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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第五章
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最初の眷属

 そして熾天使セラフィエルを召喚した際、コーネリアが召喚した熾天使メタトロンの身体に巨大な光の剣が複数刺さり縫い付けられ、そこから抜け出そうと必死にもがいているのだが光の剣は抜けるどころかビクともしない。


「更に先程蘇生させた深淵の守護者の能力でこの間増えたネズミトークンを一体生贄にし、水の魔力を作る。そしてその水の魔力利用し、水の召喚魔術段位八【水の大精霊】を召喚、召喚した水の大精霊の効果で今から二十秒対戦相手は魔力を使用する事は出来ない」


 誰が全滅させられた直後だと言うのに全滅させられる以前以上の戦力になると想像出来るだろうか。

 成る程確かにクロ・フリートの言う通りの戦法である。


「う、ウィンディーネ……ルシファー……っ!!」

「はい! あれは間違いなく!」

「私達を……意識してる!」


 クロ自身意識したつもりは無いのだが、この布陣を見て感動に打ち震えている者がいるとは露ほど知らずコーネリアは最早抵抗する気力も絶望に打ち震える気力も失われ只々その運命を受け入れる。


「何をしているんだ? 早く攻撃宣言して殺せば良い。こんなのはただの見せしめでは無いか……いや今の私は死方を選べるほど贅沢な立場では無いな」

「何を言ってるんだ? せっかくロックできたこの状況で攻撃宣言する奴は馬鹿だ。そんな事して攻撃宣言で発動する魔術などが発動して負けましたなんてなったら笑い話にもならないだろ………」


 最早コーネリアは言葉が出ない。

 クロ・フリートは自分達の常識が通用しない遥か高みにいるのだろう。

 勝てると思う事すら最早罪に等しく思う。


 そしてクロ・フリートはこの世界に降り立ち初めて人の首筋に牙を立て、血の契約を結びコーネリアを隷属するのであった。



「命令は三つだ。俺の国に様々な方法もってしても攻め込まない事、俺の仲間にも同じく攻撃を仕掛けない事、そして最後は目覚めが悪いからこの戦いが理由で死ぬんじゃないぞ? どうせ死ぬなら俺が関係無い事にしてくれ」

「………え? それだけで良いのか……?」

「なんだ? もっと命令して欲しいのか?」

「いやいやいやっ!! そんな性癖は持っていない! そうじゃなくてだなっ!! ………あーもうっ!」


 クロ・フリートに隷属させられ何を要求されるか怯えていたのだがクロ・フリートの口から出た言葉は実に呆気なく、思わず声に出してしまっていた。

 隷属させたのならば奴隷、それが男性なら力仕事を、女性なら性奴隷が一般的であろう。

 にも関わらず目の前のクロ・フリートはその命令をするどころかむしろ要約すれば『自分達に危害を加えるな』である。

 であるならば熾天使まで召喚できた私を目の届く所に起き、自慢では無いが私の容姿からすれば性奴隷にするのが一番安全かつ一般的な考えかつ欲望であろう。

 私を使って国を支配するという線は無いだろ。

 間違い無く今回の件以降私の権限は無いに等しくなる事はバカでも分かる事であるし、そんなめんどくさい事をするぐらいなら攻め込んだ方が早いであろう。


「隷属された私が言うのもなんだが……何故私を目の届く所に起き、性奴隷などにしないんだ? そっちの方がどう考えても安全であるし肉欲も発散出来るだろ?」


 そして気が付いたら疑問に思った事を口にした。

 はっきり言って相手が何を考えているのか分からない行動は不気味である。

 それがあれ程の力を持っているとすれば尚更である。


「国の頭を性奴隷として側に置く……そんな事をすればお前の国との間に遺恨が出来かねん。その場合、のちにスーワラ聖教国と表向き良好になったとしても何十年と付き纏う。やれ賠償しろ、謝罪しろ、悪いと思っていないのか? ……と。俺がいた世界はそうだった」

「ならば我がスーワラ聖教国をその圧倒的なまでの力で奪えば良かろう?」

「貴国の国民が我が国民であると誇りを持てるまで余りにも時間がかかる。そもそも宗教も価値観も違う上に魔族は悪であるという常識すらあり、国家転覆を狙う者は間違い無く出てくる。わざわざ藪を突き蛇を出す理由も無いだろうし、俺の住んでた世界の某大国の様に皆殺しという策は非人道的過ぎて取りたくも無い」

「…………は?」


 クロからすればただただめんどくさいのとこれ以上国民や国土が増えるとインフラが遅れ治安を改善させるのも遅くなる為スーワラ聖教国を侵略する事はまさに損得でいう損の割合が余りにも多く、ならば侵略よりも友交を築いた方が後々得であると考えたからである。

 そもそもクロが統治する予定のグルドニアは元々は侵略国家であった為愛国心を国民全員が持っているかどうか疑問である。

 むしろ持って無い方が多いかもしれない。

 しかし魔族である自分が頭になるという事を利用すれば人間であるという理由でいがみ合ってた民同士も絆が一気に深まる可能性だってある。

 そこに現代知識を利用した統治を敷き、甘い汁を吸わせれば生粋のグルドニアの民も侵略された国の民も国家転覆を狙う者は傲慢な貴族を除き少なくなるはずだ。

しかしここで新たに侵略してしまえばそれが大義名分になってしまう可能性が出てしまう。

 

