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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第五章
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人の皮を被った化物





◇◆◆◇




「隣国であるグルドニア王国が魔族に支配されるだけではなく新国家として建国する事を先日発表しております。 グルドニアには魔獣の氾濫区域の一つを食い止める砦都市フイルド、また海外国からの貿易拠点の一つである都市サーゲルがあります。 その二つを魔族の手に握られるのは我々人類にとって無視できない脅威になる事は間違いありません」

「しかし一度兵を向けたが歴史的な大敗をしたばかりであろう。 もう一度恥をかきに兵を向けると言うのか?」


 スーワラ聖教国に建てられた白銀に輝く巨塔の最上部では今国の中枢達が緊迫した空気の中話し合いをしていた。

 しかし話は纏まらず同じ問答を繰り返すだけの会話を果たして話し合いというのだろうか?

 今でこそ両派閥声を荒げていないのだが怒号が飛び交い始めるのも時間の問題であろう事は両派閥の表情を見れば明らかである。


「何を緩い事を言っているんだ? 前回は捕虜数百名奪われただけで死者すら出ていないではないか。 だというのにおめおめと退陣した事が虎視眈々と我が国の首元を狙っている他国や従属国にバレれば複数国に攻められ国が分裂しかねない程の失態であるぞ? であるならば我が国の力を示す為にもう一度攻め、グルドニア王国を従属国にしなければ成らないのは正しい選択であり英断である事は間違いない」

「それは勝利してこその英断であろう。 人の口に戸は立てられぬ様に前の失態は既に他国へ流れているだろう。 ここでさらなる失態を犯した時のリスクを考えれば余りにも大き過ぎる。 更に捕虜された人物は兵を指揮する権利を持つ者ばかりであった。 分かるか? 死者を出さず関係ない役職の兵を巻き込まず数万もの兵を退陣にさせているのだぞ。 それ程の者である。 殺そうと思えば一人で全兵士を殺す事も出来たのではないかと考えるのが普通であろう。 攻めるには余りにも次元が違い過ぎると言っているのだよ」


