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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第四章
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当たり前

 そしてクロは前の世界では、隙がある技を相手が出して来たら目押しで技を出しカウンターを狙う練習をしてきたのである。

 それこそ防御に徹していたとしても身体が勝手に反応し、動くぐらいには。


「下段弱・立ち中・立ち強・足払い・下段弱・立ち中・立ち強・ジャンプキャンセル・空中弱・空中中・空中中・ジャンプキャンセル・空中中・空中強・スキル【打ち落とし】」

「カハッ!?」


 そしてクロは空中から地面へフレイムを打ち落とした後、現在装備している刀の切っ先をフレイムの首筋に立てる。


「………俺の反則負けだな…」


 そう言うとクロは全装備をストレージに保管し、やけに静かになっている広場中心からサラ達のいる方へ帰って行く。






 何時間そうしていただろうか。

 クロとの決闘の後、日が沈んでもフレイムはクロにより地面に叩き付けられた場所で仰向けになっていた。

 目に写るは輝く星に二つの月。 その星々に照らされた雲が緩やかに流れて行く。


「風邪ひきますよ?」

「………ああ。 そうかもな」


 そんな私の隣にサラが同じく寝転び、心配気に話しかけてくる。

 しかしその事が逆に私を更に惨めにさせるとも知らずに。


「負けて打ちひしがれてる私を笑いに来たのか?」

「そんなわけないじゃない。 心配して来たに決まってるでしょう」


 笑いに来たのではない事は誰よりも私が知っている。

 だが、その優しさが今は辛く感じてしまう。

 あの決闘の敗因はどう見ても自分にあり、しかも手加減までされての惨敗である。

 悔しくて堪らない。


「どうせあなたのことです。 実際には勝負に勝っているのに私の夫に惨敗したと気落ちしているのでしょう?」

「ああそうだよ。 勝負に勝ったといってもあのハンデは向こうが勝手に作ったハンデだ。 私は認めたわけじゃない」


 そう。 あのハンデを私は了承していないのだ。

 その事から相手は私の力量を看破しており、逆に私は相手の事を何も見えていなかった事が伺えてくる。

 トリプルSランカーという肩書きも誇りも何もかもが馬鹿らしく思えて来ると、もう泣き枯れたと思った涙がまた流れて来る。


「夫の国では柔よく剛を制すという言葉があるそうよ」

「………」

「意味は相手の力を巧みに利用し小さき者でも大きな者を豪快に投げ飛ばす事が出来るという意味らしいですね。 あの時夫はまさにこの言葉通り、貴方の力を巧く利用して避けていました。」


 静かに泣き出した私にサラは慰めるでもなく静かに語りかけてくるれるも私は相槌さえ打てず、ただ嗚咽を堪えることしかできない。

 そんな私を知ってか知らずかサラは相槌さえ打てない私を無視して続きを語りかけて来てくれる。

 そんな状況でもサラの「夫」というフレーズが鼻に付くのだから私という人間はつくづくダメ人間なんだと思い、それがまた涙に変わってゆく。

 それと同時にサラが言っている事がすんなりと私の中に入ってくる。

 私が力任せ感情のまま振るった技の一つ一つは全て躱されるかいなされていたのである。

 決して私の技には逆らわず、受け流した衝撃はただ流すのではなく次の動きに生かしていたように、今思えば思えてくる。

 その技術を会得するまで彼はきっと努力して来たのだろう。

 そう思うと少しは惨めな気分も晴れてくる。


「お前の言う通り……強かった」

「だからそう言ってきたではないですか。 私の夫なのですから当たり前です」


 そう誇らし気に胸をはり言い切るサラはどこか得意気であり、やはり鼻に付くのであった。


◇◆◆◇


 クロ・フリートがこのノクタスの地をたって早半年近くの月日が流れている。

 この半年の間に魔族の国と繋がっていた門は一週間ほどで消え、今ではぱっと見ただけでは普段のノクタスと変わらない風景が広がっている。

 しかしその変わらない風景の中にクロ・フリートの家臣たち、特に魔族の姿を見たあの事件を知らない商人やその護衛、冒険者達は皆警戒心を隠しもせず酷い時には斬りかかるバカもいた。


 そんなバカは後を絶えず、その中でも特に大馬鹿者があの事件を耳に入れ甘い汁目当てにやって来た隣に領主のバカ息子である。

 このバカ息子は表向きは復興支援という大義名分を掲げこのノクタスに来ているのだが、領地侵略などならまだ野心家と言えなくも無いのだが、実際は女漁りという自分の領地にとって毒にも薬にもならない理由で来ている為本当にゴミ以下のヘドロだという事がうかがえる。


「貴様、俺の女にならないか? そしたら第一は無理だが第二夫人にしてやっても良いぞ」

「…………此処は貴様の領土ではないはずだ。 だというのにこの様な事を平然としてタダで済むと思うのか?」

「ああ、その事なら問題ない。 此処の領主は実は裏でアーシェ・ヘルミオネが建国したニホン国との繋がりがバレて今は牢屋の中。 その息子は魔族側の大陸がある海を渡っていったのを見たという情報があってなグボヘァ!?」

「長い。 一行で纏めろ。 あと私は身も心もクロ・フリート様の物だ。 覚えておけ」


 そして今日も懲りずに隣領主のバカ息子ジェーン・ドゥ・ボーガンはクロ・フリートの家臣に恐る事なく声をかけ、その結果いつもの様に彼の鳩尾に強烈な一撃がめり込む。

 その光景も日常の一コマになりつつあるのだが、この様に日常と言える日々を過ごせている場所はここノクタスぐらいだろう。

 というのもこのグルドニア王国の国王、ドミニク・エドワーズ国王の一人娘であられるスフィア・エドワーズ姫が謀反を起こし、この国の国力の象徴とも言えるグルドニア城をテイムしたであろう黒竜で落とし、さらに実の父親の背に傷を負わせたのである。

