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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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背負うべき罪

「一度ターニャ君には筋肉の何たるかを教えてあげなきゃならんようだな」

「そのお言葉そっくり返してあげます」


 うふふふふ、ははははははと不気味な笑みを浮かべ始める二人は仲が良いのか悪いのか。

 しかしながらそんな二人に対して自分の筋肉の対するフェチを語る勇気も度胸もない。

 それに、わざわざ油を注ぐ必要も無いだろう。


 ちなみ私はたまに女性ではないかと勘違いしてしまいそうな妖艶さを見せる時のクロが好きなので筋肉は付けすぎなければそれで良いと言うスタンスである。

 むさ苦しい筋肉ダルマなどそこら辺に見かけた為既に見飽きたとも言えるのでギルドマスターには悪いがどちらかと言うとターニャ派である。

 あのクロのたまに見せる妖艶さたるや筋肉ダルマでは決して出せないものであり、そのクロを見てしまったらば犯したくてたまらなくなるのは私だけではないだろうと確信を持って言える。


「キンバリー様とターニャ様、冒険者カード更新が終わりましたのでカウンターまでお越し下さい」


 途中妄想が爆発仕掛けたのだがギルド受付嬢の言葉に我に帰ると未だギルドマスターと筋肉について口論を続けているターニャを呼び呼ばれたカウンターへと向かい新たに更新し終えた冒険者カードを受け取る。


「全く、アンタ達は気が付いたらいつのまにか玉の輿じゃないの羨ましい」

「まあ、私の隠そうとしても隠しきれない良い女感がねー」

「ハイハイ。そう言う事にしといて上げる。それはそうと戻って来たんなら今度お祝いも兼ねてみんなで飲みに行くわよ。もちろんサラも誘って」

「了解、サラに伝えとくっす。じゃあうちらそろそろ行くっすわ」

「店の予約は任せといて。じゃあまた今度」


 そんなこんなで元同僚であるギルド受付嬢と懐かしいキャッチボールをしたりしながらギルドを後にする。


 たった数ヶ月。


 しかしながら数年ぶりの様な感覚なのはそれ程までに自分にとって実家も職場も自分が思ってた以上に沢山の想い出が詰まった大切な場所なんだという事に気付かせてくれた里帰りであったと言えよう。


 そんな想いに浸りながらルルの参加する闘技大会まで暇を潰せる場所を探す。


「それにしてもすれ違う人々が皆んな以前より良い顔しているというか生き生きしてますねー」

「そうっすね。活気があるというかいざこざの声が聞こえなくなったというか」


 ターニャが指摘するまで気付かなかったのだが、言われて注意深く観察してみると確かに以前より少しだけ良い意味でこの街か変わり始めている事が分かる。


 その理由は恐らく納税徴収を徹底的に管理し、本来の納税分しっかりと徴収する様にしたからであろう。

 クロ様曰くライフラインなどの維持費などはクロ様の故郷と比べてしまうと殆ど要らない為御役所が食えるぐらいの納税で十分との事だそうだ。

 今の納税量から数段階に別けて低くして行くとは言ってはいたものの今の段階で民の財布の紐が緩くなる程低くなっている事が伺える。

 その事からいかに今迄横領されて来たのかと言う事が伺えるだろう。


 更にライフライン設備の維持は殆ど要らないとは言っていたもののしっかりと修復整備されており特に劇的に変わったのはスラム街であろう。

 小汚く少し臭いイメージがあったスラム街だったが今では建物こそ変わっていないがゴミひとつ落ちていない事にビックリである。

 これも「ゴミ拾い」などという今迄無かったクエストが帝国からの依頼でギルドへ出されている為であろう。

 クロ様は窓割れ理論とかなんとか言ってはいたが綺麗になるのであれば何理論でも大歓迎である。

 そしてなんといっても裏の人間が一斉に掃除されたのが何よりも大きく、スラム街ですら子供が無邪気に遊べる環境になりつつある。


「ホント、変わったっすねー」


 クロ様が皇帝になられると決まった当初はこの世の終わりの様な雰囲気が訪れた街々で見られたのだが蓋を開ければ今や以前よりも生き生きとした民達の姿が見える。

 結局民達にとっては国のトップが人間か魔族かどうかなんかより自分たちがより良く暮らせるかどうかなのだろう。


「本当に変わりましたねー。流石クロ様と言うべきか」


 そんな私の独り言とも取れる呟きにターニャが同じく呟き返してくれる。


 そんな良い意味での故郷の変化を肌で感じながら時間も忘れて散策しているとルルの試合が始まる時間の鐘の音が鳴り響くのであった。





「なあサラ」

「何ですか? クロ」

「一応皆んなには今日一日俺は仕事として学園に出向く訳であってここが故郷であるサラ達には実家に戻り久し振りの家族団らんを過ごして来る様に言ったんだが?」

「ええ、言いましたけど?」


 ここベルトホルンに来る際実家がある者は実家へ、無いものは俺の元以外で自由行動を支持していた筈なのだが全員が解散した後何食わぬ顔でサラが俺の左隣へピトとくっ付き腕を絡めてくる。

