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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第五章
84/121

命の対価


「光の召喚魔術段位二【大天使ミカエル】」


 攻撃すれば不利になる。

 しかし何かしなければどの道不利になるのならばこちらも召喚魔術で対抗するしか無いという考えに至ったコーネリアは普段消して使用しない召喚魔術を使い一柱の天使を召喚する。

 その光景を目にしたスーワラ聖教国側で観戦している者達は歓喜に震え勝利を確信する。

 相手はたかが骸骨であり、所詮そこら辺に湧き出るごくありふれたモンスーである。

 神話に出てくる天使様に、そしてその天使を召喚出来るコーネリア様に勝てる筈がないと。


「ミカエル……そこの骸骨に攻撃しなさい」


 スーワラ聖教国側の湧き上がる歓声とは対照的に、召喚した天使に攻撃を宣言したコーネリアは苦虫を噛み潰したかの様な表情をしていた。

 その最大の原因はコーネリアが召喚魔術を使いたくなかった理由に繋がり、その理由とは召喚した天使は指示を出さなければ動かないと言う点である。

 自らが敬愛してやまない者をまるで丁稚の様に扱う事にコーネリアは不快感かつ罪悪感に襲われ、それら感情を全て怒りに変え天使を召喚しなければならない状況にしたクロに全て向ける。


「たかが骨如きでこの私に牙を剥いた事を後悔させてやる」


 そしてコーネリアの指示通りクロが召喚した彷徨う骸骨を破壊した大天使ミカエルはそのままコーネリアの元に戻り、破壊された彷徨う骸骨はクロにより何事も無かったかの様に再生する。

 その光景にコーネリアは苛立ちを隠す素振りも見せず舌打ちを打つ。

 天使による攻撃で成仏しないアンデットモンスターなど存在していい筈が無く、ましてや破壊されてなお生にしがみつこうと蘇る様は神に唾を吐く行為にしか見えないとコーネリアは思う。


「闇の召喚魔術段位一【深淵に住むネズミ】」

「光の召喚魔術段位三【権天使ハミエル】どうやら貴様の召喚魔術は所詮ハッタリだったみたいだな。ネズミなんか召喚して実に惨めなものだ」


 コーネリアはクロが召喚したモンスターがただのネズミだと知ると先程まで『例え天使を召喚しても勝てないのでは』という考えが無くなり不安や恐怖などといった感情から解放されて急に饒舌になる。


「ネズミだからとバカにする奴がいるとは実に滑稽だな」

「事実そうではないか。たかがネズミに何が出来る」

「分かって無いみたいだがこの世界において命は種や姿形関係なく総じて平等である。そう、ネズミだろうと骸骨だろうと天使だろうとそこに命あれば等しく平等とされる」


 コーネリアはクロが何を言っているのか分からなかった。

 天使と骸骨やネズミの命が平等である筈がないし、あってはならない。

 それはこの世界に生きる者の常識なのでは無いのか?

 では何を持ってクロは平等と答えたのか。

 それがいったい何を指しているのか何となく想像できた時、たった一匹しかし召喚してない筈のネズミがいつの間にか六匹に増えているのに気付く。


「この深淵のネズミは攻撃力も防御力も極端に低い代わりに実にネズミらしい能力があってな、一匹でもいる限り鼠算の如く増えて行く能力を持っているんだよ。闇の召喚魔術段位六【深淵の守護者】召喚コスト、生贄五体を深淵のネズミで消費する」


