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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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唐変木の言葉

 そして当然そんな状態で正常に彼女達が動けるはずも無く感動で胸を撃たれた衝撃を大切に抱きながら打ち震える事で精一杯である。

 その状況を見た自称唐変木では無いと自負するクロは自身が言った言葉の破壊力を目の当たりにし「じゃあ身体に気を付けてな」と言うと通話を切ってしまう。

 自分が言った言葉が彼女達、特にセラ達にどれ程の破壊力があるのか理解できないあたりが唐変木と言わざる終えないとは露ほども思わずに。


「ん………幸せ……ですっ……うぅっ……っ!」

「はいっ……はい……っ!」

「うぐぅ……幸せぇっ!」


 セラが呟いた一言に全員が深く頷くと同時にセラ、ウィンディーネ、ルシファーの三名に至っては鼻水垂らしてわんわんと泣きだす始末である。

 それを見た、セラ達の想いがどれ程深いものなのかを知っているミセル達も「良かったですね!」ともらい泣きし始め、そのせいでギルド内は野次馬が集まりだすも御構い無しに泣き続ける。

 好き、愛してる、お慕いしてます、その様な言葉をいくら重ねても足りない程の、けれど決して届かないと思っていた想い人から大切な存在だと言われたのだ。

 セラ達もあの言葉が愛の告白でない事は重々承知しているのだが、それでもセラ達にとってあの言葉はそれ程までに嬉しい言葉なのである。


「あのー………大丈夫ですか?何かあったのでしょうか?」

「わ、私達の主人様に……た、たいっ……た…大切な存在だって、掛け替えの無い存在だって……っ、うぅ……お慕い申しておりますっ!!」


 そんな、人目もはばからず涙を流す彼女達にギルド職員が心配げに声をかける。

 しかしそれに対応しようとするセラはまともに返事が出来ず言い切る前に泣きだしながら告白する始末である。

 そんなセラに変わってミセルが涙をハンカチで拭きながらギルド職員に説明すると信じられないと驚愕する。


「こ、これ程の美しさを持っている上にAランクのパーティーを倒せる程の実力をお持ちの方が三名とも愛してるのサインを送り続けても靡かない男性って同性好き以外でいるんですかっ!?」


 ミセルの説明を聞いたギルド職員の反応はごもっともで、ギルド内の男女職業問わず一斉に頷く。

 これ程の美姫、しかも三名からの求愛をスルー出来る男性がいるとは想像もつかないのも仕方ない事であろう。

 しかもその意中の男性の言葉は彼女達へ愛の告白では無く、たんに一人間として大切な仲間であるという内容の言葉だったと言う。

 だというのにこれ程まで嬉し泣きする程彼女達に慕われている男性はさぞ良い男なのかもしれない。「なあお前達、その男は同性愛者か…それか騙されてんじゃねーのか?」


 そして頭の悪そうな男が彼女達に話しかけた様にここに集まっている野次馬の大半がそう思っていた。

 これ程の美姫からの求愛を無下にできる男性は普通では無いのではないか?と思ってしまうのは仕方ない事であろう。


「なんだったら俺が話を聞くぜ?」


 普通の男性ならばこの男程ではないがこれ程の美姫に迫られれば鼻の下を伸ばしてしまうというもの。

 にしてもこの男はいくら男性が女性を口説く時の常套手段だとしても、話を聞くと言いつつあれ程あからさまに自分の欲望がその醜い顔にへばりついていては例え相手が渦中の美姫で無くとも落とす事は無理であろう。

 落とせるとすれば男気が無い欲求不満な女性かメンヘラ気質の女性ぐらいであろう。その容姿年齢または性格は言わずもがなである。

 しかしバカはそれに気付けないから馬鹿なのでありこんな不愉快かつ雑な方法で落とせる的は決まってる事に気付けず数打ちゃ当たるとでも思っているのであろう。


「その不愉快な表情を彼女達に向けないで頂きたい。どうかなお嬢さん方、私の館でお口直しにお茶でも?」


 そしてこれ程の美姫に声をかけられる者はバカか何かしら絶対的な武器を持っている男性に絞られる。

 その事を証明するかの様にもう一人声をかけた男性はこのギルドでも有名な貴族である。

 しかし、有名は有名でも女癖の悪さが有名なのだが。

 そして声をかけられた渦中の美姫達はというと、この男性二人を物の見事に無視である。

 その事に段々と苛立ちを隠せなくなって来ている男性二人なのだが普段この様な馬鹿な男性やウザい貴族に良い思いが無い者達、特に女性ギルド職員や女性冒険者達は「良いぞもっとやれ!」と心に中で思っているのか皆んないい表情をしている。


「おい!たかが平民の分際で俺様の言う事が聞けないと言うのか!?」


 そんな中、先に無視される事に耐えられなくなったのはやはりと言うか貴族の方である。

 しかしながらこういった者達は全員大声でがなり立て暴力で人が動くとでも思っているのだろうか?やはりこの貴族もまた大声で叫び美姫の一人、一番好みなのだろうか青髪の女性の肩を掴むと強引に振り向かせようとする。


「…………何なんですか?さっきから。この幸福の時間をクズが邪魔をするというの?貴様如きが?なんで脂ぎった不衛生極まりない豚とお茶しないといけないのです?貴族だ平民だと言ってますが貴族だと何なんですか?飯を食べ寝て死ぬ存在には変わりない同じ人間でしょう?ほんっと何なんですか?………殺しますよ?」

