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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第三章
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二人の敵

「はぁ……わたしもクロ様の彼女になりたい……」


 何処からかそんな呟きが聞こえて来る。


 この世界では珍しい黒目に、黒髪を肩程までの長さで整え、手入れが行き届いてるのがわかる艶のある髪。

 冒険者であるにも関わらず身体のラインは細く中性的であり他の男性には無い妖艶さを持ちながら実力は折り紙つき。

 顔は中性的な感じに整っておりそこがまた母性本能をくすぐるかと思えば、不意に見せる真剣な表情からは男性らしさを感じ、そのギャップが女性心を鷲掴む。

 学も高く難しい計算式も難無く使いこなし、様々な知識も多くそして深い上にそれを自慢して来ない。

 礼儀も正しく品性も感じられるもよそよそしさは感じられない上に、たまに無防備な笑顔を振りまいて来る。

 更に面倒見もよく彼の生徒三人を良く外食に連れて行く所なども良く目撃されている。

 そして何より女性というだけで下に見ず同じ目線で話してくれる。


 まさに神が女性の理想をそのまま創り上げた男性と言われても信じれるくらい完璧な男性、それがこの街のクロ・フリートという男性の女性から見た評価である。


「犯されたい……むしろ犯したい!」


 従って、そう思ってしまうのは仕方ない事だろう。

 あの中性的な顔で嫌がりながらも身体は正直で快楽は拒否できない表情をさせたい……それはもうそう思ってしまうのは仕方ない事なのだ。

 そしてその権利がある彼女というポジションの設定で妄想を膨らまし毎晩処理して理性を保てているとしても誰も咎めはしないだろう。

 何故なら皆同じ穴の狢なのだ。清楚そうな人でもクロ・フリート様の事で頭の中を除けば同じ事を考えているものである。


「それは別に良いのですが、彼女になるのでしたらまず私を倒してからにして下さいね?犯すのでしたらそれ相応……それこそ死ぬ覚悟ですら生温いと思える程の覚悟を持って犯して下さい。私が潰しに行きますので」


 同じ穴の狢なのはわかるのだが其れは其れ此れは此れはである。


 もうこれ以上彼女を増やしてなるものかとサラはあの日に決めたのである。

 クロに三人も彼女が出来た理由の一つに、クロが此処までモテる程のスペックだとちゃんと認識していなかった私自身の甘さも無いとは言えないのである。

 であるならば対価に見合った行動は必要であるだろう。


 あの日からクロの下着を嗅げる日が三分の一に減ったし!私だけのクロだったのに!しかもしかも……やっぱりアルとは一線超えてたんですね……それはそれでショックですが、性欲が無いわけでは無さそうですしいずれは………あぁ、クロったら強引なんだから!もう……仕方無いですね。今日だけですよ。


 なんだかんだで独占欲が強くむっつりスケベ全開なサラの妄想は今日も絶好調である。

 そして何時もなら静かに荒ぶるこの街で剣帝の二つ名を持つサラ・ヴィスティンに喧嘩を売る者は居ないのだが今日は何時もと違い初めて見る顔の二人が静かにサラの前に出てくる。


「なら私が名乗りを上げますね……サラ」

「わ、私もっ……名乗りを上げるぞサラ!」


 その二人はサラがよく知る人物であった。


 一人は前回見た時の様な何処か儚げな雰囲気は鳴りを潜め、静かにしかし確かに燃えるうちなる闘志を宿してサラの前に現れる。

 逆にもう一人はその赤髪の様に燃える闘志は鳴りを潜め、まるで悪事が親にバレた子供の様な雰囲気を纏いそれでも譲れない者の為にサラの前に現れたかの様に思える。


「ミイアさんとメアさんですか……以前ギルド会議でお会いして以来ですね。以前お会いした時と比べるとお二人とも雰囲気がガラッと変わった様に見受けられますが………それはクロの影響ですか?」


