人に作られた人ならざる者
「立ち回り……コード……72、対象……ルル、達成目標……殺さず鎮圧し…眼のスキル封印……………インストールしました、マイマスター」
クロが倒れる瞬間、メイド型戦闘アンドロイドM66ネーム楓が自動召喚された事に気付きアイコンから戦闘モードに移行させると命令を下した上で力尽きていたクロ。
どうやらアーシェ戦でまだ自動召喚されていないキャラクターが何人かいるみたいである。
「マイマスターの身体に…無視出来ない異変を感じ……勝手ながら召喚されてみれば
…………貴方……許しません」
「許さないのは私の方よ。これからまさに極上の食事に有り付けると言う瞬間にお預けされるなんて……許されると思わない事ねっ!!お詫びに貴様から喰って上げるっ!!」
そう言うとルルはクロにやったように楓の魂を喰おうとするのだが、力強い魂を感じるも食す事が出来ないでいる。
「無駄です……アーティファクトである私では……根本的に命ある者達とは、魂の在り方が違います………さらに魂喰いのオストロスよりも貧弱な、その眼だけでは……貴女の負けは覆りません」
一見涼やか、飄々と、そして緩やかに喋り気持ちの起伏が感じられない様に見える楓だが、その内心は怒りで溢れている事にルルもアルも気付いていないのだが、アルもアルでクロがタダで負けるとは思ってなく案の定次の一手を倒れる前に打ったと思えば出てきたのはメイド服を着た巨乳メイド、巨乳…メイド、そう巨乳である。
アルもまた怒りで溢れている。
「貴女……何で食べれないのよ!?何で!?何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!……どうせ食べれないのなら……だったら魔術でグチャグチャにしてあげる!!水魔術段位二【水の加護】そして水魔術段位七【硫酸の津波】ッ!!」
「水魔術段位四【禁止令】対象、【硫酸の津波】」
ルルが水魔術段位二【水の加護】を使用し、水魔術段位七【硫酸の津波】をカウンタースペルにより打ち消されないようにした上で楓に、文字どうり楓をグチャグチャにしようとするのだが、ルルが詠唱した打ち消されないはずの【硫酸の津波】が霧散し、消え去る。
「……な、何で?カウンタースペルじゃ打ち消されないはずよッ!?」
そして【水の加護】を発動させ、【硫酸の津波】を詠唱したルルは勝利を確信していたのだが、次の瞬間には【硫酸の津波】が無残にも目の前で消え去り、何が起きたのか理解が追いつかず狼狽え始める。
「打ち消されないだけで対象には出来る」
そしてそんなルルに何が起きたのか短く答える楓だが詳しく答えるつもりは無いらしい。
「貴方は……私に感情を与えてくれたマイマスターを……こんなにした大罪を……後悔しながら悔やませて……あげるわ」
そう言うと楓はゆっくりとルルの方へ歩み始める。
「カウンタースペルにより打ち消されていないのに魔術が発動しない……いったい何をしたのよ、この化け物っ!【水の加護】【硫酸の津波】ッ!………ど、どういう事?【硫酸の津波】を詠唱した筈なのに…魔力さえ消費されず不発するなんて……あなた、いったい私の身体に何をしたのよっ!?」
そして先ほどいったい何が起きたのか確かめるべく今一度同じ魔術を詠唱してみるルルなのだが、【硫酸の津波】は打ち消されるどころか詠唱すら出来なくなっており、さらなる疑問とえも知れぬ恐怖がルルの身体に宿だけで根本のな原因どころか解決策すら見出せないまま無駄な魔力を消費しただけに終わる。
「マイマスターの言葉を借りるとすれば……この世界、無知は死ぬぜ?……です【禁止令】対象【目くらまし】」
「そんな得体の知れない魔術、詠唱させません!!【目くらまし】ッ!!」
「【遮断】」
そしてさらに楓は【禁止令】を今度は【目くらまし】を対象にして詠唱しようとし、それを阻止する為にルルが【目くらまし】を詠唱するのだが、楓の魔術【遮断】により今詠唱している【禁止令】をスキルや魔術の対象にできなくし、【目くらまし】の対象から外し【禁止令】を発動させ、対象を外された【目くらまし】の泡は少し空中を漂った後、弾けて消える。
「【目くらまし】自体は消されていないのに目くらましの効果が発動せずそのまま消滅した……ですって……っ!?」
「さらに……【禁止令】、対象を【魂喰いの魔眼】」
「めっ、【目くらまし】……な、なぜ詠唱出来なくなって………え?……私の眼から魔力が無くなって……嫌、来ないで化け物ッ!だ、誰か……誰か助けて……」
楓が詠唱した魔術【禁止令】は、エンチャントフィールド型魔術で使用出来る回数は四回で、対象の魔術かスキルを一つ使用出来なくするロック型の魔術なのだが、その事に気付かず楓によりルルの魔術戦の軸である【目くらまし】を、そして例え本来の能力よりも弱体化したとはいえこの世界では強力過ぎる能力を持つ眼、【魂喰いの魔眼】の能力を消され抵抗出来る力を奪われたルルは、歩きながら近ずいてくる楓に久しぶりに感じる死の恐怖に我を忘れて助けを乞うのだが、辺りには気絶したクロと一度食べようとしたアルしかおらず、また恐怖から身体が萎縮し上手く動かせず足を絡ませ転けてしまう。
