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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第二章
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隷属

 相手の魔術に対抗すべくクロが放った水属性魔術は段位二、カウンタースペルである【目眩まし】である。

 この魔術の完全上位互換に当たるのが水魔術段位五【泡の中の幻】になり、こちらは泡が複数出るのに対して【目眩まし】は泡が一つしか出ない。

 その代わり底コスト、底段位で使う事が出来るため、ギルティ・ブラッドの基本的な魔術による立ち回りは【目眩まし】を中心にした戦い方か、【目眩まし】の対策をした戦い方に分かれるのだが、目の前の狐男アルの立ち回りはそのどちらでもなくただ闇雲に得意な魔術を無詠唱で乱射するのみという対策もクソもない初心者特有の立ち回りである。


 そして見た限りアルが放っている魔術は火の段位三【霊魂焼却】である。 【霊魂焼却】はそれ単体だとそんなに恐ろしく無いのだが、少し手を加えるだけでその威力は格段に上がる。


「そらそらっ!防ぐので精一杯か?大魔王様よぉっ!?」

「それは俺に一度でも魔術を当ててから言ったらどうだ?どうやら攻撃をお望みみたいだからこちらも攻撃に転じさせてもらうとするか【霊魂焼却】」

「ギャハハはははっ!九尾族でもないお前が【霊魂焼却】を使った所で俺の【霊魂焼却】より強い訳が…ない…な…なんだそれはっ!?」


 そう言うとクロは【霊魂焼却】を自らの前で浮遊させるのだが、クロの前で浮遊している火の玉の異様さをアルが感じ取り身構える。


「何って【霊魂焼却】だろうが。ただし、お前と違って【霊魂焼却】に施されている追加能力を使いはしたがな」

「追加能力だと…?…そんなイカサマで本物の【霊魂焼却】が負けるはずないだろっ!」

「いいから黙って喰らえ」

「れ、【霊魂焼却】っ」


 そしてクロはアルに向けて【霊魂焼却】を放つとアルが放った【霊魂焼却】を物ともせずアルに着弾する。

 するとアルの身体に黒い靄がかかり、その靄がアルの身体からその身に宿した魔力を吸い取ると、吸い取った魔力をクロへ流し込む。


「【霊魂焼却】が霊魂焼却と言われる所以を少しは考えてみたらどうだ?」

「ど、どう言う事だ…?」

「殺し合いだぞ。敵に教える馬鹿が何処にいる?」


 この【霊魂焼却】は魔術の属性こそ火の属性魔術なのだが、この魔術を使うにあたり本来必要な火の魔力に加え闇の魔力を使う事により、闇の魔力を【霊魂焼却】に使った分×2の量を当たった相手から魔力をドレイン出来る能力が備わっているのだが、勿論教えてやるつもりは無い。


 そしてクロが加えた闇の魔力総量の倍に当たる魔力を吸い切る前にアルの魔力を吸いきったらしく【霊魂焼却】のモーッションが終わる前にアルからの魔力供給が途絶える。


「ぐぅぅぅ……クソがっクソがっクソがっクソがっクソがっ!」


 魔力を吸われふらつきながらもストレージからだろうか刀のようなサーベルを二本取り出すとクロへその刃で斬りかかって来る。

 しかしその立ち回りはただ闇雲に振り回しているだけでクロでもその拙さが分かるほどであるのだが、いくらクロから見て拙く見えたとしてもクロとて剣術に関しては素人には変わり無くただひたすら避け防ぎ反撃の機会を窺う。


