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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第二章
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闇の匂い

「ところでアンナ、娘のサラはあれから大丈夫かしら?」

「そうね、一応大丈夫みたいだけれど貴女のことは未だに虎馬みたいよ?あのサラが冒険者を引退すると言ってギルド職員になるくらいだもの」

「サラには悪いことをしたわね」

「むしろ感謝してるのよ?私の言葉なんか聞く耳持たないんですもの。なら実力行使しかないですから。逆にこちらがアーシェの手を煩わせて申し訳ないと思っているくらいよ」


 アンナと紅茶を嗜み小一時間、アーシェがクロの自慢に一区切りついて満足したのか若干血色のよくなった顔をこちらに向け、アンナの娘の事を気にかけているのか不安気な顔でアンナに話しかける。


 俺には何のことだかさっぱりなのだが話の内容からアーシェがアンナの娘に何か虎馬になるぐらいの事をしでかしたであろう事が伺える。

 ちなみにアーシェの話を聞き終えたレニアは今、憧れのアイドルを見つめる瞳で俺を見つめてくるので後でアーシェの洗脳を解く必要がありそうだ。


「話を聞く限りアーシェがサラに何かしでかしたみたいだという事は分かったのだが、このアホは何をやらかしたんだ」

「あら、クロはサラの彼氏なのにあの子から何も聞かされてないのかしら?」


 それは単なる好奇心からだった。ほんのちょっとアーシェとアンナ、そしてその娘の過去が気になっただけなのだ。

 しかし、そんなクロの素朴な疑問をアンナは満面な笑みで爆弾をキャッチボールのボールとしてクロに投げて来た。速球でだ。


 好奇心は猫をも殺す。


 正にその通りだと思う。

 そう思えるほどに、アーシェから発せられる魔力に殺気が込められドス黒い何かを宿し俺にまとわりつかせている。


 その爆弾を放ったアンナ本人は目をキラキラさせながら安全圏内にレニアを誘導させ、防御壁を部屋に展開しながらこちらを眺めている。


 その顔は昼ドラを見ている主婦のそれである。


「お兄ちゃん、聞いてないんだけど?」


 そして次にアーシェから怨嗟の言葉が紡がれる。


 多分、この受け答えを間違えたら死ぬヤツだ。


 どんなに鈍感なハーレム主人公でもその事実は分かるであろうと思えるほどその短い言葉には殺意が込められている事に、以前戦った時よりも強い恐怖を持って実感する。


「ちょっと待てアーシェ。話し合おう」

「言い訳があるのなら聞くわ」


 「ただし許すか許さないかは別問題よ」と言葉を繋げるアーシェ。そのアーシェはかの時の妻の様である。


◇◆◆◇



「で、本当にサラとは何も無いのよね?」

「ああ、一応面識は有るがお前が思っている様な関係では断じて違うと言える」


 アーシェの問い掛けに答えるクロの顔にはアーシェの手形が赤くクッキリと付けられており、足を組みながら踏ん反り返りソファーに座っているアーシェの前で正座になっていた。


 妻どころか彼女でもない相手に何故ここまでされなければならないのか?そう思うも決して口にはしない。

何事も命あっての物種である。死にたくはない。


「まあ、今回は私に報告無しで彼女作ったものだと勘違いしたから怒ったのだけど、私にちゃんと一言言ってくれれば何人彼女作ろうが構わないからそこは勘違いしないでね?お兄ちゃん」

「ああ、分かった。お前の気持ちを知りながら彼女を作る事はしないし、今は作るつもりが無い事ぐらい分かるだろ?」

「うん、そうだよね、ごめん」


 歪んではいるが百年単位で一途に想ってくれ、それを伝えてくれた相手を無下にすることは俺には出来そうもないのも事実であるし、妻と娘の事を未だに想っている事もまた事実である。

