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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第二章
17/121

学園都市

 アーシェとの闘いから1週間が経過して、そしてクロは魔法を使えない身体になってしまっていた。

 スキル【最後の灯火】により本来なら無詠唱することができない高段位魔術の無詠唱を連発したことにより身体が故障したのだろう。

 あれから低段位の魔術ならなんとか詠唱できるようになってきているので全快するにはまだまだ時間はかかるだろうが、当初危惧していた魔術を使えなくなってしまうような事は無く、安堵した。

 しかし低段位しか扱えないのにはかわりないので今の俺はこの世界の多少腕が立つ者よりも弱いかも知れないという事実を噛み締める。


 そのためこの学園都市まで大半の現地人と同じくノクタスから馬車などを乗り継ぎここまで来たのだが、馬車には当然のように振動を吸収するなどの処置は施されてなく馬車酔で、馬車での道中はほんとにキツかった。

 そんな体験をして来たからこそ地球並に発展している学園都市の光景に驚きを隠せないでいる。


 そしてクロはアーシェとの会話でアーシェ自ら語った矛盾点“この世界に前世の記憶を持った状態で転生したはずなのに前世にプレイしていたゲーム『ギルティ・ブラッド』で得た硬貨を所持していたという矛盾点”からこの世界について情報を探ってみようと思いノクタスのギルド職員から巨大な図書館がある街を教えてもらうと、今学園都市・ベルホルンに来ており、その町並みに圧倒されていた。


「…何と言うか……スゲーな」


 外景そのものはヨーロッパの古い町並みなのだがその他の目に映るもの…魔力を動力源にしているだろう馬がいない馬車のような乗り物や、電車ならぬ魔力車、街灯らしきものなど数えたらキリがないぐらいなのだが一番驚いたのは、速さこそ出てはいないみたいなのだが空を飛んでいる乗り物まであるのには正直驚いていた。



「そこの兄ちゃん、この学園都市に来るのは初めてかい?この学園都市は武術に優れた者や、魔力総数が多い人が集まり、その中でも錬金術師を目指す若者や、それらを指導する者たちが自然と互いを競うようになった結果が今の学園都市・ベルホルンじゃ」

「なるほど、凄いとは聞いていたのですがまさかこれほどとは思いませんでした」


 そして頭を上げ、町並みを見ながら歩いていると見知らぬ小奇麗な老人が話しかけ、この街について勝手に説明してくれる。

 しかしこの街のマップ機能を開きくと老人を示すアイコンの色が何故か赤色をしている事に気づく。


 そして今の自分を客観的にみた場合を考えてみる。


 服装はこの世界に馴染むためにストレージからこの世界でもありそうな服をチョイスし来ているのだが、まるで新品かつ富裕層が着そうな服に見え、そんな奴が無防備に観光気分で街をぶらぶらしているのである。