「魔力が無くなって本来の闘い方ができなくなってんだろ?そろそろ諦めたらどうだ?」

「だ、黙れよ!【乱れ突き】」


 そしてアルがクロの挑発に乗りスキルを使用してしまう。

 このスキル【乱れ突き】は文字通り突き技を七回高速で突くスキルである。

 スキルの威力は少し高めで、スキル発動までに50フレームほどかかり、撃ち終わりにも30フレームほどの硬直時間が存在する。


 そこを見逃さないクロではない。


 スキルの撃ち始めに一気に距離を詰めひと突き、撃ち終わりにふた突き、軽くアルの足と腕を突き刺し後退し、また相手がスキルを使うまでただひたすら避ける事に集中する。

 深追いはしない。それほどの技術を持っていないと自負している。


「グフ……何で当たらないんだよ……」

「知るか。さて、そろそろ終わりにするか」


 あれから数十分、アルの身体は真っ赤に染まりクロには傷一つ付いていなかった。

 アルは受けたダメージこそ少ないものの痛みまで消えるわけではなく、クロに攻撃される度にアルの動きが鈍くなっていく。


「お、終わりだと…?」


 そしてアルはクロによりこの闘いを終わらすと言われ死を覚悟し、それでも覚悟出来ず恐怖という初めての感情がアルを支配する。

 その恐怖が意味するもの、それは完全なる敗北を認めてしまっている事。

 頭では否定しても心の奥から滲み出る恐怖は消えず、アルのプライドをズタズタにしていく。


「コレで終わると思うなよっ!スキル【魔力増殖懐炉】火魔術段位七【狐焔の宴】」

「【隷属契約】」


 【魔力増殖懐炉】は30秒間スキルも魔術も使えなくなる変わりに一度だけ魔力を全開にでき、一度だけ魔術を使用出来るが、魔力はゼロになる。

 そして【狐焔の宴】はそもそもの威力も高いのだが【霊魂焼却】で奪った相手の魔力によりその威力が跳ね上がるのだが、その威力は強大でそれに伴い魔術発動まで3秒ほどかかってしまうデメリットもある。




 【魔力増殖懐炉】により魔術である【狐焔の宴】を使い魔力は無くなり3秒間無防備になる。




 【狐焔の宴】は魔術段位七である。彼のいるこの世界では追加効果が無くても詠唱さえすれば勝手に勝利が手に入ったのだろう。

 この世界での3秒とギルティ・ブラッドの世界での3秒とは訳が違う。


「魔力が無くなってしまう上に3秒も発動するのにかかってしまう魔術を使うその意味を後悔して学べ」

「隷属契…約……しまっ!?や、辞めろぉぉぉおっ!!」

「断る」


 そしてクロが放つスキル「隷属契約】を知っているのかアルが無駄な抵抗を見せるのだがそれを無視してクロはアルの背後に回りスキル【隷属契約】を発動させる。


 この【隷属契約】はかけられた相手が魔力を1だけでも注げば効果は発動しないが、発動させる事が出来れば強制的に試合の勝者となり、かけられた相手はアイコンと、額に奴隷を意味するマークが浮かび上がり、様々なデメリットが課せられる。


 課せられるデメリットの内容は『主人にダメージを与える事が出来ない』『特定のスキル、魔術は発動出来ない』『主人から一定の距離を離れる事が出来ない(主人から命令されればその限りではない)』『主人側の命令は絶対である』『命令を無視すれば固定ダメージを与えられ、三回無視すれば体力ゲージが無くなり死亡してしまう』『隷属契約を解除する為には主人自ら解除するか死亡するかの二択である』


 その為ゲームでは基本的に隷属されてしまった場合主人の命令を三回無視する事で死亡して解除するのが定石で、主人側も隷属成功時、強制的に命令を三回しなければならない。中には死亡せずそのまま隷属されつずけるという変わったプレイに走るプレイヤーもいるのだが……。


「今お前に隷属のスキルをかけた。今からお前に三つ命令を下す。まず一つは俺の情報がお前達にどれほど伝わっているのか教えて貰う。そして二つ目は俺の指示無く戦闘を禁止する。そして三つ目がスキルや魔術を使う際に死なない程度ならば俺に危害を加える事を許す」


 後の命令は本人がそのつもりが無くても設定上危害とみなさられる場合があり、予期せぬダメージを食らう場合が多々ある為であり俺がそういう性癖だからではないと弁明しておこう。


