私の胸(自称A寄りのB)は褒められた・
『良いですか?私達が一度手本であのトカゲを倒してみせますので良く見て、そしてクロ様から頂いたこのタブレットと言う道具を使い動画撮影もしていてください。その後分らない箇所などありましたら撮った動画を参考に口頭で説明いたします』
『『『分りましたっ!』』』
俺たちのパーティーが死を覚悟し、それでもなお頭を回転させ生き残る方法を模索していた時、またも聞き耳スキルがとんでもない内容の会話を拾ってきた。
先ほど後輩冒険者に緋色亜竜の亜種を倒させた女性パーティーの内、先ほどの戦闘に参加していなかった先輩であろう三人の女性が何を思ったのかあの緋色皇竜を討伐すると言い出したのである。
しかも先ほど緋色亜竜の亜種を討伐した三人の女性に手本としてである。
もはや人間の相手にできる存在じゃない緋色皇竜相手にたった三人で討伐すると言ってる時点で無知にもほどがある。
無知だ無知だとは思ってはいたのだがここまで無知だとは思わなかった。
おそらく先ほどの三人が緋色亜竜を簡単に倒せてしまっていたのを見て、緋色亜竜よりも一回り小さな緋色皇竜を自分たちでも討伐できると勘違いしたのであろう。
しかし、緋色亜竜を討伐出来るほどの実力を持つ後輩三人が緋色皇竜の強さを知らないとは思えないのである。
にも関わらずパーティーの先輩冒険者であろう三人があの緋色皇竜を倒すと疑わない、それでいて尊敬の眼差しを先輩冒険者に向けている事が腑に落ちないでいる。
ここまで盲目的に崇拝している事に、まだ若いにも関わらず英雄レベルの若者三人もの命が失われようとしている未来に俺はあの若者たちを洗脳したであろう者たちにドロリとした感情が腹の底で渦巻き出すのを感じる。
彼女達の実力の者達が一気に三人も失うのである。
国の、いや人間族の損失は計り知れないものであろう。
だがしかし、それとは別にあれほどの実力を持ちながらまるで先輩冒険者を師匠でるかの如く付き従い、そしてあそこまで信頼するものなのかと、そこにはやはり彼女たちが師事を受けたいと思える程の実力がそこにはあるのではないのか。
そこまで考えて俺は考えすぎだと思考を止める。
いくらなんでも緋色皇竜相手にそのもしもだけは天地がひっくり返ってもあり得ない。
『影縛り』
『絶対零度』
『裁きの神剣・断罪』
そして緋色皇竜はたった三回の魔術とスキルで息絶えたのであった。
◇◆◆◇
「査定をお願いします」
「冒険者セラ様ですね。お帰りなさいませ。今回セラ様達の依頼内容はビッグボア十体の討伐ですね。……では採取された部位を確認いたしますので少々おまちくだしませ」
緋色亜竜と緋色皇竜を倒した私達は無事討伐クエスト対象であるビッグボアも十体倒し、無事今回の拠点である街のギルドへと戻って来れた。
ただ、今回のクエスト依頼も中盤に差し掛かった頃から妙に視線を感じるのが少し気掛かりではある。
「ビッグボアって一体どのくらいで換金だっけ?」
「一体銀貨三枚じゃなかったすかね?」
「あなた達……幾ら何でも依頼を受けたクエストの換金率を把握してないというのは冒険者としてどうかと思うんだけど……一体銀貨四枚です」
一応ギルド職員が今回討伐したビッグボアの討伐箇所である特徴的かつ希少アイテムでもある尻尾の先端を査定している間、レイチェルとベッテンが冒険者らしからぬ会話をしていたので思わず突っ込んでしまう。
最近少したるんできているのでは?と思うような発言や行動が目に付くようになって来たように思えるのでここらでビシッとセラ様かウィンディーネ様あたりに締めて貰いたいものだとミセルは思う。
「あら……あんな欠伸しながら座って本を読みながらでも倒せる魔物を一体討伐するだけでそんなに貰えるんですね」
「街の清掃クエストの方が何倍も大変なのではないの?」
「……うん、キツイ汚い給料少ない……」
そうは思うも当の本人達がこれなので期待はしていない。
例えギルド内で先程の会話を盗み聞きしていた他の冒険者達に要らぬ不快感を与えてしまっていたとしても、以前の私達なら兎も角何ら危険ではなく至って安全であると言い張れるのだからレイチェル達を私がキツく指摘する必要は無いだろう。
別にセラ様やウィンディーネ様、それにルシファー様も似たり寄ったりだからというわけでは無いとここは私の矜持の為にも言っておく。
「何一人無駄に大人ぶった雰囲気醸し出しながら難しい顔をしているのよミセル。いくら大人ぶったって胸が大きくなるわけでは無いからね?」
「だ、だだだ……大丈夫っすよ?胸が無くっても大丈夫っすよ?」
レイチェルは殺して木っ端の微塵にするとしてベッテンが額に汗を掻き目を逸らしながらフォローする様は私の成長途中である胸がそこはかとなく痛む。
「成長とまってるっしょ」
「ひ…と…の…心を勝手に読むんじゃないわよ殴るわよ!?」
「ちょっ!?光属性付与のバフを自分にかけて殴ってくんなよ!!当たったらどうすんだよ!?」
「当てるつもりで殴ってんだから大人しく殴られなさいよ!?さもないと殴るわよ!?」
「み、ミセル言ってる事がわけわかんないっすわ!!落ち着こう!!ほら深呼吸っす!!」
そうは言われても許せないものは許せないものである。
人間十七年間も生きていればそういった許せないものの一つや二つできるものである。
だがしかし、私の後ろから必死になって羽交い絞めをしながら私の怒りを鎮めようと頑張っているベッテンの気持ちをほんの少しだけくみ取って深呼吸し、この気持ちを落ち着かせるのもアリなのではないのだろうか?
