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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第三章
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性癖

「な、何するんですのっ!?」


 すると彼女は顔を真っ赤にしキッとクロを睨みつけるもその手を払い退ける事はしない。

 なのでクロは彼女の言葉に返答せず、今度は優しく撫で続ける事にする。

 すると彼女は一瞬満更でもない顔をすると次の瞬間にはクロの手を払い退けようとするもそれをいなされ、それどころかいつの間にかクロに抱き抱えられていた。

 あまりに一瞬過ぎて何が起きたのか訳がわからないといった顔で彼女はクロを見る事しかできない。


「頭を撫でるのは俺の癖みたいなもんだ。気にするな」

「お前はそうやってルルの頭も撫でたのか?クロ・フリートさんよ」

「撫でたと言ったら?」

「安心しろ。撫でたと言わずとも貴様を殺す」


 次に彼女が見た世界は夜空に輝く星々と遠くに見える学園都市ベルホルンの街明かり、そして大鎌を肩に抱えている金髪で長髪の男性である。

 いつの間にかクロは外に転移し、その程度では目の前の男性を撒くことは出来なかったみたいである。

 その男性と目が合った瞬間、彼女は確かな死を感じ取りガタガタと言い様のない恐怖に震え始める。

 しかしその恐怖も長くは続かなかった。

 彼女が震え出した時クロは彼女を抱き大丈夫と優しく囁き掛けてあげたその効果は絶大だったみたいである。

 そんな彼女にクロは優しく語りかける。


「今更だが君の名前を教えてくれないか?」

「……クルム……クルム・オーエン……です」

「ではクルム……お休み」

「え……」


 クロは静かにパチンと指を鳴らすとクルムに催眠の効果がある魔術の一つをクルムにかける。

 その間目の前の男性は静かにクロの行動を見ていた。まるでいつでもクロを殺せると言っているかのように。


「この俺様を目の前にしてずいぶんと余裕じゃんか。さすがルルを倒しただけの事はある」

「それはお前も同じだろう?其れ程の強敵と知り切れと言わんばかりの隙を見逃している」


 そう、それは正に不自然である。クロをクロと知り殺しに来たのなら確実に殺せるタイミングをみすみす逃す様な彼の行動は言い様のない違和感をクロに与える。

 そしてその違和感は次の彼の言葉で解決する。


「アーシェ・ヘルミオネとの戦闘で無詠唱と高段位魔術が、そしてルル・エストワレーゼとの戦闘で殆んどの魔術が使えなくなってんだろ?」


 クロを見る彼のその目は何処までもクロを見下し、その口は嘲笑い、その表情は確かな殺意を宿す。


「今までの報告が確かならお前の戦闘スタイルは魔術を基本とし相手を束縛して勝つ戦闘スタイルだろう」

「まぁ、そうだな。しかし、魔術だけが得意なスタイルじゃあやってけないよ……向こうの世界は」



◇◆◇◆



 そういうとクロ・フリートは静かに歩み寄ってくる。

 その姿からはただの優男にしか見えずあのアーシェ・ヘルミオネやルル・エストワレーゼを倒した卓越した魔術師とはとても思えない。

 そう思うも俺は相棒の大鎌、漆黒を構える。


「特殊な結界を作り闘う事も出来るんだろう?なぜしないんだ?」

「ああ、あれには発動するのに条件が幾つか揃ってないとできなくてな」

「ふーん」


 使わないという事はそういう事なのだろう。そんな事はいちいち聞かなくても分かる事だがその間僅かでも時間を作りクロ・フリートを観察する。


 その足取りは明らかに素人、身体つきも細く魔術が使えなければ一般人と言われても遜色はない。

 命の奪い合いなんて無縁の表の世界の住人……それが俺が今彼を見て抱くクロ・フリートの印象である。

 しかしクロ・フリートからは焦りも緊張感も見受けられず魔術を使えなくても勝てるという確かな余裕がそこに合った。


「でさ、お前、今の状況わかってんの?」

「その言葉をそっくりそのままお前に返そう」


 そういうとクロ・フリートは疾走し俺へ細い片刃剣を何もない空間から取り出すとその片刃剣を俺へと打ち下ろす。

 その太刀筋は明らかに素人のそれでありクロ・フリートの自信を裏付けるものではない。

 そして俺はクロ・フリートの余裕は単なるハッタリだと考え、反撃しようとするが、身体が重く硬直した様な感覚に陥る。

 そしてその1秒にも満たない拘束から解放されると、既にクロ・フリートは技の構えを取っており、反撃は諦め防御に集中する。


「抜刀スキル・一ノ太刀、納刀、居合、ニノ太刀、納刀、抜刀、三ノ太刀、納刀」


 そこから放たれるクロ・フリートの聞いたこともないスキルを続けざまに防御してゆく。

 そのスキルはダメージこそ少なそうなのだが恐ろしく速い。

 更に彼が納刀と言い武器を鞘に納める度に言いようもない不安が増して行くが、クロ・フリートは三ノ太刀後武器を納刀した後ステップを踏むかのように後ろに二三歩分後ろに下がる。