 そしてそんな二人を懐かしく思い話したい話題なども数え切れないほどあるのだが、二人が今サラの前に現れ名乗りを上げたのなら……それすなわち敵と見て良いだろう。

 ギルド職員仲間として懐かしみ友情を確かめあうのは二人を完膚なきまでに叩き潰してからでも遅くはない。

 そう思いサラは友人であるのはずの二人に本気の殺気を放つとその殺気を感じ取り周りにいた女性達がテーブルや椅子を二人の周りから片付け、遠ざけて行く。

 しかしそれ程の殺気を当てられてもミイアとメアの二人はそれを押し返すが如く更に前へと一歩踏み出す。


「ええ、そうです。私はクロ無しでは生きて行けない身体にされてしまいましたので……彼女程度のサラとは違い私は婚約者ですし」

「私もクロの婚約者なのだが、婚約者と言いながらクロを信じ切る事が出来なかった事を悔やんでいる……だから今回は婚約者としてクロに謝りたいんだ…っ」


 そんな二人はクロとの関係性では自分達の方が上だと言いたげに「婚約者」という言葉を強調してサラの問いに返す。

 その言葉に一瞬サラも含め周りは信じられないとでも言いたげな、声にならない声を出し驚愕するのだが幾つかおかしな点にサラは気付くと冷静さを取り戻す為に深呼吸一つ、意識をクリアにする。


「婚約者だという割にはクロからその様な事は聞いていない上に、半年間も婚約者がクロに音沙汰無しでは信憑性に乏しいのではないのですか。証拠があるなら別ですが……」


 そう、おかしな点とはクロから婚約者について聞かされていない事と、婚約者だと言いつつ半年間も音沙汰無しだったという事である。

 これだけで見れば彼女達がクロの婚約者だと言うのは何かしらの事情が無い限りは無理があるだろう。


「証拠なら」

「あ、あるぞ…っ!」


 しかしミイアとメアはサラのいう通り証拠はあると言うといきなり彼女達が持っている片刃剣と見たこともない魔杖をサラに向け、辺りは緊張感が走る。



◇◆◆◇



「貴様……何者だ。何故俺の名前を知っている」


 そんな少女に抱いた感情はただただ純粋に少女が誰であるかという事であり、自然と口が開き少女へ問いかける。

 だと言うのに何故か自分は目の前の少女がルル・エストワレーゼであると確信めいたものを感じている部分もある。

 頭では彼女がルルでは無いと分かっていても目の前の少女が醸し出す雰囲気や一挙手一投足がルルであると言ってくるのである。


「あら、貴方は私の顔を忘れたのかしら?………確かに、今の私の姿でしたら気付かないのも仕方ないのかもしれないわね」


 そう言うと目の前の少女は少し寂しげな表情を浮かべると門の向こう側へ行こうとし、しかしそこで何かを思い出したかのように足を止めると俺の方へ視線を向ける。

 その顔には既に寂しさは伺えられず代わりに何かを懐かしむ様な表情をしていた。


「そうそう、もしお父さんに勝ちたいのなら、お父さんに対してスキルは使わない事ね、ロッド」


 そして少女はそれだけ言うと今度こそ門の向こう側へ行ってしまい、その門は消えて無くなってしまう。


「はは……やっぱりお前じゃないか、ルル」


 そして少女は確かに自分に向けて言ったのだ「ロッド」と。

 それはルルしかし使わない俺の呼び名である。


「やっぱり俺じゃお前の横には並べなかったのか……」


 そして幼き頃から今まで目をそらしていた事実を今、受け止める覚悟を持つ。

 目の前にはルルを本当の意味で救った男性が静かに佇み、俺を見据えている。

 どう足掻いた所で勝てない事は既に重々承知。

 しかし、其れでも男としての意地だけは捨てたくはない。


「クロ・フリートにはスキルを使うな……か。普通ならこれ程の相手にスキルを使わないのは自殺行為だが……」


 ルルが言うならそうなんだろう。

 そして俺は短く息を吐くと十振りの死が待ち受ける場へと駆け出して行く。


 その瞬間クロ・フリートの周りを浮遊する刀が俺を襲ってくるがそれらを見切り躱し大鎌の腹で弾き防ぐ。

 クロ・フリートが攻めに転じればどうなるか先ほど痛いほど思い知らされた。

 一度ガードするだけでこちらが攻める隙を消されただひたすらガードを崩されるのを待つだけであろうことは容易に想像出来てしまう。

 それは浮遊し攻撃をしてくるこの刀にも言える事であるため、けして刀による斬撃を受け止めようとはせず、躱し攘う事に撤する。

 であるならばクロ・フリートが攻めに移る隙を無くさなければならず、その為にはひたすら攻めに転じるのみである。


 もっと早く…もっと早く…もっと早く…もっと早くっ!!


