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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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違約金



「あ……んぐぅ……」


 深緑に囲まれた森の奥深くには似つかわしくない女性の吐息が漏れ聞こえて来る。

 クロ様と聖教国国王コーネリアとの闘いから早くも二カ月が経過しているのだが、ふとした拍子にあの時、クロ様が最後に召喚した布陣を見て感じた感動が今だに蘇る。

 それ程までにあの闘いはセラにとって、いや私達にとって感動的なものであったと言えよう。


「はうっ……はぐぅっ」


 しかしミセルやレイチェルそしてベッテンといった、私達を師として付いてきている娘達がいる前で子供の様に泣く姿は見せられないとグッと涙を堪える。

 そしてひとしきり幸福感から込み上げて来る涙を堪える事に耐えきったセラは、それでもなお込み上げる幸福感に幸せそうな笑みを浮かべ自ら身体を抱き締める。


「私達は幸せ者です」


 そして溢れる言葉にウィンディーネとルシファーが各々噛み締める様に同意する。

 正直あの後行われたセラとクロ様の婚約者との闘いは負けた(ワザとなのだが)のだが、だからと言って彼女ー婚約者達を羨ましく思いはすれど怨むなどといった事はない。

 と、いうのもそもそもあの闘いは婚約者達の強さが果たしてクロ様の婚約者に相応しいかどうか、またどの様な方達なのか見極める意味の方が大きかったと言えよう。

 もし不甲斐ない結果に終わったのなら今頃クロ様直属のメイド達に扱かれていた所なのだろうが、婚約者達は自分がこの世界での平均的な強さから想像していたものよりも遥かに戦闘力、そしてクロ様を想う気持ちは強かった。

 勿論セラ達の強さと比べればまだまだなのだが、及第点は余裕で超えていたと考えて良いだろう。


 そして何よりも、婚約する事をクロ様自身が私達に告げてくれ、そして紹介し、さらに不敬ながらも品定めまでさせて頂いたのである。

 これは前回クロ様が人間と結婚した時の事を思えばかなりの前進であるとセラは考える。

 クロ様は間違いなく私達の事を家族、しかも子供として見ている節がある。

 それは多分、私が他のクロ様の後輩従者の異性に感じる感情に似ているのだろうとセラは思う。

 ならば私達を異性として見れないのも仕方ない事なのかもしれないと諦める事も出来たのかもしれない。


 しかしながら、以前の世界であればクロ様の会話から推察するに妻は一人しか娶る事が出来ないのだが、この世界は違う。

 ならば今はまだ兄妹の枠組み内だとしてもゆっくり、じっくりと異性という枠組にシフトさせていけば良いとセラは思う。


「セラ様が凄い器用な表情をしていますね……」

「あれは多分……前回の戦闘の時にクロ様が最後に召喚した時を思い出して……幸福と……クロ様の婚約者に対して……嫉妬と妬みと……クロ様を籠絡するための罠を考え、そして将来クロ様と結婚した時を想像した時の………表情が……混ざっているだけ」