 そこに現れたのはまさに化け物。

 身の丈二メートルは有りそうな巨躯に腐敗し今にも悪臭が漂って来そうな肉体を付け、まるで優秀な執事であるかの如く綺麗な姿勢で佇んでいる姿は異様としか言いようが無い。

 目と口は糸の代わりに何かの皮で縫われ、手には巨大なハンマーを持っておりそれがより一層不気味さに拍車をかけている。


「ひ、光の召喚魔術段位四【能天使ラファエル】」


 しかし相手が何をやって来ようと能天使ラファエルまで召喚出来た私の敵では無いとコーネリアは思う。

 唾液が緊張で乾き、張り付いた喉で何とか能天使ラファエルを召喚する事に成功したコーネリアはこの戦いに勝機を見出せ、安堵のため息を吐く。

 この能天使ラファエルはそれ一体で百の兵士と同等の強さとされている程の天使である。

 図体だけがでかい深淵の守護者とか言うモンスターさえ倒してしまえば後は勝利に向けて慎重にコマを進めて行けば良いだろう。


「深淵の守護者の能力で深淵のネズミを一体生贄に捧げる。能天使ラファエルを対象にし、それを破壊する」

「………は?」


 しかし、コーネリアが召喚した能天使ラファエルはたかがネズミ一匹の生贄で実に呆気なく消滅してしまう。

 その余りにも呆気ない結末にコーネリアは何とも間抜けな声を発してしまう。


「どんなイカサマをした!? 能天使ラファエルがたかがネズミ一匹と同等の命である筈がない! いや、あってはならない!」

「いや、能天使ラファエルであっても所詮召喚モンスターだろう? 大げさな。とりあえず深淵のネズミを二体生贄に捧げてお前が支配下に置いている天使を全て破壊する」


 何の躊躇いも無くクロが深淵のネズミを生贄に捧げ、コーネリアが召喚した天使をいとも簡単に破壊して行く。

 まるで商店に陳列された商品を名指しで買うかの様な軽いクロの声音から一体誰が能天使ラファエルを含む三体の天使がネズミ三匹により破壊されたと信じるであろう。

 コーネリアにとって目の前で起きる出来事はまさに悪夢の何物でもない。

絶望的な幾多の戦況をひっくり返し、コーネリアに勝利を導き、その全てにおいて決して倒される事がなかった能天使ラファエルが今光の粒子となって消えて行く。

 その様は実に美しく破壊された事を忘れてしまいそうである。

 しかし光の粒子が全て消え去った後、そこには一柱の天使も居らず無情にも先程までいた三柱の天使がたかがネズミ三匹の命により破壊された事を告げている。


「っ………あ……う……っ」


 その呆気ない結末にコーネリアは受け入れる事が出来ずにただ喘ぐ事しか出来ないでいる。

 そに間も深淵のネズミは数を増やし、この隙を見逃さずクロは彷徨う骸骨を二体に骸骨の壁を三体召喚する。

 当然彷徨う骸骨は代替えコスト混みであるためその手には盾と剣を所持しているのが見える。


 どうひっくり返してもコーネリアに勝機は無く、いっその事トドメを刺して欲しいと自虐的になるコーネリアなのだがクロ・フリートは一向にトドメを刺す気配は無くそれがより一層スーワラ聖教国側の人達に恐怖心を与え知らず知らず心を折っていく。

 しかしそれとは対象的にクロ側の、特に婚約者やその周りの人物はクロが手を抜いている様に見え足元をすくわれるのではないかと不安気な表情で見守る。


「は………ははは………ははははは!!」


 そんな中コーネリアが壊れたかのように突然笑い出した為、コーネリア側は圧倒的な戦力差によりコーネリアが壊れたと、クロ側は一発逆転されるのではないかと少しざわつき始める。


「やはり神は私を見捨てなかった!! 光の召喚魔術段位十【熾天使メタトロン】を、熾天使メタトロン様の能力、自分がコントロールするモンスターよりも多く相手が闇属性のモンスターをコントロールしている場合、モンスター一体につきこのモンスターを召喚する段位を一下げ、相手が十体以上闇属性モンスターをコントロール下に置いていた場合コスト無しで召喚出来るという能力を使い熾天使メタトロンをコスト無しで召喚する!! そして更に追加効果で熾天使メタトロンが召喚に成功した時全ての闇属性モンスターを破壊する能力を発動させクロ・フリートがコントロールする闇属性モンスターを全て破壊する!!」


 それと同時にコーネリアは熾天使メタトロンに攻撃指示を出し唯一破壊されず残っていたクロ・フリートのモンスター、光の亡霊を破壊させる。

 その光景にスーワラ聖教国側はコーネリアの勝利を確信し歓喜の声を上げ、クロ・フリート側は歓喜の声や悲鳴など様々な反応を見せる。

 誰がどう見てもコーネリアの勝利は揺るがないと思える光景に周りが騒ぎ立つのだがコーネリアはこの光景を目にしても未だ、どこか余裕すら感じるクロ・フリートを見て一気に全身に怖気が走り背筋が凍る。


「こ、この状況を打開出来る何かがあるのか?………いや、召喚モンスターも存在せず、更に神の加護か魔術段位十という奇跡の天使様だってこちらにいるのだ。きっとブラフに違いない」


そうだ。きっとブラフに決まってる。


そう思うもその考えを一蹴してしまう程の余裕を見せるクロ・フリートにコーネリアはその不安と可能性を消す様にブラフだと強く願う。


「サモナー同士の闘いには基本的な戦法が三種類ある。勿論変則的な物も入れるとその限りでは無いのだが……一つは低段位モンスターで一気に攻める戦法、二つはロックやハンデスなどで場を固めより優位に戦況を進める戦法、三つは勝利が確信出来るまで亀の様に守りに徹し時が来たら一気に攻める戦法」

「………な、何が言いたい。だからどうしたと言うのだ」

「まだ分からないのか? 貴様の様に何のコンボも策略も無く出せるモンスターを何の考えも無く召喚出来るからと召喚する戦法は三流以下の子供がする戦い方だと言いたいんだが……そして俺の戦法はどちらかと言えば三でな……」

