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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第三章
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十本刀

 キンバリーの一方的なカミングアウトにサラはドン引き、アルは何故か「その気持ち分かるかも知れない…」と呟き、その呟きにサラは「お前もか」と言いたげな雰囲気わ纏い仲間に裏切られたような表情でアルを見つめ、キンバリーはその表情のサラを見ると無駄なドヤ顔をサラに向けたとき、ターニャの純粋無垢な質問が四人の空間にその神々しさを伴い放り込まれる。


 その汚れを知らない純粋さにサラは今までの会話の流れを振り返り急に恥ずかしくなる。

 それはキンバリーやアルも同じなのか先ほどとはまた違った気まずさがこの空間を支配する。


「ターニャ…クロのパンツを嗅ぎながら自分を慰めていたあなたからそのような言葉が出るなんて……」

「い、いいい、言わないで下さいよ!!早く忘れて下さい!」


 そんな一種の問題発言とも取れる発言を投じたターニャに向かってキンバリーが塞ぎかけていたターニャの古傷を強引に抉り塩を塗りたくる。


「ターニャ…君って奴は……」


 そしてターニャの恥ずかしい過去を初めて聞いたアルが神妙な顔つきになりターニャに顔を見せる。

 その状況にターニャは穴があったら光の速さで入っていただろう。

 しかし近場にそう都合よくターニャが入り身を隠せる程の穴など無く、只目を瞑り恥ずかしめを耐え忍ぶ。


「分かってるじゃないか!やはりご主人様の匂いは格別でもって切なくもなり、愛おしくてたまらくなるよな!」


 そんなターニャの気持ちを知ってか知らずかアルは興奮した声でターニャにクロの匂いについて語りだす。

 それについては私も概ね同意見なのだがいかせんここは街酒場の一角である。

 そのためアルが語れば語るほどターニャの顔は真っ赤に染まってゆく。


「もう其の辺にしてあげなさいよ。周りの目もあるんだから」

「おっとすまない。興奮してしまったようだ。この話は後日ちゃんとした場所で密会スるとしよう」

「それと、Мというのはね、好きな人に苛められて興奮する性癖みたいなものよターニャ」

「好きな人に苛められて……興奮…っ!?」


 そして脱線しかけた話を強引に軌道修正させクロの匂いの話から遠ざけようと元に戻す為に簡単にМという性癖について大まかにザクッりと説明するのだが、当のターニャは何か思い当たるフシがあるのかまたもや顔を真っ赤にしてしまう。


 どうやらここにいる3人とはこれからも旨い酒が飲めそうだと私は確信するのだが、今はそのことは二の次である。

 とりあえずアルには聞かなければならない事は山ほどあるのだ。



◇◆◇◆



「八ノ太刀、納刀」


クロ・フリートがそう言い片刃剣を鞘に納めるのが見える。やはり先程の一連の流れは決められた形であるのだろう。

確かにそうすればクロ・フリートの場合安全に一回の流れで四ノ太刀まで行けるのだ。

その数字が何を意味するかは未だ分からないのだが、あの流れが数字を増やす為の動作であるのは明白である。

そして彼のルーティーンの最後は先程同様だと予測し、最後の締めであるはずのスキル空撃ちに賭ける。

そしてその賭けは見事勝利し、その瞬間を狙い俺はクロ・フリートへと一気に駆け出して行く。

最初から全力、出し惜しみはしない。


そして俺は大鎌を持っているとは思えない速さでクロの懐めがけ疾走する。


「スキル、横薙ぎ」


俺がスキルを唱えた瞬間大鎌が真横に振り抜かれる。

このスキルは発生も早く隙も少ないスキルである為牽制として重宝しているスキルであり、大鎌のリーチと隙が無く発生が早いスキルなため使い古してきたスキルである。

その為スキルを放っている自分の方が、スキルを空撃ちしたクロより攻撃するのが遅く、クロの反撃を喰らう想像は誰が予想できようか。


「下段弱、下段中、居合斬り、ダッシュキャンセル、下段弱、下段中、足払い、豪斬撃、ジャンプキャンセル、空中弱、空中中、空中強、ジャンプキャンセル、空中弱、空中中、空中強、蒼月・三日月、超必殺技・雷鳴一閃、九ノ太刀、納刀」


そして思い知らされる。隙が無いからこその一連の流れとして完成された立ち回りなのだと。


更にクロ・フリートが繰り出した斬撃の数々は全て次に繋がる動作で構成されており、彼の攻撃が終わるまでただただ無様に斬りつけられる人形と化していた。

 確かに攻撃を連続的に繋げる事が出来るのは知っているし、自分自身四連撃まで攻撃を繋げる技を持っているのだが彼は一体何連続攻撃を繋げたと言うのか。

 しかも最後は俺の体制を崩させクロ・フリートが有利な形で終わる理想的な形で攻撃を繋げているのだ。


 その瞬間俺は牙を向けてはいけない相手だと本能的に悟り、久しく感じることが無かった恐怖という感情が自分の中を激しく駆け巡り逃げろと警告して来る。


 自分が神成者と言われているランクならば彼は一体何だと言うのだ。

 大層な肩書きを持ちながら放つ攻撃は全て彼の前では戯事に等しく感じられるだろう。


「抜刀、十ノ太刀、解放・十本刀」


 そんな自分にクロ・フリートは技を放ち、それを何んとかガードするのだが今回は先程までの流れと異なり短く終わり方も違う。

 そして何より一連の流れが終わると彼の周囲を囲うように十本の片刃剣が現れており、そのどれもが禍々しいオーラを放ちそのどれもが最低でも国宝級レベルだと分かる。


「対人戦で十本まで出せたのは久しぶりだな……何度見ても素晴らしい」


 そう言うとクロ・フリートは召喚した十振り、そして手に持つ愛刀と合計11振りの片刃剣を携えゆっくりと歩いて来る。

 クロ・フリートが一歩踏み出す度に自分の足は二歩下がる。最早彼を相手にして勝てる想像すら出来ずただどうやって逃げるかという事を必死に模索するのだが、逃げる事もまた想像出来ない。

