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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第四章
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怖かった


「……ええ、そうですが何か?」


 そしてイルミナは馬鹿にした様な顔を向けてニヤニヤと笑っている十数名の冒険者達を一瞥するとやれやれといった感じで溜息を吐き、彼らのリーダーなのだろう男性の言葉を肯定する。

 それを聞いた男性達は一斉に腹を抱え笑い出し、イルミナに向けて更に馬鹿にした目線を向け始める。


「こりゃ傑作だぜ!どうやら本物の馬鹿みたいだな。 因みに冒険者ランクはどの辺だ? トリプルS様ですかね?」

「冒険者ランクは最近Fに上がった所ですが何か?」

「え、Fっ!? Fで赤竜の逆鱗採取! この時期に! 餓鬼ども連れて! わ、笑いすぎて腹痛えよ!」


 イルミナが答えた瞬間ドッと笑いが起きるのだが、それはあくまでもイルミナを囲む冒険者からの物で、この状況を遠巻きに見ている冒険者やギルド職員、また飲食店の店員たちは野次馬感覚でこれから起こるであろう話題のネタを見逃すまいと皆静かに傍観している。

 そんな中、イルミナを囲んでいる者の中から小柄かつ小汚いフードを被った者がイルミナと冒険者達のリーダーであろう男性の間に割って入る。


「アビエル様…どうか…もう…や、やめてください。 お願いします。 今夜私を好きにして良いですからやめてください。 お願いします。 お願いします……」

「お前……誰のお陰で飯を食えてると思っているんだ? そもそも貴様みたいな気持ち悪い女はもう用済みなんだよ。 こんな上玉を見付けたんだからなあ」


 アビエルと呼ばれた男性は震える身体でイルミナの前に立っている者、アビエル曰く女性をニヤリと歪めた顔を向けると思いっ切り蹴り飛ばす。

 その衝撃で蹴り飛ばされた女性が被っていたフードが取れ、そこから見える露わになった顔に周りが騒然としだす。

 その女性の顔は赤や青色に腫れており目はその腫れの影響で瞼が膨れ上がり前を見る事も用意では無いだろう。

 荒い呼吸をする口から見える歯は一本しか見えず、唇はカサカサであり明らかに昨日今日できた傷ではない事が伺えてくる。

 今までどの様な待遇をされて来たのか容易に想像が出来た為に周りが騒然とするのは仕方がないだろう。

 そしてまわりのその反応を感じ取ったアビエルは苛立ち、その矛先を先ほど蹴り飛ばした女性に向けた事に周りが気付ける程の怒りを向け歩き出すと、先ほど以上に足を振りかぶりそのままその女性に向けて振り下ろす。