「………う、嘘だ……」


そしてコーネリアは先程までのクロ・フリートの戦い方を思い出す。

彼は場を優位に進めているにも関わらず消してコーネリア本人には攻撃して来ず終始守りに徹していた事に。


「まあ長話も何だしこの闘いもそろそろ終局と行こうか。闇の召喚魔術段位十二【堕天した熾天使サタン】を『十秒以内に自分がコントロールするモンスターが十体以上破壊された時このモンスターを召喚するコストを支払わず召喚しても良い』の能力を使い召喚する。そして『このモンスターが召喚に成功したとき破壊されたモンスターを十体秒数に関係無く再生する事を選んでも良い』という能力を使い先程破壊されたモンスターをトークン以外再生する」


 そこに現れたのは十二枚の翼を携えた一柱の天使である。しかし十二枚もの翼を持つ天使の翼は闇の様な漆黒であり、それがまたコーネリアに恐怖を与える。

 この世界において天使は基本的に高位な存在になるに連れ翼の枚数が増える傾向があり、十二枚ともなると最早コーネリアに取って神に等しかった。

 そんな存在である天使の翼が漆黒であるという衝撃は計り知れないものであろう。


「更に光の召喚魔術段位十二【熾天使セラフィエル】を『十秒以内に十体以上のモンスターが再生ないし蘇生した場合あなたはこのモンスターの召喚コストを支払わず召喚しても良い』の能力を使い召喚する」



補足


闇の召喚魔術段位一【彷徨う骸骨】

アンデットモンスター

攻撃0 防御1

効果

代替えコスト(闇の魔力コスト1)

彷徨う骸骨を召喚する際に、更に代替えコストを支払っても良い。あなたが代替えコストを支払った場合彷徨う骸骨の攻撃力+1防御力+1のカウンターを一つ乗せた状態で召喚する。

闇の魔力コスト1(再生)

彷徨う骸骨が破壊された場合五秒以内に闇の魔力コスト1を支払えば彷徨う骸骨を戦場に復帰させる。


闇の召喚魔術段位三【骸骨の壁】

アンデットモンスター

攻撃0防御4

闇の魔力コスト1(再生)


【墓場の守り人】

アンデット

攻撃2防御2

あなたがコントロールしている召喚モンスターが十秒以内に三体破壊された場合召喚コスト無しで召喚出来る。この能力を使用した場合あなたは墓場の守り人と名が付くモンスターを十秒以内は召喚出来ない。

墓場の守り人が召喚された時、あなたが使える召喚魔術の中から段位四以下のアンデットモンスターを一体特殊召喚出来る。

墓場の守り人が戦場にいる場合全てのアンデットモンスターの防御力は+1の修正を受ける。


光の召喚魔術段位三【光の亡霊】

アンデット

攻撃1防御2

浮遊(飛行及び浮遊を持つ召喚モンスターにしか攻撃されない(地上エリアにいる場合を除く))

あなたがコントロールする召喚モンスターは防御力+1の修正を受ける。


闇の召喚魔術段位一【深淵に住むネズミ】

ネズミ

攻撃0防御1

三体同時に攻撃が通った場合相手もしくはモンスターに1 のダメージを与える。

このモンスターは防御に参加出来ない。

五秒に一体同じ能力を持つネズミトークンを一体特殊召喚する事が出来る。


闇の召喚魔術段位六【深淵の守護者】

アンデット

攻撃4防御3

召喚した時、五体のモンスターを生贄にしなければこのモンスターを破壊する。

このモンスターが戦場にいる場合相手はこのモンスター以外のアンデットを対象に出来ない。

モンスターを一体生贄に捧げる。深淵の守護者は十秒間攻撃+1防御+0の修正を受け能力(飛行)を得る。

モンスターを一体生贄に捧げる。深淵の守護者を再生する。

モンスターを一体生贄に捧げる。対象のアンデットモンスター以外のモンスターを破壊する。それは再生出来ない。

モンスターを一体生贄に捧げる。あなたの魔力プールに好きな属性の魔力コスト一追加する。

この能力は秒数制限無く何度でも使用出来る。


光の召喚魔術段位二【大天使ミカエル】

天使

攻撃1防御1

飛行

抵抗力(悪魔)悪魔に対して攻撃+1防御+1の修正を受ける。


光の召喚魔術段位三【権天使ハミエル】

天使

攻撃2防御2

抵抗力(悪魔)


補足


光の召喚魔術段位四【能天使ラファエル】

天使

攻撃3防御3

能力(飛行)

抵抗力(悪魔)

このモンスターが攻撃する場合ダメージ計算を二度行う。

このモンスターが防御している時、別の攻撃モンスターを対象とする。その攻撃を防御しダメージ計算を行う。

攻撃及び防御時による二度目のダメージ計算時、能天使ラファエルに与えられる全ての戦闘ダメージを軽減し0にする。

二度目のダメージ計算が終了時能天使ラファエルが戦場に残っている場合能天使ラファエルに与えられた全ての戦闘ダメージを軽減し0にする。

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