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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第四章
56/121

決勝戦

◇◆◆◇



「今日は一段と荒ぶってますわね、エシリア」


 そう呟くユーコの目線の先には単独で三人を相手に立ち回るエシリアの姿が見える。

 今は二回戦目、その相手を一人で相手にしているエシリアは味方のバフすらかけづらいほど鬼気迫るものがある。


「そりゃそうですよ。私達がお師匠様に『もしこの大会で優勝出来たら私達三人をお師匠様の彼女にしてください』とお願いして了承も得ていると知ったばかりですもん。何が何でも優勝したいはずです!」


 レニアがそう言う通り前衛として戦っているエシリアから「彼女になれる彼女になれる彼女になれる彼女に」という呟きがユーコの糸を通して二人まで伝わって来る。


「二人で喋ってないで少しは手伝いなさい!私達の未来がかかっているんですよ!分かっているのですか!?」


 私達が試合に参加しない事に気付き、エシリアの声が闘技場に響く。

 確かにそうだ。私達は相手を無視してお喋りできる程強くも偉くもない筈だ。


「そこまで!」


 しかしいざ加勢しようとした時審判により試合終了が告げられ、それと共に前衛として縛られていたエシリアを縛るものが無くなり解き放たれてしまう。

 どうやらこの試合相手に関してはお喋りできてしまう程度だったみたいである。


「なんで加勢してくれなかったのですか!?今回相手が弱かったから良かったですが、だからと言って集中力に欠けていてはいずれ足を取られ負けてしまいます!何より私達の未来がかかっているんですよ!何より私達の未来がかかっているんですよ!分かっているのですか!?」

「わ、分かってます」

「分かってますわ」


 お師匠様の彼女になりたい気持ちが凄い伝わって来る。

 それは私も同じで自分の夢の為に優勝したいのではなくてお師匠様の彼女になりたいから優勝したいという目的意識に変わってしまっているのだから仕方がない。

 しかも当初の目的の一つである、周りのみんなを見返したいという目的はほぼ無くなっているので不思議である。


 気が付くとお師匠様の隣で幸せそうにくっ付いているサラさんが視界に入る。


「はぁ、彼女になりたいな…」


 そんな言葉が聞こえた。



◇◆◇◆


 今日は早いもので大会が始まって一週間が経っている。

 その間俺の弟子達は負ける事なく何とか勝ち抜きいよいよ本日決勝戦である。

 連日の試合の疲れを見せるどころか逆に初日以上の闘志とやる気、そして鬼気迫る何かを肌で感じさせているみんなを見て少し安心する。


 しかし闘志を燃やし過ぎて空回りしやしないかと別の不安も同時に出てくるのだがそこは彼女達を信じるしか無いだろう。

 そしてその決勝の相手はあのビンセント・モルツの弟子達である。

 格好は相変わらずの黒尽くめな衣装で、その姿を見ると自分の黒歴史を連想させるのでやめて欲しいところではある。

 そんな彼等達は相変わらずクロの弟子であるレニア達を見下し、嘲笑っているのが見て取れるのだが、クルム・オーエンだけは険しい表情をし、強敵を目の前にするかのような緊張感が彼女から伝わって来る。


