魔王◇
2日かけて歩いて来た草原をバハムートに乗って一時間、眼前に早くもノクタスの街が見えてくる。
ノクタスの街は見る影もなく炎に包まれノクタスの冒険者と魔族が入り乱れて乱闘しているのが見える。
その乱闘もバハムートが近づくにつれ徐々におさまり、魔族側は歓喜の雄叫びを、人間側は悲痛の叫びをあげ始めていた。
「なんだあのばかでかい黒竜は!?」
「俺が知るかよ!」
「魔王様が呼んでくださったんだ!」
「これで楽勝だぜ!」
人間側、魔族側双方の叫びが飛び交う中、その真ん中へバハムートは舞い降りる。
そして人間側にその巨体に似合わず優雅に舞い降りるとバハムートは魔族側へ鋭い眼光を向け一喝する。
「貴様等は魔族の癖にここを魔族の王たる我が主の拠点の一つだと知っての愚行か!?」
その声は大地を揺るがし魔族側と人間側双方全域に響き渡る。
魔族側はまさか目の前の黒竜が魔族側に敵意を向けるとは思ってなく予想外の出来事に混乱し、人間側もまた同じ理由で混乱していた。
そんな中、魔族側から身長三メートルぐらいの巨体を揺らしながら黒竜の方に向かう魔族が見える。
その体は赤く、鬼を連想させる見た目をしている。身に付けている武具を見る限りそれなりの地位がありそうだ。
「寝言は寝てから言えよこの黒トカゲ。俺達は魔王様の命令でここに来てんだよ」
「ほう、それはおかしな話だな。魔王様は貴様等の身勝手な行動に怒り、自らこの場所へ表れているのだぞ?お主の言う魔王とやらはお主等の妄想じゃないのか?」
バハムートはそう言うと姿勢を低くくし、クロを掌に乗せるとゆっくりと降ろす。
周りを見渡せばドラニコやボストンが見える。
多分今まで最前線で戦って来たのだろう。身に付けている甲冑や武器には数多の真新しい傷がついているのがここからでも分かる。
また、魔族側を見渡せば多種多様の魔族が見える。
そして魔族側の奥に空間の歪みが見られ、そこからノクタスとは違う世界が広がっておりその奥に数多の魔族と荒れた大地に厚い雲が見える。
「誰だお前? まさか黒トカゲが言う魔王様とやらはコイツじゃぁないよなぁ?」
そして周りを見渡しているクロの姿を見て五本角の赤鬼がバカにした顔を向けてくる。
「魔王か…………確かに魔王の称号は持っているが、俺以外に持っている奴がいてもおかしくはないだろう。 俺の他に魔王の称号を持つ者がいるらしいが、何故俺が貴様ごときに見下されなければならない?」
確かにクロはバハムートが言うように魔王の称号を持っている。
生前、ギルティブラッドの魔王決定戦というキャラクタータイプが魔族のキャラクターのみエントリーできる大会でほぼ課金アイテムのお陰でなんとか優勝することができ手にいれた称号なのだが。
「魔王軍少将が一人、赤鬼のガルムと知っての発言か? 小僧次はないぞ」
自らをガルムと名乗る赤鬼は今までの馬鹿にした目線と笑い顔をやめ、代わりに純度の高い殺気を放ち始める。
「たかだか黒トカゲ一匹従えただけで魔王気取りか?」
「誰がバハムート一人だといった?」
俺にとってバハムートはゲーム時代の大切なパートナーだったため一人称を『匹』ではなく『人』と数えたのだが、それに唯一気づいたバハムートから先程まで放っていた殺気を霧散させ、代わりに感極まった表情をしていた。
「お家に帰って妄想家臣と一緒に魔王ごっこしていれば死なずに済んだのになぁ小僧………なっ!?」
もう話す気も失せたのかガルムはクロに一歩近づき虫を潰すような感覚でクロの命を刈り取ろうとするのだが、その動きは途中でとまり、目の前に広がる光景に息を飲む。
クロの後ろにいきなり何千という魔族、魔獣、人間、精霊族etcが現れたのだ。