「要は女性としての感情を爆発させてる表情って訳ね!」


 となりでミセルが呟いた言葉にルシファーが答えベッテンが合点がいったと、まるで問題が解けた時の様なドヤ顔とどこかスッキリした表情で答える。


「う、うるさいですよそこ!」

「でもまあ確かにカッコいいですもんね、クロ様。セラ様達が惚れるのも仕方ないですよねー」

「ですが、家臣の中で最初にクロ様の寵愛を受けるのはこの私ですけれども」

「ウィンディーネ……? 喧嘩売っているのなら買いますよ?」

「事実を言ったまでですよ? そんなカリカリしないでくださいな」


 生い茂る樹々の中で木霊する姦しい声は次の瞬間には戦闘音に変わる。

 その音に獣や魔獣達は音から遠ざかる様にして逃げ始める。

 音の中心にいるミセル達は以前なら獣達同様に恐れていたのだが、人間慣れるもので今では恐怖どころか雑談しながらお茶を嗜める程である。

 更に言えばこの獣達の混乱を利用し、ギルドで受けた依頼の討伐対象を討伐出来るくらいには最早このメンバー間では日常の一部と化していた。



◇◆◆◇



「はい、確かにコボルトの親とその群れの討伐対象箇所である右上の牙ですね」


 討伐対象であるコボルトの親を討伐するまでに色々とあったのだが今回も何事もなくこの様に全員無事にギルドまで戻れた事に一応は安堵する。

 因みに今回の討伐対象であるコボルトの親はミセル達がいつの間にか討伐していててくれていたので頼もしい限りである。


「しかし、毎回思うのですが……男性冒険者のこの気持ち悪い視線はどうにかならないのですか?毎回毎回こうですと辟易してしまいます」

「そりゃ仕方がないですよセラさん。ただでさえ少ない、しかもいたとしてもギルド職員志望が殆どで現役ギルド職員に囲われているような場所に純粋な女性冒険者……しかも物凄くレベルの高い綺麗所が集まっているパーティーなのですからねー、目立ちもしますし男性冒険者からすればなんとかしてお近付きになりたいと思うのも致し方ないっしょー」

「ま、誰とは言いませんが一人身体の部位が平均以下の人は居るんだけどねー」

「ふーん?……誰とは言わないんですが一人、少し、いえ…かなり頭の足りない人もいますけどねっ!」


 そして毎度毎度街に出れば男性の視線が集まり鬱陶しく思っていた事が口から出たのだろう。

 それを聞いたベッテンが返し、レイチェルが補足し、背後に立っていたミセルに頭を殴られる風景を見て思わず笑ってしまう。

 クロ様と一緒に冒険をしていた時もこの様に楽しかった事をつい昨日の事の様に思い出し、幸せを感じながらも少しだけ寂しくも思う。


 そしてこの旅を通じて分かった事もある。


「なあ嬢ちゃん達、なんなら俺らのパーティーに入らないか? 嬢ちゃん達だけで冒険者やってくのは何かと大変だろうし……な?」


 この様に声をかけて来たり挑発的に絡んで来たりする連中はどこのギルドでも上位パーティーに位置付けられているという事である。

 だからこうして自分達以外の上位パーティーがいない隙を狙ってこの様に声をかけて来るのである。

 無駄に顔が効く分この様に調子に乗ってしまう気持ちは分から無い事も無いが、そこを自制出来ないのなら権力を持ったただの餓鬼となんら変わらない。

 もしそれが許されるのなら私はきっとクロ様の婚約者達をすぐさま薙ぎ倒しに行くだろう。


「誰がその汚らしい手を私の肩に乗せて良いと言いましたか? この! 身体! 全て! ………髪の毛一本爪の先まで我が主人であるクロ様の物だと知りなさい」


 そして彼ら、六人で構成されたパーティーのリーダーであろう下卑た笑顔を浮かべた身体だけ大人の餓鬼が私の肩に手を乗せて来た為クロ様から頂いた光属性の剣をストレージから取り出すと居合の容量で鞘から出しその勢いを利用し柄で男性の鳩尾を穿つ。


「全く、貴方如き雑魚が私の師匠であるセラ様を物に出来るわけないでしょうに…… 」


 次いでミセルが空中に光で出来た剣を六本召喚し、その全てを男性の鎧めがけ突き刺して行く。

 彼が着込んでいる鎧が何で出来た物か分からないのだが私が教えた魔術を防げる程の物には到底見えない。

 そして目障りだとばかりに鳩尾に食らった一撃の痛みで転げまわる男性を床に縫い付けられ転げまわる事も出来なくなる。


「貴様らさぁ……自分達が何をやったか分かってるんだろう……ガボガボッ!?」

「黙りなさい。自分達こそ誰に喧嘩を売ろうとしているのか分かっているのでしょうね?」


 そんな中私達の実力差すら測れないにも関わらず未だこの状況を見ても高圧的な態度で因縁を付けようとして来る新たな男性がその言葉を言い終える前にウィンディーネがその煩わしい口を水で覆い塞ぐ。


