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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第四章
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小さき者



そんなこんなでイルミナ達は行きの時と同様にタマが向かった場所までコッコちゃんに運んで貰う。

今までラーベルはコッコちゃんにより空中を移動していた時から緊張で外の景色などを楽しむ余裕など無かったのだが、空中を移動する事よりも赤竜の村を訪れる事よりも親と離れて外泊するという方に緊張している子供を見るとその子供特有の価値観から来るチグハグさに自ずとラーベルの緊張感は和らいでくる。

言い方を変えれば麻痺したとも言うのだが。

そして改めて竜籠に備え付けられている窓から外を眺めて見るとそこには世界が広がっていた。


「ふわぁ……綺麗」


その景色は言葉に出来ない程美しくラーベルは子供がそうする様に一緒になり窓に張り付き目に焼き付けるのに必死になってしまう。

下を眺めれば建物一つ取っても人間の住む家と比べて数十倍は大きく圧迫感があった家々のある村が小さく見え、それはそれで別の感動を感じ、この村に来るまでもっと眺めておけばと良かったという後悔も同時に芽生える。

その為帰りはちゃんと観ようと思うのであった。


空を十分程移動した所でタマがホバリングしている場所に着き、そのままタマとコッコちゃんはゆっくりと村の中でも頭一つ大きな建物の屋上へ下降する。

人間の村と違い空も移動手段の一つである竜の村ならではといった感じでほとんどの建物の屋上には確認しやすい様々な色の印が施されており、また下の階へ通じる小さな小屋が備え付けられている。

それがまた空では美しくラーベルの瞳を輝かせる要因の一つでもあったのだが、その中でも今降り立とうとする建物の印は唯一赤色で彩られおり特別な建物なのだと一目で分かる様になっている。


「コッコちゃんありがとう」


ここまで運んでくれたコッコちゃんにイルミナがお礼を言うと子供達も「ありがとうー!」と元気よくコッコちゃんにお礼を言い、その体に抱きついていく。

その光景を見て私も先程村に着いた時は言えなかったお礼を言うとその身体を恐る恐るではあるものの撫でてあげる。

するとその羽毛の肌触りの良さに気が付いたら子供同様にヒシっとしがみ付き顔を羽毛に埋めてしまう。


「コッコちゃんの羽毛は肌触りいいでしょ?装備を外してそのお腹に卵の様に包んで貰うと至福の時間が訪れます」

「………それは……心地好さそうですね」


そんなラーベルの姿にイルミナはお腹の羽毛こそ至高であると語りだすのだが、今の自分の姿勢を思い出し急に恥ずかしく感じて来る。


「ではコッコちゃん、数日後にまた竜籠よろしくね」


そしてイルミナは日帰りで帰れないという事からコッコちゃんと竜籠を出現させたカードへ、コッコちゃんの首辺りをわしゃわしゃした後戻していく。


「さあ、入りましょうか。皆んなここからはお行儀良くしておかないと赤竜さんに食べられちゃうから気を付けてねー」


イルミナの発言に子供達は初めて赤竜に恐怖を見せ始め、その怖さを紛らわせる為かお互いに少しだけ密着しだすも「はーい!」と元気よく返事をし、それを聞いたイルミナは「みんな良い子ね。良い子は私大好きですよ!」と顔を綻ばす。

そのイルミナの笑顔に先程まで怖がっていた子供達の恐怖心は消え去ったようだ。

こういうイルミナの立ち振る舞いを近くで見ると多くの男性が孤児院のシスターを好きになるのが分かる気がする。

特に普段凛として他の異性を寄せ付けない雰囲気があるイルミナが子供達に向ける微笑みを見れば心を奪われない異性はいないのではないのか?と同性の自分がみても魅力的に感じてしまうほどの魅力を感じてしまう。

