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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第二章
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超越者

「以上がノクタスに向かった諜報員の報告内容です。次はノクタス以外の者から寄せられた報告内容です」


 その言葉に周りにいる約30名の猛者達が息を飲む。

 男が語った報告が間違いないのならノクタスで撮られた魔王アーシェとの戦闘に真実味がましたことになる。

 今までは強くても我々と同等の強さだと思っていたため数で有利な我々敵ではない目の上のたん瘤程度の認識でしか無かったのだが、まだこれだけなら良かった。

 問題は魔王アーシェの対戦相手、新たに大魔王となり隠居した青年と、彼が連れてきた家臣たちである。

 彼は魔王アーシェの立つ高みからさらにもう一段高い場所で彼女を倒してみせ、また彼が連れてきた家臣たち、そのほとんどが強さランク推定S以上であり、更にその中でも大魔王の側近と言われる強さは未知数で、今現在二手に分かれて世界を旅していおり、一方は一般の冒険者二名と共に、もう一方はあのスフィア・エドワーズ第一王女と共に旅をしていると、諜報部員のトップであるデモル・モンテディオが自身の配下が集めた情報を纏め、読み上げている。


「そしてそのスフィア第一王女は国の城を焼き払うと王位継承権を自ら破棄し、北の方にバハムートという大魔王の側近である黒竜に乗って飛び去っていったようです」


 デモルが紙に纏めた情報を読み上げる。


「あの、ちょっといいか?」


 そしてデモルの報告により空気が重くなっている中、その重苦しい空気とは正反対の軽やかな声が辺りに響く。


「情報の信憑性にはかけるのだが、今大魔王クロフリートは学園年ベルホルンに潜伏しているという情報を俺の部下から得た。この件、俺が現地に自ら調査しても良いか?」


◇◆◆◇


 レニア達の講師になって約一ヶ月が経過した。その間朝から昼までは学業を校舎で習い、それが終わると昼食を取り訓練所で俺の授業が始まるといった感じである。

 学業の方は主に数学を習うそうなのでタブレットで中学生レベルから大学レベルまで学習できるアプリを落として俺の授業が始める前に一時間ほどやらせている。

 ちなみに学園の学業レベルは中学生レベルぐらいで、この一ヶ月ですでに学園の授業内容を超えてしまっているらしく、詳しくレニア達に聞いてみると夜家でガッツリやっているらしい。

 今は高校二年のレベルまで進めているらしく、今まで難しく思えた学園の授業が簡単になってしまうほどだとか。


 そして俺は今レニア達の授業が終わるまで学園都市の図書館にて読書をしていた。

 最早日課になっていており、レニア達が昼食を終えるとここまで迎えに来てくれるようになった。

 一応最初の方はレニア達が昼食を終えたらタブレットでメールによる連絡をし、それを確認してから学園まで向かって居たのだが一週間ぐらいでメールせずに直接迎えに来てくれるようになっていた。

 それは良いのだがここ数日俺が図書館で読書をしていると、決まって金髪美形の青年が来るようになっていた。

 それだけなら何も問題無かったのだがマップで確認すると彼を示す点が赤くなっているので毎回警戒するのだがいつも何かされる訳でも無く1日が終わる日々がつずいている。

 しかし警戒はして損は無いので自分とレニア達、そしてサラに結界魔法を常に展開するようにしている。

 いるのだが、流石に見られながら読書は集中出来ないのでそろそろ我慢の限界が来ているのでちょっと小細工をした上で話かける事にする。


「ちょっと話しないか?」

「……………」

「いいよな?」


 例の青年の肩に腕を回して半ば強引に座る。

 その青年は顔中に脂汗を流し始め、顔が真っ青になっているのだが、俺が逆の立場なら間違いなく同じ反応をすると思える程今の俺はウザい奴なのだろうと少し相手が可哀想に思えて来るのだが、辞めるつもりは毛頭無い。


「ここ最近ずっと俺の事を監視していたよな?」

「……ま、まさか!俺はずっとここで調べ物をしていたんだっ!」


 俺の問いかけに焦りを隠そうともせずそう答える青年。実に良い返答だと思う。

 この場合、俺がなんらかの対策をして近ずいてきたと思うのが一般的であろう。その点に関しては当たっているが、この青年は多分俺が『嘘を見極める何らかの対策』をしてきていると思っている事が先ほどの青年の言葉から伺える。