「この俺が隷属されるとは……」


 隷属された本人であるアルは先ほどまでの威勢は消え去り、発する言葉もどこか覇気が無くうわごとのようにも聞こえる程である。



 そしてクロがアルを隷属させる事に成功した為結界は消え去り周囲は元の図書館にもどり図書館独特の時間が静かに流れ出す。


「「「お師匠様ぁぁぁぁぁあっ」」」

「気持ちは分かるが声を謹め。ここは図書館だぞ?」


 結界が消え勝者がクロと分かるとレニア達三人が涙と鼻水を垂らしながら「お師匠様」と駆け寄って来るので一応注意をしてから抱きついて来るレニア達を優しく撫でる。


 しかし、以前闘ったドラニコの方が明らかに強く思えたのだが、周囲よりも強すぎる魔術を使えるアルは魔術の訓練はしたのかもしれないがそれを使った闘いかたを研究する環境が無かったのが今回の敗因なのだろう。

それにより彼はいわゆる脳筋プレイになっていた為クロとしては非常にやりやすかった闘いでもあった。

 そしてクロはレニア達に宿題として今日撮った動画の感想を専用ノートに書いて明日までに提出する様にと告げた後、帰路につく。


 ちなみにその間アルの容姿を他人に悟らせない為にスキル【変幻】を使わせ、クロやレニア達以外からはアルでは無い別の人物に見えるようにさせていた為クロが隷属させている人物が超越者のアルだと気付く者はいなかったのだが、隷属された者は額に隷属の紋様が浮かび上がる為、その紋様を隠す様な事をしない限りは直ぐにバレてしまい、変幻してもその箇所だけは消す事が出来ず、アルだと気付く者はいなくともアルが隷属されている事は隠せずにいた。

 そしてそんなアルの姿を見た者、特に男性はいやらしさと羨ましさを混同させた強い視線を投げかけて来るのでアルが今他人からどの様に見られているか手に取る様に分かってしまう。


 これはアルなりの今出来る精一杯の意趣返しなのだろうが、当の本人はその様な目線に晒され満更でも無さそうである。

 その表情はクロへの意趣返しが成功したからではなく男の目線を集め悦に浸っている様に見えるのだが、彼の心情を掘り下げると取り返しのつかない事になりかねないので知らぬ存ぜぬと自分に言い聞かせ、その好奇心に蓋をする。


 自分の貞操を守り新たな世界の扉を開くフラグを自ら立てる必要も無いだろう。


「ここが俺が今泊まっている宿、『カウベル亭』だ。これからここが拠点になるから覚えておいてくれ」


 アルにそう告げるとアルの返事を待たず中へ入って行く。

 ちなみに図書館で本を読む為に内容を写メり、夜にサラに翻訳して貰うという生活をしていたため、今ではある程度ならこの世界の文字を読めるようになり、最近になってここの宿の名前を外の看板を翻訳して知ったのだが、その事は黙っておく。


 話す必要も無いだろう。


 しかしその関係でここの従業員である奥さんや亭主からはサラが俺の彼女だと思われてしまっているのだが。


「あら先生じゃない、お帰り。………夕飯の準備はもう出来てるから部屋にもどりお楽しみの前に食べていきな。それはそうとサラちゃんにはちゃんとこの事を説明したのかい?」


 宿に入るとホルスタイン柄のエプロンを着た恰幅のいい、牛の角であろう角をちょこんとと生やしたここの従業員が話しかけて来る。

 ここの宿は家族で経営しているらしくこのおばちゃん、奥さんの他に旦那さんに娘が1人の三人で回している為宿というよりかは小さな民宿と言われた方がしっくり来る内装と広さをしている。

 その奥さんことおばちゃんがアルの存在に気付き意味深な言葉を投げかけて来るのだが、何処から訂正すれば良いのかもはや分からないレベルである。

魔力が無くなって本来の闘い方ができなくなってんだろ?そろそろ諦めたらどうだ?※ラケットヘッドが30センチも下がっていたらバレバレだよ?二度目は通用しない。という意味では無い

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