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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第一章
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姫と竜。

 時間を遡りグルドニア王都ギルド本部ではノクタスの街に現れた魔族軍に抵抗すべく多くの冒険者達が集い、ピリピリした空気を作っていた。


 その緊張は人族最強などと謳われている私でも緊張と恐怖で潰れそうなほどである。


 皆分かっているのだ。魔族には勝てても魔王アーシェ・ヘルミオネには勝てないと。

 彼女が前魔王を倒した魔術は魔術段位六だと言われており、今まで数多の人族、精霊族、魔族に正式な決闘を受け、そのどれも一撃すら喰らわずに無敗してきているのだ。世界最強とはアーシェ・ヘルミオネであり、アーシェ・ヘルミオネは世界最強だと思ってしまうほどである。


しかし、しかしである。

せめて今戦場に出向けば少なからず救える命はあるはずなのである。


 私が今まで磨いてきた魔術、スキル、戦術などはそのために磨いてきたのではないのか?


 確かに私も一度人族の最強の一角だと言われていたボストンさんと魔王アーシェとの戦いを実際に見ており、彼女の強さを肌で感じている。

 彼女は手加減しているのが手に取るよな戦い方であり、「魔族側に手を出すな。手を出さない限りこちらからは手を出さない」と言っているかのようでもあった。

 それは過去に決闘を行った相手全てが生きて帰って来ていることからも伺える。


 だからこそ自分の国民のために矢面に立ち守ってきた魔王とは違い、自らの国民をまるでゲームの駒のように使う案を笑い話のように語り合っていた皇帝とその重鎮達に、その会議を盗み聞きした時は怒り震えてもいた。


 魔族を悪だと言うが、貴様らこそが悪の根源ではないのか?貴様らが欲に駆られて富欲しさに国民を犠牲にして、魔族と人族の平和を壊す原因ではないのか?と。


 現に魔族は攻めて来て関係ない国民が犠牲になろうとしているではないか。

 こんな理不尽な殺され方は――



「認めていいわけないだろうっ! 【デモンズゲート】」



 そう私が唱えると一度手合わせした時に魔王アーシェから教えて貰った魔術が発動し、目の前に漆黒の門が現れ、鈍い金属音と共に開き始める。

 その瞬間周りから、私を魔族と勘違いした者たちがざわめき立つが、魔術を行使したのが私だと気づくと安堵のため息と共に収まり出すが、先ほどとは逆の種類のざわめきが辺りを包む。


「スフィア・エドワーズ姫!?」

「黙れ!私は今この時より今の地位を捨てる!姫と呼ぶのは許さん!そして私は今からこの門を使いノクタスに行く! 付いて来たいものは勝手に来い! 以上!」


 そう言い捨て【デモンズ・ゲート】で出現した門へと目線を向けると、その先に見える景色はノクタスのギルド支部と、ビックリした顔のギルド長であった。



 そして私は疾風の如く駆け出し戦闘音が聞こえる方角へと走ると、思い知らされる羽目になった。

 私は自分の力に奢っていたと気付かされた。

 今までの周りの評価により慢心していたのだと思い知らされる。 


 今目の前で繰り広げられる戦闘、それは私の思い上がっていた感情を粉々に打ち砕き、真っ新にする。

 そして戦っている二人のうち一人が魔王アーシェだと気づくと恐怖で立てなくなる。我々人族はあれに牙を向けたのだと。

 その魔王アーシェに真っ向から立ち向かっている相手も、初見では人族に見えるが、よく見れば魔族である事が伺える。


「もし人族にあれほどの力があったら…」


 もしかしたら彼女達に立ち向かえるかも知れない。


「彼女のように他人のために今まで力を隠し、他人のために力を使える事はできないだろう…」


 しかし私たち人族は自分のためにその力を振るうであろう事が容易に想像出来た。

 現に、現魔王の経済力が低下したという情報を手にした瞬間魔族国を攻めた結果がこれなのである。


「……姫様」


 目の前の光景に打ちひしがれていると、私を追って来たのであろう我が家臣の一人が心配そうに声をかけ、私の肩に手を添える。


「姫と呼ぶなと言ったであろう?見てみろ。あの獅子を怒らせたのは我が父上であるぞ?」

「……」


 そう言うと家臣は答えず押し黙る。肯定すれば反逆罪に当たるからであろう。否定しても罪には問われない。


 そうしてる間に戦闘は終焉えと向かっているのがわかるほど魔王アーシェが優勢になってきており、止めととばかりに見たこともない魔術を自分たちの居るノクタスの街へと撃ち放つのが見えた。

 その瞬間辺りからは人族、魔族、精霊族関係なく魔王を心配する声が高まり、魔王アーシェの相手もまたクロ・フリートと呼ばれる魔王なのだと知らされる。

 様々な種族から尊敬されるその存在、その存在が彼の器の大きさを、優しさを、強さを伺えさせる。


 しかし、その存在すら魔王アーシェの放った魔術と呼ぶにはあまりにも強大すぎる魔術によって今消えようとしている……我々帝国の皇帝の過ちにより。


「小娘、何故世界の終わりのような顔をしておるのだ? もしや我が魔王、クロ・フリート様が負け、アーシェとかほざく小娘の技でこの辺り一帯が消滅するとでも思っておるのか?」