「両者前へ!………両者礼!……始め!!」


 審判の掛け声が観客の熱気に包まれた闘技場に響き渡る。

 先に攻撃を仕掛けたのはクルム・オーエン。

 彼女は前衛であるレニアまで一気に駆けると武器である細い剣をまるでクロがそうしていた様に抜刀しその勢いを利用し斜めに切り上げる。

 それをレニアはその身体に似合わず俊敏に動くとクルムの剣筋を見切り避ける。

 それもそのはずで、クルムの放った一撃はクロの目から見てもぎこちなく見える程である。

 それでも鋭い一撃には変わりないのだが。


「【スラッシュ】!」


 クルムはレニアに初手を避けられる事を想定済みなのか連続して付き技を放つスキル【スラッシュ】を放ち付き技の壁を作り後ろに後退する。


「【スラッシュ】!」


 そこへレニアは同じスキルを放ちクルムが放ったスキル【スラッシュ】へ突進する。

 両者のスキルが激突しクルムの放った【スラッシュ】がレニアの放った【スラッシュ】に難なく打ち消され後退したクルムに襲いかかり、その光景に会場が一瞬どよめく。

 基本的に同じスキルは同じ使い手のステータス差で威力が変わって来るのだがここまでの差ともなるとやはり驚いてしまうみたいである。

 まるで大人と子供程の差を見せつけられ普通なら観客同様、もしくはそれ以上に動揺すしてもおかしくないクルムはしかし依然冷静。

 そうなる事が初めから分かっていたかの様な自然さである。

 しかしそのクルムの余裕も次の瞬間には驚愕に染まる。

 【スラッシュ】を防ぎ切りレニアがいるはずの場所へ目線を向けるのだがそこにレニアの姿は無く代わりに不自然な影がそこにあった。


「消えた!?……上ですの!!」

「スキル【龍鳴一閃】」


 そしてレニアはクルムが、いやこの世界の住人が知らないスキル、それも竜シリーズであろう一撃を放ちまたも会場を驚かす。

 竜シリーズはスキルの中でも威力がずば抜けて高く全て覚える事が出来ればSランクになれると言われても過言ではないスキルである。

 そんなスキルをレニアは真上から打ち下ろすとまるで龍が鳴くかのごとく破壊と爆音が辺りを支配する。


「【竜肌の壁】」


 しかしレニアの攻撃を竜シリーズの技で受けきるクルムなのだが、レニアの攻撃を防いでいる間に先程レニアが空中に居た原理を推理し始める。

 そもそもスキル【スラッシュ】は地上でしか発動できないスキルである。その為スキルが終わるまではレニアは地上にいるはずである。

 しかしレニアは実際空中に居た。

 そして自分のスキル【スラッシュ】が同じスキルであるにも関わらず簡単に打ち負けた事にも疑問を感じ得ない。


「【スラッシュ】」


 そこでクルムは着地しこちらに向かって来るレニアに向かってもう一度【スラッシュ】を撃ち込む。

 今度は何が起きたのか見逃さない様にその目は何一つこぼさないとしっかりと見開きレニアを捉える。


「【スラッシュ】」


 その瞬間レニアは空中へ移動し、更に見えない足場があるかの様にもう一段高く跳ね上がる。

 そしてレニアが放った【スラッシュ】はクルムの【スラッシュ】よりも一段高く放たれ、それによりスカされた攻撃がクルムを襲いレニアは安全圏の空中に逃げていた。

 しかしレニアは先程のスキル【龍鳴一閃】を放つ気配が無い。

 この一瞬の隙を作る為にレニアはあえて先程と同じ様に動いていた事が目の前のエシリアにより否が応でも理解させられる。


 嵌められたと。


「【竜尾の一振り】」

「ぐうぅ……っ!」


 クルムは【竜肌の壁】を使う暇さえ与えられず防御体勢は取るものの高威力の技を受けそのまま闘技場の壁まで吹き飛ばされる。


「【龍鳴一閃】」


 そこへ更にレニアは先程と同じスキルを少し遅れて叩き込み着地、間髪入れずに突進する。

 そのスピードはまるでレニア自身が槍のように見えてしまう程の速さで疾る。


「クルム一人で闘ってんじゃあないんだよこの三下ぁあ!!光魔術段位三【リフレクター】」

「【刺突】」

「【横薙ぎ】」


 クルム側の後衛が光魔術段位三【リフレクター】を唱え光の壁を作りレニアがそこへスキル【刺突】を放つとクルム側の中衛がスキル【横薙ぎ】で無防備になっているであろうレニアに向け放つ。

 しかしその【横薙ぎ】はレニアに当たらず、何故か空中にいるレニアが空を駆けて迫って来るではないか。

 まるでレニアに見えない翼があるのではないかと思いたいぐらいである。

 レニアがやった事と言えばスキル発動中にジャンプを意識しているだけなのだが、これによりレニアはスキル撃ち終わりには空中にいるのである。

 この原理を理解するのは大変だったのだが一度分かれば後は簡単に使用出来る上、空中ダッシュ及び空中ジャンプまで覚えているレニア達はスキル終わりに空中へ、そこから空中ダッシュで一気に距離を詰め【スラッシュ】をガード中の相手へ中段攻撃をガードさせ、そこで崩せれば良し。崩せなくても着地で下段か投げ技か中段攻撃かの三択で翻弄出来るのである。