『調べ物をしていた』


 そこに嘘偽りは無いだろう。この図書館の書物で調べれるものなのか、この図書館にいる事で調べれるものかの違いはあるのだが。


 彼が本当にそこまで考えての発言かどうかは分からないのだが疑って損は無い。


「ふむ、で…その調べ物は、ジャンル的には見当も付かないので俺に教えてくれないか?」

「み、見れば分かるだろう?母が病に倒れてね、市販の薬では交換が薄いらしく、こうやって特効薬になる植物はないかと調べていたんだよ」

「ほう、……だが昨日はこの『効率の良い体操』その前日は『食生活の大切さ』そのまた前日は『可愛い魔物、動物全集。また飼育方法』そのまた前日は『魔法による美肌効果』を読んでいたと思うが?……そして今君が開いているページには『栄養価の高い植物による美肌の維持』と書かれているのだが……」

「………っ!」


 『栄養価の高い植物による美肌効果』というページを開いているのにしらばっくれるので、数日前からタブレットで撮影した画像と一緒に問い詰めていくにつれ彼の顔が先ほどの青みがかった顔が嘘のように真っ赤になっていく。


「こ…これはだな…その…」

「お師匠様っ。お迎えに来ましたっ!」

「今日はお一人ではないのですわね。お師匠様の友人ですの?」

「って、この方はまさか……アル・ヴァレンタイン様じゃ…っ!?」

「有名なのか」

「そりゃもうっ!なんてたって超越者のお一人でらっしゃいますからっ!」


 そしてアル・ヴァレンタインという青年は顔が真っ赤になったかと思うと真っ青に変わり汗の量も増え、しどろもどろになりながら苦し紛れの言い訳を言いかけた時、ちょうど昼食を食べ終えたレニア達の乱入により命拾いしたような安堵の表情を浮かべ、そして次には絶望という言葉が似合う顔を……と彼の顔は忙しそうである。


「成る程、君はかなりの有名人みたいだけど、今までここの利用者がそれに気づかなかった事から見るに君は正体を隠す何らかの魔法をしていたと見受けられるが、何故その魔法をしているのに正体が彼女達にばれたのか不思議だろう?実は彼女達には君が現れてから下位の魔法、段位五位下の魔法が効かない様な結界魔法を施していたんだ」


「…段位五が下位の魔術だと……?そんなハッタリが通用するとでも思っているのか?」

「なら何故君が自身にかけていた段位四の魔術【ドッペルゲンガー】がただの学生に過ぎない彼女達にはその効果が効かなかったのか……それは我々からすればそれ単発では何の脅威にもならない下位魔術だからではないのか?」

「だからそんなハッタリで騙される訳無いだろうっ!」



 そう言うとクロの話を信じていないアルは無詠唱で雷の段位三の魔術【雷鳴弾】をレニア達に撃ち込み、標的にされた三人から悲鳴が上がるも彼女達に【雷鳴弾】が当たる瞬間、アルが撃った魔術は「バシュッ」という音と共に消え去る。


「言っただろう?彼女達には魔術五位下の底段位の魔術は効かないと。そして闘いにおいて先程の様な無駄な一手と言うのはそのまま死に繋がるのだが、ただ倒すのもつまらないと思わないか?」

「……貴様…一体何をしたんだ?」

「なに、君が無駄な一手を撃ったと同時に俺も空間魔術【闘技場】を使い、この図書館そのものを別空間の闘技場と変えたまでだ。この魔術はどちらかが倒れるか、降伏するかしないと消えないシステムになっている」


 薄々理解していたのだろう、アルは俺が説明してもあまり驚く事は無かったのだが、彼の表情は依然険しいままである。


「ちなみに、この空間そのものが魔術になっているため…………この用に物を壊しても元に復元され、さらに関係無い者は結界内に入る事も出来ないから他人に気を配る必要も無く存分に戦う事が出来る」


