パスポート◆落書き集(本編に関係ないホントに落書きっす)
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「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
本来魔術とは星や生命、星座や信仰、自然や奇跡などと言ったモノの力を魔力にて自らの望む形へと構築、そして放出して来た歴史がある。
例えば自然災害を防ぐために、繁栄を終わらせない為に、人柱や生贄と言った儀式を行い人の生命という力を持ってその願いを叶えるというのが人類最古の魔術、又は魔法というものの始まりと言われている。
やがてそれら様々な力の源を儀式や祠、墳墓や場所と言った様々なモノを用意て効率化され、それらは今より二千年前に一本の杖へと短略化され誰でも簡単に魔術が扱える様になった。
そして70年前第二次世界対戦中、数学の進歩により星々や自然、生命などの膨大な力無くとも昔で言う大魔術が可能となった。
これにより第二次世界対戦は終焉を迎える事が出来たが死ぬ必要の無い大量の命が失われた。
その人工が減った穴を見逃さず、今まで狩られる側であった魔族が降ろされたはずの表舞台へと戻って来たのである。
そして現在、あんなにいがみ合っていた人間達は手を取り合う事に合意、そのまま魔族対人族との戦争が今もなお続いている。
「高島さん、まだやってたのですか?」
「ああ。俺には水樹が到底死んだとは思えない」
「確かに生存者確認灯は今もなお点灯してはいますけど失踪して二年、流石にもう死んでいると私は思いますけどね。生存者確認灯が光っている原因は時限の狭間にて起きた空間の一時的な切れ目に吸い込まれた事が原因による時間のズレが原因かと」
「確かに、君の言う通り水樹はもう助からないのかもしれない。でも助かるかもしれない。それに、水樹であろう生命を確認した」
「ほ、本当ですかっ!? 高島さんっ!?」
「ああ。しかしかなり遠くにいるみたいだ。今まで水樹の所までゲートを繋げようと魔法陣を作っているのだがね、あと少しの所で完成しない。まるで誰かに妨害されているかの様に」
ここまで完璧に妨害される事は無いと分かっているので別の計算式があるのだろうと試行錯誤しているのだが、逆にここまでして未だ答えに辿り着けない事に人為的な妨害では無いかと思ってしまう。
「十までは完成したのだがね、十一と十二がどうしても作れない」
あと少し、場所を確定しゲートを繋げるという術式を組み込むだけであるのにそれが出来ない事にもどかしく思う。
「あのー、私如きがしゃしゃり出るのもあれなんですが……必ず水樹の側にゲートを繋げる必要はあるのかなーと」
そんな中部下がおずおずと言った感じで意見を述べて来る。
そして俺は部下の一言を聞き、なんで今までそんな簡単な答えに気付かなかったのかと嫌になる。
いやたんに認めたくなかったというだけの意地やプライドと言った感情により視野が狭くなっていただけなのだろう。
そう自分自身を分析し終えたあと、魔術式を組み直しゲートを繋げるのであった。
◆
「全員揃ったか?」
「はい高島さん。声を掛けた二つ名付きの者達五名全て揃っております」
「そうか、全員来てくれたか。それは頼もしい限りだ」
誘った者達が全員来てくれた。
その事に表情には出さないが嬉しく思う。
「何だよボス、水癖ぇーじゃぁねぇかよ。あのガキンチョを助けに行くんだろ?」
「そうですよ高島さんっ!! 絶対助け出してやりましょうよっ!!」
「我が結社は残った我々が守っておりますので存分に暴れて来てください。そのまま魔族を殲滅して来るぐらいは期待しておりますよ」
なんだかんだ言っても仲間思いの部下達の思いを受け止めてゲートを開く。
「では行ってくる。結社は頼んだぞ」
「はいっ!! お任せ下さい!! 泥舟です!!」
「そうか、泥舟か。しかしお前が作った泥舟ならば安全だろう」
「どっ、す、すみませんんんんっそんなつもりじゃないんですぅううっ」
「分かってる」
彼女の天然は今に始まった事ではない為責めたりはしない。
むしろこの場を和ませてくれて感謝を言いたいくらいである。
そして自分が先ず先頭でゲートへ入って行き、選ばれた部下達が入って行く。
「……なんだか中世ヨーロッパと言った様な街並みですねぇ〜」
「観光に来てるんじゃない。気を抜くなよ?」
「分かってますけど、やはり物珍しいのでぇ〜」
緊張感のカケラもないポワポワした雰囲気で周囲を見渡し、感想を言い出したのは楠瀬綾である。
彼女は攻撃系魔術は得意では無いが付与系、回復系、障壁系を使いこなせる強烈なサポーターである。
その彼女が光魔術段位一【看破】の魔術を自身に施しているのだが、彼女の落ち着いた様子からは未だ魔族は確認していないみたいだ。