 それを見逃さず攻めようと一歩前に出ようとするも違和感を感じぐっと立ち止まる。

 そして次の瞬間には自分が一歩踏み込んでいたのならば本来足が踏み込むであろう場所に避けきれない起動で斬撃が「下段中」と言う言葉と共にクロ・フリートから放たれる。


 彼の後退が自分を誘い込む誘導であると気付きゾッとする。

クロ・フリートは明らかに魔術だけでなくスキルを中心とした闘いにも慣れしている。それも強者との闘いにだ。

 其れ程にクロ・フリートが繰り出した先程の一連の流れは隙が無い上に無駄が全くないのである。

 S級の冒険ですらスキルを多用した攻撃は何処かしらに隙が生じるものであり、その隙を見付け出し攻めると言うのが常識である。

 あの一連の流れだけを見れば明らかにクロ・フリートはS級以上の実力であるといえよう。


「四ノ太刀、納刀」


 そしてクロ・フリートは明らかに斬撃が届かない位置に居ると言うのにスキルを放つ。

ただでさえ隙が生じるスキルの空打ちをする理由、そしてクロのスキルに四が付く事を考えるにクロ・フリートの放つスキルは空打ちしてでも数字を上げたい代物であり、それだけのリターンが必ずそこにあると言う事である。

 そして先程の一連の流れは四ノ太刀までがデフォルトであり、確実に四ノ太刀まで安全に繋げる事が出来る事がうかがえる。

 そしてそんな事を考えている中、クロ・フリートが一気に距離を詰めてくるのが視界に映る。


「こいつは…強いわ」


 たった一度の攻防でクロ・フリートが強者であると自分の中の彼の評価を改め、改めてクロ・フリートとの闘いに集中して行く。



◇◆◇◆



「だ、だからアルはクロ・フリートとその……き、キスとかっその……したのですか…!?」


 酒の力を借りているといえど恥ずかしやら情けないやらで途中から尻すぼみになってしまうが、それでも私はアル・ヴァレンタインに以前から気になっていた事を聞くことが出来、安堵する。

 この一言を言うのに実に1ヶ月はかかったのだ。その理由にS級というランクに上り詰める実力も強者との闘う勇気も経験も全く役に立たなかった事が挙げられる。

 剣帝と呼ばれても恋には臆病なのだと自分の新たな一面を知りサラは悶々と過ごしてきたのだ。

 それもこれも付き合い始めてもうそろそろ半年だと言うのに何もして来ないクロが悪いと結論付けるも本人に向かって「何かしら彼女として一歩進展を望む」という事はあまりに恥ずかし過ぎる為とてもじゃないが言えないので奴隷であるアル・ヴァレンタインに今こうして勇気を出し酒の力をも借りて聞いているのである。


「わ、私も気になります!!」


 そして自分と同じ気持ちなのかターニャ・カルロスも眼鏡を怪しく光らせアル・ヴァレンタインに詰め寄る。

 ちなみにカエデとルルはお留守番である。


「何だお前ら……初夜はまだだとは思っていたがキスもまだなのかよ。お前らが奥手なのが悪いのかご主人様が奥手なのが悪いのか」


 そしてアル・ヴァレンタインは自分達を心配する素振りを見せるも何処か勝ち誇る様な表情を見せる。

 その圧倒的なまでの余裕めいた態度に私は一抹の不安を抱く。

 いやまさかとは思うものの彼女はクロの奴隷であり、クロの所有物なのである。

 であるならばそうゆう事があってもおかしくはなく、また世間一般的にもそういう事がないとおかしい間柄でもある。


 いやでもクロに限ってそんな事が…いやいや、常識的に考えたらクロがアルに対してそういう事をする事は当たり前で……ってそれは私も同じ立場なはずで……ならばアルのどこから来るか分からないあの自信は……ハッタリ!?。


 サラはそう自分の中で答えを導き出すと先程まで顔面蒼白だった顔にも血色が戻り、側に置いてある果実酒の入ったグラスを一口口に含みコクリと飲み込む事により落ち着きを取り戻し緊張も和らげる。


「サラとターニャはクロさんとアルさんが男女の関係を何度か持っている事は知ってなかったの?」


 和らげると思った矢先私の左隣りに座って、テーブルに置かれた酒の肴である食べやすくカットされている干し肉を別に頼んだサラダと一緒に食べながらキンバリーはサラッと爆弾を放り投げて来る。


「わ、笑えない冗談ね」

「ソソソソソウデスヨ」


 そしてキンバリーの放り投げてきた爆弾に私とターニャが隠しきれない動揺を見せる。

 頭ではそれが当たり前だということは理解できていても心がそれに追いついて来ない。


「流石に犬の獣人には分かっちまうか」

「まあね。たまにアルとクロ、互いから互いの発情した臭いが染み付き臭う事があるしねー」

「ナ……ナンダッテ」


 そして頭もキンバリーの言う事が追い付かなくなってくる。

 その後ろで「わ、私も……奴隷契約して貰えば……」とターニャがぼそりと呟くのが聞こえその気持ちが痛い程分かってしまう自分がいる事に気付く。


 クロとどどどど……奴隷契約だなんて………奴隷契約だなんて……。


 そこから妄想されるは奴隷としての一般的な日常。クロの性欲を処理する自分の姿である。

ある程度妄想した後納得いかない事があり、サラはキンバリーに問いかける。


「それで……その話が本当だとしてなぜキンバリーは平気なのですか?」

「ああ、一種の焦らしプレイだと思ってるから私」


 そう答えるキンバリーの顔は実に恍惚としていた。

 さらに追加情報として「ほら、私ってMだからさー」と知りたくも無い友人の性癖を言われ軽く引く。


 何故ならその事が嘘偽りない性癖だと彼女の恍惚とした顔を見れば分かる為により一層引いてしまう。


「M……てその、なんですか?」


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