 ……もしかして今の俺って見える人には鴨が葱をしょって無防備に歩いてるように見えるんじゃ…


 そう思うと急に話しかけてきたこの老人のアイコンが赤くなっている理由になんとなく気付き、警戒しているといつの間にかおじさんの左手が俺の懐を探っているではないか。


「【カグチ】」


 というわけでストレージから木刀を取り出すと問答無用でスキルを発動し、この舐め腐っている糞ジジイに喰らわす。


「ったく、油断も隙もねーな…」


 しかし、あの老人が言っていた事は嘘ではないだろう。

 わざわざ調べたらすぐ分かるような事で嘘を付く必要性もないだろうし、むしろ知っているからこそこの街に来る人の方が多いのだろう。

 そう思えてしまうほど周りを見渡せば学生であろう若者やこの街で生活しているであろう住人に混じって観光客らしき人々の姿も数多く目に入ってくる。

 その中でも特に自分は警戒心が薄く平和ボケしてそうな立ち振る舞いでさぞ美味しそうな獲物に見えたことだろう。

 現に、このマップ機能がなければスられた事すら気付かなかったであろう事は間違いない。

 改めて日本という国と国民性は良い意味でも悪い意味でも平和であったのだと思い知らされる。


 この世界は日本ではない。


 そのことを今一度胸に刻みながら、先ほどスキルを撃ち込んだ老人に平和ボケしていた自分に気付かしてくれたお礼と授業料の意味を込めスキル【キュア】を使ってやる。


「……か、金は持ってないぞ」

「金は要らない。そもそも盗みを働くような奴に払えるほどの金銭などはじめから期待していない。わかったらさっさと俺の前から消えろ。目障りだ」


 そしてスキル【キュア】を掛けられた老人が迷惑そうな顔で金の無心を言ってこようとするので、それを制し金が要らない事と、目障りである事を告げると「糞がっ」と悪態を付きながら去っていた。


 そんなことがありこの街の治安の悪さを懸念するのだがどうやら杞憂だったようだ。


 と思いたかったのだが、当初の目的である図書館を探すため辺りを散策するのだが、あのスリがあった時から誰かに後を付けられているので辟易してしまう。

 しかしマップで見たアイコンの色は青色なので敵意ではなく好意を向けられているみたいなのだが、アイコンが青だからといって警戒しない理由にはならない。


「す、すみませんっっ!」

「はい、なんでしょうっ?」


 なんてことを思っていると件の人物がいつの間にか自分に近づいていたみたいで、声をかけられ思わずビックリしてしまう。

 しかも声が裏返ってしまい、無駄に恥ずかしい…。


「あの、その…えっと…ですね」


 しかし目の前の声をかけてきた彼女は、声をかけたはいいが言いよどんでいるみたいである。

 これが校舎裏などならば嬉し恥ずかしな展開なんだろうが、彼女の顔は愛の告白というよりも人生をかけた最後のチャンスを目の前にしているような表情をしているので嬉し恥ずかし展開ではない別の何かなのは間違いないだろう。

 というよりも、この子の姿に目を奪われ高まる鼓動を抑えられそうにない。

 彼女は、ウエーブのかかった肩までの長さの明るい赤毛に、大きな目に小さな鼻にメガネをかけおっとりお姉さんといた雰囲気を醸し出し、胸はいい感じ(目視F)なのだが、何よりも彼女の下半身である。

 彼女の下半身は髪の色と同じ赤毛の綺麗な毛並みをした馬の姿をしていたのである。


 そう、この娘はケンタウルス娘そのものなのである。


 もともとケモナー気質がある地球人代表としてはケンタウルス娘の登場に興奮を抑えれそうにないかもしいれない。

 しかしここで興奮してしまってはこのケンタウルス娘に「何この気持ち悪い人」と言われ去ってしまうかもしれない。

 ここは努めて冷静に変態かつ紳士な対応をしなければならないだろう。


 それにしても実にいい毛並みだ。毎日欠かさずブラッシングなどでケアしいるのだろう。実にいい肌触りではないか。


「あ、あの……」

「……あまりにもいい毛並みだったのでつい。すまない」

「いえ…」


 どうやらやってしまったみたいである。

 上半身はこの学園都市のどこかにあるであろう学園のブレザーなのだろう衣服を、前足と後ろ足には麻でできたズボンみたいなのを履いているのだが、腹はそのまま馬の身体を露出していたので気がついたら撫でていた。

 もしこれが年頃の、普通の娘だったとしたら、制服の隙間からちらりと見えたへそを触ってしまったみたいなものなのだろうか?


 ものなのだろう。


 顔を真っ赤にした目の前のケンタウルス娘を見ればやはりセクハラに該当しそうである。

 とにかく、話を逸らして誤魔化すしかない。セクハラで捕まるとか避けるべき未来である。


「そ、それよりも俺に何か用だったんじゃないのか?」

「あ、う…そうでした」


 どうやら俺が彼女の身体を断り無く触っていたことを有耶無耶にできそうなので一安心する。

 あとは逃げに限る。セクハラや痴漢の冤罪は覆すのに難しく、逃げる事が一番無難な対処法だと聞いた事がある。

 今がその時なのだろう。


 三十六計逃げるに如かずである。


「あの、私達の師匠になって下さい!……あれ?」



◇◆◆◇



 あの娘には申し訳ない事をしたと心の中で謝罪しなんとか振り切った後、マップ機能に頼りきりではあるがやっとのことで図書館に行き着き、利用許可を取るべく入口のカウンターへ来ていた。

