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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第一章
13/121

勝敗◇

「マ、マジかあいつ…街一つ滅ぼすつもりなのか……っ!?」


 ゲームならともかく広範囲かつ最高段位の魔術を人間が暮らしている街に何の躊躇いもなく放つアーシェに驚愕する。

 そしてアーシェの攻撃に対抗すべくクロも魔術段位十の魔術を詠唱しようとした処でクロの目にアーシェが自ら放った魔術と共にこちらへ急接近して来るのが見える。

 今ノクタスに落ちようとしているアーシェの攻撃は俺がたとえ罠だと分かっていても【ハルマゲドン】を防ぐと信じっきているからこその囮としての攻撃なのだろう。

 そう思うと何故か幼い頃の懐かしい記憶が蘇り、その光景が今の光景と重なり少し嬉しくもある。


「まったく…世話のかかる妹だ。炎と闇の混合色魔術段位十【抹消】」


 ノクタスの住人からすれば世話のかかる程度じゃすまないだろう攻撃にクロは緊張感なくそれに対抗出来得る魔術を詠唱し、放つと黒い炎がノクタスの街の上空を包む。


 真上から落ちてくる光の塊がクロの黒い炎に触れた瞬間あたりは黒と白の光に飲み込まれ視界を奪われる。

 そして徐々に光の奔流は収まり視界が開けてくると胸から背中にかけて熱を感じるのと同時にクロのサポートキャラクターだった家臣たちが顔を青ざめさせ、中には悲鳴を上げる者、泣き叫ぶ者、信じられない表情をしている者、様々な表情をこちらに向けてくる。

 そして目の前には恍惚な表情を浮かべるアーシェがキスが出来る程の距離におり、次に自らの胸へ視線を下げるとアーシェが使っていた愛刀が自らの胸に根元まで刺さっているのが見える。


「俺に一勝もできなかったお前が……強くなったな」

「そりゃ沢山鍛錬したからね。誰にも負けないように、それこそ兄ちゃんおも超える事ぐらい強くなれるように…」

「…たっく、あんなに女の子らしかった手が今じゃ武芸者の手になってるじゃないか」

「このんなゴツゴツした剣ダコだらけの美しくない手は…嫌だよね」

「その手は努力して手に入れた手なんだろ? これはこれで綺麗だよ」


 そして二人はまるで時間が巻き戻ったかのように会話をしだす。

 会話こそ短いものだったのかも知れないのだが、二人にはそれで十分すぎた。


 その間セラ、ルシフェル、ウィンディーネが涙と鼻水を流しながらも拭こうともせず、悲痛な顔で叫ぶようにクロとアーシェがいる方角へ回復魔術を詠唱しながら近づこうとする。


 しかしアーシェが展開している結界スキルにより近づく事ができず、魔術は通らず、その声も届かないでいた。

 それでも諦めず回復魔法を詠唱し続け、結界を殴り引掻きその拳からは血が滲み爪は剥がれ、結界に自らの血で染める。


「グフッ…………ヴァンパイアの身体とはいえ味覚は変わらないのな。…………あんま美味くない」


 血を口から少し垂らしながら思う。

 ヴァンパイアになったなら吸血行為がまず思い浮かぶのだが、やはり味覚なども生前と何一つ変わっておらず、血独特の鉄の味は不味く感じる。


「私もあまり好きじゃないかも……」


 そんなたわい無い会話を続けている間も胸に刺さった刀がクロのHPを削っていってるのが視界の右上に表示されている体力ゲージから見てとれる。そのゲージはすでに赤く染まっており体力が尽きようとしている事を赤い点滅で知らせている。


「もうそろそろだな」

「そうだね。もうすぐでお兄ちゃんが私の眷族になるんだよ………お兄ちゃん……お兄ちゃん……お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん──」


