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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第五章
78/121

何卒

 セバスチャンにそう言われセバスチャンの胴を貫いている右腕を引き抜く。

 そこには魔族特有のコア、主に魔族だけに見られる魔力を貯蔵する水晶型の器官通称魔力結晶の面影すら見受けられず、魔族ならばその魔力結晶に貯蔵している魔力により致命傷であろうと人間では真似できない治癒能力で胴に穴が空いていたとしてもセバスチャン程の実力者ならば塞がっていくはずなのだが、目の前のセバスチャンは傷口が塞がる素振りも無く赤い血がそこから滝のように止めど無く流れ時折吐血していた。


「あなた……本当に人間だったというのですか? ……ありえない……うそよ」

「私が何時魔族だと言ったのですか? 終始私は人間だと……言っていたではありませんか。 それとも何ですか? 私が魔族ならこの絶好の好奇に止めを刺そうとした処人間と知って止めを刺す事に躊躇っているのですか?」

「どけっミズキ! こいつが何であれ倒さなければならないのには変わりない!!」

「や、止めてガーネット! 私は人間を殺しにここまで来たんじゃないの!」


 最早立っている事もままならないであろうセバスチャンに対し一向に止めを刺そうとしないミズキに痺れを切らしたガーネットがミズキの制止も聞かず押しのけるとセバスチャンへ止めの一太刀を右肩から切り下ろす形で入れる。

 それでも尚、目の前のセバスチャンは倒れない。


「な…なんで同じ人間なのに……」

「舐めるな小娘!! 人間も魔族も関係なく命は平等に重い事を知れ!! 魔族だ何だと差別している時点で貴様が忌み嫌う者達と同じではないか!?」


 どこにまだそんな力が残っていたのだろうかセバスチャンはミズキの反応に対し慟哭する。

 それはかつてクロ・フリートと、そして様々な種族の仲間たちと冒険したあの日々を目の前のミズキは否定しているように見えたからこそなのだが、それを知らないミズキ達はあまりの激情に怯み一歩下がってしまう。

 しかしセバスチャンにとってまさに最後の力を振り絞った慟哭であったのだろう。

 最早彼に立つ力さえ残っておらず前のめりに倒れ始める。


「本当に……本当に申し訳ありません。 私はまたクロ・フリート様と一緒にまだ見知らぬ世界を……」

「スキル【氷華】」


 そして意識を無くしまさに地面へと倒れようとするその時、セバスチャンは見事な氷の花に包まれる。


「危機一髪……と言った所ですか。 ああ、あなた達はここから生きて帰れると思わないで下さい。 氷魔術段位六【コキュートスの監獄】」


 突然巨大な門が何処からともなく現れると、その門が開鈍い音を奏でながら開き六人の美女が門の中から現れる。

 その内の青い髪を伸ばしている女性がスキルを発動すると息絶える寸前のセバスチャンが見事な氷の花に包まれ閉じ込められる。

 そして次にこの世界でも元の世界でも聞いたことのない魔術をその女性が発動すると巨大な氷で出来た監獄がいつの間にか私たちを閉じ込めていた。


「水魔術段位四【聖なる癒し】……セバスチャンは私が責任をもって回復させます。 後は任せましたよ、セラとルシファー」

「ん、もう【影縫い】で動きを封じてる」

「言われるまでもありません。 ですからウィンディーネはセバスチャンの治療に専念しなさい」


 そして彼女達、ウィンディーネと呼ばれた女性は一瞬にして透き通る水のような姿に変わり膨大な魔力でもって氷の華ごとセバスチャンを水を操り門の向こう側へと運んで消えて行き、ルシファーと呼ばれた女性は漆黒の、セラと呼ばれた女性は純白の見事な翼をその背中に生やす。

 さらに彼女達は翼を生やすと同時に防具も一瞬にして変わり、まるでその出で立ちは神の御使いと言われても驚かないであろう禍々しく、そして神々しい出で立ちに変わっていた。


「私たちは……神に喧嘩を売ってしまったとでも言うのか……?」

「うう………うえっ……」


 その姿にガーネットはこの世の絶望を見てしまったかのような表情をし、メアリーに至っては魔術師として私と一緒にレベリングしたからこそ感じ取れる彼女達が垂れ流す魔力の奔流に呑まれ先程から体液という体液を垂れ流しながら吐いている始末である。

