麗にかわし、刀で斬り伏せ消失させながら速度を変えず前進して行く。


 その姿を目にしてエルルさんは再度驚き、周りで見物している者達も事の重大さに気付き、ボナさんが魔術を斬り伏せて行くたび騒がしくなって行く。


 そしてあと少しでボナさんの刀がエルルさんに届くところまで迫った時、ボナさんの目に前にボナさんを囲む様に土の壁が現れたかと思うとその壁から無数の針が伸びボナさんに襲いかかる。

 しかしそれもまた難なく斬り伏せ消失させられボナさんは上段からの一太刀をエルルさんに放ち、それをエルルさんは杖で受け止める。

 どうやらエルルさんは土魔術段位一【土壁】を行使したあと、さらにその土壁へ土魔術段位二【剣山】を重ねがけしたのだろうが、やはりボナさんの足を止める事は出来なかったみたいである。


「スキルと魔術が使えないと言うのは嘘で、たった一つ……スキルと魔術を無効化するバフ系のスキルないし魔術またはオートスキルを持っているのか?」

「さあ? どうでしょうね。 ですが正真正銘私は魔術もスキルも使えませんよ」


 唾迫り合いは一瞬。

 無詠唱で魔術を行使できるエルルさん相手に魔術もスキルも使えないボナさんが唯一の武器を杖で防がれいる状況は無防備そのものであろう。

 現に飛び退いたボナさんの、先ほどまで居た場所には地面から巨大な円錐型の針が地面から筍の様に生えて来ていたのである。

 あのまま唾迫り合いをしていたら貫かれていたであろう。


「水柳御剣流【飛燕斬】」

「つぅっ!?」


 しかしボナさんはその巨大な針を逆に利用し、自の姿を隠すと燕が飛ぶかの如くスレスレまで身体を地面に近づけ低姿勢からの素早い移動を利用した動きでボナさんはエルルに一太刀を放つ。





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