 しかしその一撃は女性に当たらず、蹴り飛ばそうとしたアビエルはバランスが取れず尻餅をしてしまう。


「き、貴様! 避けやがって! 殺されたいの………か?」


 その状況にアビエルは顔を真っ赤にし蹴りが不発した事を見るからに避ける事も出来ないであろう女性が避けた所為だと怒鳴り立ち上がろうとする。

 しかしそこでアビエルは初めて気付く。

 先ほど女性を蹴り飛ばそうとした自分の足が膝より少し上から無くなっている事に。


「闇魔術段位六【医学の光闇】……あのゴミの足を斬り落とし、それを材料にして貴女の受けた怪我を勝手ではありますが全て治させて頂きました」

「……え? ……え?」

「手鏡です 。綺麗に治った自分の顔を確認して御覧なさい。 美しい顔が鏡に映っている筈ですよ」


 女性はイルミナから何処からか取り出した手鏡を渡され、そこに映るであろう既に見馴れた醜い顔を想像しながら鏡を確認する。

 そこには奴隷として親に売られる前の、女性唯一自慢だった美貌がその当時と変わらぬ美しさを彼女が持つ手鏡に映し出していた。


「あ……ああ……うう……っ…わた…私の顔……っうう」


 もう一生拝めないと思っていた以前と変わらぬ自分の顔を見て女性は手鏡を食い入る様に見ながら泣き出す。

 これからまたあの日常に戻ればもうこの顔を拝める事は叶わないであろう。

 その為か女性は深く深く記憶に刻み付けるかの様に手鏡を見入っていた。


「あ、これも勝手ではありますが、貴女のステータス欄にそこの男性の奴隷と記されていたので主人の項目をあの男性から私に変えさせていただきました。 ですので貴女の名前を教えてくれませんか? ちなみに私の名前はイルミナと言います。姓を名乗るとすればフリートですので、イルミナ・フリートと覚えて下さい」


 さらっとクロと同じ姓、フリートを付けるイルミナなのだが口に出すと妙にリアリティが増してきた為一瞬ではあるもののクロとの新婚生活を妄想してしまう。


「わ…わた……名前は……エマ・スミス……です」


 そんな妄想をしているイルミナから渡された手鏡を強く握り締めながらエマと名乗った女性は新しい自分の主人だという女性、イルミナの目を怯えながらも見詰める。


「とりあえず今はこれから赤竜の逆鱗を採取して来ますので……そうですね、エマも一緒に行きましょうか?」

「は……はい。 イルミナ様」

「後、エマの所有者は私になったのですが私の所有者でありご主人様はクロ・フリート様です。ですので結果的にエマのご主人様はクロ・フリート様ですので忘れないで下さい。 では赤竜の逆鱗採取に行きましょう」


 イルミナはそう言うとエマと子供達を連れてギルドの外に出ようとするもやはりすんなり出る事はできず、先ほどイルミナを囲んでいた冒険者達がギルドの出入り口を塞ぐ様に立ち、イルミナと対峙する。

 ちなみに足を失ったアビエルは先ほどから絶叫を上げながら床を転がり回って居るのだが腫れ物扱いされるが如く誰も彼の相手をしようとしない。

 そんなアビエルなのだが仲間であり部下でもあるもの達がイルミナを再度取り囲んでいるのを見ると先程の痴態は鳴りを潜め這う様にイルミナの方へ向かうと仲間の肩に捕まり一本の足で立ち上がる。


「オイ! ふざけてんじゃねえぞ!? ゴラ! 人の足を奪いやがって何呑気に会話しちゃってんだよ!? そもそも奴隷の所有者を変更できるわけないだろ? アホなの? さすがFランクさんですね。 オイ、エマ! このクソ女を羽交い締めにしろ! もう許さねー! 俺の女にしてやろうと思ってたんだが、やめだ。 ボコって犯して殺してやるわ! 俺の足を戻すんなら奴隷で生かしてやるよ! そもそも、よくよく考えてみたら段位六の魔術なんかある訳ねだろクズが! どうせ俺の足を消した魔術はタネがあるマジック的な物だろうが! 驚かせやがってからにっておい! 何無視してここを通ろうとしてグベホアッ!?」

「………長い。 一行で纏めろと言わなかったっけ? あ? 言語理解出来てんのか? あとお前らも邪魔なんだよ」


 アビエルは感情のまま思った事を捲し立てるのだがイルミナによるアッパー気味のボディーブローを鳩尾に叩き込まれ、悶絶している所へさらに回し蹴りを撃ち込まれると、そのままギルド外へと勢いそのまま蹴り飛ばされる。

