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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第二章
29/121

◆忍び寄る影

◇◆◆◇


 今日はサラが休みだということでいつものように朝から街に繰り出しているのだが街を散策するクロとサラ、二人の間にはいつもと違う気まずくも初々しい空間が広がり、その空間を押しのけるように嫉妬オーラを隠しもせずアルが振りまき、それを感じ取ったクロがうっすら冷や汗を書きながら気付かない体で板挟みによる動揺を隠すのだが、先程からなんだか周りの視線が集まっているように見える。


 あのあと何だかんだでサラとは友達からではあるが晴れて付き合う事になりこのカオスな空間が出来上がっているのだが、間違いなく朝の一件も見られているに違いないので一応アーシェにタブレットで電話を入れると「一夫多妻が許される世界で良かったわね。お兄ちゃん」と低い声で言われ、その声に一瞬含まれた殺意で死ぬかと思ってしまう。


 電話越しで相手に死を過ぎらせる程の殺意である。直接報告していたらと思うと血みどろになる未来しか想像できないのだが、もしこの殺意が『直接ではなく電話で伝えたからこそのあの殺意』だとしたらとも思ってしまい、余計にアーシェに会いたくなくなってしまう。


 もちろんアーシェが怖いからというのも有るのだがそれ以上に後ろめたさがあり、さらにそれ以上に次あったら何をされるか分かったもんじゃないからなのだが。


 もちろん『何』とは何と何が何する奴である事は間違いないのだがアーシェと関係を持つ事を想像するとクロの御神体は見る影もなく縮み上がり、そのなりを潜めてしまう。


 アーシェと既成事実を作ってしまう事は想像しなくてもそれがとてつもなくヤバイ事だという事が本能を通して分かってしまう。


 次会う時までにアーシェの機嫌が治る何かを考えなくてはな。


 電話越しのアーシェの殺意を思いだし思うのだが、もちろんこの場合の何かとはあの『何』ではないと言っておこう。


「クロ、どうしたのです?先程から顔色が優れないですが…」

「な、なんなら俺が介抱してやろうか?」

「すまん、顔に出てたか?ただ先ほどのアーシェとの電話越しの殺意を思い出してな……アルにサラ、この両手の花状態をどうアーシェに説明したものかと思っていただけだ」


 正直この状況で二人ではない他の異性の事を考えていた事を言ってしまい言い終わった後にその事に気付き後悔するのだが二人に怒られると思っていたのだがいつまで経っても怒って来ず、顔を覗くと二人共顔を赤らめながら照れているのが伺え怒ってる様子はなく安堵する。


「は、花だなんて…」

「お、俺がご主人様にとっての花だと……」


 そう言って顔を赤らめうつむきながら照れる二人の頭を軽く撫で、更に顔を真っ赤にしてしまう二人。


 二人共そういう反応も可愛いという事に気付いてないみたいでそういうところも素直に可愛いと思える要因だろう。


 しかし例え欺とさが見え、演技だと分かっていても可愛いものは可愛いと思ってしまうのだが。


「しかし、なんで人間お前が大魔王であるご主人様に好意を寄せたんだ?」

「気付いたら好きになってたのよ。確かに最初は怖かったし、好意どころか嫌悪すら抱いていたわね。…でもそうね、多分クロがレニア達に対する接し方を間近で見てきたから、ですね」


 顔を赤らめうつむきながらクロの後ろをついて来ていた二人なのだが、二人はクロに聞こえないように小声で会話をし始めたのだが、その内容が全部聞こえてしまいクロは若干顔をあからめる。


「ふーん。そういうもんか?」

「ええ。特にレニアさん達はただでさえ周りから酷い扱いをされていたのでそのぶんクロの人となりが分かるというか、何というか……と、いうか私ばかりずるいですよ?そういうアルさんはどうなんですか?アルさんは昨日クロと会ったばかりでしょう」

「たっく、しょうがねーな…わかったよ。……俺って見た目男じゃん?それがコンプレックスだったんだが、それをご主人様が……その……つ、つまりよういう事だっ!」


 どういう事だよと言いたくなるのだがなんとか我慢する。聞かなくてもなんとなく想像できるのでわざわざ盗み聞きしている事をばらす必要もないだろう。


 そしてサラもどういう事か理解したのか顔から湯気が出始めショート寸前である。


 もしこれが前世なら浮気やら二股やらで修羅場であろう事は想像できてしまい胃のあたりが痛くなる……いや、今の状況は婚約者である二人には伝えてないためこの世界でもアウトなのだろうが……婚約者ではもうないのだろう事実に今度は胸が痛み出すも後ろで無駄に恥ずかしくなり胸をかきむしりたくなる内容を幸せそうに語る二人には同じ過ちを犯してはならないと強く誓う。


「さて、着いたぞ」

「着いたって服屋じゃないか」

「新しい服を買うのですか?」


 そうこうしているうちに目的地についたのだが後をついて来た二人は要領を得てないみたいである。



「まあ、新しい服を買うのには変わりないのだが、せかっく可愛い顔してるアルにちゃんとした女性ものを着させてやりたくてな」

「ああ、それはいい提案ですっ!!」

「ちょっ、待ってくれよっ!?俺なんか似合わないって!!」

「似合う。俺がそう思うんだから間違いなく似合う。そして可愛く着飾ったその姿を俺に見せてくれないか?」

「ぜ、ぜったい似合います……はあはあ」

「…………………ずるいぞ。ご主人様にそんな事言われたら断れないだろ」


 納得いかないのか不満気なアルなのだがクロに見てみたいと言われ満更でもないみたいである。


 サラはサラで何故かフンスフンスと鼻息荒く早くも服屋の中へと入って行ったのだがその行動力とテンションの高さの根源は聞かない事と心のメモ帳に赤文字で書き記しておく。


 店内は狭く人一人がギリギリ歩ける程度の通路がコの字型に二本通っており突き当たりにレジがあり、その左手側に更衣スペースが設けられているこじんまりとした店舗で、前世でいう所の街中の古着屋と言った感じだろうか。