突然現れた事もそうなのだが、何よりそれは魔族と人間が対立するこの世界で魔族と人間が共にガルム側へ明らかに敵意を向けている光景に驚かされる。
人間は魔族に、魔族は人間に敵意と殺意を向けるのがこの世界の常識なのである。
クロからしてみればサポートキャラクターの召喚設定を自動に切り替えただけなのだが、課金で集めたすべてのキャラクター達が自ら自動召喚して牽制のつもりが想像以上の結果になり内心驚いているのを隠すので精一杯だったりする。
「どっから現れた? お前た…ちッ…ガハッァ!?」
「こ…殺す。お前、殺す…殺す!」
その中の一人、漆黒の翼を持つ美しくもどこか儚げな、まだあどけなさが残る天使が親の敵を見る目でガルムが言い終わる前に黒い魔弾を打ち込む。
「よしなさいルシファー。クロ様は無駄な殺生をしに来たのではないのですよ」
「そ、そうだったな…セラ」
そしてルシファー同様自ら召喚した、白い翼を持つこれまたルシファーとは対照的な美しくも強さを秘めた天使セラがルシファーをなだめ、ルシファーが多少落ち着きだす。
「ガルムとか言ったな? これでも魔王ごっこと言えるのか? ……ふむ、その表情を見れば聞かなくて良かったみたいだな。…では、申し遅れました。わたくし、僭越ながら魔王の称号を貰い受けたクロ・フリートと申します。以後お見知りおきを」
クロはルシファーに吹き飛ばされ、仲間になんとか起き上がらせてもらっているガルムに恭しく頭を下げ挨拶をする。
そのガルムの顔は弱者に対する視線から強者に対する視線に代わり、自分では敵わない相手だとクロを認識していることが怒りと悔しさで崩れる顔を見ればわかる。しかしガルム本人は、敵わないのはルシファーであり、クロだけなら簡単に殺す事ができると思っているのだが。
「貴方の話では、ここノクタスに攻め込んだのは貴方がたの魔王による命令との事ですので、お手数ですがここに貴方がたの魔王とやらを呼んでいただけないでしょうか?」
生前仕事内容に営業の仕事があったため、その癖が出てしまうのだが、誰も指摘する者はおらず、逆にその丁寧な物腰がガルムには恐怖に変わる。
しかし、このクロとかいう男は自ら魔王様を呼べと言っているのだ。それはガルムにとって願ったり叶ったりである。
「クク……ハハハハハアハハ! イイだろう。お前から魔王様をここに呼ぶ事を進めるとはな。後悔しろ!」
そういうとガルムは懐から黒色の珠を取り出すとそれを指で粉砕する。
するとほどなくして魔族側の空から悲鳴のような金属音が鳴り響くと巨大で絢爛豪華な門が表れさその門が錆びついた音をたてながら開きはじめる。
「何と無様か。わが魔王軍が魔王を名乗る偽物の軍隊に遅れを取るとは」
「少将に任せたのが間違いなんだよ。はじめからこのギルア様に任せておけばこんな事にはならなかったはずだぜ? これはれっきとしたお前の人選ミスだなキュートス」
その門の中 二人の魔族が軽口を叩きながらこちらに来るのが見えた。
そしてその更に奥に黒く艶のある長髪に紫色の肌、四本の角を生やしキレのある目をこちらに向け、魔王然とした態度と美しい衣装を着こなした女性が黒の本体に金色の幾何学模様を施した椅子に座り、隣にはその女性を守るように茶褐色の魔族の男性がこれまた豪華な武具を着込み立っているのが見える。
「魔王様に反旗を掲げただけではなく、偽物の魔王を名乗る者に忠誠を誓う愚か者達は貴様等か?」
キュートスと呼ばれていた魔族の女性がクロのサポートキャラクター達に問いかける。
その間相手の魔王らしき人物がいる場所へと繋がる門が再び錆びた音をたてながら閉まり始めていた。
どうやら、配下二人をここに送っただけらしいのだが、それだけこの二人の信頼が厚い証拠でもあるのだろう。油断はできない。