 そんな時、いきなり後ろから声をかけられ驚くと同時にこの状況を悲観するどころかクロ・フリートが負けると少しも思っていない事が伺えるその声音と内容にさらに驚かされ、その声の主を確認するべく振り返ると再度驚かされる。


 漆黒の体に見たこともないほどの巨躯をした竜の頭がそこにあり、その瞳は子供をあやすような優しさをたたえていた。


「見ておれ。我が魔王様の、魔王たる所以を」


 目の前の黒竜はアーシェが放つ見たこともないような凶悪な魔術を前にしても、その言葉通り全く主を心配した素振りを見せないところを見ると、今魔王アーシェと戦っている新たな魔王はこの魔術をも防ぐ方法を持っているのだろう。

 周りを見ると黒竜だけでなく他の家臣達であろう者たちから恐怖や絶望といった態度や表情は見れず、逆に私のような人族側の者達が恐怖に怯え逃げ惑うものや神に祈る者等が見受けられた。

 そして、魔王アーシェが魔術を放ち数秒後、辺りを黒い炎が街を覆い尽くしたかと思った瞬間、その炎と魔王アーシェが放った魔術が消え次の瞬間魔王アーシェの愛刀に胸を貫かれたクロ・フリートという者の姿が見えて来る。


 辺りは一瞬静まったかと思うと、四方から悲鳴と回復系魔術やスキルがクロ・フリート目掛けて撃ち放たれるのだが、それらは魔王アーシェの張った防御壁に阻まれ霧散していく。

 その光景は目の前の悲劇を目の当たりのしていてもなお悲しくも美しいと思えてしまうほどである。

 しかし、そのような光景を前にしても隣りにいる黒竜は悲しむ素振りどころか未だどこか余裕めいた表情をしているように見える。

 確かに黒竜が言うようにクロ・フリートが放った魔術は魔王アーシェの魔術を打ち破った。しかし、魔王アーシェよりもクロ・フリートの方が経験的に劣っているだろうことは今までの二人の戦闘から想像でき、その差がでた結果なのだろう。

 その光景を前にして何故この黒竜は自らの主が勝つと信じて疑わない目をできるのだろうか?


「ここからだぞ目をそらすなよ? 小娘、我が主の本気が見れるのは。家臣ですら今まで主の本気を見たことがあるのはこの私だけだからな」


 そう言い笑いかける黒竜。


「…え?」


 その黒竜の声からはまるでプレゼントを前にした少年を彷彿とさせるほど、これから起きるであろう展開を、目の前の黒竜が期待し興奮している事が伺える。


 しかし、黒竜の期待も虚しくクロ・フリートは力無く地に倒れてしまう。


 結局何も起きなかった。


 そう思った次の瞬間、クロ・フリートから淡い光が一瞬放つと魔王アーシェが吹き飛ばされ、さらに先ほどまで体を穿かれ、力無く倒れた者とは思えない程の魔力の奔流を肌で感じ取ると、私には到底真似できない、それどころか発動すらできないであろう高魔術を無詠唱で高速詠唱し、魔王アーシェへ撃ち放つ。

 その光景を見た私は自分の小ささと世界の広さを肌で感じ、あの魔王アーシェが敗北する瞬間を目に焼き付ける。


「どうだ小娘? 我が言った通りになったであろう」

「……」


 そう私に聞いてきた黒竜はまるで悪戯が成功したかような無邪気な声で話す。

 私は竜種の顔から表情を読み取ることが今までできなかったのだが、今私の隣にいる竜の顔からはなんとなくであるがその表情、どこか誇らしげなその表情が分かる。


「私の名はスフィア。スフィア・エドワーズだ。ところでお前の名はなんだ」


 そう思うと先程から小娘呼ばわりされている事が歯がゆく思えてくる。

 私も竜も姿こそ違うがこうやって話し合える存在であるならば、私の名前ぐらい覚えて欲しく、そしてこの竜の名前も覚えておきたくなる。


「そうか、覚えておこう。そして我の名はバハムートだ。ところで小娘…」

「スフィアだ! 先ほど述べたばかりであろう!?」

「かっかっかっ悪い悪い、スフィア」


 そしてこの竜、バハムートは全く悪びれた様子もなく笑い、次はちゃんと私の名を呼んでくれる。

 もし我々人族がもう少し人族以外に理解を示し、歩み寄る事が出来ていれば今の私と竜みたいなやり取りが別段珍しくもない光景になっていたのかもしれない。


「ところでスフィアよ、お前は我と同種が住む場所を知っておるか?」

「知ってどうする?」

「我が主の戦いを見てから、この世界を自らの目で耳で鼻で指先で感じたくなってな。まさか我以外に我が主に全力を出させる存在がいたとは、我が主に出会った時以上に、世界は広いと実感した」