 俺の言葉に含まれた意味を理解したのか怒りの割合が多かったアーシェの表情が悲しげに崩れ、その口からは謝罪の言葉が紡がれる。


「しかし、あのアーシェが「彼女を何人作っても構わない」なんて言葉が出るなんて意外だわね。あなたのことだから束縛って言葉じゃ生ぬるいぐらいの事を言うと思ったわ」

「なっ!?私はそんな事しないわよ!お兄ちゃんってだけで少しハメ外しそうになるけど束縛なんかしないわよ!監視はするけど…」


 アンナに束縛癖がありそうと言われたアーシェは束縛なんてしないと否定するが、俺的にはもっと言ってやって欲しいと思う。

 監視している時点でアウトです。


 しかしアーシェのいう通り監視はされていたものの今まで行動を束縛されなかったのも事実であるため、一概に否定できないのがもどかしい。


「だって彼には妻がいるもの」

「え?妻?」

「そう、妻よ。この私からお兄ちゃんを奪った泥棒猫がね」

「い、命知らずも居たものね」



 そう言いアンナは身震いする。

 隣で般若の顔をクロに向けるアーシェを出し抜いてクロと結婚する事を想像するだけで恐ろしい。

 この世界ではクロ以外にもアーシェに対抗しうる存在がいるということにアンナはこの世界の広さと深さを思い知らされる気分になる。


「しかし、アーシェに対抗できる方がクロさん以外にいたなんて意外ですね。世界は私が思っていたよりも遥かに広い」

「え?クロの奥さんはそこらへんにいる普通の人間よ?」

「そうでしょうそうでしょう。貴方を敵に回してクロさんを奪い取るぐらいですものぇぇぇぇぇぇええええええっ!?」

「ちなみに子供もいるぞ?これが天使のように可愛い娘なんだ」

「はあぁぁぁぁぁぁぁああっ!?聞いてないんだけどお兄ちゃんっ!?」

「娘ええええぇぇぇぇぇええっ!?」


 クロの妻が普通の人間だと知り驚きを隠せないアンナが面白くて娘の存在も明かすとアンナだけではなくアーシェまで釣れた。

 目が血走っているのは気のせいだと思いたい。

 そんな騒がしい一行を眺めながら一人静かなレニアは「お師匠様の奥さんかぁ……」と静かに呟くと湯気が出そうなほど顔を赤くしているのだがその事に気付く者は居ない。


「な、何事ですかっ!?」

「理事長っ!大丈夫ですか!?」


 騒ぎを聞きつけて武装した2人の男性が勢い良く扉をあけ中へと侵入しようとするのだが、アンナ自ら貼った防御壁により阻まれ、侵入出来ず理事長室の扉が叩かれ、外からアンナの安否を確認する声が聞こえて来る。


「いきなり大声出してごめんなさいね。ちょっと驚いただけですから大丈夫よ」


 そういうアンナは大声を出してしまった原因を睨みながら駆けつけてくれた警護兵2人に問題無いと壁越し伝える。


◇◆◆◇


「サラは冒険者の才能があったのか12歳で冒険者になってからメキメキその頭角がでて来たのだけれど、その才能のせいで今まで負けた事はあっても負けず嫌いな性格も相まってすぐ、世界的にも平均ランクが高いこの街でトップクラスになったのだけれどそれがいけなかったのかしらね。自分の力に自惚れ出したのよ。別にそれだけならいつか現実に思い知らされて大人しくなるのだろうけど、娘の場合自分の才能に気付いていたってのが厄介だったの」

「でも、自分才能に気付いていたのなら普通は良い事なんじゃないのか?」


 アンナが娘の過去を語り出し、それを正座で聞いている俺の頬には先程つけられたビンタの後とは別に新しいく、先につけられた手形とは若干大きさの異なる手形が付けられている。


 何故娘の有無を言っただけなのにビンタされなければいけないのか納得出来ないのだが、それを口に出すほどの勇気は俺には無い。

 アーシェに至ってはスマホを取り出してわがエンジェルを見せてやると「可愛い」と連呼していたのだが、目が普通では無くなっていた。

 「お兄ちゃんの子供ってだけで涎が…」と呟いて居たので娘を前世で合わせなくて良かったと心底思ってしまう。

 アンナはアンナで「本当に人間と変わらないみたいね。母親似なのかしら?」とのたまっていたので娘の可愛さを叩き込まなければならないと赤く腫れた頬をさすりながら思ったりもした。

 レニアに関しては「可愛い!」と素直に連呼していたので後で褒めておこう。


「普通はそうなのだけれど、サラに関しては才能が高過ぎたのが逆にいけなかったのよ。自分の才能に自惚れてたサラは「自分の才能ならどんな高みにも行ける」と思っていて努力したわ。そしてサラの根拠のない自信について行けるほどその才能は高かったの」


 そう言いながらアンナは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 娘の才能が高く、その娘に向上心があるのなら普通の親ならば喜びこそすれ、はたしてこのような顔をするのだろうか?


まあ、俺の娘なら才能の有無に限らず可愛いのだが。


「クロさんはこの世界に存在する冒険者のランク付けを誰が付けているか分かりますか」

「ギルド職員が付けているんじゃないのか?」

「もちろんある程度のランクまではギルドでランク付けされるのですが、一定のランクを超えてしまうとギルド職員では正確な強さを測れなくなるためSランク以上になるとそこからは『超越者』と呼ばれる方がランク付けします。また、その超越者を選ぶ方々を『選定者』、そして選定者を纏めているのが『神成者』と呼ばれる方達が、というようにSランク以上になるとSSSランク以上の方々がランク付けを行いますが、その組織に娘の才能を隠したかったのです。娘がSランクになった時に偶然を余所をってアーシェと試合形式で戦えるように仕向け、そこでアーシェにより娘を完膚無きまでに叩き潰してもらったのよ。それでも更に高みを目指すのなら仕方ないと諦めもつくしね。結果、まさか娘に漏れ癖が出来るほどトラウマになるなんてちょっと意外だったけれども、冒険者を諦めてくれたみたいでアーシェには感謝しているわ」


 何だか良く分からないのだが上の方々が腐って居るだろう事と、サラの漏れ癖が親にバレている事が分かった。

 しかし、俺にこの話を聞かせる目的は何なのだろうか?