 そもそもこの魔術はプレイヤー全てがチュートリアルで覚える魔術であり、いわゆるPvP用の魔術である。

 その為結界内にいても対戦と関係ない者は観戦者とされダメージを与える事も食らう事も無いため観戦者として結界内に入ったレニア達に危害が及ぶ事はまずない。


「成る程、出来た結界だな」


 全ての説明を聞き終えアルは先ほどまでとはうって変わりどこか余裕めいた表情で不敵に笑う。


「何がおかしい?」

「だってそうだろう?お前は自らの手で俺を本気で戦える場所を作ってしまたんだからな、おかしくないわけ無いだろう?」


 そう言うとアルの身体が一瞬光り、次に目にした彼の姿は金色のとんがった狐の様な耳が頭に生え、さらに狐の様な尻尾が三本、腰から生えてきていた。


「流石にこの姿を公の場で晒す訳も行かないからな。人間の姿だと本来の力の半分も出せないからかなり焦ったが、大魔王とやらが間抜けで助かったぜ」


「お、お師匠様…彼はどうやら狐、それも強大な力を持つとされる種族の一つ、九尾の亜人種のようです…」

「は、早く逃げましょう…っ!」

「まだ尻尾は三本ですが神の使いとされる人種ですっ。逃げても恥では無いですわっ」


 そして本来の姿に戻ったアルの姿を見てレニア達三人は恐怖に怯え始める。


「いいから落ち着け。レニア、エリシア、ユーコは今から始まる対戦をタブレットを使って動画撮影する事。また、俺の戦い方を良く見ておく事。コレが今日の授業だ」


 そう言うとクロはレニア達を闘技場エリア外まで移動させ、観戦者エリアまで移動させる。

 ちなみにこの【闘技場】は互いにパーティー機能のチーム編成に登録できる人数が中に入れる人数の上限になっているためお互いに10人、合計20人まで入る事が出来、公平に試合を行えるよう、少ないパーティーの人数に合わせてパーティーメンバーが多い方は闘技場外の観戦者エリアまで人数が同数になるように移動しなければ試合は行われないようになっている。


 そしてレニア達は言葉こそ出さないもののその表情からクロの事が心配でたまらないという気持ちが伝わってくる。


「さて、ここで問題だ。俺はお前達の何だ?」

「「「お師匠様です」」」

「正解。その師匠の戦い方を目に焼き付けろ。流派と言えるほど大層な戦い方でもなければ歴史があるわけでもない。だけど今から見せる戦い方が俺が教える大魔王の戦い方だ」


 そう言うとクロはレニア達の頭を軽く叩き、撫でるとアルのいる闘技と化した図書館その中心まで歩き出す。

 それでも相手が超越者で尚且つ九尾の狐の亜人種という事でレニア達はやはり不安そうな表情をしているのだがそこに強い意志を宿し、己の師の背中を見つめる。

 そう、自分達の師匠はあのアーシェ・ヘルミオネに勝った大魔王なのだと。


「死ぬ前の別れの挨拶は済んだか少年」

「その必要は無い」

「口だけは達者…と。肉体年齢はどう見ても17、8のそれ。アーシェのようにいく百年の重みも感じられない。ただ精神年齢が高いだけ。だから目の前の危機にも気付けない」


 そう言うとアルの身体が更に変化し、三本だった尻尾が九本に増える。


「この身体は久しぶりだ。本来の姿というのは実に心地いいな。この姿になれる機会をくれた事だけは感謝しよう。いいか少年、世界の殆どの魔族や人間はこの世界で一番強いのは誰だと聞けば皆口を揃えて魔王アーシェ・ヘルミオネと答えるだろう。もしかしたら今じゃお前の名前を上げるのかもしれない。しかし裏の世界を知る人間は神成者の中の誰れかを上げるだろう。そして超越者とはその頂きに最も近い者達の事を言う」

「俺の故郷にこういう諺がある。『弱い者ほど良く吠える』どうやら本当だったみたいだな」

「このっ糞ガキがぁっ!」


 本来の姿になって気分良くしたのか饒舌になるアルなのだが興味のない御託は聞く気にもなれないので軽く挑発して見たのだが、想像以上に効果的面だったらしく顔を真っ赤にしてクロに魔術を無詠唱で撃ち込んで来る。


 人数を同数にして30秒で試合開始可能なのだが、アルが攻撃出来るという事は彼の無駄口ですでに30秒を超えてたのだろう。


 そんな呑気な事を考えながらクロは親指と中指をくっ付けた右手をアルに向けて伸ばす。

そして次の瞬間、未だに上手く魔術を無詠唱で発動出来ないクロの指が「パチン」と鳴り響く。

調べ物をしていた※嘘は言っていないが嘘をついている矛盾。嘘つきのパラドックス

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