その姿を見て男っ気が無い自分は何かヒントを得れるのではないかとついついイルミナの一挙手一投足を観察してしまう。


「男性は女性のギャップに弱いと聞きますよ?」


そんな自分にイルミナが近寄り耳元でそっと助言してくれるのであった。





着地した施設の中に入ると施設内部の荘厳な作りが目に入って来る。

金を基調とした色使いに所々アクセントに赤色が散りばめられており、その周りには様々な貴金属や調度品が目に入る。

そして両端にはズラリと赤竜が並びその最奥には周りの赤竜よりも数倍は大きく見える赤竜がその巨躯で蜷局を巻く様にこれまた巨大な椅子に居座っているのが見える。

その赤竜達のちょうど真ん中付近には赤竜には似つかない、しかしその身体に白銀の装備をしている事により様になっているピシリと直立している赤竜、タマの姿がそこにはあった。

周りの赤竜達は私達に鋭い視線を浴びせ、タマはイルミナに向け恭しくこうべを垂れる。

その中をおっかなびっくりしながら何とかタマのいる場所まで歩いて行くのだが緊張しているのはどうやら私だけみたいで、子供達はタマの姿を真似てかまるで騎士になったかの様に歩き出し、イルミナは普段通り歩いていた。


「………よく来たな小さき者よ」

「突然の訪問、失礼しました」

「よいよい。こんな辺境の地まで来る者と言えば同じ竜種ぐらいしかいないもんでな、たまにはお主らみたいな者が来てくれた方が退屈せんですむ」

「寛大な処置、ありがとうございます」


タマがいる場所まで行くと一向に頭を下げようとしないイルミナ達に周りの赤竜達が殺気立つのだが、巨大な椅子に蜷局を巻く赤竜が先に口を開きイルミナ達訪問を快く思っている事を口にする。

その言葉に周りの赤竜が騒めくものの誰も異議を唱える者は現れなかった。


「そう畏まらんでも良い。ではそうだな……まずは自己紹介といこうか。儂はここの長をやっているググル・ググルグと言う。他の部族からは初代赤竜王の再来と言われている。だが実際はただの老いぼれに過ぎぬ。気軽にググルと呼んで貰って構わない」

「ありがとうございます。私はイルミナ・フリートと申します。隣にいるのは私の女中にあたるエマです」

「私はノクタスギルド職員のラーベル・ヴィストと、もも、申しますっ!」


イルミナが連れて来た奴隷が静かに頭を下げた後、私もイルミナやググル同様に名前を名乗るのだが勢い余って噛んでしまう。

頭から火が出るほどの羞恥心に襲われるのだが、そんな事など御構い無しに子供達が次々と大きな声で自分の名前を名乗って行くのが聞こえてくる。


「実に元気で良い事だな。して、そなたらは自分の幼生体達をその様に手元に置いて育てるのか?我々はすぐそこの山の麓に成体になるまで身一つで生活してもらうのだがな…」

「我々はあなた達の様に強くありません。子供…幼生体達は一人で生きて行く術も無く我々成体がしっかりと面倒を見てあげなければなりません。また我々は精神すら非常に脆くそれが幼生体なら尚更弱く、しっかりと愛情を注いであげる必要があるのです」

「ほう、脆いものなのだな。風が吹くだけで死ぬのではないかと思えてしまうほどである……しかしそれはおかしな話だな。そなたはこの私よりも強いであろう」

「皆が皆赤竜の様に強くなる訳ではありません。何もせず普通に暮らすだけで強くなる赤竜と違いそれ相応の経験を積まなければならないのです。その経験を積んできたとしても一握りの者しか赤竜すら倒すほどの力を得る事は出来ないでしょう」


イルミナとドドルグとの会話で私だけではなく周りの赤竜達までもが信じられない者を見るような目でイルミナを見始め、辺りは騒めき始める。

二人の会話から赤竜の長ドドルグよりもイルミナの方が強いと言っている様にしか聞こえず私や赤竜達は耳を疑う事しか出来ない。


「では世間話はまた後で聞くとして……トトよ、あの者達に部屋を案内してあげなさい」

「はい。畏まりました」


周りの騒めきを知ってか知らずかドドルグがイルミナとの会話を一旦止めると、少し後ろにいたトトという比較的小ぶりでスマートな赤竜を呼ぶと私達の部屋を案内するように命じる。