「一度アーシェに、娘の為に粛清してと頼んだのだけど「そいつらを粛清してもまた別の誰かが同じ事をするに決まってるわ。それに、私も奴らが面倒くさいから力を隠してるの知っているでしょう?」と言って動いてくれなかったのよ」

「そういう顔されても俺は動かないぞ?」


アンナが顔で「貴方なら潰して下さる?」と言ってくるので丁重にて断っておく。だがまぁ、もしおれの娘がサラと同じ状況だった場合、それを潰せる力があるのならその限りではないのかもしれない。勿論死ぬ事だって厭わないわけで。


「あら、残念ね。たしか…触らぬ神に……なんだったかしら?アーシェ」

「祟りなしよアンナ。どんなに強力な魔術を使えても私一人で守れる人の数は限られているの。それは勿論貴方の娘も入っているから安心して。でも、その限られた人以外の中にも大切な人はいるの。下手に刺激してその人達を失うような事にしたくないのよ」

「いいのよ、アーシェ。分かってるから。あと、貴方の庇護の下に私の、娘も入れてくれて有難う」

「当たり前じゃない!親友の娘は私の娘であるのよ?」


そう言うと二人感極まったのか抱き付き合い、その目は潤んでいた。


ちなみレニアはというと、妄想から未だ帰って来ず「今日は貴方の好きなシチューを作るので早く帰ってきて下さいね」とつぶやいていた。


◇◆◆◇


そんなこんなで時間はかかったものの何とかこの学園の外部講師なれた訳だが、次いでにこの世界の闇に片足を突っ込まされた気分になる。

あの理事長は俺をこの世界の闇に片足を突っ込ませるのが目的でアーシェを呼び寄せたのだとすれば何だか腑に落ちないのだが出来た娘の為に裏で苦労するその姿には好感が持てた。

場所が変われど母は強いのだろう。


「お師匠様、学園内の訓練施設まで案内しますので付いてきて下さい!あ、二人にはギルドカードで連絡しときました!」

「ああ、有難う」


そう言いレニアの頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めるレニア。

今二人が向かう場所は学園内の訓練施設で、レニア曰く無料で貸し出し出来るのが学園内の訓練施設だけらしく設備はしっかりしているものの、ギルドが有料で貸し出している訓練施設と唯一違う点は、貸し切りでの使用か、共同での使用かぐらいしか違いは無いらしい。


また、薄々そうじゃないかと思っていたのだが、俺の生徒はレニアだけでなくレニアの他に昨日会ったユーコとエリシアの三名だという事である。

まあ、一人が三人になろうが教えられる事は限られているので然程変わらないだろう……と思いたい。


そうこうしているうちに観客席が無い野球球場のような野外施設が見えて来る。どうやらあれが訓練施設なのだろう。

「お、お待ちしておりましたお師匠様。改めまして、わたくしユーコ・ラインハートですわ。ユーコとお呼び下さいませ」

「よ、宜しくお願いしますっ!わっ、私はエリシア・マルメティアです!エリシアと呼んでください!」


訓練所に着くと入り口には既にユーコとエリシアの二人が到着しており、クロを見付けると駆け寄ってきて挨拶しだす。

そして、やはりというか何というか、周りから見下した視線を向けられるのだが、レニア同様にユーコとエリシアは気に留めて無いようである。


「こちらこそよろしく。君たちの外部講師になったクロ・フリートだ。はっきり言って戦闘技術だけで見れば君達に劣るかも知れないのであまり期待はしないでくれよ?」


そしてクロもそんな視線を無視して軽く自己紹介を済ますが、レニアがさらに補足情報を目を輝かせながら語り出す。


「お師匠様は適性テストでの試合で相手の方を魔術、戦闘技術そのどちらも一瞬で倒してしまったんですよ!」

「ほ、本当ですか!?レニアっ!」

「それでこそわたくしのお師匠様相応しいですわ!」

「いやいやたまたまだって。それに装備の性能の差もあったと思うし、一概に俺が強いから勝てたというものでもないからな?」


確かに装備は大人気ないと思えるほどの差があったのだが、それでも戦った相手がまさかアンナの側近の護衛でギルドランクが両方ともSSだという事にクロは気付いていないのだが。


「優れた装備を使いこなすのも力量の一つですわ。それだけお師匠様が熟練の域に達してる証拠ですのよ?」

「そういって貰えるとは思わなかったな。有難う」

「べ、別に感謝されるような事は言ってなくってよ?」


はっきり言って戦闘技術に関してはスキルや装備に頼りきりなので自分自身では未熟な部分の一つだと思っているだけにユーコの言葉は素直に嬉しく、自然と感謝の言葉が出るのだが、まさか感謝されるとは思っていなかったのかユーコは顔を赤くしながらそっぽ向く。


「お、お師匠様!私もユーコと同じ事を思ってましたっ!」

「わ、私もです!」

「うん。有難うな」


ユーコに続きレニアエリシアも目を輝かせながら言ってくる。

まだ会って間も無い、そんな彼女達に向けられる下卑た視線に対して「いつか彼女達に違った視線を向けさせたい」と思ってしまう俺は何処までも甘いのかもしれない。



ぇぇぇぇぇぇぇええええええっ!?※アナゴさんもびっくり

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