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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
89/121

緋色亜竜

「お、俺たちが何をしたって言うんだ……そんな金払える」

「払える訳が無いなんて言わないですよね?」


 そして件の男性パーティー達はリーダーは簡単に倒されるは反撃するも見た事も無い魔術を使われ簡単に遇らわれるは閉じ込められるわで残った者達には最早私達をどうこうしようなどと企む程の者は残って居ないようではあるものの口を開けば金貨の減額を言い出そうとする。

 しかしそれを私が制する。


「強ければ何をやっても良い訳が無い。むしろ強くなったからこそ行動一つ一つで自身の積み上げて来た努力、恩義を下さった方達に泥を塗ってしまう様な行動は慎みなさい。その強さはあなた一人で積み上げた強さじゃ無い。ギルド職員は勿論関わった全ての方達、奪って来た様々な命の末に今の貴方達の強さがあるのです。恥を知りなさい」


 自然と出る言葉は、目を閉じると鮮明に思い出す在りし日のクロ様の姿そのもの。

 そしてセラはゆっくりと目を開くと言葉を続ける。


「ギルドにハウスルールという法があって良かったですね?」

「………へ?」

「分からないのですか? ハウスルールが無ければ今貴方達は死んでるかもしれないのですよ? これは言わばギルドが貴方達の命を金貨で救ったんです。だと言うのに金貨を払えないなんて………言わないですよね?」


 そして耳元で「貴方達の命など簡単に奪えるんですよ?」とトドメを刺す。

さらにセラはにっこりと花が咲くという言葉が似合う様な笑顔でギルド職員に向くとこの件で生じる金貨十八枚を簡単な手続きをした後それを受け取りギルドを後にする。

 ちなみこの金貨は即金で用意できない彼等の代わりにギルドが所有していた金貨を当然利子付きで立て替えた物である。

 ここから這い上がるも返済出来ずギルド側から冒険者資格剥奪されるも彼等次第だろう。


 そしてセラ達がギルドを出た瞬間、ギルド内は夢から醒めたかの如く一気に様々な感情の声が湧き上がるのだった。





「結局、このギルドもバカはいましたね」

「まあ良いんじゃ無いのミセル?馬鹿がいるからこそそいつらを利用すれば新顔でもかなり自由に動けるんだから」

「そうっすよー。でもさっきのセラさんの言葉を昔の自分を押さえつけてでも聞かせたい言葉っしたねー」


 一応正式に私達の弟子という事になった彼女達の会話を聞きながらセラは表情に出さずに同意する。

 この旅で分かった事の中に、ギルドに入り大口を叩いた上でナンパし、力を誇示しようとする者達がいるにも関わらず外野は遠巻きに火の粉が被らないよう見ている場合、そのもの達は少なからずこのギルドで顔が効くという事。

 そしてもう一つはその者を完膚なきまでに倒すと新顔でもスムーズにギルドで依頼を受ける事が出来るようになる事である。



◇◆◆◇



「しかし、それにしても簡単に倒せたわね。最初セラ様から「せっかく依頼としてあるのですから」と修行の一環として緋色亜竜討伐を言われた時はどうなる事かと思ったほどです」

「確かになー……以前より確実に強くなっている実感はあるけど私達の攻撃が緋色亜竜の硬い鱗に阻まれてしまうのではという不安もあったしなー」

「てか私達がここまで強くなってるなんて想像以上だわー」


 先程からミセル達が雑談している場所は討伐して横たわった緋色亜竜、その頭の隣である。

 頭だけで私達よりも大きく、その額の先には緋色に輝く美しい半透明なツノが二本生えている。

 そのツノだけでも私達よりも大きいのだから本体に至ってはまさに小さな山と言える程である。


 緋色亜竜は亜竜種の中でも最上位に位置する討伐難易度を誇り個体によっては並みの竜種よりも強いとされている。

 その為私達のような新参者がおいそれと手を出せる討伐依頼では無いのだが先日の一件によりギルド職員や他の冒険者達から特に何か言われる事もなく難なく討伐依頼受理され、そして今現在その討伐依頼も完了である。

 最初こそ私がミセル達だけで討伐してみてはという言葉に彼女達は自信よりも不安の方が大きかった様に見受けられたのだが、今やその不安も消え去り確固たる自信が付いた事が見て取れる。


「お疲れ様です。危なげなく倒せましたね。さすが自慢の弟子達です」


 しかしながら彼女達は私達の教えを守り、粗は目立つも怪我もせずキッチリと討伐して来たので、それに対し労ってやると彼女達は声こそ出さないのだが嬉しさと誇らしさが混じった表情をしていた。

 そんな彼女達を見ると過去の懐かしい記憶が蘇って来てこちらまで心地良い気持ちにさせてくれる。

 本当に、実に良くできた娘達であり自慢の弟子だ。


 そんな可愛い弟子達を襲いかからんと怒り満ちたオーラを撒き散らしながら襲いかかろうとして来た緋色のツノをした竜種を私とウィンディーネとルシファーで先程の彼女達の戦闘で思った事を指摘し、竜種相手に実際にやって見せながら彼女達よりもスムーズに討伐していくのであった。