そんな事を思いながら警戒心を強めていると、横にいるバハムートが小刻みに震えているのが見える。
嫌な予感しかしないんだが。
「魔王様への忠誠を翻し牙を向けている愚か者の魔族達は貴様等の方だろうが!!」
キュートスの発言に今まで耐えに耐えていたバハムートの堪忍袋が切れたらしく、口に高濃度のエネルギーを溜め込むと一気に敵陣の中へと放出する。それはゲーム時代見慣れたバハムートの必殺技の一つ、黒竜の息吹である。
「っ、!? ダークホール!! …………ぐっ、……きゃぁ!?」
キュートスがバハムートの黒竜の息吹を闇の魔法、ダークホールを展開し、高濃度のエネルギーを吸い込もうとするのだが、吸い込みきれずにダークホールが弾かれ、その衝撃で吹き飛ばされる。
辺りには吸い込みきれなかった高濃度のエネルギーが流星群のように敵陣に降り注ごうとしているのが見え、俺は指を鳴らし闇魔法段位三にあたる【ダークホール】を無数に出現さすと撒布しだバハムートの攻撃を全て吸収する。
起こるべき惨劇に身構えていた者たちが一向に、着弾するだろうはずのバハムートの攻撃が降ってこず、代わりに撒布しているとはいえ魔王軍中将のキュートスですら吸収できなかった攻撃を吸収している高密度のダークホールを無詠唱で無数に出現させ、難なく防いでいるクロ・フリートを見つめだす。
この御方は本当に次期魔王になられる御方なのかもしれない――と。
「落ち着け、バハムートよ」
「す、すみません魔王様。私の不手際で要らぬ仕事をさせてしまいました」
「解かればいい」
そしてクロは、【黒竜の息吹】の衝撃に吹き飛ばされながらも華麗に着地し、余裕な表情が消え去り警戒心を顕にし始めたキュートスとギルアを見据える。
「ギルア、あいつの存在は我ら魔王様にとって危険な存在です、本気で行きますよ!」
「調子に乗って痛い目みるとかお前らしくもない光景に笑いたいところだが、殺したいって気持ちは同じらしいから一口のってやるぜ」
そして彼らはバハムートの一撃を見て身体で威力を思い知ってなお牙を向け倒せる相手だと立ち向かってくる。
「あれほどの高密度なエネルギーの技です。黒竜とともにその技を無効化したクロとかいう奴もまず間違いなく次の技を出すまでインターバルが発生するはずですので今のうちに攻め込みますよ! 【闇の断罪】!」
「お前らもほうけてないで攻め込むぞ! 【嵐の牙】!」
多分キュートスが分析、作戦を練りあげギルアが軍の士気を上げるというのがこの二人本来の強みなのだろう。一瞬垣間見えたそのやり取りを見たクロは素直に関心する。
たったそれだけであの二人が向こうの魔王だけではなく下の者にも信頼され、そして数多の死線をくぐり抜けてきた猛者だという事がこの一連の流れからわかる。
「確かに信頼されるだけのことはあるな。しかし、初見の敵に対し撤退せずに予測だけで相手の力量を測り突撃するその行動は愚かだぞ! ルシファー! セラ!」
「「はい!」」
「【影縫い】!」
「【影消し】!」
キュートスとギルア、互いに打てる最大級であるキュートスの段位四の魔術にギルアの上位スキルが放たれ、その攻撃がクロに届く寸前、二人の動きが急に止まり、身動きすらしなくなる。
それはキュートスとギルアだけでなく、士気を高め雄叫びと共に進軍しはじめた魔族側の軍も時を同じくして微動だにしなくなる。
まるで時が止まったかと思ってしまえるのだが、彼らの表情から時間が止まっているのではなく彼らが止まっているのだとわかる。
「どうやら俺たちの方が貴様らよりさらに上の死合を積み重ねて来たみたいだな」
そう言いながらクロはキュートスに近づくとその柔らかそうな頬を優しくなでる。まあ死合というか試合なのだが、と心で呟きながら。