 そしてクロの体力がゼロに近付くにつれアーシェの鼻息が荒くなり、異様さを増していくのが分かる。

 なんかもう普通にホラー映画に出そうな、人様に見せられない事になっていた。

 唯一の救いはアーシェが自ら結界を作りその顔や声を確認できるほど近くにいる者がクロのみだという事か。


「アーシェ…………ごめんな……」


 そしてクロのその言葉とともにクロの体力ゲージがゼロになる。

 クロの放つ魔力が世界から消え確かに死んだ事を、近くにいる魔術を扱う者達が感じとる。

 結界の外ではクロの家臣達が泣き叫び、または未だに信じられないのか理解出来ず呆けているか。

 そして家臣の中でヒール系の魔術やスキルなどを使える者達が次々にアーシェが作った結界の中心、クロ・フリートに向けて段位やスキルの強さに関係なくヒールを使う光景は辺りを薄い緑色や青色に染めとても神秘的な光景を作り出していた。


「お兄ちゃん…………い、いま、今からわわ、私の血を飲ませるからね」


 そんな中、アーシェは待ちかねたように自分の手首を自らの愛刀で切ると、そこから止めどなく溢れだし滴り落ちる赤い血液をクロの唇へと手首ごと近付ける。

 赤く染まったアーシェの手首がクロの唇に触れる寸前、クロが左手薬指にしている指輪に無数のヒビがはいり、音を立てて砕け散る。


 次の瞬間ゼロだったクロの体力ゲージが一だけ回復した事により目覚めたクロが眼前のアーシェを蹴飛ばし一気にアーシェから距離を取る。

 そこからクロは”無詠唱”で自身に水の段位十【龍神の加護】を使うとアーシェに向けて土魔術段位五【束縛】を無詠唱で放ち、さらに光の魔術段位八【聖なる光】を間髪いれずアーシェへ撃ち放つとあたりが視界を遮る程の光に包まれる。

この流れをクロはタイムログを殆ど感じさせない程の早業で魔術を行使して行く。


 その間もクロは魔術を発動し続け、アーシェの周りに水の魔術段位九カウンタースペル【実らない失敗】を光魔術段位五【時の凍結】で合わせる事により本来数秒で消える【実らない失敗】を複数設置、さらに風魔術段位六エンチャント(フィールド)型魔術【風の障壁】により魔術段位五以下の魔術をロックし、光と闇の混合色魔術段位十エンチャント(フィールド)【栄華の崩落】をさらに重ねがけする事により高段位魔術でもカウンタースペルで打ち消せるようにする。

 最後にクロは無色魔術段位九【冤罪】を無詠唱でアーシェに放つ。


「ロック完了……なんとか上手くいって良かった」


 そう言うとクロはアーシェが展開している結界を【開呪】を使い無効化するとその周りにいる家臣達にスキル【キュア】を使って怪我をしているだろう箇所を重点的に回復させる。

 それが終わるとクロはアーシェがいる場所まで行き、クロの魔術【束縛】と【冤罪】により身動きが取れなくなり【実らない失敗】【風の障壁】【栄華の崩落】により魔術で抵抗する術まで奪われたアーシェへの首筋へと自らの愛刀『椿』を押し当てる。


「試合では負けたけど死合では俺の勝ちかな?」

「………負けました」


 しかしアーシェの目が納得いかないと反抗的な視線を向けてくるので刀の刃をアーシェの首筋に押し当てると渋々負けを認め、うなだれる。


「どんな反則をしたのよ?お兄ちゃん…。高段位魔術を無詠唱だけでなく並行で発動させるなんて…あんなの防ぎようがないじゃない!」


 それでも納得いかないのか今起こった光景が夢か、詐欺行為なんじゃと思ってしまうアーシェ。


「ああ、それ俺自身のオートスキル【最後の灯火】の効果で俺の体力ゲージが一割以下になると発動するオートスキルで、すべての魔術を無詠唱で詠唱できるようになり、魔術の相性によっては並行詠唱も使えるようになる」