 しかしこの店が異世界にあると言える確かな存在が自ら出したであろう糸でハンモックを作りぶら下がりながらレジ前に鎮座していた。


「…ども」

「……」


 そして俺はレジ前に鎮座している店主であろう初老のアラクネと目が合い軽く会釈すると向こうもそれに気付き軽く会釈を返してくれる。


 この店は良く下着などを買いに来る店なので店主も俺の事は覚えていたようである。


 この世界で衣服を新品で買おうとすると安くても肌着一枚銀貨五枚必要で、割と高級品として扱う店が多く、前世同様に店員が食い気味で声をかけて来て在庫で眠ろうとしている商品を買わそうとしてくるのだが、この店はそんな事も変な緊張感を待たず服選びに集中できるのが利点である。


 そうこうしている内にアルがサラにより着せ替え人形の様にされているので流石に止めようと近付くのだが「クロさんを驚かせたいのでまだ秘密です。なのでこっちに来てはいけません」と言われては下がるしか無いだろう。


 なんだかんだ言っても楽しみではある事は間違い無いのでサラの向こうで目で助けをこうアルの姿は見なかった事にしてそそくさと死角へと移動する。


 それから幾度かの「可愛い」という声を聞いた頃、やっと一着決まったのか予め渡して置いたお金で購入するとアルがサラの後ろに隠れてながら店から出てくる。


クロ自身はあの後数着の肌着を購入した後はまだ2人が服選びに時間がかかりそうだった為一度別の店に寄ってたのだが、それでもそこから小一時間はかかったので逆にサラにより服選びに参加出来なかった事は幸いだったのかもしれない。

かと言って選びたくないと言ったら嘘になるのだが。


「ほら、恥ずかしがらずに隠れてないで前に出ましょうよ」

「いやしかしだな……選んでる時は最後の方、自分でも似合うかもと思ってしまったのは事実なのだが、やはりこうして冷静に考えてみるとやはり似合わないと言うかなんと言うか…」

そして小一時間以上かけて選んでおきながら今更ごね始めるアルにサラが「でもアルのそういう格好をクロさんは見たかったんですよ?」という一言言うと、アルはおずおずと恥ずかしそうにしながらもサラの背後から出てくる。


「わ、笑ったらここ、殺すからな」

挿絵(By みてみん)



そう言いながらも何処か期待した眼差しをクロに向けるアル。その後ろからはサラがドヤ顔で鼻息荒く頷いているのが見える。

そんなサラを見ると悔しのだが、サラがコーディネートしたアルは恥ずかしがるその表情も相まって可愛いく見えるのだからサラのコーディネートを不本意なのだが認めるしかないだろう。


「いや、似合うじゃないか。可愛いぞ」


そしてクロは思った事を素直にアルに伝えると頭を撫で、クロに撫でられたアルは顔を真っ赤にしながらも嬉しさを隠そうともせず笑顔をクロに向ける。


「そ、そうか?……か、可愛いかっ!じ、実は他にも服は買ってあるんだ!!」

「分かったからそれは今度見せてくれ」

「あ、ああっ!期待しててくれっ!」


そしてクロに可愛いと言われたのが嬉しかったのか今日購入した衣服を全部見せようと服屋に戻り更衣スペースで着替えようとするのだがそれを始めるといつ終わるか分からなくなる為後日見せてもらう事にする。


「サラもありがとな」

「な、撫でるのは卑怯だと思います……」

「ごめん、嫌だったか?」

「そ、その逆ですっ!」


クロの横で女性物の衣服を着れてクロに可愛いと言われテンションが上がっているのか様々なポーズをとりだすアルを放置し、今回衣服を選んでくれたサラに労いの言葉を言い頭を撫でてやると少し怒った様な嬉しい様な表情でクロに抗議するサラ。

何だかんだ言ってサラももういい大人なので子供の様に頭を撫でられるのが嫌なのだと思い聞いてみるのだがそうでもないらしい。

しかしそうでないのなら何故怒るのか理解に苦しむのだが、本気で怒ってないようなので良しとする。


「まあ良く分からないのだが嫌がってないのなら問題ないか」


小さな声で「も、問題ないわけないじゃない。もっと撫でて欲しくて抑えられなくなりそうなんだから……」と聞こえたので今度撫でくり回そうと決心する。


「お俺は何時でも撫でて良いからな!」

「で、でも彼女は私ですから優先順位は私の方が上ですからねっ!」

「友達からのお付き合いだろっ!まだ1日しかし経ってないのに彼女になれるわけ無いだろうっ!よって今は奴隷の俺の方が上だっ!」

「付き合ってるのは事実ですから?そのうち結婚とかしちゃうかも?」


そしてサラとのやり取りを聞いていたのかアルが会話に入って来るのだがさっきまであんなに仲が良かったはずの二人が口喧嘩しだすので頭が痛くなってきそうである。


しかし、異世界だからこそ口喧嘩で済んでいると思うと全然苦じゃ無くなるので不思議である。





一夫多妻※1人の男性が多数の女性を妻とすることを認める社会、もしくは法律上の結婚制度。また女性の数は男性と同等の為モテる男とモテない男の格差がヤバイ制度でもある。

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