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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第三章
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化物


「土魔術段位五【束縛】」


 そして放たれるクロ・フリートの魔術を最早避けるだけの体力も気力も俺には残っておらず抵抗すらせず受け、地面から伸びる無数の腕に掴まれ束縛される。


「実に楽しませて貰ったが、楽しい時間はいつもあっという間に終わりを迎えるものだな……」


 そう言いながら俺に近付いて来るクロ・フリートの顔は勝者と言うには余りにも似つかわしくない哀しげな表情をしていた。

 しかしクロ・フリートが言わんとしている事が少しだけ分かる気がした。

楽しい時間はいつだって過去にしか無い。


「……そうだな」


 思い出すのはルルと過ごしたほんの僅かな幼少時代の思い出。


「さあ、最後の仕上げと行こうか」

「負けた俺が選べる立場では無いのは理解しているんだが痛いのは嫌いなんだ……どうか一思いに殺してくれ」

「ああ…もとよりそのつもりだ。俺もグロ耐性も無いしそういう猟奇的な趣味も無いしな」


 そう言うとクロ・フリートは漆黒の見たことも無い魔杖を片刃剣をストレージに仕舞うと代わりに取り出して来る。

 その魔杖もまた先程の刀と同様に国宝級レベルである事は見ただけでひしひしと感じてしまう。

それ程までの業物。


「終わりだ」


 そしてその言葉と共に二発の雷鳴にも似た爆音が響き空気が震える。

 しかし依然として俺の身体には変化は無く無傷であるのだが、しかしその疑問も直ぐに氷解する。



◇◆◇◆


「ぎゃああああああっ!?」


 余りの痛みに私は床に転げ落ちのたうち回る。

 こちらは十キロ先、西と東に分かれて監視していたのだ。

 バレる要素なんか無かったし現にロイ・ドモールも気付いていなかった。


「ば、化け物め……」


 何もかも規格外、此方の常識なんかまるで通用しない。


「そんな奴をあと一つの所まで追い詰めた唯一の存在であるアーシェ・ヘルミオネも奴と同じ化け物だというのか……」


 魔族と人間の違いは体内の魔力の在り方だけではないのか?

 これではまるで人間よりも魔族と言う人種の方が優れていると言っているみたいではないか。

 そんな事は絶対にあってはならないと思うもののそれを否定する明確な答えが出てこない。


「そんなの分かりきっていたことじゃろ……今更いちいち喚くな鬱陶しいババアめ」

「はぁはぁ……貴様は実際に覗いていなかったからそんな呑気な事を言えるんだよ糞ジジイ」


 こいつは昔からそうだった。

 頭が悪い癖に良く喚く野良犬以下の野郎だ。

 もういつ死んでもおかしくない年齢だろうにいまだしぶとく生きながらえていやがる。


「所でお前……額の刺青はいつ入れたのじゃ……?」

「何を言ってんだい。額に刺青なんか入れた覚えはない………まさかっ!?先程の攻撃が術者の私まで…いや、そんな馬鹿な事が……」


 ある訳がないと言おうとするも言葉が止まる。

 何故なら自身の足元に紫色に光る見たこともない魔法陣が現れたからである。

 そして次の瞬間には今までいた場所ではない別の場所に飛ばされていた。

 目の前には土の腕に掴まれ束縛されたロイ・ドモールと一人の魔族。


「あるんだよ、そんな馬鹿な事が」

「あ、ありえない…そんな……」


 正に化け物。

 最早彼は人間どころか生物の頂天に立っているのではないかと思えてしまう。

 たとえクロ・フリートがあのエンシェントドラゴンを倒したと言われても信じてしまうだろう。


「最初の魔術で貴様が操っている死体に攻撃を当て術者の場所を把握しマーキング、そして魔術で此方側に飛ばす魔術を発動したまでだ」


 そして目の前の化物はどうやって私を引き寄せたのかまるで自慢の魔法を自慢するように話し出すと静かに私の方へ歩き出し、私はクロ・フリートが今から何をしようとしているのか直感的にわかってしまう。


「や、やめろ!私はまだ死にたくない!!」

「さぁ、仕上げだ。いつまでこの世界にしがみついている。貴様がいる世界はここではないだろ?【解除】」



◇◆◇◆


「たく、この世界は何でもアリなのかよ」


 そう言うと俺は一つ溜息を吐く。

 先程の名前も知らない老婆はもう既に死んでおり魂を自身の死体に憑依させこの世界に存在していたのである。


 いわゆるアンデットって奴なんだろうな……。


 そう思い土に還り始める老婆の肉体を見つめる。

 その事からあの老婆は死んでからかなりの年月をあの状態で存在していたのだろう。

 それが可能な世界にいるという事を改めて認識するいい機会だったと老婆に少なからず心の中で感謝する。

「さて、帰りますか」


 そう言うとクロはクルム・オーエンを優しく抱え上げるとお姫様抱っこの要領で担ぎ遠くで光る学園都 市ベルホルンが放つ光の方へ歩き出す。

 その時のクルムの頬は若干朱色に染まっていたのだが、幸か不幸かクロは気付かない。

 しかし帰路につこうとするクロをロイ・ドモールが声をかけ静止させる。


「ま、待ってくれ!」

「ん?門を開いて帰らないのが不思議なのか?あいにく門を繋げられるベルホルンにいる俺の知り合いは俺の彼女かその彼女の親かストーカーくらいだ。繋いだが最後この状況の説明をしなきゃならなくなる。その面倒を考えれば担いで歩いて帰った方がマシだと判断したまでだ。あと、そのお前を束縛している腕だがもう少しすれば土に戻るだろう。じゃあ俺は帰るよ……あ、次もし俺の身内に何かしようとしたら存在そのものを消し去るからな」


 クロはロイ・ドモールがなにを聞こうとしているのか何となく察し、それを聞かれる前に別の答えをそれっぽく先に答え、そして釘を刺しておく。


「そっ、そうじゃなくてっ!」

「………お前にルルの事を聞ける権利があると思うのか?ルルの命を奪いに来たお前が」

「……っ!」


 しかしロイ・ドモールは遠回しに「ルルの事を聞くな」というクロの意思表示を先程の流れでその空気を読んだのだがそれでもやはり聞かずにはいられず聞いてしまうもクロにより直接「お前に聞く権利は無い」とバッサリ切り捨てられ、それを言い返す事が出来ず言葉に詰まってしまう。


「まぁ、楽しく毎日過ごしているみたいではあるな……」

「そ……そうか。宜しく頼む」


 クロとしてもロイの心境が分かっているからこそ一つだけ、ルルが今どの様に毎日を過ごしているか伝える事にする。

 もし自分が今妻や娘の事で何か一つ情報を得られるとしたら迷わず「今が幸せであるかどうか」と聞いてしまうだろう。

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