 そう言いながらクロは無詠唱で光と水の魔術段位七【トリメンデス・ヒール】を自身にかけてみせる。

「はあ…お兄ちゃんの体力を一に戻した装備品ってお兄ちゃんの奥さんがお兄ちゃんとゲーム内でも結婚した時に貰ったアイテムだよね? また、私は負けちゃったのか…」

「いや、お前は負けてもないし勝ってもいないだろう?」

「…え?」

「だってお前まだ同じ土俵に上がってきたばかりの新米だろう? この試合が終わってはじめてお前は俺の嫁の恋敵になったんだ。今までは勝負ですらなくただの独りよがりだ」


 自分で言って恥ずかしくなり顔が若干熱をおびる。


「そして今日の、お前の気持ちの返事は保留だ」


 そう言うとクロはストレージから金貨をほぼ全てアーシェの前に出し切る。

 そして突然の返事と目の前の光景にただただ呆けることしかできないでいるアーシェ。


「これは試合で壊してしまった城の修繕費用だ。足りないかもしれないが…。あと、これをお前に貸すから今度は城の建設後もちゃんと国民に仕事わ食料を与えれる魔王を目指せ。一応俺が死ぬ日までの事はネット検索できるみたいだしそこから得られる情報を小出ししていけばなんとかなるんじゃないか?」


 そう言うとクロはアーシェにタブレット型端末を渡す。

 この端末機器はスリムホンも同様に何故かネットに接続でき、滝沢祐介が死んだ時間から止まってしまったかのように全ページ更新がされてない。

 逆にそれまでの情報は得れるわけだ。

 政を生業にしているアーシェの役に少しは立つだろう。

こんな俺が持つよりも役立ててくれるだろう。


「さて、死合では勝ったが試合では負けた訳だから俺の魔王の称号をお前に引き渡すよ」


そう言いながらカーソルを動かし称号画面へと移動するクロなのだが、その指をアーシェが手を添えて首をふる。


「魔王は力が全てなの。お兄ちゃんを殺しきれず圧倒的な力量の差を見せつけられて負けた私にはもう魔王の資格は無いの。もちろんだからといってこの国の政から手を引かないから安心して?」

「いや、しかしだな……」

「目の前に広がる光景を見ても?」


なおも反論しようとするクロの言葉を遮りアーシェはクロに周りを見て同じ事が言えるのか?と指摘すると、方膝を地に付けクロに頭を下げる。

突然のアーシェの行動に頭を上げるよう促すも一向に聞く耳を持たないアーシェに「ったく……我が儘なお姫様だな」と言うと渋々といった感じで辺りを見渡すクロ。


「…………なっ」


眼前に広がる光景思わず息を飲む。


目の前に広がる光景、それはアーシェ側クロ側全ての者達がクロに向けて膝を地につけ頭を垂れている光景であった。

そしてクロはどうしたもんかと悩むも直ぐに名案が閃いたのかスキル【拡声】を使うと全員に聞こえるように声を張上げ告げる。


「………二人の魔王の決闘は終わり、今この時より決闘に勝利した私、クロ・フリートを大魔王とし、アーシェ・ヘルミオネを引き続き魔王とする!」


 そして、この世界に二人の魔王が誕生した瞬間であった。



   ◇◆◆◇



「お兄ちゃん、本当に行っちゃうの?」

「ああ。ここにいても仕方がないしな、それにこの世界の事をもっと知りたいと思ってもいるからな」


 正式にこの世界の魔王になってから小一時間ほど経過した今、クロ達はノクタスのギルドにいた。


「えーっ、別に今じゃなくてもいいじゃん! 一緒に色んなことしようよ!」

「いや、そう言われてもなぁ…」


 明らかに下心丸出しなアーシェの提案に言葉を濁すクロ。

 クロはこれから適当な理由を付けてここではない何処かへ旅立つつもりなのだが、旅立つ決心がついた理由にアーシェから自らの貞操を守りきる自信が無かったからとは口が裂けても言えそうにない。