 更にその一部始終を見たアビエルの取り巻き達もイルミナに睨まれ後ずさりしてしまう。


「ぐぅううっ………俺が何をしたって言うんだよ!? 犯罪だろこんなの! おい! ギルド職員はこんな行為を見逃して良いのかよ!? ……………ひっ!?」


 外に蹴り飛ばされたアビエルは痛みによりのたうつのだが口だけは威勢が良く、怒りを露わに怒鳴り散らす。

 しかし取り巻きを無視してアビエルの元へ歩み寄って来るイルミナの表情を見て言葉は詰まり、代わりに小さな悲鳴が一つ溢れる。


「そうか………何もしていないか。 なら私の奴隷にしてやろう」

「ちょっ、待て! な!? 謝るから! Fランクを馬鹿にした事は謝る! 金も全部やろう! そ、そうだ! エマもお前にやるから! な!?」

「うるさい黙れよ? …………さあ、これでお前は私の奴隷だ。 今までエマに与えて来た暴力をそっくりそのままお前に振るってやろうか?」


 無詠唱だろうか?何らかの隷属化する魔術を行使したのだろう。アビエルの額には奴隷を表す刺青が現れたのがギルド内からでも見てとれる。

 その後イルミナがドスの効いた言葉をアビエルに向けて吐くとアビエルは失神し、その股間は温かな液体で湿り出していた。


「…………貴様ごとき奴隷ですら要らないわ」


 イルミナはそう呟くとアビエルの隷属化を解除し、ギルド内にいるエマと子供達の場所へ女走りしながら戻ってくる。


「ふえぇええん! イルミナ、怖かったよぅ!!」


その瞬間ギルド内にいた野次馬はハイライトが消えた目でイルミナを見ていたのだが、その中で一人だけは目に光を失わずに、イルミナに近づいて行く。


「あのー……イルミナさん、私も赤竜の逆鱗採取を見に行きたいなー……なんて……はは」


 周囲が異様な空気に包まれ、へんな緊張感が場を支配している中私は今しかないと一生分の勇気を振り絞る思いでイルミナにお願いする。

 その事に野次馬達どころかギルド職員である同僚まで「その手があったか」という顔をしているのが見える。

 しかし彼らはイルミナの返答を気にしてか私に続いて言い出せないでいる。


「うーん……いつもギルドでお世話になっていますし貴女一人ぐらいでしたら大丈夫でしょう。 では今から行きますのでとりあえず外に出ましょうか?」

「は、はい! ありがとうございます!」

「ちなみにギルドのお仕事はいいのですか?」

「大丈夫大丈夫。ちょうど勤務時間終わったとこだから」

「そうなんですか」

「そうなんです!」


 嘘である。


 しかし誰も彼女を止めようとしないのは実際にギルドとしてイルミナの強さの一端を知っておきたいのも事実である。

 従って彼女がイルミナの赤竜の逆鱗採取という依頼について行くというのは願ってもいないチャンスだと言えよう。

 当然それもあるのだがギルドで受け付けをするよりも楽しそうだという事と元冒険者の好奇心が大半を占めていたりする。

 それは他の冒険者、ギルド職員も同じらしく先程から私同様に一緒に行きたそうにしているものが何人か見えるが「あと一人ぐらいでしたら大丈夫」とイルミナが言った事によりその一人の分の席をもぎ取った私に羨ましげな視線を送って来る。


「ちなみにどの様に赤竜がいる岩山、コンコール山脈まで行くのですか?」


 普通なら赤竜がいる場所までは馬車で一週間、徒歩で三日、更に山道を数日間歩き出逢えるかどうかというところだろう。

 しかしイルミナは子供達を連れて行くと言っているので普通の移動方法ではない事が伺える。


「そうですね、私は召喚師ですので普通に使役しているモンスターを召喚し、それに乗って行こうかともっています、そうですね………今回は大鳥型魔獣ジズ、名前はコッコちゃんです。 この可愛いコッコちゃんに乗って赤竜を探そうと思っています」


 そう言うとイルミナはどこからともなく鳥が描かれたカードを取り出し、そのカードの大きさからは考えられないぐらいの巨躯を持つ大型の鳥が現れるとその鳥はイルミナへと頭を持ってきてそのまま気持ちよさそうに撫でられる。

 その光景に子供達は目を輝かしながら興奮を隠さず叫び、周りの野次馬達はあまりの大きさに恐れ慄いているのが見える。

 そういう自分も恐怖を感じずには居られない。


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