 どうやらバハムートと名乗る竜もまた、先ほどの戦いに何か感じる物があったのだろう。その気持ちが手に取るように分かってしまう。

 どうあがこうが私も竜も魔王二人からすればちっぽけな存在でしかないのかもしれないし、そう思ってしまう自分に改めて気付き悔しいのだろう。


「教えてもいいが、私の我が儘に付き合ってくれないか?」

「我で出来る範囲なら申してみろ」

「その旅に私も同行させてほしい。私も世界を見てみたいんだ。人族では見れない景色を。それと……」




◇◆◆◇



 グルドニア帝都では見たこともない巨躯の黒竜が突然現れ、今現在その中心部にある王が住む城へと舞い降りようとしている。

 現皇帝、ドミニク・エドワーズ第七国皇帝陛下を守るために結成された近衛兵達が黒竜めがけ魔法や弓などを撃ち放つが、黒竜の鱗に傷一つつけれないでいる。


「何をしておる!? 儂はトカゲ一匹殺せない奴らを今まで近衛兵として抱えていたとでも言うのか!? 使えない奴らめ!」


 近衛兵達の攻撃は、確かに人族の中では高い技術と威力である事が見受けられるのだが、この程度で魔王アーシェに喧嘩を仕掛けたのだと思うと我が父ながらも可哀想に思えてくる。


「使えないのは父上、あなたですよ?」

「す、スフィアなのか?」


 そして私はバハムートの背中から父上の前に飛び降りると目の前にいる父上を睨みつける。


「娘の顔も忘れたのですか?」

「と、いう事は…目の前の竜はお前が隷属の魔法で隷属化に成功したというのか!? でかした!」


 そして目の前の父上は、目の前に現れた人物が私だと分かるやいなや舞い降りた黒竜と私にに向かって称賛の言葉の数々をかけ始めた。

 その態度はまるで世界を手に入れたかのようである。

 その腐った考えでどれほどの民の血が流れたというのか…


「父上、勘違いをしております。この竜は、隷属されてなどなく、魔王アーシェを打ち破った新たなる魔族の主、大魔王クロ・フリートの家臣が一人、バハムートであり、私と彼は単に利害が一致したパートナーであります」

「ん? どういうことじゃ……」


 私が言い放った言葉の意味を理解できないのか父上が聞き返すのだが説明するつもりはない。例えあの出来事を話した処で鼻で笑うであろう事は目に見えている。

 いや、父上でなくとも信じる者は少ないであろう。アーシェ・ヘルミオネとクロ・フリートの戦いはそれほどまでに衝撃的であった。


「そして、今日を持ちまして私、スフィア・エドワーズは、父上との絶縁を申します。明日、いや、今この時より赤の他人とし接します」

「さ、先程から何を言っておるのだ? スフィア?」

「人族の癌である父上と縁を切ると言っているのだ。もういい…バハムート、焼き払え!」

「我が主は無駄な殺生が嫌いでな、命までは奪わないが、この城を落とさせてもらおうかの」


 そして私の掛け声でバハムートがこの国にそびえ立つ城に高濃度のブレスを吐くと、過去幾度もの戦争をも乗り越えて来た、そして私の思い出が詰まった城を穿ち、風穴を開ける。


「なんと脆い城か…。結界も何も張貼っていないではないか? これが皇帝の住む城と言うのであれば、ここまで我々が攻め込む事ができないと舐められているのか、単に貴様らが弱いだけか…さて、どっちらであろう? ……このようだと後者ようだな」


 城を破壊されても動揺せず、すぐさまバハムートを敵だと認識すると高段位魔術や(と言っても段位四程度なのだが)スキルをバハムートに撃ち放つ処を見ると彼ら近衛兵のレベルの高さが伺えるのだが、その魔術ではバハムートの硬い鱗にすら傷を付けれないようだ。


 そして結界は貼っているのだが、バハムートからすれば無いのと同じなのだろう。もしあの戦いを見ていなければバハムートが世界最強だと疑わなかったであろう。


「父上…いや、ドミニク・エドワーズ。貴様は欲に飲まれてしまったのだ」


 そして私は剣を抜き手にする。



◇◆◆◇



「殺すのかと思ったぞ?」



 あの後私は剣を抜き、父上の胸にある皇族の証である刺青に剣で傷を付けた。あの刺青は魔力を込めて彫ってある特別なもので、あの刺青があるからこそ皇帝でいられるのだが、傷を付けられた今、皇帝ではいられないであろう。


「あれでも一応親だからな……まあ、そのうち誰かの手でにより粛清されるであろう?その役目を娘である私ではなく他人に任せるのは親不孝者なのかもしれぬな」

「そう思うのなら、良い国を作れば良い。それが皇帝の娘が出来る親孝行であろう?」


 これから私に訪れるであろう苦労など全く考えていないであろうバハムートの言葉は何故か、今まで嫌で仕方なかった背中の刺青を誇りにできそうな気にさせた。


「まったく、他人事だと思って」

「何か言ったか?」

「右手に見える山の向こうに竜種の王が住んでいるはずだ」


 その気にさせたのだからバハムートには責任として私の我が儘に最後まで付き合ってもらおう。


彼女のように※アーシェのお兄ちゃん狂いを知らないからこそ純粋に尊敬しているからこそ出てくる言葉

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