◇◆◆◇



 緋色亜竜が目撃され、ギルドで討伐依頼が出されて早一週間。

 やっとの事で見つけた緋色亜竜は拠点にしている街から50キロと想像してた以上に近くでその異様に輝くツノとその巨躯を発見出来た。


「いくら何でもデカすぎる……」

「一旦ギルドに戻って討伐隊を編成するか?」

「でもこの機を逃したら次はいつ出会えるか……」


仲間に相談するも最早亜竜の基本的な討伐ランク超えているであろうその巨躯に、目の前の亜竜の処理が纏まらない。

 ただ分かる事は俺たちパーティーには討伐どころか傷一つつけられる可能性も低いという事だけである。

 勝てる見込みなど全く導き出せない程の差を嫌が応にもその巨躯をもって見せ付けられているみたいで自分同様に他の仲間も苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。


「とりあえず倒すのは無理としてもマーキングだけでも……」

「………いや、辞めよう。無駄に命を捨てる行為になってしまう可能性がある時点でその案は却下だ。一度街に戻りギルドへ報告しよう。今考えうる最悪の事態は俺たちパーティーが全滅して何も情報が無いまま奴が街を襲うパターンだ。それだけは避けるべきだと俺は思う」


 短く一度思索した後、俺は長年苦楽を共にして来た人一倍正義感の強くパーティーの盾職を担う男、ドゴツの提示した案を否定し街へ一度逃げ帰るべきだと話す。

 結局答えは初めから出ているのだが、しかし皆ランクSパーティーというプライドが判断を鈍らせすごすごと逃げ帰るという選択を選ぶ事を渋っていたに過ぎないのであろう。

 こういう時こそ最悪の事態を想定し、動くしか無いのだ。

 それが出来ないパーティーはいくら才能があっても一時の欲で全てを失う時が必ず来るものである。

 その考えは先人達の教えでもあり冒険者として基本的な、当たり前のルールなのだが、だからこそ守る事が難しい。


「わ、私もリーダーが言うように……い、一度街に戻りギルドに報告する方が良いとお……思います」

「あたいもそう思うわ。それに流石に犬死だけはヤダね」


 そんな中、濃い茶色をした木製の杖を胸の前で両手で持ち、魔術師特有のフードを目深く被った我がパーティーの魔術師、リラがおずおずと前に出て来ると俺の意見に賛同してくれる。

 ちなみパーティーの生命線でもある回復魔術が得意なリラが持つこの木製の杖は水の大精霊が住う湖の中で腐らずに数百年間沈んでいた木材で作られておりパーティーの中で一番高い装備でもある。

 そのリラの後に、頼れる姉御肌のモーラスが同意して行く。

 自分がパーティーの頭なら彼女は頼れる殿(しんがり)である。

 この時点て過半数を超えたため一番街に戻る事を告げようとした時、いままで大人しくしていた緋色亜竜が突如起き上がると空に向け鼓膜が破れるかと思う程の雄叫びを上げ、名前の由来でもある額から伸びる二本のツノが緋色に輝き出すのが見えた。


「ま……まさか、我々の事が奴にバレた!? …………いや……どっちに向いて……なっ!?」


 緋色亜竜の動きに一瞬こちらの存在がバレたと思ったのだが、肝心の緋色亜竜は私達とは別の方向に向くと再度雄叫びを上げており、その向こう拡がった岩場の先には六人の女性であろう人影が見えた。

 そしてその六人の女性は逃げるでも無く逆に武器を取り無謀にもこの化け物相手に挑むつもりらしい。


「どうします?リーダー」


 そんな光景を目にしてドゴツが俺に声をかけてくる。

 長年一緒のパーティーで過ごして来ただけあって彼が今何を考えているのかまるで自分の事の様に分かる。

 助けに行きたくて仕方ないのだろう。現にそういう顔をしている。

 そしてこういう時の彼は基本的に引き下がらない。


「わかったわかった……全く……しかしギリギリまで手は出すな。例えそれで間に合わなかったとしても冒険者になった時にその覚悟は出来ているはずだ。奴に一撃を喰らい気絶ないし我々に抵抗出来ない状態になった奴だけ助ける。それ以外は厳しい様だが運がなかったと諦めろ」

「………わかった」


 俺の采配に不満があるのだろう事がドゴツのその表情から容易に伺える。

 しかしドゴツとて自分の感情を優先し過ぎた場合の最悪の結果を分かっているだけに不承不承といった感じで受け入れる。


「リラはあの化け物から彼女達が一撃喰らい戦線離脱していった者からこちらの存在を化け物に勘付かれない様に回復魔術を、モーラスは後方の注意を、ドゴツは身体強化をいつでもかけれる準備を頼む」

「わ、分かりましたっ!」

「あいよ」

「かしこまった」


 この状況だと各々の役割からできる事は限られており何も支持しなくても苦楽を共にして来たが故の阿吽の呼吸も相まってスムーズに動けるだけの信頼と実力を仲間達は身に付けているのだが、絶対では無い。

 限りなく低い確率だとしても万が一呼吸が合わない確率はゼロではないのなら『出来るだろう』で行動するのは仲間の命を預かるパーティーのリーダーとしてはやってはいけない事の一つであろう。

 だからこそ初心者冒険者でも分かるぐらい当たり前の事であろうとしっかりと指示を飛ばし、仲間達は素直に各々の返事で頷いて行く。


 この様に支持を飛ばすのはそれこそ数え切れないほどやって来たのだが一度として返事が統一した事がないあたりが俺達らしいと、その非日常の中の日常風景に少し張り詰めた空気や緊張感が和らぐのが分かる。

 ほんとに頼もしい仲間達である。


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