それにレイチェルと同レベルだといろんな意味で、そしていろんな面でも思われたくわない。
「やっぱり胸の大きさと器の大きさは比例するみたいだな……」
しかしここで更に煽ってくるレイチェルに私の百八ある必殺拳の内のどれかが炸裂しそうになるのだが、ここまで来ると一周回って冷静になるのだから不思議である。
「……そうね、レイチェルの胸はクロ様に褒められなかったのだけれども私の胸は褒められたしね……」
「待て!早まるなミセル!!あぁああっ!?」
そして私は伝家の宝刀をぬるりと鞘から抜き出しそれを何も考えず一種の気持ちよさを感じながら振り下ろす。
あの時クロ様から私の胸を褒めて頂いた時に下さった言葉はもはや大切な宝物であり一種の生きる糧である。
その事実を言おうとした時、当のレイチェルは「死にたいのか!?」と言う表情で私の言葉を遮ろうとし、そして言い終えた時「助ける事が出来なかったっ!」というような表情をしていた。
その表情は今までのやり取りの様にからかってる様な表情ではなく本気でそう思っている表情をしていた。
実に失礼な話である。
まるで私がこの話をすれば死ぬみたいな反応に少々苛立ちを隠しえない。
「ミセル……それは本当なんですか?」
「クロ様は本当にあなたの胸を褒めたのかしら?」
「……ん、気になる」
あ、なるほど。なるほどです。
レイチェルが何故あのような表情をするか合点承知の助である。
「デ、デモ……ミナサマノ、オムネサマモ…オホメニナッテマシタ……ヨ?」
嘘である。
嘘であるがしかし師匠と弟子としても教示を受ける様になってから……いや、その前からすでにセラ様ウィンディーネ様ルシファー様はことクロ様の事となると少々、いやかなり暴走してしまうという事は嫌でも思いさらされた事実である。
そんなん嘘もつきますよ。
自分可愛いですもん。
「ほ、ほほほほほ……本当ですかそれは!?」
「今夜夜這いに来られたりしたらどういたしましょうっ!?」
「………クロ様……」
だがしかし、自分可愛さで吐いた嘘一つで一喜一憂するセラ様達を目にし多少の罪悪感が芽生える。
「確認の為にも一回クロ様にこのタブレットを使って電話してみようかと思いますっ!け、けしてクロ様の声で今一度お聞きしたいという邪な感情からではなくてですね、そう…これは……純粋にクロ様の声を聴きたいが為の口実であり至って清い感情から来るものです!ええ!」
「スピーカーで会話しなさいよセラ!」
「…………っ!」
しかしその罪悪感も一瞬にして砕け散る。
もしあの魔道具を使われてクロ様に胸の件を聞いてしまったら一瞬にして嘘がバレてしまうだろう。
しかし、興奮気味にタブレットを取り出し操作し始めるセラ様と、全員と会話を出来る様にスピーカー機能とやらにする様指示を出すウィンディーネ様にそれを興奮気味に肯定し勢い良く首を縦にふるルシファー様を前にして電話をするのは辞めて下さいと言う勇気は私には無い。
『どうした?セラから電話なんて珍しいな』
さて、どの様に謝り倒せば許してくれるのか?と考え始めた時、例のタブレットからクロ様の声が聞こえて来るとそれと同時にタブレットにクロ様の姿が映し出された。
どうやらセラ様はテレビ電話とやらにしているあたり無駄に抜け目がない。
そして色んな意味でこのギルドで有名になりつつある私達に聞き耳を立てていた者達が驚愕する声が聞こえ出す。
確かに遠くの者と会話するだけでも高価な魔道具が必要だというのに相手があんな板みたいな魔道具に映し出されているのである。
驚愕するのも分かるが、私の今の気持ちも分かって欲しいものである。
「い、いえ……クロ様に聞きたい事が一つだけありまして……」
『ん?どうした?』
「ミセルから聞きましたが、私の……私達三人の胸をお褒めになったとかで………す、凄く……その、嬉しかったので……お礼を言わせて頂きたくお電話させて頂きました」
途中「私の」の部分でウィンディーネ様とルシファー様に抗議の目線を向けられはしたものの、絶世の美姫が顔を赤らめ普段リンとしている姿からは想像もつかないほど乙女に様変わりしたセラ様にギルド内全員が息を呑み見惚れてしまう。
しかしそれ程の破壊力があるセラの表情を前にして流石クロ様というべきか、眉一つ動かさず私の方へと視線を一瞬だけ映し『成る程』と呟く。
『そうだな…お前達の胸だけではない。その全てが掛け替えの無い大切な存在だ。勿論、ミセルもレイチェルもベッテンも俺にとってかけがいの無い大切な存在だ』
クロからすればたんに自分の撒いた種から出た目を刈り取り、アフターフォローをしただけのつもりなのだがセラ達は勿論ミセル達を含む六人の美女から「ずきゅうーん」という音が聞こえて来そうなほど無意識に射止めてしまっているとは露ほども思っていないだろう。