 この世界は私の世界と違い魔術も戦闘術も稚拙であり、弱者しかいないと思い込んでいた少し前の私の考えは最早霧散し、逆に自分の稚拙さをこれでもかと思い知らされる。

 例えもし私が大罪シリーズ全てを使ったとしても勝てるイメージが思い浮かばない。


「ま、まって下さい! セラ様! ルシファー様!」

「や……やめ……なさい…」


そんな中一人の女性が黒と白の天使を遮るように両手を広げ立つ姿が見える。

その女性は見るからに人間の女性であり、その者を助ける為にも庇うのをやめるように叫ぼうとするのだが喉が張り付きろくに声を出せない。

 声を出せないという事がこれほどまでに歯がゆく思う時が来るとは今の今まで考えもしなかった。


「確かにこの者たちは許しがたい行為をいたしました! しかし、しかし! ここはどうにかその矛を収めていただけないでしょうか!?」


「ミシェル……残念だけど我が主、クロ・フリート様の御国になろうとする土地へ正式に進軍して来たからには何も御咎め無しとはいきません」


 ミシェルと言われた女性の必死の願いも虚しく白の天使、サラは無情にもその願いを切り捨て私達に罰を与えると言う。


「スミマセンスミマセンスミマセンスミマセンスミマセン……」


 その言葉を聞きガーネットは土下座をしひたすら謝罪をし始め、メアリーに至っては敵の魔力濃度のあまりの濃さに溺れ最早意識はなく気絶している。

 かく言う私も意識を保つので精一杯でいつ二人のようになるか分からない。


「わ……分かりました。 口を挟んで申し訳御座いません」

「いえ、貴女の気持ちも痛い程分かっているつもりですから謝る必要はないですよ」


 そしてミシェルはセラの言葉を渋々ながら受け入れ、セラの後ろへと下がって行くと、それと同時にセラがこちらに近づいて来る。

 ミシェルも私達が勇者という強大な力を持った上で宣戦布告をし、今ここにいる事を理解しているようで私達の処分は辛いものは有るものの致し方ないと思ったようである。


「確かに、これ程の力を持っている者を捕虜を収監している場所に送っては簡単に脱走してしまいますね……どうしましょうか……?」

「簡単……ここにクロ様を呼べば良い」

「そそそ、そうですよね! そうですよね! 私達には分からないんですもの! ええ! ナイスですルシファー! 彼女達の能力や戦力をロックする方法は幾らでも有るのだけれども、やはり国防に関わってくる問題ですものね! 最良の選択をしなくたはいけませんしね! しかし困りまった事にどれを選択すれば最良になるのか分からないですもんね!」


 どう殺せば良い見せしめとして勇者死亡という情報を周辺国家に知らしめる事が出来るのか話し合っているのであろう。

 茶番劇もここまで来れば早く殺してくれと思ってしまう。

 身体を動かそうにも黒の天使、ルシファーによる得体の知れない魔術で身体は拘束され、仲間は圧倒的な戦力差で精神を壊されかけ、もう一人は気絶させられているこの状況下ではそれこそ奇跡が起きない限り切り抜ける可能性はまずゼロであろう。


 そんな私達の心情など気にも止めず、二人の天使は自らの主にどの様な手段で連絡するのかを姦しくも話し合っているのだが、その連絡方法が決まったのか話し合いは終わり、そして何も無い空間から板状のマジックアイテムを取り出すと何やら操作をしだすとその板状のマジックアイテムから男性の声が聞こえ始め、二人の天使と会話をし始める。


「有り得ない……嘘でしょ……?」


 その魔道具を見て私は驚愕する。

 なぜなら彼女達が使用している魔道具は私の世界にある科学と魔術を融合させた『タブレット』という魔道具に瓜二つなのである。

 ただでさえ平均的に魔術技術が遅れているこの世界で、その魔術技術よりもさらに遅れている科学技術と合わさったところで『タブレット』を作る事はまず不可能であろう事は容易に想像できる。

 そのことによりこの魔道具の所持者、少なくとも彼女達の主はこの世界の住人ではなく私と同じ世界から召喚された者である事は間違いないだろう。

 しかし、私が驚いている事はその事ではなく、彼女達が使っている魔道具は明らかに正常に作動しているにも拘らず本来なら使用している魔力石から発生する微力な魔力を一切関知できないのである。

 それはテレビをつけている時に感じる微妙な違和感程度のモノなのだが、七つの大罪のグリードを発動し、さらに魔力増殖炉まで発動させている私がいくら微妙だからといって感じない事は有り得ないのである。

 もし本当にあの魔道具が魔力を一切使用しないとすればそれはとんでもない発明であることは間違いないであろう。


 そし彼女達は話し合いを終えたのか例の魔道具を何もない空間に仕舞うと、次の瞬間には漆黒かつ豪華な巨大な門が現れ、地響きにも似た音を奏でながら開き始める。

 ほぼ間違い無く人間であろう三人だけではなく白と黒の天使、ルシファーとセラまでもが片膝を付き頭を垂れている姿を見るからに、今この門の向こう側にいる者は間違いなくこの者達の主であろう事が伺える。


「異世界から召喚された勇者というのはお前たちで間違いな―――」

「クロ様あああああっ!! この! クロ様と! 一緒に! まるで! 夫婦と! 言わんばかりに! 親しく! 密着している! お方たちは! 何者なのか説明してくださいっ!! 何卒!! 何卒おおおおぉぉぉぉぉ!!」


 そして複数の美姫を引き連れ恐らくクロ・フリートと思われる男性が門の向こう側からやってくると、私達が侵略して来た勇者達である事の確認を行おうと口を開いたその時、白の天使セラが目を血走りながら物凄い形相でクロ・フリートに詰め寄るとクロ・フリートと一緒に現れた美姫はいったい誰なのか激しく詰問する。

 その間クロ・フリートはセラに揺さぶられ頭を激しく上下に揺さぶられていた。


「わかった! わかったから一旦落ち着けセラ!」

「これが落ち着いていられますか! 事と場合によればすぐさま始末致しますぅぅぅぅううううっ!!」


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