コンプレックス
「問題ない」
「問題ないって……奴隷は犬猫とは違うのよ?それに彼女に内緒で女性の奴隷だなんて」
「犬猫と違うのも理解しているし、こいつは今魔術で姿を変えているから今は女性に見えるかもしれないが本体は男性だ。それと、毎回言うのだがサラとはただの知り合いで付き合っているわけではない」
「まあ先生もこう言ってる訳だし他人の恋路に首を突っ込むって野暮な事は辞めて上げなよ母さん」
「そうはいかないよ。サラも女性だ。お前達男性が思っている以上に繊細な生き物なんだよ」
「いやしかしだな、女奴隷を買うなんてクロも男性だ。女性には分からないだろうが男性もまた繊細な生き物なんだ。女性奴隷を買いたいと思う時期も有るんだよ」
「成る程、お前さんは私という者がいながら女性奴隷を買う繊細な気持ちが分かるって事かい?」
「いや、そそそ、それはだな……おっと、ま、まだやり残してた大切な仕事があったんだった。そうだったそうだった。じゃあ俺はその大切な仕事を終わらす為にちょっこら行って来るわ」
そういうとここの宿の亭主であるマルコ・カルロスがその妻、ハナコ・カルロスから滲み出る殺気を感じ取りそそくさとこの場から、取って付けた様な言い訳をして立ち去る。
しかしこの二人は相変わらずクロの話を聞かないみたいで先ほど言った『奴隷は男性である』というのと『サラとは付き合っていない』という内容は頭から抜け落ちているみたいである。
いちど彼らの耳と頭を切り開いて異常があるか調べてみたいものである。
「たく、先生はどうやら性欲が少ないみたいだからうちの旦那とは違うのだと思っていたのだが、先生も同じ男性という事かい。ほら、今晩の夕食だよ。一応今日はサービスで奴隷の娘にも食事と寝具などは用意してあげるけど明日からはちゃんと代金貰うからね」
「すみません、助かります」
そしてハナコはそういうとクロが座ったテーブルに本日のメニューである食事を運んで行く。
食事のメニュー内容は濃厚シチューとパン、そしてサラダである。
この街に来てある程度周った結果、ここの御飯が一番クロの舌に合っており、いたく気にっているのだが、ここで泊まり始めて2週間弱、初めての乳製品である。
「最近お乳がなかなか出なくてね、もう歳なのかしら?。絞るのも一苦労よ」
そして追い討ちのようにハナコが聞き捨てならぬ事を言いながら「肩がこった」と肩に手を当て腕を回す。
「御主人様よ、これを俺が食って良いのか?」
「ああ…」
そしてアルが目の前の食事を食って良いのか?と聞いて来るのだがクロは返事を返すので精一杯であり、その事に気付いているのかいないのかアルがスプーンとフォークを手に取り「これ旨い!」とバクつきながら食べて始める。
この世界では、よく読む異世界物の奴隷との食事シーンのように奴隷が床で物を食べるという習慣は無いらしくちゃんとテーブルで食事を取るのだが、一応断りを入れなければ隷属の効果によって食べれないと知るのは後になってから知るのだが、問題はそこではなく、アルがこのあと発した言葉である。
アル曰く、今まで食べたどの高級シチューよりも濃厚で味に深みがあるらしい。
何故だ。その言葉を聞いて脂汗が止まらない。
「御主人様よ、お腹空いて無いのか?なら俺が食っても良いか?こんな旨いシチュー始めてだよっ!」
「ああ、今は何故か食欲が湧かなくてな、俺の分も食って構わない」
そしてアルがクロの了承を得てから、クロの分も食べ始める。
クロとしては是非食べて下さいと言いたいぐらいだ。
「しかし、お前隷属された初日だってのに余裕があるように見えるな」
「起きてしまった事は仕方ないだろう?この結果はお前の力量を測れなかった事と自分の力不足が招いた結果であり、自業自得だ。それに喚いたり落ち込んだりして現状打破出来るのならとっくにやってるさ。むしろ無意味な行為に時間を割く方が俺からすれば馬鹿げてる」
と一旦食べるのを辞め、イケメンよろしくキザったらしいいい笑顔で話すアル。
こういう性格だからこそ先ほどの脳筋プレイなもかもしれない。
腹の探り合いには弱いのかも知れないが、俺がもしアルの様な性格をしていたら、もしかすれば俺は元の世界で上手く生きて行けたのかも知れないとありもしないもしもの出来事を想像してしまう。
食事中サラから『今日は残業が多くて帰りが遅くなるから来ないけど明日は休みだから朝からそちらへ迎えに行く』と連絡が来たので食事を終えるとハナコの娘ターニャが食事中に部屋の移動をしてくれたらしく、新しい部屋を案内してくれるという。
と言っても部屋に置いてた荷物は殆どサラの私物で、量もそこまでない為手提げ袋1つで事足りるぐらいの量なのだが。
そして部屋を案内してくれる間ストレージの事をターニャが羨ましそうに語っっていた。
そんな感じで目を輝かしながら話して来るターニャは父親であるマルコと同じ立派な角を二本生やしている。
その角を前世の生き物に例えるとバッファローの角のそれであり、怒らせてひと突きなんてされる事を想像するのも怖いのだが性格は大人しく聡明で、出来た娘である。
髪は黒髪を真ん中で分け肩で切りそろえており顔は整っているのだが美人と可愛いの丁度中間ぐらいで、かけている眼鏡によりそこに知的さも加わる。
