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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第一章
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初討伐◇

 ここノクタス地域はノクタスの町を中心として、西にノクタス平原、東にノクタスの森、北にアルグヌス山脈が連なり、南にはナトレア国との国境線でもあるセルミア河が流れている。


 そして俺達はノクタス平原でムヌーという草食獣を狩っていた。


 ムヌーは体調二メートルと大柄だが身体はスレンダーで嫋かな動きながらも力強く疾走する。それに加え気性は荒く仲間以外の動くものはなんでも攻撃するため平原の殺し屋とも呼ばれている。


 しかしその肉は美味く、頭に生えた角は武器に加工できるためムヌー討伐依頼は後を立たず、また依頼料も割高なため毎年多くの冒険者が依頼に挑み命を落とす。


 しかし対処法が無いわけでじゃない。彼らは胡椒の匂いが苦手で、一度嗅ぐと絶対に近づこうとしないので商人達は安全に平原を渡り街から街、国から国へ商売ができるのである。


 逆に冒険者達は、この平原には主にムヌーしかいないため胡椒を所持できないので彼らには腕試しの場所でもあるのだ。


 そしてノクタス平原のさらに西に行くとトルテア海があり、その先に魔族が暮らしている大陸、ガリアン大陸があるのだとミイアに教えてもらった。


 そのノクタス平原に『ダンッ!』という音が響き渡る。


 「な、なんなんですか? その武器は。あのムヌーをいとも容易く一撃で倒すなんて!」


 そんな平原でミイアが目を輝かせながらクロに聞いてくるのだがその姿は想いをよせている先輩にタオルを渡す後輩のマネージャーのようである。


「これは魔弾銃と言い、自分の魔力を圧縮し射ち放つことができる武器だよ」


 クロの説明を聞き先ほどとは違う目の輝きを宿しながらクロが持つ魔弾銃を眺め始めた。触りたそうにしていたので貸してやると「良いんですか!?」と興奮気味にクロから魔弾銃を受け取り「だんっ! だんっ!」とどこか楽しげにクロが魔弾銃を使う仕草を真似しだすミイア。


「あれは大丈夫なのか? 魔弾とやらが暴発したりしないよな?」

「心配すんな、大丈夫だ。あれは俺以外使えないから。ミイアっ暴発の恐れもあるから銃口を人に向けないでくれ」

「す、すみませんっ」


 そしてミイアが銃口をうごかし少しでもこちらに向くと『ビックッ』っと反応し、さりげなくクロの袖を引っ張るメアは新鮮で可愛くもあるのでもう少し堪能したいのだが、銃口を他人に向けるもしくは銃口がすれ違う線上に人がいる動きはマナー違反なのでミイアにこちらに銃口を向けないように言う。


 そしてミイアが銃口をうごかし少しでもこちらに向くと『ビックッ』っと反応し、さりげなくクロの袖を引っ張るメアは新鮮で可愛くもあるのでもう少し堪能したいのだが、銃口を他人に向けるもしくは銃口がすれ違う線上に人がいる動きはマナー違反なのでミイアにこちらに銃口を向けないように言う。


「しかしミイアがあんなに興味を持つとわな」

「ミイアはああ見えて弓に長けてな、使う武器はもっぱら弓なんだ。だから弓以外の遠距離系の武器に惹かれているんだろうな」


 なるほど。確かにミイアの背中には少し小ぶりな弓が背負われている。


 魔弾銃【白い雷・雷鳴】を握りしめ全体的に白ベースの銃身に美しい装飾が施された姿を愛ではじめたミイアを置いて仕留めたムヌーをストレージに仕舞うとメアが羨ましそうにこちらを見ているのに気づく。

 ドラニコもストレージらしき場所から武器をだしていた為気にならなかったが、この世界の住人全員がストレージを使えるわけではなく、限られた少数しか存在しない事をメアから教えてもらう。