「………捕まえた。どうですか?……羽をもがれた羽虫になった気分は……」
「嫌……死にたくない……死にたくない……嫌だ……」
楓に肩を掴まれても尚生きたいと口にするルルなのだが逃げようとはせず逆に楓に悲願しているかの様である。
そんなルルを前に無表情睨める楓なのだが、ほんの一瞬だけ微笑んだ様に見えたかと思うと無表情で【解除】を二回詠唱し、先ほどエンチャントした【禁止令】二つを破壊し今一度禁止令を詠唱する。
「【禁止令】、対象を【禁止令】」
「………【禁止令】の効果が【解除】で破壊された………?……………か、【解除】」
そしてその光景を目の当たりにしたルルは抵抗する気力を楓に完膚無きまでに叩き潰されているからか魔術の詠唱には覇気は無く、だが一縷の望みを求めて先ほど楓がやった様に【解除】で【禁止令】を破壊しようとする。
しかし、ルルの魔術が完璧に詠唱されても尚、ルルの眼に先ほどまで湧き出ていた禍々しい魔力は戻って来る気配も、【禁止令】が破壊された感触も無く、ルルは抵抗する気力を完全に無くし、項垂れる。
「【禁止令】で【禁止令】を使用出来なくし……それにより先に発動した【禁止令】もろとも【禁止令】は……この世界から取り除かれる……だからこの世界から取り除かれた【禁止令】を【解除】で破壊する事は出来ない………」
禁止令は対象にしたスキルか魔術を使用出来なくする魔術で、破壊されればまた使用できるようになるのだが、禁止令で禁止令を使用出来なくし、先にフィールドにエンチャントさせた禁止令も消え去るのだが破壊されたのではないため先に対象にして消したスキルや能力は使用できないまま、禁止令そのものも消えて無くなるのだから解除の対象に出来るわけもなくルルの詠唱した魔術はスカ振りに終わったという事だ。
ギルティ・ブラットでは割とポピュラーなコンボではあるものの、その為に対象を選択できる禁止令は公式の大会では使用禁止とされる程凶悪な魔術でもあったりする。
そして楓の言葉の意味を理解する事が出来ないのか、またはその気力すら無いのか、ルルは虚ろな眼を楓に向けると全てを諦めた様な表情で笑い、次の瞬間ルルの身体が光だし、苦しみ悶え始める。
楓によりルルの眼の能力を消された反動で、ルルはルルとしての身体を維持出来ず、積み木崩しの要領で消滅しようとしているのだ。
「そ、そんな……魂喰いのオストロスは眼の能力が無くなってもこんな現象は起きなかったはず……ルルの身体はそれに耐えうる器では無かった……という事なの?」
しかしそれが分かった所で目の前の状況か好転する訳もなく、ルルは気を失い倒れても尚ルルの身体は消滅しようとしているのが解る。
「スミマセン、マスター……ミッション失敗の……ようです……」
そしてこの状況で何が正しく、何が悪い手なのか解らずただただ見つめる事しか出来ない楓は内から湧き出し、己の中で暴れ始める感情を制御出来ずそれが形となり楓の眼から溢れ落ちると硬く握り締めた拳に水滴となって落ちる。
「それが悔しさと言う感情だ。そして助かった、ありがとな」
ただただ立ちすくむ楓の頭に手を置かれ、優しく撫でられる。
れが無性に誇らしく、そして今は後ろめたいと楓は感じてしまう。
「ま、マスター………スミマセン」
「謝るのは全て終わってからだ。まだ終わった訳ではない」
そしてその手の主であるクロが一旦気絶した事により、クロがエンチャントした魔術【光の壁】が消え自由になったアルに身体を支えて貰いながらゆっくりとルルへと近ずいて行く。
ルルの身体はその眼に宿した魔力供給が無くなり、その魔力を軸に形成していたルル身体は消滅しようとしているのか?
そう思えばしっくり来るのだが魔力が原因かも知れないと思ってもクロが解らないのは仕方がないのかもしれない。
しかし、前世ではあり得ない話なのだがこの世界では魔力と言うものがあり、魔術を扱う事が出来る世界なのならば魔力が原因の病気や、こう言った症状があってもおかしくは無い。
「だったら、一か八か試してみますか……」
この世界に初めて降りた時に感じる感情は悔しさよりももっと別の笑顔になれる何かを感じて欲しいと思うのは無料配布キャラ楓降臨クエストを周回し、楓のステータス強化と感情を育ててきたが故なのか、それとも自分をマスターと呼んでくれ慕ってくれる楓故だからなのか、多分その両方だろう。
ならば意地でもやるしかない。
そしてクロはおもむろにルルの頭に手をかざすと、自分の魔力をルルに流し込み初めてた。
ただ流し込むんじゃなくて………充電するイメージで……。
クロはレニアの借家で魔力を魔法石に充電した時の経験を思い出しながら今一度それを実践する。
「………お、お父さん?」
そしてクロがルルの身体へ魔力を注ぎ込み、充電させているのが功をそうしたのかルルはゆっくりと目を開けクロを見ると、父親と勘違いしたのか小さくクロを「お父さん」と呟くと、今度は静かに瞼が落ち、健康的なリズムで呼吸をしだす。
どうやらルルの中の魔力、そして身体も安定したのかルルは眠ってしまったみたいである。
お、お父さん?※父さんはな、父さんなんだぞ!