表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第三章
44/121

どうでもいい事

「本来マンティコアには段位や威力関係なく魔術は無効化されるはず……何故あの魔術はマンティコアに無効化されていないんだ」

「この光魔術段位五【神の裁き】は相手のオートスキルの効果を打ち消し、それによって打ち消したオートスキルの数掛ける2の数、本来のダメージの威力をあげる効果を持っています。そしてあのマンティコアはオートスキルを三つ持っておりまして、【魔術で受けるダメージを無効化】【物理攻撃で受けるダメージを軽減】【自然回復】を持っておりました。よって私が放った【神の裁き】のダメージは六倍に修正され相手に与えられます」


どうやら思っていた事が無意識に口から出ていたらしく、俺の疑問をセラという女性が説明してくれる。

そして今なお光の剣により動きを封じられているマンティコアを見る。

彼女の話だけ聞くと信じられないのだが目の前で起きている奇跡を目の当たりにしてはその内容が真実と思わざるを得ない。


それでもマンティコアは未だ倒れずその巨躯に刺さった無数の光の剣を無理矢理引き抜こうとする。

俺たちは今までとんでもない化け物を相手にしていたんだと改めて思い知らされるとともにその光景を見ても未だ余裕めいているセラを含む三人の女性と自分との力量の差を見せ付けられる。


そして目の前の光景に打ちひしがれてかけている自分の横をウィンディーネという女性が涼やかに、そして軽やかにマンティコアの方へ向かっていく。


「いい加減眠りなさい。スキル【氷龍の一振り】」


ウィンディーネは空気中の水分を集め、それを凍らせて氷の刀を作ると一閃、目視出来ない彼女の一振りの後マンティコアですら小さく見える程の巨大な氷の龍が現れマンティコアの真上から氷龍が頭から勢い良く突っ込みマンティコア共々砕け散って行く。


「未だこの程度の小さき氷龍すら受けきれないない程度のボスなら次の最終ボスもたかが知れていますね。何だか拍子抜けです」

「ですが難易度が上がれば彼女達を連れて来れなくなりますからこの程度で良いでしょう」

「そんな事よりもご飯。お腹空いた」

「なんかもうこの光景に驚かなくなった自分が嫌だ」

「無乳に同感」

「むっ、無乳ってどういう意味よ!?」

「貧乳はまだ胸がある表現でしょ?だから胸の起伏がないミセルにはっグボヘアッ!?」


そして彼女達はこの部屋に入ってきた時同様に緊張感の無い雰囲気のまま休息に入り、その光景に先程までの惨劇は夢だったのではと思ってしまいそうになる。

いったい俺と彼女達との実力の差はどれ程離れており、どれ程の鍛錬をすればあのマンティコアを目の前にしても危機感無く立ち回れるのだろうか?

それ程の力が有れば腐った貴族連中の思惑も気付かずダンジョンを制覇できたのだろうか?


「貴方達はどうするのですか?」


いくら考えても答えは出るわけもなくただ立ち尽くしているとウィンディーネという女性が話しかけて来た。


これから俺たちはどうするのだろうか?

最深部手前のフロアボスでこの様である。

せっかく助かった命をわざわざもう一度危険に晒す必要も無いだろうとは思うものの、彼女達と最深部ボスとの戦いを観戦したいという欲求も沸いてくる。


しかし、まずは自分達の復讐だろう。


「そうだな……まずは帝国に戻り自分達の復讐を果たそうかと思う」

「……貴方達が復讐しようがしまいがそんな事私達には関係ないわ。そんなどうでもいい事じゃなくて、貴方達はご飯はいるのか聞いているのよ?」


ウィンディーネの言葉にコンラッドが答えるとベッテン含めた部下全員が決意を宿した目を向けて頷くのが見える。

やはり皆今回の一件は思う所があるのだろう。


しかしコンラッドの決意、帝国軍の青の口から反旗を翻す発言に目の前のウィンディーネは「そんな事」「どうでもいい事」と切って捨てると一緒に食事を取るかどうかを聞いてくる。

そんな態度にベッテンが反論しようとするも目の前の女性の実力を、そして命の恩人でもある事を思い出し口を閉じる。

そのベッテンからは帝国軍としてのプライドも、神童と言われ育った意地も、期待に答える為に努力してきた自信も、今のベッテンからは見る影すらなくただ項垂れてしまっている。


「クク……ハハハ……アッハハハハハッ!いやすまない。そうだな、実は腹が減っているのでここは素直にご馳走して貰うとしよう」


そんなベッテンの姿を見て、ウィンディーネの眼中にすら入っていない帝国軍という肩書きの軽さにコンラッドは思わず笑い出してしまう。

そして笑う事により緊張感が解れたのかコンラッドは空腹を感じ、そしてウィンディーネに食事を催促する。


「では食器を渡しますので皆さん私の所まで来てくださいね」


そしてコンラッドの返事を聞いたウィンディーネはストレージから食器を出すとコンラッドとベッテン、そして部下達全員に配りミセルとレイチェルへストレージから大きめな鍋と大量の材料を渡す。