 しかし別段珍しいわけでもないのでストレージを使えるからといって強制的に国の道具として使われる事などは無いらしい。

 限られた少数といえど100人に一人という確率は数を揃えれば数人は必ず見付かる確率でもある。


「しかしそのストレージのギフトは本当に便利だな」


 だがやはり冒険者にとってストレージは喉から手がでるほど欲しいギフトの一つで、それだけでストレージを持ってない冒険者と比べ倍以上も稼ぎが変わってくる。そのため馬車の護衛などストレージと関係ない依頼は双方の格差が少ないためいつも取り合いである。

 そして何よりストレージがあると持ち運びが楽なのだ。


 こういう世界の科学技術が発展しない一番の要因は科学より便利な能力があるからなんだろうな。


逆に魔術やギフトなどの方が現代化学より優れてるところも見受けられるため一概にどちらが優れているとは比べられない。


「まあ確かに楽だよな」

「私もミイアも持ってなかったから二人で冒険者業をしてた時は毎日無駄に二人で獲物を担いで帰らなければならない依頼は避けて部位を持ち帰るだけで良い駆除などを中心で依頼をこなしていたんだ」

「なるほど…てかミイアは冒険者だったのか?」

「あぁ。ギルド職員になるには冒険者ランクを最低D+にしなければならいからな。私と二人で頑張って上げたんだ。ギルドが派遣する以上その依頼内容を知っておかなければならなくて、斡旋している依頼の気を付けなければならない点、モンスター討伐方法などある程度知識として持ってないといけない決まりがあるのだ」


 確かに少し考えれば当たり前の事である。経験がない者のアドバイスは説得力に欠けるどころか自らの生死に関わる問題でもあるため憶測でアドバイスすればギルドの信用にも関わってくる為当然の処置だろう。なにより冒険者にナメられる可能性もでてくるのだ。

 ちなみにミイアは仲間外れは嫌だと冒険者に戻るためギルド職員を辞めていた。

 一度ギルド職員になれれば粗相などで辞めてない限り比較的簡単に出戻りできるらしい。ギルド側もランクを上げて新たな知識を得て出戻りしてくれるのなら大歓迎なのだそうだ。そのため一度ギルド職員になった上で冒険者業を再開し、老いたらギルド職員になる者も多いらしい。

 そんな話をしながらムヌーを後二匹狩ると三人は夜営の準備を始める。


「二人とも手際が良いな」

「むしろお前が手際が悪すぎるんだ!」

「でも意外ですね。クロさんが夜営の経験が無いなんて」


 二人は慣れた手つきでクロのストレージから出した竹の骨組みに魔獣の革で出来たテントをスムーズに建てて行く。

 そしてクロはメアに教えてもらいながら自分用のテントをなんとか建てた。


まさか一人でテント一つ立てるのがここまで難しいとは予想外である。


「しかし、本当にこんなテントで大丈夫なのか? ムヌーの体当たりで簡単に壊れそうなんだが……」

「あぁ、それなら問題ない。ムヌーは目が悪くてほとんど見えない。だから夜にムヌーは活動することはまず無いんだ」

「そしてムヌーは鼻がきくのですが自分の縄張りに入ってこない限りまず襲う事はありません。縄張りの範囲は広く約半径10キロ程に及びますので最後に狩ったムヌーの縄張りだったこの場所は数日は安全です」


 メアの説明に補足するミイアなのだが、さすが昨日までギルド職員だっただけの説得力がある説明である。


「しかし、一歩でも縄張りに脚を踏み入れたら…」

「問答無用で襲ってくるんだろ? ビックリしたわ。流石に三回目では馴れたけど」

「はい。そのため肉食獣もこの草原には入りません」


 人間でも誰彼構わず理由もなく突っかかってくる人には近づくたくないのと同じなのだろうか?