身長は160センチと少し高めで、太っているわけでも痩せているわけでも無くいわゆる健康的な身体つきをしており、そして何よりその胸に付いている二つの双球である。
その双球は誰が見てもまごう事無き爆乳。ターニャが息をするだけで揺れるその様は男のエデンそのもの。目指すべき楽園でもあり、帰るべき故郷でもある。
有るはずなのだが、そんなターニャも今年で20歳になるのだが、生まれてこのかた彼氏も出来た事が無いらしく、この世界で爆乳は乳の出が悪いという迷信も相まってかマイナスポイントになるらしい。
貧乳も同じく同じ迷信があるのだが、このありもしない迷信は双方の妬み僻みから生まれたのでは?とつい思ってしまう。
因みにクロがこの宿を拠点のした理由の一つに彼女の胸が関係しているという事は一切無いと言っておこう。
今鼻の下を伸ばしながらターニャの爆乳を盗み見しているのは決していやらしさからでは無く、そう、これは研究の為である。
胸を見ているのではなく彼女が歩く度に揺れる胸、その揺れによって生じる運動エネルギーと、それで生じる彼女の負担を見ているのであって、胸の事ではなく突き詰めれば彼女の体調を心配しているのだ。
そしてクロの隣、ターニャの反対側にいるアルはクロを見つめていたのだがその目はまるでゴミか何かを見る目をしている事にクロは気付かないでいた。
「今日からこの二人部屋に移動してもらうから」
「ああ、わざわざありがとうな」
そう言いながらクロはターニャの頭を撫でる。
撫でられたターニャはうつむき、顔の表情は見えないのだが嫌がってる様子は無い。
「いえ、そ、それではまた翌日起こしに来ますからっ!」
そう言うとターニャはくるりと向きを変えそそくさと下へ降りていった。
その横顔は心なしか赤く染まっていたように思える。
まあ、もう撫でられる様な年齢じゃないしな…。
そう思うのだが娘の影響で撫で癖が付いてしまったクロは今更その癖を直すつもりは無いのでターニャには慣れてもらいたい。
ターニャに案内された部屋にはバスルームも付いており早速使わしてもらう。
今までは少し歩いた所の小川まで早朝水浴びをしていたので暖かいお湯で身体を流すという行為の気持ち良さを久しぶりに思い出す事が出来た。
このバスルームなのだが一回の使用料は部屋代と別にかかるらしく2人分、銀貨2枚を先にターニャに渡している。
銀貨1枚が日本円で大体千円なので少し割高なのだが、まあ高過ぎるということも無いのでこんなもんだろう。
そして何故かアルがこの部屋に入ってから緊張しまくっており、とくに「バスルームで汗でも流してこい」と言ってからは聞き取れない声で呟き始め挙動不審になるも決心が付いたのか両頬を「ピシャン」と叩くと意を決したようにバスルームに入って行く。
単に風呂が苦手なだけだったのか……
と思っていたのだが、シャワーだけにしてはやけに長すぎる。
もう小一時間はかかっている。
何かがおかしい。
そう思うも何がおかしいのか、どこがおかしいのか検討も付かない。
大方お湯で身体を洗う気持ち良さに心身共に堪能しているのでは?ともっともらしい事を考えてもクロの頭に鳴り響く警告音はなおも鳴り響いている。
「しゃ、シャワーを念入りにかけてきた…ぞ」
そうこうしているうちにアルがシャワーを終え出て来ると寝間着である服の袖を両手で掴み、顔を真っ赤にしながら下を向いているではないか?
そしてアルは言う。
「ど、どうせ今からトギをするんだろ?後生一生だから、その……優しくしてくれ………始めてなんだよ」
「俺もだ馬鹿野郎っ」と心の中で毒呟きながらクロの背中から脂汗、冷汗が滝の様に流れ落ちて来る。
頭に鳴り響く警告音が警告している事を今やっと把握したのだが、確かにこれはヤバイ。
俺はノーマルでいたいのだ。
「そ、そのだな、今から俺がいう事をよく聞いてくれ」
そしてクロはアルの両肩に手を置き真っ青になっている顔に真剣さを滲ませアルの両目を射抜く。
「俺は男と交わる趣味は無い」
「……だけか?」
「え?何だって?」
「言いたいことはそれだけかって言ってるんだっ!」
そして何故か俺にブチ切れ出すアル。
何故いきなりキレ出したのか検討もつかないので狼狽えてしまう。
そんなアルの顔を見ると、その目には涙が溜まり、今にも雫となって零れ落ちそうである。
「た、確かに俺は言葉遣いは女性のそれではないし、それが関係してか男性よりも女性の方によく声をかけられるが……流石にこんな辱めを受けたのはお前が始めてだぞ!」
そう言うとアルはクロを突き飛ばしベットへ押し倒すとクロにスキル【金縛り】をかけてクロをスキルで束縛し、身動きを封じる。
「お、お前が悪いんだからな……お前が…」
そしてベットに横たえ身動きが取れなくなったクロへと近付くそのアルの顔は真っ赤に染まっている。
「お、お前……隷属された者がその主人に手を出したらどうなるか解っているのか?」
「うるさい黙れ」
そしてクロはアルに隷属された者がその主人に手を出せばどうなるか聞くのだが、アルは一向に聞く耳を持つつもりは無いらしく、怒気を孕んだ声でクロを黙らす。
注意
【運営よりR指定の警告をされました為内容を切り取り、R18指定用を作りそちらで切り取った内容をアップしております】
お乳がなかなか出なくてね※家畜の牛の乳の話でありハナコの話ではないがクロの頭の中はシュレディンガーの猫状態