 この図書館の外見は図書館というよりも貴族の屋敷といった外見なのだが

、間取りは思っていたのと少し違い壁が無い代わりに柱があり一室の広い空間に本棚が規則正しく並べられていた。


「閲覧希望ですか?」


 カウンターには長い髪を上で束ね、少しキツイ目に丸いメガネをかけた女性が座っており、こちらに問いかける。


「あ、はい」

「では学園の関係者である事を証明出来る身分証と利用料金、金貨一枚になります。金貨はご利用者が書籍などを破損しない限りお帰りの際カウンターにてお返し致します」

「えっと、学園関係者じゃないと利用できないんですか?」

「基本的には利用できません」


 なんだと……学園関係者じゃないと利用できないとか聞いてないんだが…さて、どうするか。


「や、やっと追いつきましたよ…お師匠様。ちょっと待っててください」


 どうやって入るか悩んでいると先ほどのケンタウルス娘が現れ、正式手続きをすると俺の手を掴み図書館の中へ連れてってくれる。

 ミーアもそうだったのだが彼女も聴覚や嗅覚が人間よりも優れていたのだろうか?。

 追いつけた理由はなんとなくわかるのだがわざわざ図書館に学園部外者である俺を入れる理由が分からない。

 この場合もしバレたら俺だけではなく彼女も何らかの懲罰を受ける事になるのは間違いないだろう。

 いや、逆に俺をこの図書館に誘い込んだのだと思えば納得がいく。


「どういう事だ?」


 もし誘い込まれたのだとすれば、これはいわゆるピンチというのではないだろうか?女の執念は恐ろしいと心に刻み直ぐにでも土下座出来る体制を作る。


 セクハラしてごめんなさい。ほんの出来心だったんです。いやほんと。


「えっと、図書館に入れない雰囲気だったので、外部講師も利用かのうですので、その、私の外部講師という事にして、その…あの、勝手なことしてすみません……」

「いや、むしろ助かった。ありがとう」

「それで、先ほどの件の続きなのですが…」


 来た!この俺の土下座見ても果たして許せないと言えるのか見せてもらおうか。


「私たちの外部講師になって下さい!」

「刮目せよ!我が奥義……はい?外部講師」

「は、はい」


 ……俺をここまで追いかけて来たのはセクハラ云々ではないと?ま、まあこれでも紳士ですからね。あれはいわゆる紳士撫でであるからしてセクハラではない。

 しかし外部講師とは一体なんなのだろうか?ちゃんと給与などが支払われるのなら興味がある案件ではある。


「すまんが俺はこの街に来たばかりで、こも街について疎くてな、すまないがその外部講師とやらを教えてくれないか?意味を理解してないと断ることも了承することもできない」

「あ、はい…分かりました」


 そういうと彼女は外部講師について語りだす。


「外部講師というのは、立場的には非常勤講師と似ていますがすが非常勤講師と違い給料は発生しません。ですがその変わり、生徒登録をしているしている生徒が年一回開かれる文武実力試験にて武術及び文学のどちらかで秀でた成績を残す事が出来ればその年の、生徒の成績が悪かった学園講師と入れ替わりで学園の講師になれる権利を得れます」