 もはや身体の限界を超えたスピードだと言うのは軋む身体が教えてくれる。

それでもまだ足りない。

 攻撃速度も威力も何もかも。

 であるならば身体の限界を超えていようとも更に早く更に重い一撃を放つまでである。


 喰らえ………喰らえ……喰らえ…喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ!!


 身体の何処かが切れた音が聞こえてくる。

 視界が赤く染まり、鉄の味が口に広がりその匂いが鼻を抜ける。

 文字通り身体のリミッターを外して更に身体強化のスキルと魔術を重ねがけしている為、もし万が一クロ・フリートに勝てたとしてももうまともに歩く事すら出来ないであろう。


 それでも、まだ届かない。


 ……っざけんな!!


 まるで水面に映る月に手を伸ばす様な感覚に陥り、技も型も無い出鱈目でメチャクチャな…想いだけ篭っただけの素人の様な一撃を放つ。


「………見事だ」


 その一撃がクロ・フリートの虚を着いたのか確かに一撃クロ・フリートの頬を掠めそこから鮮血が滴り落ちる。

 その瞬間クロ・フリートを囲っていた十振りの刀が消え去り、クロ・フリートが賞賛の声を上げる。


 届かないと思った一撃が確かにクロ・フリートに届いた。

 十振りの刀も消えた。

 形勢は逆転したと言っても過言ではない筈である。

 だと言うのにクロ・フリートは口角が上がり実に嬉しそうな顔を見せる。


「良くあの状況で十本刀を掻い潜り俺に一撃を当てたものだ。素直に賞賛できる……だが、そのレベルの対戦相手は既に幾人も倒している。勿論それ以上も」


 そしてクロ・フリートは人間の姿から魔族のそれへと姿を変える。


「だが十本刀を実際に掻い潜ってみせた実力を持っているのも事実……ならば俺もそれなりの装備で行かさせてもらおう」


 頭には二本の立派な羊角が生え、背中には蝙蝠と言うよりもむしろドラゴンの様な禍々しさを放つ立派な翼を広げ、今まで着ていた庶民が着る流行的な衣服か高級品で有ろう事が一目で伺える礼装の様な衣服へと変わっていた。

 堂々と佇むその姿はまさに大魔王と呼ばれるに相応しく俺の本能が逃げろと激しく脳内で叫んで来る。

 その事からもクロ・フリートの姿形だけでは無く戦闘能力までも変化し、さらなる強者へと変貌している事が伺える。

 今まで相手にしていたクロ・フリートは手加減してワザと自身の様々な能力を下げた状態だったのだろう。

 そう思うと今まで感じていた悔しさが更に大きく膨れ上がる。


「さあ、二回戦目を始めよう」


 しかしそんな自分の感情など関係なくクロ・フリートは実に嬉しそうに再戦を口にする。

 それと同時に考えるのを頭の隅に追いやりクロ・フリートが動き出す前に攻めに疾走する。


 自分とて先程の戦闘で何もしなかった訳ではない。

 むしろこれで全力が出せる。


 そして俺は無詠唱で炎の魔術段位三【インフレイム】を詠唱、それと同時に先程の戦闘で設置しておいたエンチャントフィールドタイプの魔術段位一【炎の印章】が反応する。

 この魔術は敵味方関係なくお互いが詠唱する炎魔術の威力が一割上昇すると言う魔術である。

 そしてその魔術により威力が上がったインフレイムが俺の大鎌に纏わり付く。


 その一連の流れを見たクロ・フリートは一瞬目を見開き驚いた様な反応する。

 しかしそこに忌避感と言った感情は見受けられず、逆に新しい玩具をサプライズで手にした子供のようである。

 しかしそんな事は御構い無しに俺は赤い軌跡を闇夜に引きながらスキルではない渾身の一閃をクロ・フリートに放つ。


「……ガハっ!?」


 しかしその瞬間強烈な痛みと衝撃が襲い自分の身に何が起きたのか理解できなかったのだが軋む身体を無理やり動こし立ち上がると自分がクロ・フリートの何らかのスキルか魔術により吹き飛ばされた事に気付く。


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