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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第四章
67/121

赤竜。

 それもそのはずでこの魔鳥ジズはしっかりとパーティーを組んだ状態で卵採取依頼のランクがA、討伐依頼のランクがSなのである。

 その為あの化け物の恐ろしさを理解している冒険者達はただ傍観するのではなく瞬時に逃げる若しくは防御系魔術またはスキルを瞬時に展開出来る様にし、いつ目の前の化け物が暴れても大丈夫な様に身構えている。

 その中でも先程イルミナを脅迫まがいな事をしていた者達は今まで脅していた相手がとんでもない実力者だと分かると顔から血の気が無くなり、その手足は恐怖で震え出していた。

 しかしその冒険者達は恐れと共に羨望の眼差しも向けていた。


「か、カッコいいですね!」


 その理由に目の前のジズが兎に角カッコいいのである。

 イルミナが召喚したジズは猛禽類特有な鋭い視線やくちばしや鍵爪、全身を茶色い羽毛で覆われておりそのフォルムだけでもカッコいいと言えるのだが、ジズ全身に施されている装備、白銀の鎧を纏う事により更にそのカッコ良さに拍車がかっているのである。

 その白銀の鎧を全身に纏っているジズはもはや神々しく思え、神の使いと言われても信じてしまうだろう。


「でしょう? この装備はジズと契約を結んだ記念にクロ様から頂いた物なのです! はあぁ……何度見ても見飽きない美しさです! ………んんっ、コッコちゃん用ではないのですが、この運搬用の竜籠に私達は乗ってコッコちゃんに運んでもらうんです」


 自分が使役する魔鳥を褒められ一瞬ニヤケるイルミナなのだがすぐさま気持ちを落ち着かせると今度は小さな家の様な箱をジズ同様懐から出したカードで出し、これに乗って行くのだと説明しだす。

 確かによく見ると家の様な箱の屋根の部分に巨大な取っ手の様な物が突き出ているのが見える。

どうやらあれをコッコちゃんが掴み、運んで行くのだろう。

しかし私は先程の説明に聞き逃せない単語が聞こえてきた事で変な汗が身体中から噴き出し始めている。

 後ろから同僚が「ラーベル汁がやべえ……」と言っているのが聞こえてくるのだがそれどころではない。後で殴りはするが今は無理だ。


「あの……イルミナさん」

「何でしょう?」

「先程この籠をコッコちゃん用ではない竜籠と仰ったのですが、まさか竜も使役しているのですか?」

「え? 竜種を使役しない召喚師なんているのですか?」

「あ、はい」


 多分今の一瞬でここにいる召喚師達全員の心が折れたと私は思う。

 そしてイルミナ曰く竜種ではなくコッコちゃんを使う理由は竜種よりも魔鳥、特に静かに飛べる猛禽類系の方が運んでいる時の揺れなどが少なく快適なのだそうだ。


 いや知らねえよ。




◇◆◆◇




「貴様今何と言った!?」

「まったく、話の通じない奴よ。 イルミナ様がこの子供達に野生の竜を見せにここまで来たと言っているのが分からないのか?」

「ふざけるな! 我々は誇り高き赤竜!この様な物珍しさ目当てに我々を観察しに来るなど言語道断だ! しかも貴様は我々と同じ赤竜だというのにそこの小娘に尻尾を振って恥ずかしくないのか!?」

「お主……我が忠誠を誓うイルミナ様を小娘と申したな? 吐いた唾は飲めんぞ?」

「お前こそ赤竜の誇りを忘れた事を後悔するがよい!」


 大変な事になった。

 赤竜が生息しているコンコール山脈まで来たのは良いのだけど、その山脈付近に入った瞬間まだ若いであろう赤竜の群れに取り囲まれ、それらをコッコちゃんのブレスで撃退。

 その後、赤竜を見れたので帰るのかと思っていたのだが「良いですか? 先程の竜とは言いません。 ただの獣です。 本物の竜を見に行きましょう」とイルミナが子供達にいうと人類未踏の地であるコンコール山脈のさらなる奥地へ進み始めた。


 そしてその奥地にあったものは赤竜の村である。

 我々の事が珍しいのかコッコちゃんを警戒してか其処此処で我々を見つめる赤竜の視線に生きてる心地がしなかった。

 そもそもここで暮らしている赤竜達はどう考えても先程の赤竜よりも強いのだと一目見ただけで分かるほどのオーラをその目から放って来る。

 その視線のオーラからはまるで我々、下手したらそれ以上の知能を有しているのではないか?と思えてしまう。

 もし本当に知能の高い竜の村があるのだとすれば世界の常識が変わってしまうほどの案件である事は間違いないだろう。


 その村の中心部分にある少し開けた場所に着地するとイルミナは懐から一枚のカードを取り出し、そこから赤竜、名前はタマを召喚したのである。

 その召喚された赤竜はコッコちゃん同様に白銀の鎧を装備しており、その神々しさはコッコちゃんに負けるとも劣らない輝きを放っていた。

 しかしこの赤竜タマは召喚されるや否や私達を囲むようにいる周囲の赤竜達を睨みつけるや否や「ここにいるお方を誰と心得る!? 我らが絶対王クロ・フリート様の懐刀、召喚師イルミナ様である! 頭が高いわ! 直ちに平伏せ!!」と声高々に吼えたのである。