「こちらの部屋でございます。ごゆっくりとどうぞ。タマ様は奥の部屋でございます」


部屋を案内し終えたトトはタマの顔を見て一瞬だけその長い舌を蛇のように出すと、自らがした行為にハッとし逃げるようにその場から離れて行く。

その行動を見たタマは「ふむ……」と頷きそのまま案内された部屋へと入って行く。

先程の舌を出すという行動がどのような意味を含んでいるかは私には分からないのだが、今はそんな事よりも問題は案内された部屋である。


まず、想像はしていたのだがとにかく何もかもが大きい。それこそ部屋に置いてある食器類が大きいのだがそれを置いてあるテーブルまでもが当然大きくお茶を入れるだけでもまずは目の前のテーブルを登らなければならない。

そして部屋自体も当然のように大きく、部屋が大きいという事は扉も大きいという事でドアノブそのものを触れない。


案内してもらった赤竜トトに促されるまま部屋に入ったは良いもののこれは監禁というものではないのだろうか?と、頭上の上にあるドアノブを見ながら私は脂汗をかきこの世の終わりかという表情をしていた。


と、トイレと説明受けた部屋に……入れない!!


全てのドアノブがはるか頭上にあるという事はそういう事だと今更になってその危険性を知り能天気に「いろんな物が大きいなー」とか言っていた頃の自分を助走した上でジャンプし蹴り飛ばしたい気分である。


「何絶望したような顔をしているのよ……」

「い、イルミナさん……と、ととと…トイレ…」

「はあ……トイレは分かったのですが入らないの?………あードアノブに届かないと言いたいのですね………そんな事もあろうかと私が先程カードから出した部屋でもトイレはありますが………?」


そして今私は風になった。





赤竜の村に来て三日、ついにタマとリュースの決闘が行われるようである。

リュースがタマに決闘を申し込んだ日から村の東端にある荒地を複数の赤竜が三日三晩かけて削りならし平らにしてできた闘技場は赤竜達にとって神聖な場所である。

赤竜達は大事な事は決闘で決める風習があり、その度にこの荒地を闘技場にしている為溝は深まり巨大な窪みのような作りになっている。

そんな闘技場には今数多くの赤竜がタマとリュースの決闘を見に来ている。


「俺が勝ったら貴様が使えるスキルを何か一つ教えてもらおう」

「……一つで良いのか?」

「……っ、おまえはつくづく規格外なのだろうな」


その歴史ある闘技場の中央で今タマとリュースがこの決闘の報酬を話し合うのだが、価値観の違いをお互いを確かめる形になってしまう。

そして今度はタマが勝った時の報酬を言うとリュースは一瞬固まったあと大笑いしてしまう。


「良いだろう。俺に勝ったらくれてやろう。もとよりそのつもりだったしな」


開始の合図は審判である赤竜の咆哮。

咆哮が闘技場を震わせた瞬間リュースは姿勢を低くし低空でタマ目掛け飛び立つ。

その動きは洗練された動きでありリュースの強さが分かる。


「………くだらん」


しかしその動きはあくまでも村にいる赤竜の中で通用するレベルでありタマからすれば子供の児戯にも等しいレベルである。

そもそも竜同士の戦いしか視野に入れてないリュースと様々な種族、シュチュエーションを視野に入れているタマとの戦闘技術はそこに差ができてしまう。

さらにタマは装備を装着する事により装備に付与されているオートスキルの恩恵も受けているのである。

リュースがタマに敵わないのは当然であろう。


「……やはり、敵わない……か」


しかし、一方的に叩き飲まされたリュースはどこか清々しい表情をしていた。




「これより我々赤竜はクロ・フリートの配下に入り、ノクタスとの貿易も開始する!皆、その準備に取りかかれ!」


赤竜の長、ドドルグは村の赤竜を全て集めクロ・フリートの配下になる事を宣言する。

しかしタマとリュースとの決闘を見ていた赤竜達はドドルグが発した内容に反抗的な態度を示す者はおらず、皆肯定的な反応を示していた。

良くも悪くも強き者に従うという赤竜の常識故の反応であろう。

そもそもリュースやドドルグもタマの強さを肌で感じ初めから配下に下る考えであり、この決闘はリュースの戦士としてタマに自分がどの程通用するのかというのに興味があるのと、他の赤竜達を納得させる為でもあった。


こうしてクロ・フリートの知らぬ間にクロ・フリートの国家が出来上がり、その戦力も強大なものへと成長して行くのであった。

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