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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第三章
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断れない性と下心

「で………クロの下着を破き破損させてしまったと……?」

「………はい」

「………い、命だけは……」


そしてキンバリーとの奪い合いから約一時間、私とキンバリーは鬼の前で土下座をしていた。

それもそのはず、この鬼もまたつい最近までは私と同じ行き遅れ仲間だったのである。やっと出来た彼氏のパンツを彼女でもない女性が奪い合った挙句破き引き裂いたのだ。

その怒りも当然である。


穴があったら入りたい……。


耐え難い恥ずかしさと後悔が土下座している私を鬼の怒気が籠っている視線と共に押し潰されそうになる。


「全く、今日はギルドが休みだったからクロのお手伝いに行っていたのですが……クロの汗を拭うタオルなどを忘れ一度宿まで取りに戻ってみれば……」

「スミマセンスミマセンスミマセンスミマセン」


もはや言い逃れ出来ない状況を見られた事を今一度思い出し今以上の恥ずかしさが私を襲い、それを誤魔化すために呪詛のように謝罪の言葉を繰り返す。


「ば、晩御飯奢るからさあ……ね?許して?」

「誰が勝手に土下座を解き頭を上げて良いと言ったかしら?キンバリー……」

「………スミマセン」


せっかく鬼の怒気が和らぎかけたというのに雌犬のせいで鬼の怒気と戦闘力が跳ね上がるのが背中越しに伝わってくる。


「で、あなた達はクロの下着で何をするつもりだったの?」

「……せ、洗濯………ではなくて………」

「ではなくて?」


この後に及んでまだ言い訳をしようとする私の声を遮るように鬼の方から殺気を放たれ言葉に詰まる。

自分がしようとした行為を第三者に口で伝える………これほどの拷問、死んだ方がマシなんじゃ?と思わずにはいられない。

鬼の方もそれを理解しているのだろう、その事から鬼もまた私達と同志である事が伺える。

しかし鬼と私達との間には彼女とその他という分厚い壁が立ちはだかっており線引きされている。

もし分厚い壁など無く同じ身分で私達の癖が露見されたのならきっと違った明るい未来が築けたであろう。


「………クロさんの前でオシッコ漏らした癖に……」


そんな時、キンバリーの口から聞き間違いでは?と思ってしまうような内容が呟かれる。


「……なっ!そ、それは……っ!!」

「言い触らすよ?」

「な……何がのぞみなの?」

「洗濯されてないクロさんの下着」

「………グヌヌ…」


そしてキンバリーは物凄く良い笑顔で鬼に告げ、対象的に苦虫を噛み潰した様な表情をする鬼。


「………………やぱりダメ!クロの下着も臭いも私の物です!!」


この鬼、げに恐ろしきは独占欲か。


「じゃあ言いふらしに行こうっと」


そしてこのキンバリーのクズ具合である。


「ちょ、こらっ!待ちなさいキンバリー!!」

「……クロさんの下着」


キンバリーはその獣人特有の脚力を駆使し駆け出すのだが、鬼の呼びかけに素直に止まると先程交渉決裂したはずの要求を再度求めて来る。








「や、やるじゃない………」

「き、キンバリーこそ……」


そこにあるのは小一時間ほど戦った者にしか解らない友情と満足感、そして硬い絆が構築されていた。


「………」


しかしそれを美しいと、羨ましいと思えるかどうかはまた別問題であり先ほどの戦いと言う程でもない単なる喧嘩を一部始終見た私は何故だかあの喧嘩に加わらなくて良かったと心から思えた。