「き、貴様、そこの天使に何をさせたのです……っ!?」
身動きが取れないほぼ全員が恐怖の顔に歪む中キュートスの目だけはまだ死んでいない。
身動きが取れないならせめて情報だけでも引き出してやろうという覇気をひしひしと感じてくる。
「ほう、最後まで自分ができることを模索し、最善を尽くすそうとするその姿勢…見事だ。貴様のその行動に免じて答え合わせと行こうか?しかしその前に……よっと」
次の瞬間キュートスの防具、そして衣服まで弾け飛び下着姿が露わになる。
そしてクロは彼女の胸をいきなり掴むと柔らかさを確かめながら愛撫するかのように揉み始める。
「な、何のつもりだ貴様! …、んぅっ」
「見ればわかるだろ?」
「つっ…………あっ、やっ……やめろ……っ!」
キュートスの胸は下着の上からでも分かるぐらい柔かくクロが揉む度に形が変形し、その度にキュートスから吐息が漏れる。
その光景をルシファーが羨ましげに眺めながら「わ、私という妻が居ながらっ!!」と鬼の形相をし、今にも飛び出して来そうなのだが、それをセラが羽交い締めして必死に止めていた。
「や、やめなさいルシファー!」
「止めないでセラ! あんな性病の可能性があるどこの誰かもわからない雌豚にぃぃい! わたしの夫の相手をさせるわけにわ…………い、痛い痛い痛い痛い!セラ痛い!」
「…………私だって、耐えているのデスヨ。フフフ」
セラが羽交い締めしている力を強め、ルシファーの身体からミシミシと音が聞こえてくる。
ルシファーと違い微笑んでいるセラなのだが、その微笑みからは殺気がだだ漏れになっていた。
「こ、こんな事をして…た、タダで済むと…つっ、んぅ!」
キュートスが怖い顔をしながら脅してくるが、クロがキュートスの胸の先端を摘むとその口からは脅し文句ではなく湿った吐息が出る。
「やめなきゃどうなるんだ?」
「こ、殺してやる殺してやる殺してやる…」
本格的に愛撫し始めたクロの手つきに可愛らしくいちいち反応しながらもその顔は羞恥と殺意に満ちクロを睨むキュートス。
「や、やめてくれ! …頼むから…やめてくれ」
そしてそんなキュートスを見たくないのかギルアが叫ぶ。
「お、お前たちの強さはわかった。撤退する。だから俺の命と引換にキュートスに…妹に手を出すのはやめてくれ!」
「たいした兄妹の絆なのだとは思うが、しかし舐められたものだな。貴様の命にどれほどの価値が有るというのだ? 俺からすれば小さな羽虫との違いが分からないのだが? そもそもここで貴様らを逃がしたらキュートスとやらが戦略を練り直し、また我々に牙を向けるのではないのか?」
そしてそのギルアの願いを無情にも切り捨て、苦悶の表情を浮かべるギルア。
「そして貴様ら兄妹は何か勘違いしているみたいだな……よっと」
「あ、あぁ…つっんぅ…っ!」
そういうとクロはキュートスの胸の奥に手を沈め、その奥にある心臓を鷲掴みすると水魔術段位五の魔術【ホーリー・ヒール】を無詠唱で唱える。
するとキュートスの心臓部分から薄い水色の光を放ち始める。
けして、後ろにいる天使二人から立ち込める殺気に気後れしたため本来の目的を遂行しようとしたわけではない。……胸を揉む意味が有るのかというのは黙秘させてもらう。
「これで貴様の心臓に宿っていた病は治ったと思う。正直いつ死んでもおかしくない状態だったぞ」
【ホーリー・ヒール】による治癒が終わると同時に光魔術段位三【真実の目】を使いルシファーとセラが施した魔術を開呪するとキュートスは足腰に力が入らないのかヘナヘナと座り込む。
「な、なぜ……なぜ…なぜ?」
開呪され一層騒がしくなる戦場の中キュートスがクロに問いかける。なぜ病が有るとわかったのか?なぜ敵である私を助けるような事をしたのか?