 更にこの状況を隣国スーワラ聖教国が見逃す訳がなくあの事件から一ヶ月後に進軍を始めて来ると侵略をしながらグルドニア王都を包囲。

 しかし王都にはクロ・フリートの配下セバスチャンが滞在しており、彼が王都全体に魔術により障壁を展開しスーワラ聖教国軍の侵略を阻止、更に単騎で敵陣に乗り込み制圧させて見せたのである。

 更にこの事が決定打となりグルドニア王国は名前や領土こそ変わらないもののセバスチャンが仮の国王となり事実上クロ・フリートによる侵略を許した事になる。

 既に王国は国を維持するだけの力は無く、更にセバスチャンの圧倒的な武力を前に為すすべも無かった上にバックにはあのアーシェ・ヘルミオネ倒したクロ・フリートがいるとなれば侵略されるしか道は無かったといえよう。

 今まで力こそ全てという考えのもと力で他国を飲み込んで大国となったこの国がさらなる力に屈するという、この国らしい終わり方であろう。

 そしてセバスチャンが実施した様々な国営方法や黒い金及びそれを啜る蛆虫の排除をした結果市民の、特に搾取される側の市民の好感度は鰻登りで留まることを未だ知らない。

 その余波がここノクタスを首都とするという形で直撃する。


「あいつも懲りないわね。 雇った護衛冒険者傭兵ならず者全て嗾しかけイルミナさんを襲わせ拉致しようとして全滅させられたばかりじゃない」

「ここまで来るといっそ清々しいね」


 そしてこのノクタスは首都になるとは言え田舎故の立地条件の悪さがある為移住者や商人がいきなり集まるわけでも無く、以前の様な日常を取り戻しつつある。

 逆に半年経っても元の様な日常を取り戻せない理由はやはり何百といるクロ・フリートの家臣達の影響だろう。


「そろそろいい加減にしないとあこのギルド受付のお姉さんにしょっ引いてもらいましょうか? それとももう一発殴りましょうか?」

「おえぇぇ! ぐうぅっ、きょ、今日の所はこれぐらいで勘弁してやるか……うう」


 ここ半年を振り返っているうちにイルミナが床に転がりお腹の中を戻しているジェーン・ドゥ・ボーガンに二択を迫り、当のジェーンは捨て台詞を吐きながらここギルドから出て行くのが見える。

 ちゃっかり去り際にヒールをかけてあげてるあたり根はいい人なのだろう。

 外で「イルミナ様ぁ!」とヒールに気付き叫ぶジェーンの声を無視しイルミナが此方へ依頼であろう用紙を持って歩んで来る。

 その周りには先ほどのいざこざでイルミナから離れていたのだろう子供達がいつの間にか群がっていた。


「この依頼を受けたいのだけど?」

「かしこまりま………」


 そしてイルミナが持って来た依頼を見て私は思わず言葉に詰まってしまう。


「どうしたの? ラーベル。 依頼を見せてみ………赤竜の逆鱗採取……」


 イルミナの依頼内容に驚く私を見て興味が湧いたのであろう隣の同僚が覗き見するのだが、その同僚は依頼内容を見て絶句してしまう。


 当たり前だ。 赤竜と言えば竜種の中でも最上位に君臨している色種と呼ばれる種の一種である。

 普通ならば繁殖期を狙い卵から孵ったばかりの雛から採取するのが一般的であり、それでも親の竜の目や鼻や耳を欺かなければならずその難易度はSランクである。

しかも親竜に見つかった場合冒険者ランクダブルSランクでも生きて逃げれるかというレベルなのである。

そしそれらは五人以上のパーティでの話でもある。


「ええ。 この子達にクロ様の英雄譚を話していたのですが竜狩とその時竜王であった黒竜のバハムートとの出会いの所で竜を見て見たいときかないので一度きりという条件でこの子達に見せてやろうかと思いまして」


 ただでさえ開いた口が更に開き関節が外れかかる。

 この時期は子育てもひと段落している為産まれたての雛は居ない事から考えられる可能性に絶句してしまう。 イルミナならあり得ると。

 それと同時にその英雄譚を聞いてみたいとも思ってしまうのは元冒険者の性だろう。


「もしかとは思いますが………大人の冒険者はイルミナ様一名でしょうか」

「当たり前でしょう。 調教されて対人戦に慣れた個体ならまだしも野生種如きに遅れを取るようでは、クロ様の配下として笑われてしまいます!」

「す、すみませんでした」


 もう私の元冒険者としての常識とはなんだったのかと問い質したくなるイルミナが言った内容に、私同様に隣の同僚も空笑いしか出てこない。

 それ程の非常識な発言をしているにも関わらず、いつもなら茶化しに来る半端者もいない事から皆クロ・フリートの配下という肩書きをこの半年で思い知らされているのであろう。


「こりゃ面白いな姉ちゃん。 赤竜の逆鱗をこの時期に、一人で、しかも餓鬼共まで連れて採取しに行くだって!?」


そして赤竜の逆鱗採取依頼を受けようとするイルミナに詰め寄る10人程の男性達が目に入る。


そうそう、この様に始めの頃はこんな大馬鹿もいたものです。 この人数からみてどうせ数で物言う半端者でしょう………ってイルミナさんに喧嘩売っている大馬鹿どもがいる!?流れの冒険者ですか!!


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