「はーぁ……全然だめ。こう言うのを井の中の蛙大海を知らずって言うんでしたよねウィンディーネ様?」

「井の中の蛙に失礼ですわよレイチェル。水溜りのミジンコです」


 しかし彼らとて無駄に場数をこなしているのかウィンディーネにより口を水で覆い塞がれても冷静に隠しナイフ数本をウィンディーネにめがけて投擲するあたり雑魚の上に立てるだけの雑魚であるであろう。

 と言っても植物プランクトンか動物プランクトンかの違いしかないのだが、その一撃はレイチェルが空中に出した水球により阻まれ水球と共に空中に浮いている。そして次に音も無く現れるは漆黒の闇で出来た監獄。


「これで良いっすかね?」

「んー……ちょっと甘い。闇を怖がらないで……光も闇も同じ。闇があるから光も有る。そして光があるから闇もある。光も闇も使い方次第……貴女の心の持ち様」


 その漆黒の監獄を作り出したであろうベッテンが、ルシファーに魔術の出来を聞く。

 それにルシファーが師匠然とした態度で指摘すると無詠唱だろうベッテンが施した漆黒の監獄に手を加える。

 すると漆黒たど思っていた監獄は更に色を深め全ての光を吸収している様な錯覚さえ伺える。

 その監獄に閉じ込められた者達は高ランクパーティーである事を伺える冷静さを持って壊そうとするのだが、ベッテンが施した監獄はまだ物理的な攻撃を受け付けていたのだがルシファーが手直しした監獄はそれを受け付けず振るった武器は監獄の柱を素通りして行く。

 しかし、武器は通すも彼等自身は通り抜ける事が出来ずその異様さがさらに際立つ。


「全く、弱い癖に粋がるからこうなるのです……身の程を知りなさい。………一部始終を見ていたギルド職員はいませんか!?」


 そして私は未だ汚らしい男性に肩を触られた不満怒り怨み辛み妬み諸々をその言葉に宿して監獄の中に捉えた男性のパーティーメンバーであろう者達に向け放つといつの間にか出来上がった人集りと言う名の野次馬の中から事の経緯を知っているギルド職員を呼びつける。

 するとその人集りの中から一人、弾かれた様に反応し「はい!」と元気良く反応する女性が現れる。


「見ていたのでしたらお分りでしょうけど、この者達は強引に私達を勧誘しようとしつこく言いよって来ました。しかしその誘いを断った所武器により攻撃されましたので無力化いたしました。つきましてはこの者達から違約金が私に支払われるものと思うのですが?」

「た、確か違約金はこの場合金貨さ、三枚でしたね。しょ。少々お待ち……」

「金貨十八枚」

「………へ?」


 そして私達の前に出て来た少し小柄で眼鏡をかけているものの子犬の様な雰囲気のギルド職員へ私が契約違反なのでは?と問いかけると実際犯行現場に居合わせていた為違約した事は明確、金貨三枚と告げギルド奥に行こうとする所をウィンディーネが止める。


「へもヘチマもありません。その契約を彼等はわくし達六人に違反した事になるのでしょう? でしたらわたくし達は全員彼等を訴えるというのですよ?」


 ウィンディーネの目は、視界に入った物全てを氷らせるかの如き絶対零度の視線をギルド職員に向け言い放つ。

 一パーティーとしてでは無く一個人として彼等を訴えると。


「か、かかか、かしこまりましたぁっ!! ききき、金貨十八で違約金支払いで通させて頂きます!!」


 最早ここだけ見れば立派な恐喝である。


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