「そうだな……私が魔王だからだ」
そしてクロの魔王発言に戦場にいる魔族全員が否定するようなことはなく、また戦闘しようともせずただただクロを眺めているだけである。
さらに視界の端で伸びているガルムに【ヒール】を適当に射っておく。
「我が軍に告ぐ! 回復系魔法、回復系スキル、回復系ギフトを使える者は魔族人間関係なく治療にあたれ!」
そしてクロはその中に居るであろうウィンディーネを呼び寄せる。
すると空気中の水分が女性の姿を形作りながら集まってゆき、クロの前に半透明の美しい女性が現れる。
「ウィンディーネ、重症者の状況はどうだ?」
「はい。全員完全再生させる事ができました。また遺体の中から蘇生の見込みがある遺体450体のうち、100名生き還す事に成功し、300名が意識不明、50名が残念ながら傷を再生させるのみで蘇生する見込みは有りませんでした 」
「そうか。では残りの負傷者は他の者に任せてウィンディーネはまだ可能性がある300名にあたってくれ」
「かしこまりました。クロ様」
そう返事をするとクロに微笑みかけるウィンディーネ。しかし何故かウィンディーネから獲物を捉える寸前の肉食獣のようなオーラがにじみ出ていた。
「で、では俺は向こうに行ってくるよ」
そんなウィンディーネから身の危険を感じて逃げ出そうとするのだが、その肩をウィンディーネに掴まれる。その姿は数多のライバルを蹴落とし勝利を確信したヴァルキリアかのように美しい。
「クロ様、先ほどのキュートスとかいうおなごの病を治す過程でその子の胸を触る必要性があったのですか?」
「………」
体中から冷や汗が大量に流れ出してくるのだが、これはきっとあらぬ濡れ衣を味方だと思っていたウィンディーネにかけられたためであって、けしておっぱいを揉みたいのがバレたからではなく―――
「私の願いを一つ聞いてくれるなら黙っていてあげますが?」
「…た、頼む」
それは甘い誘惑であった。
ま、まあゲーム時代いつも彼女のヒールにはお世話になったからな。ひとつくらい俺で出来る範囲で彼女の願いを叶えてやっても良いだろう。他意は無い。
「ぜ、絶対ですからね!」
そしてウィンディーネは半透明の頬を少し赤らめるとその場から霧散して消えていく。
「やはり只者じゃあないとは思っていたが、どっかの国の王だったとはな。まあそれならそのバカ高そうな衣服も納得できる」
ウィンディーネと入れ替わるようにボストンが話しかけてくる。そしてバハムートがすかさず「ただの王ではないぞ人間。魔王だ」と補足してくる。
「魔王か。ならなぜ人間族や精霊族まで配下にいるんだ?魔族にヒールかけられる日が来るとは夢にも思わなかったわ」
そういうとボストンはあの時のように「ガハハハ」と高笑いする。
「ボストンさんは俺が…その…」
「怖くないし憎くもねえ。人間でも悪い奴もいるんだ。魔族にも良いやつがいてもおかしくないだろ? まあ、俺以外はそう簡単に割り切れないだろうがそのうち慣れてくるさ」
あたりを見渡せば確かに魔族にヒールや回復魔法をかけられるのを躊躇っている人間もちらほら見え、それは魔族側もおなじで人間にヒールや回復魔法をかけれるのを躊躇っている者が見える。
それでもヒールや回復魔法を黙って施されているのはクロの存在が大きかった。もし断ってクロの琴線に触れでもしたらと思うと彼らに断るという選択肢は無いに等しい。
「この光景をあいつにも見せてやりたかったな」
躊躇われても嫌な顔せずヒールや回復魔法を使う魔族や人間族の光景はボストンが追い求めた光景であった。
おなごの病を治す過程※その動機の半分は下心を満たす過程。もう半分の動機は優しさから来る過程