などといかにも前世の知識を持っているが故の一般的な思考の元の考えなのだが、この世界ではやはり異常らしくコーネリアはクロの考えを聞き思わず素で聞き返してしまう。


「まあなんだ、隣国の長としてお互い仲良く行きましょう」

「……っ」


 そんなコーネリアの疑問に受け答えるのを辞めた、というかこれも常識と価値観の違いかと諦めたクロはとりあえず表向きだけでもと前世でも殆どの国家、国民がそうである様に異世界でも友交の行為である握手をクロから右手を差し出して催促する。


「………それは出来ない」


 しかしクロが差し出した右手を握る者はおらず、代わりに寂しげな声で否定される。

 もともと敵国である上に自分は魔族である。

 コーネリア自身の感情、そして自国民が多く見ているという状況ではクロと握手という行為は一種の踏み絵に近い行為なのかも知れない。

 そう思い『敵国であり魔族とでは仕方ないか…』と一種の自虐めいた笑みを浮かべるクロなのだがどうやらコーネリアは別の理由から握手出来ないみたいである。


「違う、そうじゃ無い……。貴様の奴隷になったんだ……国のトップとして居られない。もしかしたら帰国すれば死罪かもな………」


 そう言うとコーネリアは自分の額に浮かび上がっている奴隷である証をトントンと軽く小突き意趣返しと言わんばかりに軽く笑って見せる。

 しかし成る程、こうも奴隷の証が浮き上がっていると例え何も咎められなかったとしてもこれでは日の本で暮らす事は出来ないであろう事が容易に想像出来る。


「言われてみれば……それもそうだな」


 クロはそう言うと自身の所持品の中から白の法衣をストレージから取り出すとそれをコーネリアに渡す。


「………これは?」

「それは着た者のステータスを一つ隠す事が出来る能力が付与されている。着込めば奴隷という事を隠す事ぐらい出来る」


 この装備品は課金アイテムでゲーム初期に出た物である。

 しかしこの『ステータスを一つ隠蔽出来る』という能力が余りにも強過ぎた為運営はやむなくインフレを余儀なくされたある意味思い出深い装備アイテムでもある。

 当時それを装備し職業を隠蔽するというのが流行ったものだ。

 装備で能力を向上させるよりも種族差を突いた方が優位に進める為である。


「こ……これはっ!?」


 しかしコーネリアはそれとは別の、白の法衣の能力向上具合に驚きを隠せないでいた。

 クロからすれば微々たる物でしか無いのだがコーネリアからすれば自身の着ている物よりも能力が上がるこの装備品は異常なのである。


「能力はインフレ前の装備アイテムだから余り上がらないがな……」

「はあ!? これで能力が余り上がらないだと!? ………はあ、何処までも規格外だな、貴様は………いや、ご主人様とお呼びした方が良いか?」

「………名称は変えなくていい。そして聖教国にコーネリアを国のトップから下ろせば問答無用で征服しに行くと正式に文面を送っておく。勿論何か刑罰を与えてもだ」


 クロにそのつもりは無くともそれは単に従属国にするという意味でしか無く、しかしコーネリアはクロのその言葉を聞き化け物か神の化身かと思ってしまうほどの規格外なクロの強さやアイテムの効果を目の当たりにした為、初めて人間らしい一面に少し安堵する。


「戦争に負けたんだ。取り込まれないだけでもありがたいと言うべきか」


 そしてコーネリアはクロの言葉を飲み込み受け入れる。

 戦争に負けて国が残るのならある意味では勝利に等しい成果であると言えよう。

 その事実に戦争にすらならなかった今回の敗戦と国が残るという結果にコーネリアは複雑な心境と共に安堵のため息を吐くのであった。




 クロ・フリートとコーネリアの試合が終わった後せっかくだからとそのままクロ・フリートの婚約者達とセラの闘いも続けて行う事となった。

 その戦闘内容にコーネリアを含めスーワラ聖教国陣営は目の前で繰り広げられている見たこともない高段位魔術に高スキル、そして最早人間技とは思えない程の連続攻撃に見たこともない銃という武器に最早神話級の武器の数々を目の当たりにして改めて自分達の取った行動に今更ながら恐怖し、神に祈る者まで現れる始末である。

 しかしそれもセラが本気を出し初めて一変してしまう。

 巨大な美しい白翼を羽ばたかせ縦横無尽に飛び回るセラを目にし、召喚された無機質な天使しか見たことが無かっただけに崇拝に近い憧憬の眼差し向け始める。

 しかしそれは神や天使を崇拝するスーワラ聖教国国民であればこそ、致し方無い事であろう。


 その姿を見たコーネリアは従属国の話は案外スムーズに行きそうだと複雑な気分であった。



◇◆◆◇



 あの戦争と呼べるのか疑問ではあるがその一カ月後、クロは一人帝国の都市にあるギルドで手続きをしていた。

 その間サラ達は今『一番ゴブリンを仕留めた人が明日の昼にクロとデートできる』という独自ルールの下、ギルドに着くやいなや凄まじい勢いでゴブリン狩に出かけている。

 クロの予想では鼻が効くキンバリーかミイア、探索スキルが使えるサラあたりが優位なのでは?とは思うがそれ以前に殲滅を超え森林を壊滅させないかが心配ではある。


「ギルドランクアップ更新が終わりましたらこちらの方でお声させて頂きますので、それまでそちらのソファーでお寛ぎお待ち下さい」

「分かりました。有難うございます」


 そしてこの度、晴れてギルドランクFからEランクへと上がる事ができなんだかんだで年甲斐も無くはしゃぎたい程度には嬉しいとおもってしまう。

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