 まぁ元より貞操と言えるほどの清い身体ではもうないのだが…。


「クロ様! 冒険者登録を済ましました!」

「わ、私も…私も登録済んだ!」


 そう言いながらセラとルシフェルが作ったばかりのギルドカードを手に嬉しそうにクロの元へ駆けて来る。


「しかし、私たちが使える魔術段位と扱える属性色を言ったら怪物でも見るかのような目線を受付の方が向けてくるんですよ?」

「ははは…」


 そして冒険者登録にあたりセラの担当になった職員の対応に不満を漏らすセラ。

 しかしクロはギルド職員の気持ちが少なからず分かってしまい乾いた笑いでごまかす。


 この世界では段位五以上の魔術保持者は、単に今までその者たちが黙秘しているだけなのか、本当にいなかったのか定かではないのだが今までこの世界には現れなかったのだからそんな中魔術段位五以上の魔術を扱える者が登録しに来たのだ。

 しかも、先ほどの俺とアーシェの戦いを見ているため否定しようにもその上の魔術の存在を実際に肌で感じ、見てしまった後となっては認めざるを得ないのだろう。

 しかも魔術段位五以上使える者はセラだけではなく、次々に段位五以上を軽く超えて来る、クロの家臣でもある新たな登録者達に受付で対応している複数の職員の目が座っている気がしないでもない。

 ちなみにクロの家臣全員が同じパーティー登録するらしく、世界最強、最大規模のパーティーがあっと言う間に作られてしまったので受付以外のギルド職員はドタバタと走り回って忙しそうにしている。


 俺がもしギルド職員として働いている立場だった場合間違いなくテンションとやる気が下がる。

 忙しかろうが暇だろうが給料は変わらないというのはそういう事だと思うな俺。


 などと忙しそうにしている職員たちを見て思っていたりする。


しかし、近くで大規模な戦闘があっても逃げるどころかここの職員達は職場であるギルドに向かうとは、…心が痛むのはなぜだ?

 きっと俺が仕事意識が高い人間だからなのだろう…。

 そんな事を思いながらギルド職員を眺める。


 あわただしく働く職員達は仕事に対する気持ちの持ちようは兎も角、生前の自分を見ているようでもありつい見いってしまう。

 そしてクロはそんな職場風景から冒険者登録を済ませたセラ、ルシフェル、ウィンディーネに視線を向けると問いかける。


「しかし、他の者はともかくお前達は本当についていかなくても良いのか?」

「それは……付いていきたくないと言えば嘘になります。本当はクロ様と一緒にこの世界を旅して行きたいです。」


 クロの問いかけにセラが答えるのだが、一度言葉を止めると決意と覚悟、そして後悔と新たな目標を示した視線をクロに向ける。

 その視線を通じてセラの、セラ達の強い想いが伝わってくる。


 今何をしたいかではなく、今後どう在りたいかが重要であると。その為には今ある『付いていきたい』という感情は二の次であると。


「もうあんな思いをするのは嫌です。いつかクロ様が安心して背中を任せて頂ける存在になる為に私達は一度クロ様の元を離れて一から出直したく思います」

「……そうか」


 その想いは他の家臣達も同じらしく、いつの間にかギルドの受付フロアにいる家臣達が決意の籠った視線をクロへ向けてくる。


「そ、それまで今回のご褒美は我慢する。けどそれまでの活力源が欲しい」


 そんなルシフェルの発言にセラとウィンディーネが「ハァ!?」とルシフェルに睨みつけるのだが活力源が欲しいという内容を聞くと「そ、そうですね。今回のご褒美は我慢しようかな。れまでの活力源を……その」「なんなら身体に忘れられないほどの微熱と傷痕を付けてくださっても……」とクロに迫って来る。

 セラの求める内容はご褒美の時と全く同じピンク色をしているのだが気のせいだろう。


「活力源か…………」


 しかしこの三人のみという訳にもいため、家臣全員分となると人数が人数な為に難しい要望でもある。


「なら、そうだな…………これをあげるか」


 そしてクロは少し考えた後、ゲーム時代何かしらの称号を得る度に称号と一緒に受け取れる装備アイテム、金のバッチが腐るほどある事を思いだし、それを家臣全員に配るのであった。



マ、マジかあいつ※頭おかしいんじゃないかと疑って思わず出た言葉

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