「………こ、コンラッド大佐……渡されたこの二本の棒は何ですかね?」

そしてウィンディーネから食器を受け取ったロン・フルムがコンラッドに食器と一緒にわたされた二本の棒を手に取りマジマジと見ながらコンラッドにこの棒の用途を聞いてくる。

最年長のロンが分からないのだ。俺が分かるはずが無いだろうと思いはするもウィンディーネの手前何故か分からないとは言いたくないと思ってしまう。


「貴方達はお箸を知らないのですか?」

「お箸?なんだそりゃ」

「スプーンやフォークと同じ食べ物を食べる為の食器です」


そんな小さな見栄のせいで言葉に詰まったコンラッドに変わりウィンディーネがロンに二本の棒の説明をしだす。

どうやらこの二本の棒はウィンディーネの説明を聞いた限りでは『お箸』という食器なのだと言うのだがどの様に使うのか見当もつかない。


それは俺だけでは無くロンや他の部下達も同じく見当もつかないみたいなのがその表情から見て取れるのだがベッテンだけは「フォークみたいにぶっ刺すのね!」と納得しているみたいである。


「このお箸は物を挟み掴む道具です。それに刺す事は行儀が悪い使い方ですよ」


しかしそんなベッテンの反応にウィンディーネはため息を一つすると苦笑いを浮かべ自らお箸を手に持つと片手で器用に二本使い綴じたり開いたりを繰り返す。


「クロ様やクロ様のご友人方はいつもお箸で食べていたからお箸が主流だと思ったのですけれど、ミセルやレイチェルもお箸を扱えなかったわね………ではフォークとスプーンを……」

「いや、命の恩人にそこまでして貰っては悪いのでフォークとスプーンは自分達のを使わせてもらうわ」

「そんな事よりも食事のメニューはなんなんだ!!」

「ミセルとレイチェルに聞いて来なさい」


自分達がお箸を使えないと知るやウィンディーネはストレージからフォークとスプーンをたり出そうとするのだがベッテンを除くと唯一の女性、アニス・サイフリッドがそれを制し、ルシファーという少女が食事のメニューを聞き出そうとするもウィンディーネには分からないらしくメニューが知りたければ今まさに調理中のミセルとレイチェルに聞いてくるように言うとルシファーは「ミセルー!!レイチェルー!!何作ってるのっ!?」と食事を作っている二人の元へ駆け出して行く。


一見大人しそうに見えるルシファーなのだが彼女はベッテン同様ジャジャ馬娘なのかもしれない。


「……何ですか?大佐」

「いや……なんでもない」

「そうですか。あ、大佐……足癖の悪い馬に気を付けて下さいね」






「結局最深部まで付いてきたのですね」

「ああ。帝国に戻る前に本当に自分達は騙されていたのか知りたくてな。あと君達が最深部のボスと戦う所を見てみたい」

初めは自分だけついて行き、部下は引き返させるつもりだったのだがその部下も何故か全員付いてきている。

あれ程の脅威から救われたというのに更に上の脅威が待つ場所まで良く行こうと思ったものだと言うと「コンラッド大佐にも当てはまりますよそれ」とベッテンに突っ込まれると同時に結局は全員真実が知りたいのだろう。


そして脅威すら軽くあしらう強さを持つ冒険者の方達もいるのなら真実を自らの目で確かめに行こうと思うだろう。


例え真実だろうともう以前の様に忠義を尽くせない為帝国軍に戻るつもりは無いのだが……。


「姫がもし本当に捕らわれていたのならどうします?」

「自分にはどうする事も出来ないだろうな」

「そうですね」


今回我々がこのダンジョンに来たそもそもの理由が、我が国王の長女スカーレット・ヨハンソン姫がこのダンジョン最奥地に捕らわれていると言うとにわかにしんじれない目撃情報によるのも出会った。

しかし帝国側はその情報を単なる噂で片付けるどころか信用し、我々を派遣したのである。

今思えば疑わしいと思えるのだが……。


そんな事を内心思っているとセラが最深部ボス部屋だと言うのに何のためらいも無くその部屋の扉を開ける。

その部屋にある人物を見た瞬間、何故こんなダンジョンにスカーレット姫が捕らわれているという信憑性すらない情報を帝国側が信用したか理解できた。

それと同時に背筋が凍りつき先程のマンティコアですら生温い程の死が俺を襲う。


「まさか一日で最深部まで来ちゃうとはね。しかも帝国軍まで来てるし……マンティコアは失敗だったのかな?」


そこに居る筈のない人物、帝国をここまで大きな国にした立役者の一人で希少種かつ強大な力を持つとされるヴァンパイア、その中でも特別な存在である真祖と位置づけられる唯一の存在が自分達の目の前にいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