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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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卵を割る者

 ドルク・ルドルフの言葉にコンラッドは言い返す事が出来ない。


 正しいき行いをしろ、悪い事はやってはいけないと小さき頃から親が子に口酸っぱく教えるのは、人間正しき行いよりも悪い行いの方をやってしまう生き物だと言う事の裏返しでもあろう。

 特に「奪う」という行いは誰しも一度はやった事はあるだろう。

 罪になる様な事はしなくとも兄弟や親、親類から大小価値種類関係無く何かしら一回は何かを奪うという行為を行った事があるはずである。


 それは親の居ぬ間に勝手に卵を焼いて食べたという行為かもしれない。

 それは親の居ぬ間に夏、勝手に氷の魔石を使い冷気をやしなった行為かも知れない。


 この奪うと言う悪事が恐ろしいのは何の努力も対価も払わず簡単にあらゆる物が手に入る事である。

 そしてその行為は小さき子供でも簡単にあらゆる物が手に入るからこそ敷居は低く中毒性は高い。

 故に小さき子供が最初に覚える悪事とも言えよう。

 そしてそれは子供故に感情のまま善悪関係なしでしている事が多く、故にドルク・ルドルフの言葉は大きい。


「そうだな……だからこそブラッド・デイモン様は罪を明確に区別し、その罪の重さにより細かく細分化を図るそうだ」

「なんじゃそりゃ? んなめんどくさい事をして何にが変わるってーんだよ」

「そうだな、まず王が法で無くなる。次に法は王が作るものではなく時代と民衆に合わせて作り変えて行く。そして今まで身分によって変わって来た法を、人種及び身分関係無く平等に罰する。この三つは間違いなく行われる。それを基盤として作り変えられる」

「おいおい……マジかよ」


 俺が最初に聞いた時ですら驚いたのだからドルクが驚くのも無理はない。

 それ程までに今までの常識を覆しかねない事が行われようとしているのである。

 しかし、これが上手く機能した場合、王国に巣食う犯罪者達を今までの比ではない程裁けるであろう事は確かである。


「ったく、めんどくせぇ……マジめんどくせぇよ」


 聡いドルクの事である。

 その頭の中は、この国を捨てどの国へと非難すれば一番安全に自らの性欲を吐けれるのか考えているのだろう。


「あら、この二人が仲良く世間話してるなんて珍しいじゃない」

「あぁ? 白のステファニー・ゴルベルジュじゃねーか。むしろ当番のお前がこの時間帯にいる方が珍しいじゃねえかよ」

「それを言われたら言い返せないわね。今日私が担当してた荒野に季節外れのメタルスネークが現れたのよ。それも三匹も。その報告に来たのよ」


 ステファニーは実にめんどくさそうな表情で言うと自身の武器であるレイピアを抜き出してその切っ先を見せてくる。


「ほんと、見てよこれ。愛刀じゃないにしろ相当な業物がたった三匹狩るだけで使い物にならなくなっちゃったわ」

「それは災難だったな」


 甘い声でネットリと囁くかの様な言葉でレイピアを見せ、上目遣いで見つめて来るのだがそこには恋愛感情など一切無く単に自分の財布から金銭を出したくないという思考が分かってしまう為コンラッドも思ってもいない事を口にする。

 この女ならば素手でも倒せそうなのでこの場合の災難は素手で触りたく無いから潰してしまうとわかっていつつ予備のレイピアで仕留め、その呼びをタカる為にそんな演技をする羽目になって災難だなと言う意味を込めていたりする。


「もうっ、そんなんだからその歳まで独身なのよ。少しは買ってくれてもいいじゃない」

「むしろ買う理由が無いし独身なのも関係無い。なんならお前も──」

「お前も……何? 言って見なさいよ。その続きを」


 これだから女って奴はめんどくさいと常々思う。

 自分から言って来たくせに自分が言われるのは嫌なのかよと心の中で悪態は吐きつつもポーカーフェイスでそれを隠して「お前は可愛いからすぐ結婚しそうだな」と強引に言い換える。