 しかもムヌーの場合は命に関わってくる。こんな場所になるとたとえ肉食獣だろうとも生きていくのは容易ではないのだろう。


 しかしそんなムヌーの肉は実に絶品で、その肉は柔らかく、獣臭くもない。また脂はしつこくないためクロはムヌーの肉を約一キロも食べたのであった。

 その夜、ミイアがやけにテンションが高かった理由を聞いてみると「薬を飲んでいるとはいえ発情期には変わりませんから気を紛らわせているんです」と顔を赤らめて言うミイア。

 メアからはデリカシーに欠けると叱られ完全に藪蛇だったみたいだ。



 翌日、朝起きると当然のようにミイアが俺のテントへ入ってきていた。

 狭いテントの中発情したメスの匂いを充満させ、クロに絡みつき比較的小さめなミイアの胸の柔らかさがわかるほど絡みつかれていた。いくら未成年は守備範囲外だとしてもご無沙汰なおじさんの鉄壁のディフェンスも今回ばかりは危なかった。

 ミイアがクロのテントで寝てた事をメアは知っていたらしく、「出遅れた…」とクロに聞こえない声で呟き悔しがっていた。

 二日目はムヌー狩りはせずここから近くにミイアの生まれ故郷の集落があるというので向かうことにするのだがメアの『少し』が少しではないことにあとになって気づくのであった。



◇◆◆◇


 ミイアの生まれ故郷についたのは夕方の四時ぐらいで、朝から軽食と小休止はしたもののストレージから胡椒を出してほぼ半日中歩きどうしだったクロはヘトヘトである。

 ギルドに勤めていたミイアは下に二人の妹がいるため仕送りをするために月一回はこの集落に通っていたらしく、今回も仕送りがメインだとのこと。

 上に姉がいるのだがとっくに嫁ぎ、遠くの街へ嫁いでいったみたいだ。

 両親が死んでいるためミイアの妹たちは祖母が見ているらしく、一行はミイアの祖母がいる家に向かう。


「おばあちゃんただいま」

「おねーちゃんお帰りなさい!」

「なさいっ!」


 ミイアの祖母の家に訪れるとミイアの妹達がドタドタと走って出迎えに来てくれる。ミイアの話だと十歳と四歳らしい。

 二人ともやはりミイアと同じく猫耳があり可愛らしいしっぽが嬉しさを表すようにピンと立っている。

 しかし俺を見るとさっきまでのアットホームな出迎えの空気が一変し、二人から警戒心が溢れはじめる。


「おじゃまします」


 そんな彼女達の警戒心を刺激しないように優しく挨拶する。

 メアは何回も訪れているのか警戒されるどころか一番下の黒い耳を持つミイアの妹に抱き付かれそのまま抱っこをしていた。

 しかしこちらを見る小さな視線からは警戒心は消えてくれないみたいでそれを見かねたミイアが妹達に挨拶するように促す。


「二人とも拶は?」

「今晩は」

「ばんわ」


 その人見知りしている表情も可愛いのでほっこり和んでしまう。このままだとケモナーレベルがまた一つ上がってしまいそうである。


「…あら、見ない顔だねえ」


 ミイアの妹達に遅れて数秒、家の奥から小柄な女性程の大きな三毛猫がのそりと歩み寄るとクロに近づき「スン」と一度匂いを嗅ぐとミイアに目線でクロの紹介を促す。


「私の婚約者になってもらったクロ・フリートさんよ。おばあちゃん」


 ミイアは最低限の紹介を済ますと緊張した面持ちで三毛猫の返事を待つ。


「これは失礼したねえ。まさかこの子が婚約者を連れてくるとは思わなんだでな。私はミイアの叔母でミヤコ・アウフレヒトというでな」


 ミイアの紹介を聞き一度目を大きく見開くミヤコであったが、ミイアから漂う独特の甘まい匂いを嗅ぎとると柔らかな笑をクロへ浮かべ、ミイアは安心したような、嬉しいような顔をしていた。