 更に今のレニアはユーコにより様々なバフが掛けられている状態である為本来二段ジャンプが限界なレニアなのだが更にもう一段ジャンプ出来る状態である。

 【スラッシュ】をガード中の相手に空中ダッシュで近付いた時、わざと攻撃をせずにもう一度空中ダッシュをし相手を捲りガードを崩す選択肢も増える為、レニアはスキル終わりに切れるカードの幅が増え読み合いでの勝率を上げる事ができるこの戦法を相手を崩す常套手段としてすでに定着していたりする。


 とはいえこれを覚えるにあたりお師匠様の「本来のコマンド入力の最後に斜め上か上コマンド入力を追加するイメージでスキルを撃ち終われば良い。【スラッシュ】の場合だとそれをする事で本来地上でしか撃てないこの技を空中で発動する事が出来る」という意味は未だにあまり理解はできていないのだが、要は空中で【スラッシュ】を撃つというイメージではなく地上で【スラッシュ】を撃ち空中へズレるイメージで撃つと地上で撃ったはずの【スラッシュ】が低空ではあるものの空中で撃つ事が出来たのである。


 お師匠曰く始めに空中のイメージを持ったり少しでも空中へジャンプしたりしたら【スラッシュ】は発動しないという事なのだが、今こうして空中で撃ててるのに空中で撃てないからこそのこのカラクリを知っているお師匠はやはり世界で一番のお師匠であるとレニアは確信して言える。


 そんな事を考えながらレニアはクルムを、エシリアは中衛を淡々と隙のない技とスキル構成で固めに入り崩すタイミングを狙っている時、レニアの耳に付けられたユーコの糸から「準備は整いましたわ!」という声が糸を通して伝わって来る。

 その直後尻尾の付いている糸が三回引かれた為レニアは一気に跳躍する。

 横を見ると同じく普通のジャンプよりも高く跳躍しているエシリアが見える、目線だけで意思を交わす。

 お師匠様曰くこのジャンプ方法は【ハイジャンプ】という技術らしい。

 そしてレニアは体内にあるマナを練り魔力へと変えて行く。

 本来獣人であるレニアは生活魔法程度なら発動出来るのだが攻撃に適した魔術を練れるほどのマナは無くもちろんその量では実戦で使えるほどの魔力も練れない。


「水魔術段位五【海王龍の牙】」

「氷魔術段位五【静かなる死】」


 本来ならレニアでは発動すら出来ない魔術をユーコの恩恵により供給されたマナを魔力に変えてこの世界では高段位であり扱える者もこの世界では100人もいない段位五の魔術を発動する。

 すると闘技場内を覆うように上空に水を圧縮した牙の様な物が無数に現れ次の瞬間地表に降り注ぐと間髪入れずエシリアが同じく高段位五の氷魔術を発動すると闘技場内の温度が一気に氷点下まで下がり先程レニアが与えた魔術を受けた相手の傷口から流れる血液すら凍らして行く。

 しかしエシリアの場合高段位の魔術もさることながらラミア種は覚える事が出来ないとされる氷系統の魔術を使用した事に気付き驚く者も多い。


「ふぅ……上手く行って良かったです!」

「そうね……やっとレニアの【海王龍の牙】が発動した瞬間辺りに一瞬靄が掛かった時に合わせて私の魔術【静かなる死】を発動する事に慣れてきたのですけれど、失敗しなくて良かった……」

「わたくしのバフありきだという事をお二方忘れないで下さいな」


 いままでスキルによる圧倒的なコンボ数で勝ち上がって来たレニア達が魔術でも圧倒的な才能を見せ付けた事により会場は湧き上がっているのだがそんなことには気にもとめずレニア達は普段どうりアガる事なくリラックスして会話する。

 これも全てクロのおかげなのだが当の本人はそれに気付いていないのだから彼女たちの苦労もまたクロには気付けない故に唐変木呼ばわりされるのは仕方ないだろう。

 しかしリラックスしている事はいい事なのだがまだ試合は終わっていないにも関わらず緊張を解いてしまったのはレニア達の経験不足故のミスであろう。

 そしてその隙を見逃してくれるほど現実は甘くない。

 クルム達もまた此処まで勝ち上がって来た実力者である事は間違いない事実である。

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