「馬鹿みたいに観光なんてしてねーで早く魔族をぶっ潰して水樹を捕まえてとっとと帰りましょうや」
一応楠瀬は楠瀬で自らの役割を果たしているのだがどこか気の抜けている様に見える仕草が小和瀬和也のカンに触ったのか少し棘のある物言いで俺に話しかけて来るこの男の名は東雅也である。
魔術師の中でも珍しい自らの肉体を使い攻撃する近距離打撃系を得意とする魔術師であるのだが気は短く突っ走ってしまう事が多々ある。
そしてキレやすいともいう。
その事を理解している為楠瀬は言い返さず黙って周囲を見渡し始めるのだが東に一応は釘を刺しておく必要があるだろう。
「まあそう言うな。ここは未知の土地であるから考え無しに単独で突っ走って行く様な軽率な行動又は仲間の士気が下がる様な発言は控えろ。楠瀬もただ周囲を見渡しているわけじゃない事くらいお前でも理解しているのだろう?」
「わ、分かった……分かりました」
個人で動いているのではなく集団で動いている為に東一人の軽率な行動一つでメンバー全員を危険に晒してしまう様な事はあってはならない為軽く殺気を飛ばし東に注意をする。
俺の言葉を理解したのか殺気に当てられ渋々従ったのか、又はその両方なのかは分からないのだが東から了承の言葉を貰う。
その時タメ口から敬語に変わるのだがどうせコイツの事だ。
三歩も歩けばタメ口に戻っているだろう。
一緒に注意された事は忘れないのだから計算してやってるんじゃないのかと常に思うのだが一緒に忘れられるよりマシな為そこは触れないでおく。
「それにしても、魔族が潜んでいる可能性が高いと言うのにここの住民達は皆生き生きしている時言いますか危機感のカケラも感じませんわね」
「平和ボケと言う言葉がよく似合う光景ですね」
そんな中、久保小百合が自慢の金髪ロールを弄りながらこの国の人々を見て思った事を口にすると中村杏が同意する。
この二人は太陽と月の女神と言われても信じてしまえる程の美貌の持ち主である。
その美貌は異世界でも通用するのかすれ違う人々はこちらの世界と同じ様な反応をしているのが見える。
「そこの御仁達、少しお伺いしてもよろしいですかな」
最早物見遊山とかし始めていた我々一行へ、燕尾服を着こなした執事然とした初老の男性が声を掛けて来る。
そして、その執事然とした初老の男性を見た我々一行に緊張感が走り、空気がピリつき始める。
「高島さん……コイツヤバそう……いや、ヤバイですぅ……私の看破が通用しないと言えばそのヤバさが分かるかとぉ」
そんな中楠瀬綾がそっと耳打ちして来るその声は少し恐怖に染まっている様に感じた。
看破が通用しないと言うことは楠瀬より強者又はスキル隠蔽能力、もしくはその両方が長けていると言う事である。
そして目の前に突如として現れた初老の男性であるが注意すべき所は一人で我々の前に現れたと言う事である。
楠瀬の看破が通用しないと言う事は、逆にこの初老の男性には我々のステータスを見られている可能性が高い。
であるのに初老の男性は我々の前に現れた。
その事からも最悪の事態、仲間の死すら覚悟する必要があると判断すべきであろう。
「何かな老人。我々は何もやましい者ではないと誓おう。確かに我々が着ている衣服は珍しいとは思うがね」
そして俺は件の初老の男性を出来るだけ刺激しない様に、しかし悟られぬ様に警戒しながら話しかける。
「いえ、お伺いしたい事は一つです。皆様方、パスポートはお持ちですかな?」
その言葉を聞いた瞬間我々は一斉に初老の男性へ目掛けて攻撃を仕掛けた。
この中世のヨーロッパ然とした明らかに地球ではない世界にパスポートと言う言葉があるはずが無い。
となればあの初老の男性は我々の世界からやってきたと考えるべきであり、私の味方であれば先程の問いに強い殺意が篭った殺気を放つ訳が無い。
すなわち、目の前の初老の男性は我々の敵であるという事である。
「セバスチャン様、大丈夫でしょうか?」
「ええ、ボナさんのお陰で大丈夫でしたよ。助かりました」
しかし我々の攻撃、それも五人による攻撃はメイド服を着た一人の女性に全て防がれてしまう。
その事実に俺は冷や汗をかく。
先程の攻撃、俺ですら人を一人守りながら全て完璧に防ぎきると言う事は至難の技であり涼しい顔して出来る芸当では無い。
そして何よりもボナと呼ばれたメイドから感じるのである。
それは今まで何百何千何万と感じて来たものが我々の警戒心を一層高める。
彼女が魔族であると。
「皆さん、安全地帯まで避難して下さい! 繰り返します! 皆さん、避難して下さい!」
その彼女がおそらく拡声の魔術を使い周りの住民へ避難する様に声を上げる。
それと同時に住民達はこの場から蜘蛛の子を散らす様に悲鳴を上げながら逃げ出し始める。
「み、皆様! 騙されては行けません! この方は魔族なのです!」