四肢をもいで犯してから殺すんでしたっけ?
そんな声と共にわたくし達の一撃により舞った砂埃が晴れて行くとそこには細長く薄い板が彼女達を守る様に周囲を囲っている姿が目に入って来る。
「そ、そんな……」
「あ、あり得ないですぅ……」
わたくし達の一撃を耐え切った事にも驚きを隠せないのだが、何よりもわたくし達の攻撃を守ったであろうあの板に傷一つ付いていない事にわたくし、そして綾の心はポッキリと折れた。
あの一撃をここまで完璧に防がれては成す術がないのはもちろんの事、もはやわたくし達には魔力は残っておらず初期魔法すら撃てる事は出来ない上に立っている事もままならない。
「では、次はわたくし達の最大火力をお見舞いしてあげますわよっ!」
「クロ様の敵は私達の敵でもあるんです。だから恨まないで下さいね」
彼女達がそう言うと今まで彼女達を守る様に囲っていた板が宙に浮かび上がったかと思った瞬間、次にわたくし達を囲むとご丁寧に恐らく同じ素材で出来ているであろうと蓋までされる。
閉じ込められた。
そう思ったものの若干違和感を拭う事ができない。
彼女達は先程何と言ったのか。
「ま、まさかっ!?」
「正解ですわ。閉ざされた空間でわたくし達の最大火力の技をプレゼントしてあげますわよ」
声のする方へ目を向けると見たことない、しかし馴染みのある様な物が一板から突き出している事が目に入る。
その形は銃型の武器、それの先端の様に思えた。
そしてそれは当たりであろう。
逃げ場はない。
そしてこれから起こるであろう事は想像を絶するであろう。その衝撃の逃げ場もない為かなりの圧力が襲う事も想定される。
「綾、今までありがとうございました。色々ありましたし悔いがない人生と言えば嘘になりますが、最後は貴女と一緒に行けるのならそれも悪くございませんわね」
「ハイエルとハイダークエルフの私達が共に旅し、一緒に最後を迎える……奇妙な関係もこれで最後ですぅ」
そして次の瞬間にはわたくし達の記憶は飛んだ。
「いつまで寝てますのっ!?いい加減起きなさいなっ!!」
「い、痛いですわっ!!起きますからいちいち頬を叩かないで下さいましっ………い、生きてますわ」
「そのようですねぇー」
「本当は殺しておきたかったくらいですがお姉ちゃんに感謝する事ですわ。貴女達のライフがゼロになった瞬間に体力の一割を回復させる魔術をかけておいたんですの。そのまま目覚めなければ良かったですのに」
生きていた。
手足は縛られ、魔術は何らかの方法で封じられており抵抗どころか身動きすら厳しい。
そして状況としてはわたくし達は捕虜、又は程のいい人質とされるであろう。
それでも、生きていた喜びを噛みしめ、涙が視線と頬を伝って行くのであった。
◆
「チッ、水樹のヤロウいちいちメンドクセェ事をしやがって。どうやって高島さん達と合流すりゃぁいいんだよったく」
そう言いながら東は自分に襲いかかって来る魔獣達を次々と蹴散らしながら歩いて行く。
向かうは目の前に見える異世界とは到底思えない和風の建物である。
「ビンゴッ!おかしいと思ってたんだぜ。何しろ異世界に和風の建物があるなんざあまりにも怪し過ぎるってもんだぜ。ちゃっちゃと倒して少し面倒だがアイツらと合流すっか」
「まさか、貴方は仲間と合流出来るとでも思っているのですか?」
「あ?死にてぇのか?」
その建物に入ると先程の魔族が姿を現し思わず笑みが出てしまう。
更にその後ろにはメイドらしき者達が何十人といるのが見える。
と、いうことはコイツらは間違いなくこの魔族の仲間であろう。
「後ろの奴らはお前の仲間か?」
「そうですが、それが何か?」
「いや、魔族の仲間なら殺されても文句は言えねぇなぁと思ってな」
久し振りに人間を、それも何十人も殺せる。
そう思っただけでイキそうになる。
「殺すのですか?」
「あぁ、殺すさ。そうだな……ただ殺すのも勿体無いから追いかけまして恐怖に染まった所で捕まえ、手足を折った後に切り飛ばして四肢をもいだ後に死なないように底レベルの回復魔術を使用し、犯してから殺す……想像しただけでヤバイな」
「クズですね」
「あ?英雄だよ英雄。ヒーロー。殺す過程や殺す人種なんて関係ない。ただ殺してもいい奴を殺せば殺す程俺は英雄になんだよ」
魔族の女が殺気を飛ばして来るが、殺気を飛ばして来れば来る程ソイツが絶望に染まる時を想像し興奮してしまう。
「じゃあ、鬼ごっこの始まりだ。簡単に捕まったら面白くねぇからな。せいぜい足掻けよ」
そう言うと俺は圧縮した火球を十個作り出すと魔族の女に向けて放つ。
しかし、その十個の火球は魔族の女に当たる前に、何も無かったかの様に当たる瞬間消失した。
「これではタバコの火種にもなりませんね」
「き、貴様ぁッ!!この俺を馬鹿にしやがってっ!じっくりと時間をかけて殺してやろうと思っていたがやめだっ!今ここで死ねっ!」
コイツはこの俺の魔術を馬鹿にしやがった。
その代償はその命で償うべきであろう。
そして俺は右腕に炎をやどして爆炎の相手の顔面を全力で殴る。
「………あ?」
しかし確実に相手の顔面を捉えたにも関わらず俺の右腕には来るはずの衝撃はこず、ズシャリと何かが落ちる音が代わりに響く。
「確か、四肢をもいで犯してから殺すんでしたっけ?」