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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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吸血姫

「やけんど、デイモンの坊やがおらん代わりに面白そうな玩具が折おるき、久々に楽しめそうやねぇ」


 そう言うと件の美姫は嬉しそうに口角を歪め、まるで子供が公園へ遊びに行く様な足取りでベッテン達の前へと近づいてくる。


「気をつけろベッテン!! そいつは間違いなくあの吸血鬼カミーラだっ!」


 その異様な光景故にどこか神秘的な雰囲気すら感じてしまいそうになるのだが、それを頭の中で鳴り響く警告音が霧散させてくれ、気が付いたら俺はベッテンに向かって大声で叫んでいた。


 あのデイモンですら子供扱いするような相手である。

 人間であるベッテン達が勝てる可能性など皆無であろう。

 しかし、ベッテンたちはあのデイモンを赤子の様に叩き潰したクロフリートの家臣達から教えを乞うている存在である。

 更に先ほどまでの想像を絶する強さを見た後ではもしかすればという思いが少なからずあったが故に逃げろではなく気をつけろという発言である。


「そうかとは思ってたっすけどやっぱりあの吸血鬼カミーラっすか。じゃあ今の私じゃ逆立ちしても勝てないっすねー」


 そんな俺の言葉をベッテンは緊張感の欠片もない声音で返して来る。

 その普段通りの声音と言葉の内容に差がありすぎて一瞬聞き直しそうになるのを寸前のところで何とか耐える。


 今の彼女達には無理でもカミーラに勝てるような何かしらの策は、あるのではないのか。

 だからこそのあの緊張感の欠片もない普段通りの声音だったのではないか。


 そう思うと納得がいく。


「でも君たちでも勝てるような対策はあるのだろう? 例えは我々が想像すらできないような武器をクロ・フリートから貸していただいているとか」

「いんや、私たちがあのカミーラに勝てるための対策とかは何もないっすよ?」


 しかしベッテンは相変わらず緊張感の欠片もない声音で策などは何もなく自分たちであのカミーラに勝てる方法は無いと言い切る。

 だったら何故? そう言おうとしたその時いつの間にかカミーラが闇夜ですら輝く銀髪をなびかせながらベッテンの背後に現れ自身の武器であるバラの装飾が施された見事な大剣を振り上げている姿が目に入った。


「あら、ウチの玩具のくせに下等生物の相手をせんといてや。玩具としての自覚が無いがやったらごめんやけんどそんな玩具いらんき死んでもらうきね」


 逃げろという言葉すら言う間もなくカミーラはベッテンに向けて大剣を振り下ろす。

 その余波で辺りに衝撃波が生じ、その後金属同士がぶつかり合うようなすさまじい轟音が聞こえて来る。

 

「………どきなさいよ」

「やだね。アタイはクロ様から直々にこいつらが危なくなったら助けるように言われているんでね。たとえあんたが相手でも引くことは出来ねぇなぁ」


 最早魔力と言って良いのか疑わしく感じてしまう程の魔力をまとったカミーラの大剣による一刀、上段からの一撃。

 そかしその一撃は新たに表れた何者かによって軽々片手で持った真紅の大剣によって防がれていた。

 その身体もまた真紅に輝き、カミーラと張れるほどの、しかしまた別の美しき美姫であった。

 カミーラが淑女とすれば彼女は戦乙女といった感じである。


「………ラース・ランドール、今回ばかりは怒りますよ?」

「あんたごときに怒られたところで何も怖か無いね。それよりカミーラ、あんたどこの方言か知らないがエセ方言を忘れてるよ」

「っ、うっ、うるさいちやっ!」

「まったく、方言が可愛いと思て使うのは勝手だが自分自身が変わらなきゃ夫どころか彼氏すらできねーんじゃ無えの?ましてやそんなエセ方言に頼ってる様じゃな」


 新しくやってきたその真紅の戦乙女はあのカミーラとまるで友人の様に接し、しかも上から物言いまで言っているではないか。

 しかし俺の記憶の中に真紅の女性であのカミーラと同等の力を持つ者は文献でしか読んだことないのだが、一人しか思いつかない。

 しかし目の前の彼女の姿は俺が知っているその者とは文献に書かれている容姿とは異なっており、真紅の美しい翼や見事な尾は無く、またその四肢は真紅ではあるもののどこか違和感すら感じてしまう。


「い、言わせておけば………そういうアンタはどうながちやっ! あんただって夫どころか彼氏すらできたこと無いやんかっ! 人の事棚に上げる前に自分の事を先に何とかしたらどうながよ!」

「あ、あたい処女じゃないんで」

「………は?」

「いやーまさかアタイよりも強い男性と巡り合えてな、しかもすごいイケメンと来たもんだ。一応まだ結婚どころか婚約とかはしてないけどさ、一回だけとはいえ一応その、なんだ、男女のそういうまぐわいって言うのか?をやった仲ではあるからな。そういう仲はいわゆる恋人どうし? がするのだろう? だったら婚約も近いと思うが、やはりこういうのは男性から言ってほしいものだから今日ではないか、今日ではないかと待ち遠しくて悶々としてしまう日々を過ごしているんだよ。しかしなんだ、こういう日々も悪くはないもんだな」

「う、嘘おっしゃい。あ、ああ、脳みそまで筋肉で出来たあんたより強い異性なんか、い、いい、い、いるわけないじゃない」


 未だラースの言っている事が信じられないのかカミーラは噛みつき反論するのだが、カミーラが必死に反論すればするほど、必死になればなるほどラースはカミーラを見下す様な、それでいて絶対的なる勝者の表情へと変化していく。