 すると、もう何回か嫌味を言われる事を覚悟していたのだがいくら待てど嫌味は飛んで来ず代わりにステファニーの顔が真っ赤に染まって行く。


「………結婚式はいつにしようか」

「は?」

「な、ななななな、何でもないっ! ………それにしてもコンラッド、最近一気に垢抜けた、というか吹っ切れたというか、兎に角いい意味で雰囲気変わったよね」

「そうだな………まあ色々吹っ切れた事も確かではある」

「も、もしかして失恋とかじゃないわよねー……ははは、なんちゃって」

「まあ……な。ある意味それも含まれるのかもな」


 それは恋と呼ぶには余りにも未成熟な感情であったのだが意識していないといえば嘘になる。

 そんな失恋と呼んで良いのかすら微妙なものからブラッド・デイモンの本性、そしてクロフリートとその家臣達の圧倒的な強さなどなど、最早色々ありすぎて吹っ切れたというより開き直ったとも言うべきか。

 そんな事を思い少し自虐めいた感じで思わず笑ってしまう。


 敵わねーな……男としても。


「ど、どど、どこの馬の骨にし、しつっ、しししっ、しし、失恋したのかしら? ぜ、全然、これっぽっちも、毛ほども、興味ないけど、聞いてあげる。ほら、話せば楽になるって言うじゃない? べ、別にこ、コンラッドの好みとかを知りたいとかじゃないからっ。ほんと、純粋に癒してあげたいとだな」


 コンラッドの失恋話に興味深々である事は誰が見ても、挙動不審のステファニーを見れば一目瞭然であろう。

 しかしコンラッドは唐変木に成るべくして成った男である。

 いくらステファニーが恋の駆け引き能力ゼロの癖に駆け引きしたがるある意味で残念過ぎて無意識のうちに引かれ、ある意味ではその分かりやすいモーションによって無意識のうちに相手を落としているな女であったとしてもその相手が唐変木の中の唐変木の前では無意でしかない。


「そうだな、今彼女の旅の道中にベッテンが付いて行っているから最早馬の骨どころか妹の師匠みたいな感覚に近いな」

「べ、ベッテン……あのじゃじゃ馬娘の師匠ですって……?」

「ああ。お前より強くて何より戦う様は美しいお方だ」


 故にコンラッドは無意識のうちにステファニーを言葉の剣で豪快に切り裂いている事に気付けないのは仕方の無い事であろう。

 しかし、仕方がないからと行って許す許さないはまた別問題である。


「そのお方は私よりも美しいのね?」

「ん? そうだが」


 しかしそれに気付けないからこその唐変木であり、何当たり前の事を聞くんだ? という雰囲気を醸し出しながらコンラッドは地雷を踏みまくる。

 ステファニーからすればコンラッドの為に着飾りコンラッドの為に化粧をし、コンラッドの為に淑女であろうと努力しているのである。

 それはコンラッドがそうやって欲しいと言った訳ではなく、全てはステファニーのコンラッドをメロメロにさせる乙女の大作戦ハートと言うどこまでも自分の為の行為なのだがそれを「してあげてる」とキレるのが女性である。


「死ねーぇぇぇえええ!!」

「いきなりどうしたんだっ!? ちょっ、辞めろ!」

「避けるなぁあああ!!」


 勿論価値観や常識が違えばそうでない女性もいるのだがここでキレる女性であるのがステファニーなのである。

 そんなステファニーなのだがモテない訳ではない。

 その容姿は美しく、そして強く気高く貴賓溢れるその容姿とオーラは波の男性ならば絶世の美女と称される女性である事は間違いない。

 その実ドルクもまたステファニーに恋してしまった男性の一人であり、ステファニーが来てからと言うもの必死に口説き落とそう自分の武勇伝や昔やった悪さ自慢などを身振り手振りで話しかけているのだがその全ては気持ちいい程の無視、ドルクの気持ちに気付いているからこそのスルーである。


 気持ちに気付けない唐変木と気付いているからこそのスルー、どちらにせよ事恋愛において彼ら二人を落とそうと思っている者達からすれば暖簾に腕押しでありこの点に関してはある意味で似た者同士である。


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