 その事を指摘すると「何か問題でも?」とコテンとあざとく上目遣いながら首をコテンと傾げて来やがるではないか。


 普段はクールビューティーなサラにされると思わず可愛いと思ってしまうのだがそこはぐっと気持ちを抑える。


「ですからクロの言いつけをしっかりと守る為に母親に会いに来ているのではないですか。あぁ、大好きなお母様に早く会いたいなー」

「最後物凄い棒読みだったぞ……ったく、親を出されたら断れないだろ」


 サラは大袈裟に母親に早く会いたいと言うわりにその言葉は大根もびっくりする程の棒読みであった。

 そんなサラを見て以前サラとその母親であるアンナの関係は思春期を拗らせてしまった娘とその母親と言った関係であったと思うがその事については聞かない方が無難であろう。


 しかしながら、この学園だけは前世の記憶に似た風景である為ついつい向こうの世界の事を思い出してしまう。

 それにより懐かしさと共に罪悪感が胸を締め付けてくる。

 しかしこの感情は決して慣れてはいけない感情であり慣れたくないとも思っている。


「俺が背負うべき罪なのだろうな」

「……前の奥さんと子供の事を考えてた? 忘れられない事も分かるし、忘れて欲しくないとも思ってる。だから……」


 そんな感傷に浸っているとサラにはお見通しだったらしく心配そうな顔をして話しかけてくる。

 しかしその表情は真剣な表情へと変わりクロを射抜く。

 その真剣さに緊張してしまう程である。


「だから、アナタとの赤ちゃんが欲しい。前の奥さんと娘さんの代わりと言う訳じゃないけど、その、あの、な、なんて言ったらいいか分からないのだけれど………」

「ありがとな。お前の言いたい事は何となく分かるよ。でも、お前との間に子供を作る時はお前の事だけを考えて作りたいと思っている。幸せな家庭を作ろう」


 真剣なサラの表情は仕事の出来るOLと言った風である為、自分の感情を上手く言葉に出来ずまごまごしている姿にギャップ可愛いと思ってしまう。

 そしてサラの言わんとしている事は何となく分かる為感謝の言葉と共にサラの頭をこれでもかと撫でてやる。

 俺は間違いなく向こうの世界で死んでいる。

 そしてこの世界には今幸せにしなければならない者、守るべき者達が新たに俺の掌の上には確かにある。


 結果的に将来手を差し伸べる事ができなくなる方法を選んだのは自分である。

 だからこそサラ達を幸せにしてやろうと再度、強く思う。


「お久しぶりです」


 そんなこんなで何だかんだ言ってイチャイチャしながらこの学園の理事長でありサラの母親であるアンナがいる理事長室へと訪れる。

 アンナは以前と変わらない部屋で以前と変わらない格好でそこにいたがその表情だけは以前と違い一人の母親の表情をしていた。


 なんだかんだで彼女も一人の母親である以上、久し振りに我が子との再会は嬉しいのであろう。


「久し振りね、サラ」

「ん」

「元気だった?」

「それなりに」

「そう」

「ん」


 しかしながら反抗期を拗らせたまま別れたサラはそんな親心など知るはずもなく、羞恥心とプライド、そしてクロの前という恥ずかしさが素直になる事を拒絶してしまっているのか親であるアンナの言葉に素っ気ない返事をしてしまう。

 しかし返事を返すだけ拗らせた反抗期も幾分マシになって来たのだろう。


 その事にアンナは気付き、サラもサラなりに大人になって来たのだろうとそっぽを向くサラに気付かれない様に感極まっているのが見て取れる。

 そんなサラの姿も可愛く見える為アンナの気持ちも少しながら分かってしまう。


「……クロさん、娘を宜しくお願いします」

「はい」


 分かってしまうからこそ彼女、そして自分ごときについて来てくれる彼女達を幸せにしなければと言う思いがより一層強くなるのは仕方ないだろう。

 だからこそ、アンナの言葉に真剣に返す。


「クロ……お母さん……」


 そんな二人のやり取りを見てサラは必死に涙を流さまいと我慢しているのだが、その涙はもう少し先まで取っておきたいのであろう。


「ところで話は変わりますが魔族の魔術学園との試合についてですが、帝国から三校、アーシェが治めている魔族の国であるブルンゲル国から三校、そこから一校につき三チーム選んで頂き全六校十八チームでの対校戦をと考えている件でございますが」

「その件については我が学園は一応話し合いの上参加をする事に致しました。魔族と人族との交流、そしてその交流でしか得られない何かを学生達には感じ取って貰いたいという事が私含めてこの学園の思いです」


 しかしながらここへは仕事で来ているので親子の再会もそこそこに切り上げ本命の話へと話題を変える。

 その話というのはアーシェが治めている魔族の国、ブルンゲル国と我が帝国との交流試合を年一回の回数でやってみないかというものである。

 表向きには人族と魔族との友好的な交流であるが、最終目的は帝国とブルンゲルとで人と金の流れをスムーズに回す為の潤滑油の一つとしての役割が本来の目的であったりする。

 とは言え人族と魔族との友好的な交流ありきの策である為表向きの目的も嘘ではない。


 勿論、その事についてはアンナも知っているためこの策についてもこの後アンナと煮詰めて行くのだが、サラはこの内容が帝国にとって重要な話であると理解はしているのだがクロとイチャイチャしたいのにイチャイチャ出来ない状況にアンナとの仕事の話が終わった後若干拗ねていたのでこれでもかと頭を撫でてあげるのであった。

たった数ヶ月※されど数ヶ月

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