「………帰って来るのが遅いと思って来てみれば、サラ達は何をしてたか分かるか?」

「く、クロさんっ!?あ、その……なんか、理由は知りませんが先程まで喧嘩していたのですが仲直りしたみたいです」

「……そうか……ありがとな」


そう言って私の頭を撫でてくれるクロさんの目は何故かサラさん達ではなくもっと遠くの方を見ている様な気がするのだが気のせいだろう。

そんな些細な事よりも今はもっとクロさんに頭を撫でられたいという欲求が私を支配し始め、その欲求を無理やり精神力で何とか押さえる事に忙しい。


「どうした?顔が赤いぞ?」

「…………っ!?」


そう言うとクロさんは私のおでことクロさんのおでこをくっ付け、声にならない悲鳴が出てしまう。


ああ、もう……ダメだ。押さえられない。


「……うん、熱は無いようだが…………なっ!ちょっ!?んむっ!?」

「………こ、これが私の気持ちです!!ででで、ではっ!!」


あんな事をされては今まで我慢して押し殺してきたきた私の気持ちを押さえる事が出来るはずも無く、私はクロさんの首に両手を回すと一気に引き寄せ強引にキスをする。


初めてのキスは歯がぶつかりムードも無く、でも少し誇らしく思えるキスだった。


そして宿を飛び出し猛牛の様に走り去るのだが結局飛び出した宿が自分が帰らなければならない家であると後になって気付き頭を抱える私であった。



◇◆◆◇



今は夜、虫の声が綺麗な音を奏でている今現在サラとアルの機嫌が悪い。

どんぐらい悪いかと言うととにかく悪い。兎にも角にも不機嫌である。

理由は分かっている。

新たに彼女が出来たからである。


「クロさん……」

「な、なんだ…?」

「く……く……クロと、呼んでも……良い?」

「あ、ああ……イインジャナイカナ」

「………クロ………呼んだだけ……うふふ」


ビキッ……


どこからともなく何かにヒビが入った音がする。

よくよく見ると部屋にある机に置かれたコップにヒビが入っていた。


「そろそろ自分の部屋に戻らないとお母さん心配するんじゃないかな?」

「そ、それは大丈夫です。ま、孫を孕むまで帰って来なくても良いと……その……言われてますので……」


このカオスな空気をなんとか入れ替えようと話題を変えようとしたのだが、何故かコップのヒビが増える結果になる。

コップがコップの形を維持している事が奇跡に近いぐらい増えているのは気のせいだろう。


「それに、私だけクロの部屋を出るなんて……た、確かに皆さんみたいに美人ではないですし、む、胸だって魅力的とは言えませんけど……」


そうポソポソと喋るターニャなのだが、ここは聞こえないフリをする。




文系眼鏡爆乳であり種族は牛の亜人種




至れり尽くせりである。

これで魅力的では無いと申すかと反論したい気持ちが出かかるのだが何とか飲み込む。


しかしその時、先程までは何とかコップであった物は無くなり、粉々に砕け散って行く。

さり気無くアルの方へ目線を向けると魑魅魍魎の類いがアルの背後に数多見えた気がしたのだが、気のせいだろう。

だがしかしその魑魅魍魎も直ぐに霧散し、サラと比べ若干余裕が見受けられる。


「もうっ……分かったわよ。クロとターニャの交際を認めるわよ。ターニャと昔からの付き合いだし……」

「サラ…」

「ターニャ……チョッと、間空けなさいよ」

「……ヤダ」


そう言いながらもクロとターニャの間に割って入ろうとしているのだが入ろうとすればする程ターニャはクロにしがみつき、ターニャのお乳様がクロに押し当てられ縦横無尽にその形を変化させてゆく。



あ、テーブルにヒビが……。



ちなみにルルと楓はこのカオスな空間の中二人仲良くクロのベッドで眠っていたりする。

仲が良いんだか悪いんだか分からない二人なのだが、今日ばかりは二人仲良く寝ててくれて有難いと思ってしまう。


「な、なら俺は空いてるクロの前に座らせてもらうか」

「…………っ!?」

「………な、なんだと……」


そして未だサラとターニャでじゃれ合っている中、アルは圧倒的オーラを放ちながらおもむろにクロの前に座り身体をクロへと預け幸せそうな顔をクロに向ける。


「な……撫でてくれないか?」

「ったく……少しだけだぞ」


そしてアルはクロに新しく彼女が出来た事などまるで眼中にないかの如くクロに甘えだし幸せオーラを放ち出す。


「サラさん………」

「まずはお互いに手を組み倒すべき敵がいるようね……」


そしてサラは無言でクロの空いてる左側へ回り、寄り添う様に座るとアルを撫でていた腕を取り抱きつく様に腕を掴む。


撫でていた手がアルから離れ少し名残惜しそうにするアルなのだが何かを思い出したのかクロに顔を向ける。


「ところでクロはターニャに教えたのか?」

「何をだ?」

「お前が大魔王クロ・フリートだって事をだよ」

「な、何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええっ!?」

「き、キンバリーあなた盗み聞き…………って、だ、だ、だ……大魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!?」


その瞬間クロの部屋のドアが勢いよく開き、コップを握りしめたキンバリーが雪崩れ込んで来るとすかさずターニャがキンバリーに抗議しようとするもアルの言葉を理解した瞬間キンバリー同様叫んでしまう。


「う、嘘ですっ!そ、そんなはず……ありません!……全く驚いて損しました」

「た、確かに匂いからは魔族特有な匂いも感じられないしね……」


そしてターニャはすかさず眼鏡を外してクロを見るとホッと胸を撫で下ろす。


「ただの人間が大魔王だなんて……」

「やっぱり人間だったのね。それにしてもターニャの目は便利よね」

「まぁ、見えるってのも普段は鬱陶しいだけよ?要らぬ誤解も招くし……」

「ターニャの目は普通じゃないのか?」


どうやらターニャとキンバリーはクロが大魔王である事を信じていないようなのだが、キンバリーは匂いから今のクロが人間であると感じたようだがターニャは視覚からクロが人間であると見抜き、キンバリーはそれを信じているみたいである。

その目が何なのか気になりクロがターニャに問いかける。


「は、はい。私の目は種族によってその人が放つオーラを見分ける事が出来るのです。クロさんは水色ですのでいわゆるヒューマンに分類される人種になりますね…キンバリーは薄緑ですので獣人種、アルさんは黄緑ですので獣人の亜人種、あそこで寝ているルルさんとカエデさんですが、ルルさんは……ぎ、銀色っ!?精霊種っ!?か、カエデさんはオーラは見えますが、む……無色っ!?」


順調にみんなの色を見ていくターニャなのだがルルとカエデのオーラの色を見た瞬間信じられない者を見るかの如く驚きを露わにする。


「なあ、因みに今の俺は何色に見えるんだ?」


そしてそんなターニャに尻尾を三本にしたアルがもういちどオーラを見てくれとターニャに呼びかける。


「アルさんの色は先程……って、き……金色……し、神族種っ!?」


そしてアルのオーラを見てさらに驚愕するターニャ。

もはや彼女にとってこの空間は異空間そのものである。


「ターニャの目は本物みたいだな。ルルは精霊種でアルは神の使い九尾の亜人種らしい。カエデはアーティファクトだからそもそも種族は無いが魂は宿っている為無色なんだと思う」

「しかしクロのオーラが人間と同じってどういう事ですか?」

「多分姿によりオーラの色がかわったアルと同じ理屈で俺も姿を変えればオーラの色が変わるんだろう」

「成る程……因みにクロの種族は……?」

「秘密だ」


そしてクロが人間であると言われ驚きを隠せないサラがクロに質問し、それに答えるクロなのだが種族を明かすのはまだ得策では無いと判断し二つ目の質問は答えない事にする。


「クロさんっていったい……?」

「だから大魔王だって言ってるだろ?」


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