 その騒ぎを聞きつけた村の族長補佐と呼ばれる赤竜が物凄い形相で私達の前に飛び降り、そして現在に至る。


「やめなさいタマ。 この村の長の許可を得ず勝手に来たのは私達です。 先ずはその事謝罪するのが常識でしょう」

「……分かりましたイルミナ様」

「分かれば良いです。 そこの赤竜も、怒るのはもっともなのだがどうか怒りを鎮めてもらえないでしょうか?この通りです」

「貴様の様な小娘が頭を下げてどれ程の価値があると言うのだ!? 頭どころかその命ですら価値がないわ」


 イルミナに諌められ矛を収めるタマに対し、イルミナに謝罪され更に怒りをあらわにする赤竜。

 しかしその赤竜がイルミナの命ですら価値がないと言った瞬間赤竜はタマの尻尾で転かされ、その首元にタマは装備している剣を首元へ突きつける。

 その動きは洗練されており一連の動作に無駄が無いのが人間の自分が見て分かるほどの美しい動きをしていた。

 イルミナの言う「人間に調教された竜ほど野生の竜は怖くない」という意味をその一撃で理解できてしまう。


「俺からすれば貴様の命も安い物なのだが?」

「ふ、不意打ちとは卑怯な! 赤竜としての誇りは完全に捨てたのか!?」

「これを不意打ちとほざいてしまう程ただ単に貴様が弱いだけであろう? それに俺は卑怯でもなんでも勝たなければ意味がないと思っている口でな、誇りに縛られ犬死するよりかは泥水啜ってでも生き長らえるのならば多少はマシだろう。 イルミナ様への冒涜、死んで詫びようか」


 そういうとタマは手に持つ白銀の美しい剣を振り上げると赤竜の首元目掛け振り下ろす。

 しかしその剣はイルミナの剣によって塞がれ赤竜の首皮一枚切るだけで止まる。


「辞めろと言っているのが分からないタマではないでしょう? 感情をコントロールできない訳では無いですよね?」

「………すみません」


 イルミナの言葉にタマはハッとした顔をし、赤竜を見た後大人しくイルミナの後ろに下がる。

 その行為はまるで赤竜を反面教師にしている様に見えなくもない。


「度々うちのタマが申し訳ない。 一応ヒールをかけて傷付いた箇所は治させて頂きました」

「…………」


 そしてイルミナは今一度赤竜に詫びをいれるのだが、その赤竜は心得るここにあらずと言った感じでイルミナの詫びに反応出来ないでいるようだ。


「…………貴様、タマとか言ったか」

「俺か? 俺は確かにタマだが?」

「公式に貴様へ決闘を申し込む。 決闘を受けるのなら準備等に数日かかる為それまで貴様らをこの村に滞在する事をこのリュースが許そう」


 タマに倒された体制のままで数分ほど経過した時、赤竜はゆっくりと立ち上がり何を思ったのかタマに決闘をもう仕込んで来た。


「………分かった。 決闘を受けよう」


 突然赤竜のリュースから決闘の申し込みをされタマは一瞬困惑したものの、イルミナに一度視線を向け受けて良いのか確認した後、タマはリュースの決闘を申し込む事にした。

 にしても突然の手のひら返しとも言える好条件に困惑しているのはタマだけではなく私やイルミナも多少なりとも困惑していたりする。


「貴様らに宿を提供する前にこの村の長に挨拶しに行く。 ついてこい」


 そんな私達の心情など微塵も理解出来ていないだろうリュースが付いて来いと勢いよく青空へ飛び立つ。

 その姿を見て連れて来た子供達は「カッコイイ!!」と歓声をあげているのだから心強いのだが、それ故に変な面倒ごとを持って来ないか心配でもある。

 無邪気に赤竜の村を眺めている子供達を見てノクタスへ帰ったらもう遅過ぎる気もするのだが竜の危険性を一度教え込まなければならないと心に誓う。


「タマは先に行っててちょうだい。 後でコッコちゃんと向かいます」

「畏まりました」

「では、はーい! ちびっこ達ー! 集合ー!」


 そしてイルミナはタマを先に行かせると子供達を自分の元へ呼び集める。

 子供達は子供達で元気にイルミナの元へと駆け寄って行く。

 ここだけ見れば遠足に来て居る子供達と引率する保護者のほのぼのとした日常にしか見えない為つい気が緩みそうになるのだが、少し視線を外し意識して周囲を見渡せば金色に光る複数の目が閉ざされた窓や扉の隙間から確認出来、緩みそうな気が一気に引き締められる。


「みんな居るねー? ………うん、良し。 どうやら数日間この村に滞在することになったみたいなので皆んなは今からお父さんやお母さんに泊まっても良いか聞いて来ようねー!」


 そういうとイルミナは子供達一人一人デモンズゲートをその親がいる場所へと繋げて行く。

 子供達への対応もそうなのだがそれだけでは無く一人一人の親御さんに対し低姿勢で丁寧に接しているところからイルミナという人物がどの様な者なのかその人となりが垣間見えた気がした。

 子供達の親御さん達もそんなイルミナに全幅の信頼を持っているのか子供達は全員親御さんの許可が降り、数日分の着替えを用意して貰いゲートを駆け足でくぐって戻ってくる。

 その表情は初めて竜を見た時以上にキラキラと輝く者や、親と離れて野外というのに不安を隠せない者など様々である。

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