 ただただ単純に実力の差を確認するだけで終わってしまうのだが、生き残る事だけを考えれば逃げる事しか道は無い。

 逃げられる可能性はほぼゼロに近いのだが、それしか可能性が無いのならそれに賭けるしかない。

 今は無理でも生きてさえいれば一矢報いる可能性もあるだろう。


 神成者としてのプライドはあるが、相手と自分との差を素直に受け止める事が出来なければ他の者と違い特別な能力などを持っていない自分には大鎌一本ではここまで上り詰める事も出来なかったであろう。


 幸いにもクロ・フリートは自分の強さと召喚した片刃剣の姿に酔っている。逃げるとしたら今をおいてこんなチャンス他にはないだろう。


「お父さん、そろそろお父さんの魔力を補充して下さらないかしら。こないだ頂いた魔力がそろそろ切れそうなんですの」


 そんな中、突如二人の間に子供一人通れるぐらいの門が現れゴシック調のドレスを着た少女がその門をくぐり現れる。


 そして俺はその少女に見覚えがあった。


「ま、まさか……いやしかしそんな事が……」


 逃げるとすればこの瞬間こそが最も逃げられる事が出来た場面だったのかもしれない。

 しかし目の前に現れた少女を前にしてそれどころではなかった。

 その少女は幼き頃のルル・エストワレーゼと瓜二つなのである。


 そのルル・エストワレーゼは年齢も少女と呼べる年齢ではなく年齢も姿も淑女として差し支え無い人物である上に彼女の目は普通のソレとは訳が違い、彼女の様においそれと万人に見える様にするべき物ではなく、また彼女もそれを望まない為普段は両の目を眼帯で覆い隠しているはずである。

 しかし目の前の少女は眼帯もしておらず、さらにあの恐ろしい眼の能力の片鱗すら感じ取れない。

 で、あるならば目の前の少女はルル・エストワレーゼの幼少期の姿と瓜二つなだけと理解は出来ていてもその立ち振る舞いや言動その他全てまでもがルル・エストワレーゼだと言っているかの如く本人そのものなのである。


「あら、ロイ・ドモールじゃない。こんな所で何しているのかしら?」



◇◆◆◇



「で、アルはクロと、その……き、キス以上の事をした事は……本当にあるのですか?」


 そう、お互いがお互いの発情した匂いを付けるような行為をしていたとして、そのこういが何も本番だけとは限らないのである。


 く、口でするとか胸……はアルの絶壁では無理でしょうが手でするとかやりようはいくらでもあるのですから何もお互いの発情した匂いを体に付けるような行為をしていたとしてもワンチャンはあるはずです。


 そう一縷の望みにかけるサラなのだが、例え本当に最後までしていたとしても、多少なりともショックではあるもののだからと言ってクロへの気持ちが変わる訳ではない。

 むしろ、クロもちゃんと男であると安心出来るかもしれない。

 だからと言って自分から行為を求める事は生娘であるサラにはハードルが高過ぎてしまうのも事実ではある。


 そんな気持ちを知ってか知らずかサラの言葉が静かに、しかし店全体に響き「ゴクリ」と唾を飲む声が何処かしらから聞こえて来る。

 その様子から店にいる他の客もみんなクロの性事情に物凄く関心がある事が伺えて来る。

 ちなみにアルの性事情を気になる者達は今現在クロの性事情が気になる派閥とのポジション争いに負け店の外に追いやられている。

 男性は古来から女性に対して場合によってはめっぽう弱く今もそれは変わらない。


 そんな中アルが何を喋ろうと口を開け周りには緊張が走る。


「あるよ。最近俺がやっとエッチに慣れて来たから今までは週一回程度だったのが二回に増えてきた所だな」


 その瞬間周りは悲鳴の様な歓喜のような感情が篭った黄色い声が店中に響き渡り、その声を聞き店の外はざわめき立つ。


「う、上手かったか?」


 そして黄色い声が店中に今尚衰える事なく響き渡る中キンバリーには珍しく歯切れの悪い感じでアルに質問した瞬間、先ほどの騒がしさは嘘のように静まり、またも静寂が店を支配する。

 もう店にいる客という野次馬は目が血走っておりアルの言葉を少しでも聞き漏らさないと集中する。


「俺は……ご、ご主人様が初めてだからそもそも……他人と比べる事は出来ないが、物凄くその…………気持ち良いのは確かだ」


 流石にアルも恥ずかしかったのか最後の方はボソボソと喋り普通だと何言っているか分からなかったであろう。

 それでも周りの方達、クロ様ファンクラブの方々には問題無く聞こえたらしく先程以上の黄色い声が店中に響き渡る。

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