「貴様!!言うに事欠いてこの俺様をクズとはなんだ!?」

「相手の気持ちを思いやれず自分勝手に行動して、それをさも当然とばかりに振りかざす人は貴族だろうと平民だろうとクズでしょう?それに気付けない者は人間の形をした獣です。いや、仲間は命張って助ける獣以下です。きっと貴方は獣のウンコなんでしょう」


 ウィンディーネがそう言った瞬間辺りは静まり返る。

 腐っても相手は貴族なのである。

 むしろ腐っているからこそ辺りは静まり返ると、一気にギルド内の緊張感が増して行く。

 良くて奴隷、最悪拷問の末残虐な方法による死刑であろう。

 その事を想像したのか野次馬の大半が青ざめる。


 耳を済まさなくとも静まり返ったギルド内に「馬鹿な事をしたもんだ」という一言が聞こえて来た。

 どこの誰が吐いたのか分からないのだが、皆小さな頃から「産みの親に逆らっても貴族だけには逆らうな」と教えられて来ているのだ。

 貴族に逆らった末にどうなるのかなんてそれこそ耳にタコが出来るほど聞かされている。


「き、貴様……へ、平民の分際で……私にその様な言葉をは、は、吐きやがって………奴隷にして飽きたら性奴隷として輪姦させた上で殺してやる!!謝ったって無駄だ!っ」

「……………今何と言いました?この全身この気持ちその全てが我が主人であるクロ様のものであるこの私を……今、どうすると言いました?」

「だから奴隷にして犯して回して殺してやるって言ってんだよ!この平民が!お前が誰のものなんか知ったこっちゃねぇ。平民は貴族であるこの俺に「はい」と言えば良いんだよ!」


 はっきり言ってこの腐った貴族の吐いた言葉はギルドに集まる野次馬達全員を敵に回す発言であるのだが、渦中の中心であるウィンディーネには敵どころでは無く駆除すべき害虫に成り下がっていた。


「そこのギルド職員……」

「は、はいなんでしょうっ!?」

「ここでこのゴミを殺しても正当防衛ですよね?」

「………へっ!?」

「へもヘチマも無いでしょう。下手なナンパを断られただけで奴隷にされ犯され回され殺すとおっしゃってるんですよ?このゴミは。それとも何ですか?ギルドは所属している冒険者が、同じくギルドに所属しているこのゴミの肩を持ち黙って酷い殺され方をされろとでも?成る程……だからこんな状況になっても未だ誰一人動こうとしないのはその為なのですか?」

「そうだな……ギルドはあくまでもギルドである。こいつの悪い噂は絶えない所を見るとここで殺されたとしても致し方なし、自業自得だ。しかし、彼の親はギルドの管轄外であるがそれを考慮した上での考えならば良いだろう」


 ウィンディーネの問い掛けに貴族のいるこの場でギルドのルール上どうなのかなどと言える筈も無く固まってしまったギルド職員なのだが、そのウィンディーネの問い掛けにギルドの奥から出て来た男性が答える。

 その男性を見たギルド職員の女性や周囲の野次馬達が口々に「マスター」や「ギルマス」などと言っているあたりあの男性はここギルドの長であるギルドマスターで間違いないであろう。

二メートルはあろうかという大柄な身体に現役を引退しているとは思えない筋肉が雄々しく隆起しており、纏うオーラはここに集っているどの野次馬よりも色濃く強者であるとウィンディーネ達にも分かる程である。


「ま、待てよラビンソン!?その様なふざけたものがこの貴族である俺に適応される訳が無いだろう!!寧ろこの俺に汚い言葉を投げかけあろうことか見下したこの者達を罰するのがお前の役目なのではないのかっ!?」

「黙れ小僧っ!!」


 知り合いなのかそのギルドマスターであるラビンソンの出した「殺しても良い」という発言に対し件の貴族は唾を飛ばし怒りに顔を歪めながら食いかかるのだが、ラビンソンが一喝すると腰が抜けたのか尻餅をつき後ずさる。

 その貴族の襟首をラビンソンは掴み、一気に持ち上げ自分の顔に貴族の顔を近づける。

 しかし貴族の身長とラビンソンの身長は四十センチ程差があり、ラビンソンよりも身長が短い貴族はラビンソンの太い腕に支えられ宙に浮いている状態になる。


「国が滅び、新たに魔族がこの国の王になった。その王がこの国の法を新たに一新されその関係で今まで王都に出向き説明を聞いて今ここに俺は帰って来た」

「そ、そそそ……それがどうかしたのだっ!?国が変わろうと貴族が偉いのには変わりが無いででで、では無いかっ!!」

「いいかジェネイル……貴族制度は廃止される」

「そ、そんなバカな事があってたまるか!?」


 ラビンソンの腕に吊されている状況の中であるにも関わらずそれでもなお上からものが言えるこのジェネイルと呼ばれた貴族はある意味では大した者なのだが、その貴族であるという絶対的な権力が廃止されると聞き一気に狼狽え始める。

 水が上から下に流れる様に未来永劫変わらない物であると思っていた事がいきなり覆されたのである。

 その衝撃はジェネイルにとって凄まじいものであろう。


「いや、既に決定事項だ。但し五年後と言う期限は設けられているのだがその関係も相まって今王都はある意味では凄い状況だったぞ」


 ラビンソンの話を聞きジェネイルは貴族制度の廃止という衝撃は消えないものの五年後と聞き安堵する。


「しかし今言った通り法が変わった……と言っても数年かけて変えるらしく今から全てがいきなり変わるわけでは無いのだが………今回変えられた、と言うより明確にされた法がある」

「だ、だからなんだ!?お、俺はまだ貴族だぞ!?」

「貴族であろうと法を犯した者は罰せられる。それも今から十八年遡ってな。即ち、過去に犯した罪も罰せられる」


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