 クロはというと巨大な猫、ミヤコが来た時点でビックリし、さらにその猫が流暢に喋った事に驚きそれを隠すので精一杯なのだがそれを表に出さず自己紹介をする。


「こちらこそ挨拶が遅れてすみません。ミイアさんと婚約させてもらいましたクロ・フリートと申します」


 未だ若干の恐怖があるもののとりあえず力の限りモフってみたい。いや、モフらして下さい。


「それでおばあちゃん、今月の仕送りとムヌー肉のお土産。クロさんが狩ってくれたんだよ?」


 ある程度自己紹介が終わったところでミイアが仕送りを渡すと「昨日捌いたムヌーをあげても良いよね?」というので快くムヌーの肉を差し出す。


 ミヤコはミイアから仕送りを肉球のついた手で受け取ると「こんな所じゃクロさんに失礼だから部屋の中に入ってくださいな」と言いながら手を後ろ手に二足歩行をしながら客間に案内し始めるその姿はますますクロのモフりたい気持ちを刺激していた。


「まったく、仕送りはいらないと言ってるんだけどねえ。あの子に子供ができたら今みたいに会えなくなるだろうねぇ…」


 その途中ミヤコは嬉しさと寂しさを交え呟くのであった。



 ミイアの故郷であるノクタス領内猫族集落は人口五百人前後で土地がら土に優れ主に農作物を収入源にしている農村地区であり。また日本風の平屋が多く懐かしい日本の田舎の風景といった感じである。

 家の中もクロの想像と同じく昔ながらの良く見る木造の平屋といった感じで客間に着くまでの板貼りの廊下を歩いているとここが異世界だという事を忘れてしまいそうである。

 流石に畳や襖、障子などはなく、また土足なため当たり前なのだが客間も板貼りの床だったため完全に日本と同じというわけではないみたいなのだが。


「今から、頂いたムヌーの肉を早速調理して来るきねえ、ここのテーブルでも腰をかけててくださいな」


 そう言うとミヤコが奥に消えて行き、入れ替わりで人数分のコップを置いたお盆をミイアの妹、三女のミーコが持って来てくれる。

 ちなみにミイアの姉妹の名前は上から長女ニャーコ次女ミイア三女ミーコ四女ミオという名前である。そして祖母がミヤコで亡くなった両親が父フシャーと母ナーオだという。


 鳴き声か!というツッコミを寸前で飲み込む。危なかった。


 そんなたわいもない話をしていると料理ができたらしくミヤコが肉球の手で器用に大皿に入った料理持ってを運んで来てくれた。

 あの肉球の手で包丁などを使い料理を作る所を想像すると大きな猫の見た目も相まって可愛く思える。

 合計三品の料理と白パンが運び終わり食事に入るのだが、未だに黒パンに出会わないので地味に期待していた分少し残念でもある。


 白パンは想像以上に美味しくちゃんとイースト菌などを使っていることが伺えるので不満はないのだが、やはり異世界と言えば剣と魔法、そして黒パンだと思っていたためいつか食べてみたいものだ。

 料理の内容はムヌー肉の野菜炒め、ムヌー肉のシチュー、ムヌー肉のステーキである。

 ムヌーの肉は昨日食べた、味付けが塩のみでも十分に美味しかったのだが、調理をしたその肉はまた一段と美味しく、実に満足できる食事であった。

 晩食後、離れにある小部屋にお風呂があり食事中お湯を炊いてたそうで、久しぶりの風呂に心と身体をリフレシュする。

 その後メアとミイアがミイアの妹を寝すついでに一緒に就寝しに行った後、クロはミヤコに呼ばれ縁側ですわる。


 あたりは暗く蛙と虫の音色で溢れており、少しの時間その音色に耳を傾けているとミヤコの気配を感じ取る。


「ありがとうございますじゃ」


 クロの隣りに腰掛けたミヤコは手に葡萄酒を両手で握り、つぶやくようにクロに感謝を告げる。


「……できた娘さんですね…」


 二人の言葉はそれっきり交わすことはなく周りに溢れる音色を肴に葡萄酒を飲む。

 日本で生活しているとけして体験しなかっただろう贅沢な時間が緩やかに流れていった。


二人とも手際が良いな※日本産まれ日本育ち故に出た感想の事

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