「そうか。その話は申し訳ないのだが丁重に断ろう。他をあたってくれ」


 講師になりたいのなら喉から手が出るほど欲しいチャンスなのだが、講師になりに来たのでもなければ只働きをしに来たのでもない。

 学園関係者という肩書きは魅力的なのだが、逆に言えばそれだけである。

 ここは学園都市と呼ばれているほどの都市なのでこの都市の発展には学園が大きく関わっているのだろう。だとしたら探せばもっと良い条件で学園の関係者になれるはずである。


「そ、そんな…私たちにはもう後がないのです!な、何でもしますから!」


 何でもする。実にホモ臭く、魅力的な言葉である。

 その言葉で思わず首を縦に振りそうになるが、なんとか押さえる。


「何でもするってお前…………身体を売れと言ったら売るのか?」

「っ……や、あの……」


そしてお返しとばかりに意地悪な質問で返し彼女の、今にも泣きそうで怯えるような反応に満足する。


「覚悟も無いのにそんな事言っちゃ駄目だろ?俺のどこにそこまで期待しているのか分からないがとにかく他をあたってくれ」


そういうと彼女の頭を二回軽くポンポンと叩くと、もう要はないと図書館を後にする。


ただでさえ静かな場所なのだからこのやり取りがカウンターの女性に聞こえている可能性も高いだろう。せっかく入れたのだが彼女の外部講師にならないのなら出るべきだ。


少しして後を追いかけてくる彼女が見えたのだが、無視して先を急ぐ。

冷たい態度をとっていれば彼女もいずれ諦めるだろう。

とりあえず彼女の事よりも今は自分の事である。この街のギルドに一度行ってみて学園関係者になれる仕事などが斡旋されてないか確認するべきだ。


そう考え、マップを開きギルドに向かう事にする。



◇◆◆◇



この街のギルドはノクタスのギルドよりも大きく、木造中心のノクタスと違い石造で出来ており、また七階建てとこの世界には珍しく高さもあり、老舗の銀行だと言われたほうがしっくりくる外形である。

銀行はともかく古き建築物なのだろう建物の入り口は日本の硝子と遜色ないほどの純度と硬度であろう硝子で出来ており、さすがに自動ではないものの硝子の扉を開き中に入るという何気ない動作で日本での生活を少し思い出す。


「いらっしゃいませ。本日のご利用は何でしょうか?」

「学園関係者関連の物が有れば回してほしいのだが?」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 若干の懐かしさを感じつつも受付カウンターにて学園関係者関連の仕事がないか聞いてみると受付嬢がパソコンみたいな道具でカタカタと何か調べ始めたので、その間ギルド内部をそれとなく観察してみると、やはりノクタスのギルド同様に冒険者だろう逞しい身体をした人々が多いのだが、それに混じって今の俺みたいに一見弱そうな身体の人も若干ではあるが見受けられる。

多分勉学の方で学園関係者になりにきた、または既になっている人達であろう。

そんな中ギルド内にカッポカッポとやたら響く足音が聞こえてげんなりする。


「お待たせしました。そうですね、今残っている者は…………貴方の後ろにいますホウスレニアさんのグループのみになります」

「…………っ」


 ギルド受付嬢に言われるまでもなくあの独特な足音で気付いていたのだが、あのケンタウルス娘がホウスレニアという名前だとは限らないので後ろを振り返ってみると、件のケンタウルス娘が「着いてきちゃった」とでも言ってそうな表情で上目遣いをし、手をもじもじさせていた。


 可愛いなちくしょう。


「辞めときなそこの兄さん」


するとケンタウルス娘の更に後ろのほうから俺に向かって声をかけながらこちらに歩いてくる、黒のコートに黒のインナー、黒のパンツに黒の革靴と、髪は赤色なのだが身に付けている物は上から下まで全てが黒づくめな男性がいた。


「またそんな事を言って……いくら貴方でも言っていい事と悪い事が有ります」


その男性の言葉にギルド受付嬢が反応し、俺のJr.が縮み上がるほどの眼孔を男性に飛ばす。


「何言ってんだよ?馬娘には現実を教えてやってこの優男にはこんな才能ない生徒を受け持たなくて済む。いい事づくしじゃぁないか?」


 男性は気付かない。

 ギルド受付嬢の眼孔に殺気が混じりはじめている事に。ンタウルス娘の目に涙が滲み、悔しさで拳を握りしめている事に。


「流石わたくしの講師であるビンセント・モルツ様ですわ!」

「まともな装備品も買えない田舎馬娘が図々しいのよ」

「本を読むしか才能ないと気付けよな」


糞がっ※この場合排泄物の意味を指した言葉では無い

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