「それがいたんだよ。このアタイより強い雄が。しかも手加減までされていたなんてもう今思い出してもアタイがダーリンに敗北する瞬間は下半身が濡れて来ちゃうね」

「も、もし本当だとしてもどうせゴリラみたいな男でしょっ! た、確かにあんたにはオークみたいな男性がお似合いでしょうねっ!」

「あ、これ一応アタイのダーリン」


 そして尚も噛み付いてくるカミーラにラースは今日一番の笑みを浮かべると懐から一枚の紙切れをそれはそれは大事そうに懐から取り出してくる。

 その普段ガサツかつ何でもかんでも乱暴に扱うラースが見せる『物を大切に扱う』という絶対しないであろう行動にカミーラは怪訝な表情をするも見てくれと言わんばかりにラースが件の紙切れを見せようとする。


 ラースがダーリンと言いながら見せて来た紙切れみはそれはそれは美しい中性的な男性が写っていた。


 そしてその姿は魔族、しかもヴァンパイアの姿をしているではないか。


 気がつけばカミーラはラースの両肩をがっしりと量の手で掴んでいた。



 この一連の流れをブラッド・デイモンは王国内王宮の地下からマジックアイテムである遠くの光景を映し出す水晶で眺め、作戦が上手く行ったことに安堵の溜息をつく。

 これでカミーラは自分ではなくクロ・フリートへとターゲットを変えるであろう。


 もともとデイモンは自分の性別に違和感を持っており、そのコンプレックスから美女を収集するようになったのである。

 もしデイモンが男性として正常な感性を持っていれば美女を目の前に人形にして愛でるだけの存在などしなかったであろう。


 なにはともあれ今回の作戦、王国周辺でダンジョンによる魔物の氾濫を意図的に起こす→王国の七色が出てくるも対処はまず無理であろう→それに気付いたコンラッドがクロフリートの家臣を呼ぶ→そのうち王国周辺の異変と血の匂いに気づいたカミーラがデイモンを捕える絶好のチャンスと見てやってくる→家臣はカミーラには勝てないとクロ・フリートを呼ぶ→カミーラを簡単に倒す→その際カミーラはクロ・フリートをヴァンパイアと気付きカミーラのターゲットはデイモンからクロ・フリートに移動する。


 少し当初の作戦と違った点、クロ・フリートではなくラース・ランドールが来てしまうなど、予想外すぎたが終わりよければ全て良しと言って良いだろう。

これで少しはクロ・フリートへ意趣返しが出来たのではないかとデイモンはほくそ笑むのであった。



◇◆◆◇



「ただいまー」

「あら、……き、キンバリーじゃないっ! あ、あなたっ! キンバリーが帰って来ましたよっ!」

「なにっ!? やはりあのじゃじゃ馬娘だけあって追い出されたのかっ!?」


 キンバリーは元気よく自分の実家へと入っていく。


 現在クロ達は魔術学園がある街ベルホルンへと来ていたので実家があるキンバリー、ターニャ、サラと各々の実家へと足を運ぶ流れである。


 ちなみに実家がベルホルンにない者たちは自由行動であるのだが、クロは外部講師の手続きの為学園へと泊まり込みで足を運んでいる。


 正直な話をすれば実家よりもクロのそばに居たいというのが本心なのだが、公私混同は良くないと言うことで泣く泣くクロとは別行動である。

 その時ターニャが食い下がり、スフィアに止められていたのだが気が利く女でいたいと私は思うので口にはしない。

 しかしながらサラが至って冷静というかどこか勝ち誇っているのが気がかりなのだがサラは外部講師補佐的な役割、いわゆる部外者であるため私達と同じく実家へと帰っているはずである。


 そしてキンバリーは久しぶりに顔を合わせる両親、妹二人と当たり障りない事を話しつつ久しぶりの家族団らんを満喫しているのだがとりあえず父親は一発鳩尾を殴っといてやった。


 口笛を吹きながら「今日はご馳走にしなきゃね」と台所で母親が小気味よい音を立たせ、その横で父親が何故かお腹を抑えながら床を転がり廻り、妹二人と久しぶりの会話に花を咲かせる。


 クロと一緒にいたときは実家へ帰ろうとは少しも思わなかったのだが、いざ帰ってみると懐かしい家族団らんの空気になぜ今まで一度も帰ろうと思わなかったのだろうかと思ってしまう。


「お姉ちゃんってお姫様になるんだよねっ!?」


 久しぶりの家族団らんの空気を堪能していると次女がそんな事を聞いてくる。

 それと共に三女もズズイと寄ってくると二人共目をキラキラしながら問うて来る。

 その表情は夢見る少女そのものである。


「一応今は婚約者だけど結婚すればそうなっちゃうかなー」


 自分で口にしたものの、自分自身でさえ現実味が無い話だなーとつくづく思えて来る。

 今までの出来事が長い長い夢ではないのかとたまに漠然とした不安に押しつぶされそうになる時があるほどである。


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか二人の妹は黄色い声を上げてきゃいきゃいと私の答えにはしゃぎだす。


「き、キンバリーが帰って来たって本当かっ!? 開けてくれっ!」


 そんな家族団らんをぶち壊す男性の声が玄関から聞こえて来る。

一回だけとはいえ一応その~※既に彼女ヅラを飛び越え妻ヅラである者の発言

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