 未だ平行線をたどる会話が部屋を満たしている中、気が付けば会話は無くなり皆私を見つめていた。


「勇者として召喚されたアマミヤ・ミズキ様はどうお考えですか?」


 そう問いかけられると周りは期待に満ちた視線を私に向けて来る。

 結局この人達の答えは初めから決まっていたのであろう事が伺える。


「そうですね、この世界では脅威であろうと私からすれば脅威では無いかと」


 その一言でグルドニア王国へ軍を率いてもう一度攻める事が決まった。

 そして思う。 この世界はつくづく全てにおいて未熟であると。

「で、あるならば早速準備をしよう。 幸いにも先の戦で集めた食料や兵は何とかここブルックリンに数は揃っているところだからな」

「しかし各部隊を統率できる者がおらぬでは無いか。 揃えた所で烏合の集では無駄に兵を消費するだけであろう。 もう少し人材が揃うまで待つ方が合理的であろう」

「それでは向こうもそれなりに戦力を揃えるでしょう。 ならば奇襲を仕掛ける方が合理的では無いのか? それに戦は数が者を言うではないか」

「それで数を揃えてたった一人に負けた事実を無視するのは愚策である」

「何のためのミズキ様の参戦だ? そのにわかには信じられない化け物をミズキ様に当てれば良いではないか」

「いえ、兵は要りません」


結局の所、目指す所は同じなのだろうがその道筋の考え方が真逆なのかやはり話は平行線を辿り始めたのだが、そこでミズキが第三の案を提示する。


「向こうは少数なのでしょう? ならば統率の取れない兵士は邪魔でしかないです。 ならば私と私と組むパーティーだけで十分でしょう」


 向こうは現在敗戦及び新国家への移行による内政の停滞状態では兵士を集めるほどの力は無く、また集めたとしても士気はほぼ無いに近い状態では集めるだけ無駄であろう。

 こちらも似たような状態であるならば私自ら出向いた方が経済的にも良い事なのは間違いないだろう。


「………よ、よろしいのですか?」

「向こうはあのアーシェ・ヘルミオネを倒した魔王の配下であるぞ?」

「大丈夫です。 見事倒して見せましょう。 安心して結果を待っていて下さい」




◇◆◆◇




「といった次第です」

「ふーん、バカだバカだとは思っていたのですがバカでは無く大バカ者でしたか」

「いやあのですね……そもそもこの世界ではまず私達に勝てるパーティーなどいないではないですか?」

「誰が言い訳して良いと言いましたか?」

「すみません」


なぜ今私達パーティーが単独で敵国へ軍進しているのか先日の会議の内容を正座をしながら説明し、説明するにつれて彼女、メアリーは表情を怒りに染めて行くのが分かる。


「まあまあ、今ミズキを攻めてもこの現状が変わるわけでもないからこの辺にしときなさいな」

「いや、しかしそれではまたこのバカは無駄に無茶な依頼を受けてくるではありませんか」


 酷い言い草である。

 私がいつその様な無茶な依頼を受けて来たと言うのだろうか? 証拠があるならば提示して欲しいものである。

 そしてまだ私に説教し足り無いのかメアリーは何かを言おうとするのだがそれを我がパーティーが誇る盾職、鉄壁のガーネット・フランがここでも鉄壁の守りを見せてくれる。

 頼もしい限りである。


「どきなさいガーネット!! 今ここでこのバカをピシャッと言ってやらないと治るものも治りませんよ!?」

「お、落ち着いてメアリー。 ミズキはもう治らないの! ミズキはもう治らないの!」


 何が治らないというのか分からないのだがガーネットの治らないという言葉にメアリーはハッとするとガーネットとメアリーは可哀想な目線を私に向けて来る。


「何でそんな目を私に向けて来るんですか!? なんなんですか!? た、確かに私は美人でこの世界最強の魔術士で性格も良いですけど……?」


 そんなメアリーとガーネットに反論するのだが先程まで向けていた可哀想な者を見る目線は何故か優しさを含み始める。


「まあ、過去の事をとやかく言うような状況でも無いですし、これからの事……どうやってグルトニアを攻略するか話しましょうか。 ミズキの件は多分可哀想ではありますが最早治療の方法は残念ながら無いですし……」

「そうね。 ミズキの事は今に始まった事では無いし……もう手遅れね。 それに相手の戦力も分からないのは頂けないわね」

「あのー……私は病気とかでは無いのですが……?」

「やはりあの我が国の軍をたった一人で追い払った者が気になりますね。 一応実際に戦った兵士によると人間だったたみたいなのですがトップが魔族なので人間であるというのは彼の実力からしても疑わしいですね」

「そうね。 聞けば六十代程の外見だと言うのでまず魔族でしょう。 人間ならばとっくに引退している年齢よね。 魔族と考えた方がしっくり来るわね」

「ちょっと? 私は一体何の病気なんですかね? お二人さん? ねえ!?」


 そして二人は私を無視してこれからの事について、主に戦略や敵戦力の分析を始める。

 しかしこれは考え方によってはイジメでは無いだろうか?

 二人に限ってそんな事は無いと思うのだが若干の不安は感じてしまうのは仕方の無い事だろう。


「もうそんな顔しないで。 私達が悪かったから」

「全く、勇者と言うよりも世話のかかる妹と言った方がよっぽどミズキらしいですね」


 今からたった三人でグルトニア王国に戦争を仕掛けに行くというのに三人の会話に緊張感のかけらも感じられず、普段通りの日常が繰り広げられているあたりミズキのパーティーとして組んでいるだけの実力とそれに伴う実績にプライド、そして精神的な図太さがあるのだろう。


 それは目の前に黒の燕尾服を着込み白のシャツに黒いネクタイを締め、白髪が混じった少し長めの黒髪をオールバックに整えている高級なのが一目で分かるモノクルをかけた初老が佇んでいたのが見えていたとしても変わる事は無い。


「スーワラ聖教国から宣戦布告の一報をお受けしましたのでお待ちしておりました。 しかし軍で来るかと思いましたがまさか宣戦布告の内容通りあなた方三人で本当に来るとは思いませんでした」


 それは少し離れ対面している執事も同じらしく、この場面だけを見れば戦争開戦しているとは誰も思えないであろう。


「人間の皮を被った化け物たかだか一匹を始末し終えた後、お望み通り軍を連れて来ましょう。 そして魔族の手から故グルトニア王国を救い出し、住民を救出させて頂きます」

「誠に申し訳ないのですがその様な行為を容認するつもりはさらさら無いのでこのままおかえり下さい」

「ガーネット!? クッ!」

「炎よ我が前に立ち塞がる敵を貫きたまへ! 【フレイムランス】!!」


 目の前の執事に対しミズキは不快感を隠しもせず思った事を目の前の執事に告げると、執事はそれを拒否し次の瞬間には隣にいたガーネットが吹き飛ばされ、代わりに執事がガーネットが今までいた場所に立っていた。

 そしてミズキとメアリーはガーネットを心配しつつも一瞬にしてこの場から離れ距離を取りながらミズキの、この世界には存在しない魔術を執事へと放つ。

 しかし執事は追いかけるそぶりも、迫る炎の槍を避けるそぶりも見せずミズキが放った魔術が直撃する。


「いくら油断していたとしてもこの私が相手に懐まで入られ、なんの抵抗も出来ず攻撃を貰う日が来るなんて……完璧侮っていたわ」

「ガーネット……無事で良かった」


 相手にミズキの魔術が当たった事とガーネットが無事であった事が分かり安堵するミズキなのだがこの程度で倒せる相手だとは到底思えない為、視線は執事を飲み込んだフレイムランスが火柱に変わり出した光景から逸らそうとはしない。


「しかしいつ見てもいいミズキの魔術は凄まじいですね……」


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